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47. 時々、休日に





 「運動不足かもしれない」


そう口にし、溜息を吐くシドは温かい薬草茶を手に取る。

ファスと、膝に乗るパクは顔を見合わせた。大魔導であり、魔研の管理者であり、うららの師匠でもあるシド・トーリミウスは忙しい人だ。最近はレオたち魔猫も預かったので、より気を使う事が増えたかもしれない。

なので彼は、いつも転移でやってくる。急な来訪に慌てるものの、ファス達は一応、こっそりひっそり暮らしている身だ。誰にも気付かれない方法は転移ぐらいしかない。大魔導程の人物が徒歩で移動すれば、某Sランク冒険者以上に目立つのだ。


 「レオたちが余り眠らないのは、聞いただろう?あれからお茶の時間も入れて、区切りもできたようで、睡眠は取るようにはなったんだけど…」


 「レオたち、動いてないんですか?」


 「定期的に魔法修行を入れているから、全くという訳じゃないんだ。魔導士でも基礎体力は必要だからね」


魔研は広い。しかし、レオたちは元々警戒心が強いせいもあり、縄張りから大きく外れる事はないという。シドかうららが一緒なら魔研内を見学するが、基本、巣と図書室の往復だそうだ。


 「修行時以外は本ばかり読んでいる。時折、庭で練習するんだけど…、最近どうも、調子が良くない。失敗することが増えて、少々落ち込んでるんだよ」


 「にぃ…」


パクは心配気に声を上げる。失敗は誰にでもあるが、それが続くとなると、気持ちも下がるだろう。

ファスは少し考え、それで何故、運動不足に繋がるのか問う。


 「何事もバランスだと僕は考えている。知識を詰め込み過ぎても、身体を鍛え過ぎても、それを目的に活かせなかったら無駄になってしまうだろう。今のレオたちは前者じゃないかと思ってね」


 「……、少し、頑張り過ぎてるのかもしれないですね。魔研はレオたちにとって、宝の山みたいなものですし、それに…、シドさんの期待に応えたいのかも」


 「僕はそこまで無茶を強いていないけど」


 「目の前に尊敬できる先生がいるんです。少しでも多く学んで、力になりたいって…、レオたちなりに考えてるんじゃないかなって、思いまして」


 「そういうものかい?」


 「にゃーあぁ」


パクは頷く。魔猫にとって、最高の環境に巣を与えてくれたのだ。しかも直接魔法を教えてくれる。レオたちは感謝しているに違いない。

とはいえ、根を詰めすぎるのも良くない。


 「気分転換に、どこかに出掛けてみてはどうですか?お休みの日を作って、遊ぶようにするとか……」


 「休み…、気分転換、か……。そうだね、ファス、明日の予定は?」


 「え?明日は、みんなで薬草採りで、此処を散策するつもりですが…」


 「なら、丁度いい」


……シドの提案に、力になれるのならと、ファスとパクは頷いた。






今日は、先生のお手伝いをするんだ。

先生はいろんな仕事をしている。今は、魔力を回復させる薬を作ってるんだって。けど足りない薬草があるから、探しに行く。にゃあ達はそのお手伝いだ。

外にいた時は、薬草を嗅ぎ分けて使ってた。だから、役に立てると思う。

最近、みんな調子が悪い。やりたい事がたくさんあって、なんだかこんがらがってる。折角のいい環境なのに……、先生に呆れられてないかな。


 「準備できたかい?」


 「にゃ、にゃい!」


薬草の名前、特徴、自生する場所、全部頭に入れた。このお手伝いは成功させるんだ、みんなと頷き合う。先生に掴まり、転移で着いたのは王都の裏山。結界の近くだ。


 「知っているだろうけど、結界には近付き過ぎないように。此処のは強力だから、吹き飛ばされるだけじゃ済まないよ」


弱い魔物は消滅してしまう。これの御蔭で、生きてこれたけど……にゃあ達は念の為、一塊になった。

先生の後について、周りを警戒しながら進む。木々に隠れるように建つ、小屋が見えた。


 「にゃい?」


あそこからいい匂いがする。それに、パクたちの匂いも。先生を見上げた。

戸が開いて、パクたちと、ファスが出てくる。あそこが、パクたちの巣なんだ。


 「彼等の力も借りるんだ。山の事は、向こうの方が熟知しているからね」


裏山と一言で言っても、広い。闇雲に歩き回っても疲れてしまうから、慣れた連れがいれば安心だ。


 「にゃあ!」


 「にゃい!」


にゃあ達はパクたちと挨拶。みんなで近況を伝え合う。先生はファスとお話し中。


 「そうなんですか…、一緒に行けると思ってましたけど…」


 「今朝、会議が入ってね。昼までには終わらせるつもりだよ。悪いけれど……」


 「仕事なら、仕方ないです。レオたちは任せてください」


 「にゃい、にゃ?」


 「僕は一度、魔研に戻る。終わったら迎えに来るから、薬草採取、頼むよ」


 「にゃいにゃ!」


先生は忙しいみたいだ。なら、少しでも休めるようにお手伝いを進めておこう。

転移で戻った先生を見送り、ファスの元へ。


 「薬草は三種類。量はどのくらい必要なんだろう…、何か聞いてる?」


 「にゃー……、にゃいにゃい」


特に言ってなかった。ファスは少し考えて、カゴを三つ持って来た。


 「じゃあ、三種類とも、このカゴ分だけにしよう。採り過ぎないように注意してね」


 「にゃい」


山の恵みは無限じゃない。自分たちが使う量だけ分けてもらう。この基本は忘れちゃいけない。


 「順調にいったら、お昼までには終われると思う。ごはん、一緒に食べようね」


 「!にゃい!」


ファスのごはん食べれるんだ、楽しみだなぁ。みんなも期待してゴロゴロしてる。そうだ、食料集めのお手伝いもしよう。


 「ファス?どっか行く……なんか多いな?!」


 「あ、おはようございます、カイ。今から薬草を採りに行くんです。レオたちのお手伝いで」


 「レオ?あぁ、魔研のトコの」


あの金色の人間は見たことあるぞ。確か、うらら姉の仲間だ。にゃあ達は顔を見合わせた。






事情を聞いたカイは護衛を買って出た。こんな大移動では、すぐに見付かってしまうだろう。

薬草探しなんて、駆け出し以来だな。と考えながら、カイは見覚えのある薬草を見付けた。これを揉んで傷口につけると、血止めになる。今はそれ程世話にはなってないが、ソロなりたての時は常備していたものだ。いじっていると、横からカゴが現れた。オネムだ。それも入れろと手を動かしている。


 「これも使うのか?」


 「にゃむぅ、にゃむ」


 「チドメグサ。加工して使いやすくするんですよ」


名前がそのままだった。へぇ、と相槌を打ち、一株採るとカゴに入れてやる。採り方は合格らしい。オネムは頷くと、別の場所へと行ってしまった。反対側からひょこりと現れたは、レオとクリームだ。

探していた薬草を見付け、ファスに確認してもらいたいようだ。


 「レンゲンソウだ。たくさん咲いてた?」


 「にゃい、にゃにゃ」


 「ににっ」


 「…根から採ってもいいけど、確か使うのは花と葉の部分だから、花を少し多目にもらおうか」


花は今の時期にしか咲かないから、とファスは花が傷まないように採って見せる。レオとクリームは頷き、てけてけと必要分を採りに戻った。手伝いとはいえ、楽しんでいるようである。時折、パクたちにも助言を貰っている。


 「それ、たまに村でも見るな」


 「はい。水田や畑の、緑肥として使われてるんですよ。魔素を溜め込みやすい性質も持ってるんです。火傷には、この葉を絞って塗ると治りが早いですし……」


ファスは、自分は出来が悪いと思い込んでいるが、そんな事はない。経験で得た知識は活かしているし、こうして説明できる程、理解もしている。

その場ですぐ分かる者も居れば、時間を掛けて、ゆっくり分かる者も居る。効率を重視すると、後者は置いてけぼり、爪弾きにされがちだ。周りに出来損ない扱いをされ、いつの間にか自身もそう思い込んでしまう。パクたちに出会う前のファスが、正にそういう環境に置かれていたのだろう。


 「自然はたくさんの事を教えてくれます。毎年同じ姿を見せてくれますけど、全部同じじゃないんですよ。少しずつ違ってて……」


山に居る時は本当に楽しそうだ。これは移住するしかないな、とカイが本気で考えていると、足元に黒猫が居るのに気付いた。トバリだ。

トバリも花を持っている。確認してもらいに来たようだが、静かにファスの後ろ姿を眺めていた。随分と物静かな魔猫だ。


 「ファス、トバリがなんか持ってる」


 「え?あ、ごめんねトバリ。竜牙草だね、それは……」


トバリは一つ一つ頷き、花を預け戻っていく。あまり主張はしないらしい。

レオたちはちゃんと居場所を分かっているが、魔研の人々は時折見失い、騒ぎになる事もあるという。それ程静かなのだ。しかし、意思が無い訳ではなく、率先して学び修行も熱心。仲間が困っていると、すぐに駆け付ける優しさを持つ、それがトバリだ。ただ口数が少ないだけである。

やけに詳しいなと思っていれば、うららから定期的に相談されているのだとか。まだ言葉が分からない為だ。


 「そういや、ファスはいつから分かるようになったんだ?」


 「…気付いたら、何となく……でしょうか」


上手く説明できるモノではないらしい。初めこそ全くだったが、気遣ってくれているのはよく分かったそうだ。身振り手振りで伝え合っている内に、自然と分かるようになった。お互いの努力と思いやりの賜物だろう。

ガサガサと繁みが揺れ、顔を出したは赤毛と三毛。かきとくりだ。ふたりは長い、青々とした枝を引き摺っていた。


 「またデカいのを採ってきたなぁ、これは?」


 「ミズ、です。すごく大きいのあったんだね、他もこれくらい?」


ふたりは揃って頷く。見付けたはいいが、聞いていたより大きいので、一本だけ採ってきたのだ。一緒に居たダイチが、食料として採っている最中だという。


 「手伝ってきます。あの、」


 「俺は此処で見張ってる。カゴ持っていくの大変だろうし」


大小あるカゴの中身は、結構な量になっていた。

ファスが行った後も、パクたちやレオたちが行ったり来たり。太陽が真上に来る頃には、多くの薬草が積まれた。

レオたちの満足気な表情から、お手伝いは完了できたらしい。




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