表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/106

46.




見つけた時は緑の葉を繁らせていた古木が、枝いっぱいに薄桃色の花を広げていた。

風が吹き、はらはらと散る様は美しい。ファスたちは思わず見惚れ、しばしそのまま佇んでいた。









カイは目を覚ました。

床で寝ていたせいか、身体が痛む。しかし、見慣れた己の部屋じゃない。首だけ動かすと、壁にもたれて眠るトオヤが見えた。その膝には、茶トラの毛玉が乗っている。ダイチだ。その上にはオネム。

という事は、と毛布をめくると、両脇腹辺りにパクとはやてが丸くなっていた。どうりで寒くなかった筈である。

やっと思い出してきたカイは、そうだったと一人頷く。

あの一件で心がささくれた三人は、王都に着きアレクに報告を終え、一旦戻って素早く身支度を整えると、そのまま山に向かったのだ。特に約束した訳では無いが、門前でばったりと再会した三人。考える事は一緒であった。心が疲れた時は、ファスの手料理が食べたくなるのだ。

うららは行く前から半泣きだった。間に合わなかったからだ。

無理もない、王都から五日は掛かる距離。どんなに走った所で、転移魔法を使えなければ無理であった。例え、高ランク依頼を一日で片付ける実力を持っていても、万能ではないのだ。が、アレクに言わせれば、行って討伐して戻ってくるのに九日ってこれも充分早いからね?!強行軍が過ぎるよ!?…だとか。

ともかく三人は、開口一番、謝り倒した。が、やはりというか。全く怒っておらず、無事を喜び、美味しいごはんとモフモフで労ってくれた。うららの涙腺は崩壊。泣きながらおかわりをしていた。そんな彼女は、一つしかないベッドを拝借している。必然的に、男達は雑魚寝となり、風邪を引かない様にとパクたちがそれぞれの湯たんぽ代わりに。そしてファスはというと、


 「…おはようございます、眠れましたか?」


 「……おはよ、ファス」


もう起きていた。普段と変わらぬ様子で、優しく微笑んでいる。

昨夜は押し問答の後、共に眠った。朝一でファスの寝顔を拝みたかったが、思いの外爆睡してしまったようである。寝ぐせついてますよ、と撫でてくるファスも可愛いのでよしとする。

パクとはやても目が覚めたか、欠伸をしながら這い出てきた。


 「おはよう、パク、はやて。カイについててくれてありがとう」


 「にゃーあ」


 「うなーぅ」


毎朝の事なのか、ふたりは一頻りファスにスリスリすると、ようやく顔を洗い始める。

その間にトオヤも起き、ダイチとオネムも大欠伸。


 「おはようございます、トオヤ」


 「おはようファス。…もう動いてたのか、すまない寝過ごしたか?」


 「いいえ、ゆっくりしててください。朝ごはん、作りますね。あ、顔洗う用意できてますよ」


こうして押しかけて、急遽泊りになり、ベッドまで奪われたというのに、ファスは変わらず気遣い、受け入れてくれる。料理の味にもそれが出ており、頭が下がるとはこういう事なのだなと、男二人は思った。

尚、最後まで爆睡していたうららは、しらゆきとソラの猫パンチで起こされた。







 「本当にごめんね……」


 「気にしないでください、うらら。みんなが無事で、本当に嬉しいんです」


 「でもお弁当……食べたかった…」


 「そっちか」


パクたちの案内の元、全員でさくらを見る為移動している。

うららは反省しきりであるものの、食欲は通常通りらしい。トオヤは思わずツッコんだ。

お弁当は用意できなかったが、手ぶらというわけではない。ファスが持つカゴには、おやつとお茶が詰められていた。


 「んにゃ、んーにゃあ」


 「お花見したら元気になれるよ、だそうです」


 「ソラちゃん優しい…!ありがとね!ソラちゃんたちが育てた花もキレイだったよ!」


 「あぁ、普段見るより大きくて、元気に見えたな」


そうでしょ、と胸を張るソラ。三人に見せたいと、世話を続けていたのだ。愛情込めて育てた御蔭か、通常よりも生長して立派になっている。


 「ソラは育てる才能があるんだなぁ。ハーブも上手く育ててくれよ?」


褒められて嬉しいソラは、みんなの御蔭!と喉を鳴らし続けた。パクたちも嬉しいのか、控えめに鳴らしている。ファスも満面の笑みだ。


 「……着きましたよ、あそこです」


木々が途切れ、開けた場所に出る。目の前に、さくらの古木はあった。

葉が出ている箇所もあるが、まだまだ薄桃色の花を枝に付けている。ゆっくり、はらはらと散る様も美しい。地面には花弁が散りばめられ、一際明るく見える。


 「……すごいな…」


余り花に関心がないカイが、ポツリと呟いた。


 「王都にあるのとは、ちょっと違う。一本だけでも、堂々としてるっつーか……」


 「うん……、通りいっぱいに広がってるのもキレイだし圧巻だけど、何て言うのかな、」


 「芯の強さ…、生命力みたいなものを感じるな…」


三人は見惚れていた。

気に入ってくれたようだと、ファスとパクは顔を見合わせて笑う。この間にお茶の準備だ。

地面を乾かし、柔らかい敷物を広げる。カゴからおやつを出し、しらゆきとオネムにお湯を頼んで、お茶を注ぐ。


 「にゃん、にー」


 「あっためるの?じゃあ、お願いしようかな」


今日のおやつは、マフィンだ。冷めててもおいしいが、ほんのりあったかいのが好きなしらゆき、肉球に熱を込めるとお皿ごと温める。一つ一つはちょっと大変なので、纏めてだ。


 「ありがとう、もう一皿はそのままでいい?」


 「に!」


うまい具合にできたしらゆきは満足気。甘い匂いに気付いた三人も、慌てて手伝う。これで準備はできた。パクたちは目を輝かせて、マフィンを頬張る。


 「どうぞ、今朝焼いたんですよ」


 「いい匂いするなって思ってた!いただきます!!」


 「うまいな」


 「これ、フルーツ入りもいいけど、こっちも好きだわ」


 「よかった…。それ、野菜なんですよ。乾燥させて細かくして、入れてるんです」


 「へー、あんま感じないな。言われなきゃ分からねーかも」


柔らかいし、口当たりもいい。余程細かくしてくれたのだろう。ファスは少しの手間も、惜しまない。

うららは話を耳に入れながら、野菜マフィンを食べる。ほんのり甘くて、確かに言われなければ分からない。野菜嫌いの子供達も、これなら食べる筈。何より、おいしい。


 「ねぇねぇファスさん、作り方教えて欲しいんだけど……」


 「うらら、お前…!?」


 「また犠牲者を出すつもりか…?!」


 「違うもん!!シスターさんに教えたいの!野菜嫌いの子が多いから!!」







…騒がしくも、楽しいお茶会。

ソラは一つのマフィンを持って、そっとさくらの方へと移動した。


 「……んに、」


根元から見上げると、さくら色の髪の、優しい顔の少女が居た。存在は希薄で、透けて見える。さくらの精だと、すぐに分かった。

少女は微笑みながら、お茶会の様子を眺めている。前に来た時も、そうだった。ファスは…、人間には、視えないようだ。ソラたちだけが、視えている。

ソラに気付くと、少女はふわりと降りてきた。


 「んにゃ」


マフィンを渡す。不思議そうに首を傾げていたが、とても綺麗な景色を見せてくれた御礼、と言うと、微笑んでくれた。小さな口で、かぷりと食べて……、

ぶわと風が吹き、花弁が舞い、ファス達の慌てた声に振り向くと、彼等の周りに雪が降っていた。

勿論、本物じゃない。はらはらと降るは、全て桃色の花弁だ。ソラは少女を見た。

モクモクと幸せそうに食べている。気に入ってくれたのだろう。あれは、さくらの精の御礼なのだ。


 「わぁぁ…!キレイ!」


 「本当ですね……!」


 「にゃああ!!」


ファスも、みんなも嬉しそう。

ソラは喉を鳴らしながら、ありがとうを告げた。少女も微笑んでいる。


 『……とても、とても久しぶりに、甘いモノを食べたわ。おいしかった。アナタの大好きな人は、優しい人なのね』


 「んにぃ」


 『ふふ…、ええ、そうね。ねぇ、また来てくれる?ワタシはもうすぐ消えてしまうけど、また違うワタシが居るから』


 「んにゃにゃあ」


 『ええ、来年も、甘いモノが食べたいわ。ワタシに食べさせてちょうだいね』


 「んにゃ!」


ソラが頷くと、少女はふわりと飛んで、消えていった。代わりに、ポトリとマフィンを包んでいた紙が落ちてくる。ソラはきちんと拾って、さくらに手を振るとみんなの元へ戻っていった。

来年を楽しみにしながら。







 「ファス、髪に花びら付いてる」


 「え、どこですか?」


 「ここ、」


 「……あ、ありがとう、ございます……」


 「うん、全然」


 「近いぞ、カイ」


 「近いよ、カイ」






もう少しイチャつきたかったカイ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ