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魔猫と人の子 時々、  作者: 原田 和


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44. 時々、お花見




もうすっかり春である。山の気候も穏やかになり、過ごしやすくなってきた。

ファスとパクたちも山を巡り、春の恵みを少し分けてもらっている。春は山菜を中心に、薬に使えるものもあるので多目に。けれど採り過ぎないように。

気を付けなくてはならないのは、同時期に毒草もあるという事。山菜や、ただの草花のようにあるのだから、よくよく見なければならない。幸い、パクたちは毒草を嗅ぎ分けられるので、これまで中ったことはない。ファスも随分助けられたし、教わった。それでも採った後は、みんなでチェックするのが常だ。

万が一、があるかもしれないし、パクたちの口に入れてしまうなんてとんでもない。なので、ファスの目も、パクたちの目も真剣であった。


 「にぃっっ」


 「んにゃ、にゃー…」


顔を上げれば、ソラがしらゆきに怒られている。

しらゆきの手には毒草。丁寧に根っこから掘り取られている。毒草ではあるが、綺麗な花をつけるのだ。ソラはそれが目的で採ったのだろう。


 「んにゃにゃあ、にゃぁー…」


この中で、誰よりも草花が好きなソラ。花を見たかったのだと、しゅんとしている。

きちんと分かっているので、口にする心配は無いが、一緒にしてしまうと危険だ。ファスは小さなカゴを取ってくると、それに纏めておいた。


 「あとで、植えてあげよう。鉢に入れておけば、お世話できるからね」


 「…!!んにゃ!」


どうするの、と不安気だった青い目が輝く。折角採ったのだ、花を見るだけなら大丈夫と、ファスは微笑んだ。

カイとも話した事があるが、王都の家々には花がよくあった。

綺麗な鉢に入れ、丁寧に世話をし、道行く人々の目を楽しませている…。そんな印象を受けたが、カイはそこまで意識していなかったらしい。興味の無い者には風景の一部。少し、寂しい気分になったファスである。


 「ぶにゃぶにゃ」


 「こっちも終わったよ。お昼までまだ時間はあるし、先にこのコたちを植え替えてあげよう」


 「にゃーむ」


全員で外に出る。とはいえ、飾るほどおしゃれな鉢は持っていない。使っていない木箱を倉庫から引っ張り出して、表面を綺麗に拭いていく。ソラも一生懸命手伝ってくれた。

しらゆきも、花は嫌いではない。きちんと分けるのであれば、異論はないのだ。弱らないよう、土を被せてやっていた。

ファスはしらゆきを撫でる。怒っていたのは、山菜や薬草と一緒にしていたからだ。もし、誰も気付かなかったら大変な事になる。しらゆきはそう思い、怒ったのだ。


 「ありがとう。きっとソラも、分かってくれたよ」


 「にーぃ、にゃん!」


仲間思いの優しいコたち。

みんなで作った鉢植えは、日当たりのいい場所に置かれた。ソラは毎日見守り世話をし、嬉しそうに喉を鳴らす。新たな好きなモノを見つけたようである。






冒険者ギルド。

相も変わらず騒がしいが、普段とはまた違うざわめきに、トオヤとうららは振り返る。やはり、カイだ。何をしていても注目を浴びる男だが、今日は珍しくも花を抱えていた。


 「どしたのー?それ、花束なんて」


 「……昨日、助けたのが花屋だったんだよ。いらねぇって言ったけど、御礼しないと気が済まないって追いかけてきそうだったからさ…」


 「捕まった訳か。まぁ目立つから、すぐに素性は知れたんだろうな」


花屋の主人は好奇心が強い人物らしく、新種の花を求めて、普段から近隣を探索しているという。当然、魔物への対応も心得ていたものの、今回遭遇したのは少しばかりレベルが高かった。

あわや、という所で、カイが助けに入ったのだ。

丁度、個人依頼帰りであったので、そのまま王都まで護衛。別段名乗りもせず、気をつけろよ、の一言で終わったつもりだった。が、今日。

主人が家族に特徴を話し、そのめっちゃ美形って絶対Sランク冒険者だ御礼しなきゃそんなお金ないよ花だ店自慢の花をかき集めるんだぁぁ………と、家族総出で待ち伏せされ頭を下げられ、今に至る。


 「お花好きの人なんだね…。でもこれからは、無茶しないで欲しいなぁ」


 「それで、どうするんだ?それは」


 「ファスが好きかなって」


高価な物より、断然喜ぶだろう。しかし、カイの表情はしっくりきていないようだ。


 「俺が選んだわけじゃねーからな……」


そこか。この男は、とことん自分で選び決めたいようだ。内心呆れつつ、トオヤは考える。

うららに今渡せば、あらぬ噂がまた飛び交うだろう。人目があり過ぎるギルド内だ。そして、美形が花束を持っている姿はそれはもう、目立つ。嫌という程視線が刺さっていた。中には拝んでいる者まで居る。

うららも分かっているので、受け取りはしないし、またカイも渡しはしないだろう。他人の好奇心程、厄介なものはないのだ。


 「なら、ソラにあげたらどうだ。喜ぶだろう」


ふと、草花好きのさばトラが浮かぶ。青い目を輝かせて喜んでくれるに違いない。


 「ファスのは、また日を改めてお前が選べばいい。どうせ行くんだろう?早くしないと弱るぞ、最近は暖かいからな」


 「私も行く!ホラホラ早く!カイ!」


当然付いていくつもりと見える。うららはもう、出入口に向かっているし、トオヤも同じくだ。今日は二人きりのつもりであったカイは、大変不満ではあるが仕方ない。二人を追い、ギルドを後にした。

三人が去った後の冒険者ギルドは騒然としたものの、やはり相手は誰か見当もつかなかったのである。







 「んにゃあぁぁぁ…!!にゃ!んにゃぁ!!」


…予想していたとはいえ、ここまで喜びを露わにされてしまうと、なんとも面映ゆい。

ソラはキラキラとした目でカイに礼を言い、花束を嬉し気に抱えている。時間が経ってしまい、少々元気が無くなっているが、これならまだ大丈夫。水を張ったタライを持ってくると、ファスはソラを呼んだ。


 「しばらく、お水に入れてあげよう」


 「んにぃ!」


ソラは包みを破かないように取り、そっと花をつけた。そして、枝先を爪で優しく斜めに切る。


 「んにゃにゃあー」


 「にゃあ、にゃうにゃ」


パクたちも集まり、色とりどりの花を覗き込み、匂いを嗅ぐ。山とはまた違った華やかさがあって、綺麗なものだ。花瓶代わりの薬瓶を持ってきたファスは、喜びが伝染したかのように、優しい笑顔。


 「ありがとうございます、カイ」


 「あぁ、まさか、ここまで喜んでくれるとはなー…」


 「ホント!毎日お花持ってきてあげたくなっちゃう」


うららはソラの姿に骨抜きされたようで、とろけた笑顔でモフモフたちを眺めている。


 「そうだ。これ、種ももらったんだ。薬にも料理にも使えるハーブだってさ」


 「…!いいんですか?早速、植えてみますね。楽しみだなぁ…!」


花束だけというのも、と結局三人は花屋に寄り、主人から色々と聞き出していた。ファスの目が輝き、パクたちも興味津々と袋ごしに匂いを嗅ぐ。


 「あ、これ鉢な。なんか虫除けにもなるって言ってたっけな。それと…」


カイは、ファスの喜ぶ顔を見て、色々と荷物から取り出している。珍しく、説明を熱心に聞いているなと思っていたが…。あの男、惚れた相手にはとことん惜しまず金を使うタイプらしい。

トオヤはテーブルに広がる、家庭菜園セットと言ってもいい充実具合を眺めた。軍手まで出してきたカイを、ファスは必死に止めている。いつの間に、こんなに買っていたのだろう。明らかにやり過ぎだ。流石のうららも少々引いている。


 「な、なんかすごいね…」


 「…喜ばせたいんだろう。ある意味、強敵だからな」


 「んー、だよねぇ。カイがあそこまでして落ちない人って、ファスさんぐらいじゃないかな…」


相手には一切困った事がないであろう美形が、ああも一人の人間に振り回されるとは。

うららは思う。あの二人、いつくっつくんだろう、と。見守っている側としては、決して脈なしではないと確信しているのだが。


 「何か、切っ掛けがあれば動くかもな」


トオヤも気付いている。ファスは自覚していないだけだと。今まで人を好きになった事がないのだ。パクたちに向ける気持ちと同じだと、思い込んでいる可能性がある。


 「まぁ、俺はどちらでも構わない」


 「私もー」


見守りはするが、手は貸さないし応援もしない。

パクたちも同意見らしく、にゃあにゃあと菜園セットを運んでいた。




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