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38.




…外はまだ寒い。けど、いい天気だ。

雨風や、暑さ寒さを凌げる快適な場所。大好きな知識もたくさんある。これは、全部人間が用意してくれた。

もう他の魔物に怯えなくていいし、隠れてなくていい。ずっと外に居る同族と比べたら、ゼイタクな環境。

だから、ワガママは言っちゃいけない。こんなにしてくれたのだから、人間のルールは守らないと。

でも…、なんでだろう。つまらない。

たくさんの本。たくさんの知識。嬉しくて楽しくて、ずっと読んでた。魔法は使えるから、やってみたかった。でも、ダメって言われた。

人間には決まった時間があって、それに合わせなきゃならなかった。もっと読みたいけどダメ。本を持っていくのもダメ。ずっと図書室に居るのもダメ。

守らないとって思ったけど、なんだかキュウクツで。本を読んでも、楽しくなくなった。

他のみんなもそうだった。つまらないって、みんな思ってて。…それから何もする気がしなくなった。

ゴハン、ていうのはあったけど、魔素があるから必要ない。

ずっとボンヤリしてた。あんなに好きだったのに、なんでだろう。すごく、つまらないんだ。

その内、たくさんの人間が来て、別の場所に連れてこられた。いろんな人間が見てくる。触ろうとしてくる。怖いから、みんなで集まって震えてた。

大丈夫だって言われたけど、何が大丈夫なもんか。

何もしちゃダメなら、逃げる事もできないじゃないか。人間に捕まるんじゃなかった。何が何でも逃げればよかった。こんな風になるなら、外で生きてた方がマシだった……。






 「にゃー!にゃにゃあ!」


 「にーぃ!にゃん!」


ぴくりと耳が動く。これは同族の声だ。

みんなも気付いてる。一緒に窓から覗くと、いた。一人の人間と、何かしてる。あのコたちも連れてこられたのかな。けど、なんか楽しそう。

じぃと見てると、白いコが火の玉を出した。魔法だ。ぽんぽんぽんって、どんどん出して、宙を舞う。

側に居る人間は怒らない。一緒に喜んでる。

今度は灰色のコが風を操った。駆け回るたびに風が吹き、火の玉が大きく揺れた。


 「なぅ!にゃ!!」


 「ぶにゃにゃー!!」


茶トラのコが土の玉を出すと、火の玉に向かって当てる。白いコも負けじと動かして避ける。逸れた土の玉は、空中でぴたりと止まっていた。きっと、灰色のコが風の壁を作ったのだ。

離れた所に、小さな黒いコとさばトラのコ。何かを埋めて、黒いコが水を優しく撒いている。


 「にゃむにゃー」


 「んにゃにゃ!」


サバトラのコが前足をかざすと、ぽこんと芽が出た。それはどんどん大きくなって、ふぁと花が咲く。

人間を呼んで、一緒に花を見て笑ってる。

人間は、怒らない。

楽しそう。あんなに魔法使って、ズルい。こっちはちゃんと守ってるのに。


 「うー……」


文句言ってやる。

みんなと一緒に、外に駆け出した。







 「中々やるじゃないか。弱小種族だというけれど、力は使いようだね」


 「……。……あのぅ、師匠?説明、下サイ」


 「弟子の動きを把握していないとでも?何もない筈の裏手の山に、あれだけ足繫く通って、僕が気付いていないとでも?」


薄い金糸の髪に、紫の瞳。黒いローブを纏った男が、うららを冷たく見下ろす。…本当に、遥か高みから見下ろされているような視線に、弟子はくっ…!と歯を食いしばる。


 「ついでに言えば、彼等が巣を置いた時から気付いていたけどね」


 「えっ、」


 「全く害を感じなかったから、放っておいたんだよ。これでも、王都結界管理を任されている大魔導だから。流石に魔猫だとは思ってなかったけどね。それにしても…まさか弟子が、あれだけ可愛がって鍛えてあげた肝心の弟子が、僕の能力を軽んじていただなんて…。気付いてない(笑)と、嘲っていただなんて……」


 「そんなこと言ってないよ??!」


 「おい、師弟漫才はもういい。他に知ってる奴は?」


カイは不機嫌を隠さず、うららの師、シド・トーリミウスを睨み付けた。

静観するトオヤに、縮こまるうらら。その四人の奥では、ファスとパクたちが、保護された魔猫たちと顔を合わせている。

思った通り、気になって出てきたようだ。シドはそれを確認し、カイ達を見遣った。


 「言っただろう、放っておいたと。君達が関わっているんだ、何かあれば充分対処できる筈。僕は忙しい身の上なんでね。魔猫と暮らす、変わった人間を相手する暇はないよ」


確かに。大魔導が動けば、ファスたちはあっという間に捕まっていただろう。今まで何もなく、人が調べに来る事もなかったので、本当に彼一人、胸の内に納めてくれていたのだ。

…あの後。

パクたちと相談し、やはり助けたいと、意見を一致させたファス。しかし問題は、どうやって魔研に入るかだ。どう取り繕っても、バレる。向こうには、優れた魔導士がたくさん居るのだから。

カイ達と共に頭を悩ませていたその時、突然、シドが現れたのだ。転移で。


 『答えは出たんだろう。なら、連れていくよ』


絶句するカイ達を他所に、シドは驚き固まるファスとパクたちを回収すると、再び転移。

咄嗟に滑り込んだ三人の身体能力は、流石である。


 「人間がどうにかできないなら、可能性がある方に任せる。あの状態のまま放っておくのは、本意じゃないからね。他言するつもりはないから、その辺は安心してよ」


 「あ、あー…、私も保証する!師匠は厳しいけど、出来ない事を言う人じゃないよ!」


カイはしばらく、師弟を纏めて睨んでいたが、信用する事にしたのだろう。微かにあった殺気は消えた。






お前たち、ズルいぞ。ここは魔法を使っちゃダメなんだ。人間のルールを守らなきゃならないんだぞ。

…そう言って、睨んでくるは薄茶色の毛皮を持つ魔猫だ。リーダーなのだろう、他のコを守るように前に出ている。

目が合ったファスには、唸るだけ。まるで、何で怒らないんだと怒っているようだ。自分たちはダメと言われたのに、と。

パクが前に出た。


 「にゃあ、にゃあにゃ」


まずは、挨拶。向こうは見据えてくるだけだ。パクは続けた。


 「にゃーにゃ、にゃあ。にゃーあぁ、にぃ」


此処には初めて来た事。一番偉い人に、自由にしていいと言われた事。魔道具を研究する所だから、使用禁止エリア以外では魔法は使っていいと言われた事。


 「にゃあ、にゃーあ」


にゃあたちは、そう教えられたにゃ、と全部伝えた。薄茶のコはみんなと顔を見合わせ、困惑している。視線は、くつろぐしらゆきたちへ。その姿が、本当だと告げていた。

やはり、同族の声はよく届く。少しだけ、空気が軟化した。


 「……にゃ、」


 「にゃにゃ、にゃあぁ」


ファスは、家族。パクはそう言って、ででんと胸を張る。薄茶のコたちの目はまんまるになった。聞いた事がないのだろう。尚も信じられず、疑いの眼差しを向けてくるコたちを安心させるように、ファスは微笑んだ。


 「にゃあ!にゃー」


 「に、……にゃ、にゃい」


一緒に遊ぼう、魔法見せてと、パクたちはぐいぐい庭へ押していく。

戸惑い、窺って。それでも、やりたい気持ちが勝ったのだろう。それぞれの肉球が光る。

火、風、土、水の四大属性に、淡く明滅する光の玉。リーダーの薄茶のコだ。


 「にゃあぁ…!」


 「光ってる、キレイだね…!もう少し、近くで見ていい?」


いいよ、と言うように、つい、と光の玉を前に。ファスは礼を言うと、光の玉を見つめた。


 「…光魔法かな、初めて見た。あったかくて、春が来たみたい」


 「に、……」


 「他のコも、しらゆきたちとは違うんだね。操るコによって個性が出るんだ…。元々こうだったの?それとも、たくさん勉強して?」


 「…にゃ、にゃい。にゃうにゃ、にゃい」


この人間は怒らない。魔法、使っても怒られない。

そう分かってきたのか、変化が出てきた。見て見て、と今まで手に入れた知識を使い、披露する。

魔力量自体、そう多くはないので威力はそれほどないが、その分技術でカバーしている。

自分たちには何ができるか、どうやれば能力を最大限に生かせるか。

この知識は使える、これも。これはどうだろう。毎日毎日、本を読み漁り、ずっと考えてた。やっと、できた。

他は?あの本に載ってたのは?あれは?そうだあれも!


 「にゃい!にゃいにゃいにゃう!!」


みんなの目がイキイキしている。ずっとやりたくて、試したくてたまらなかったのだろう。

失敗しても、次はこれ!と次々と魔法を繰り出す。パクたちも負けじと披露し、ちょっとした魔法合戦になっていた。


 「……よかった」


パクたちも、知識を手に入れた時は、あんな風にはしゃいでいた。でも、とファスは眉を下げた。

薄茶のコたちは我慢していた分、はじけてしまっているようだ。あのままでは早々に魔力切れを起こし、倒れてしまう。

準備しなきゃ、とファスは立ち上がり、カイ達の元へ向かった。





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