表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/107

閑話 冬ごもりの準備




ファスは毛布を干している。

長かった夏日が終わり、ようやく秋らしくなったのだ。朝晩はすっかり冷え、風もひんやり。山暮らしは早目の行動が肝心。油断していると、あっという間に冬模様になってしまう。

薪になる枝や、乾いた杉の葉を集め、食料を探す。

今年は暑い日が長く続いたせいか、実りがイマイチ。これからだろう、とパクたちは踏んでいた。ファスは忙しく準備をしてくれているので、パクたちは食料探しだ。それぞれカゴを運び、慎重に動く。結界があるといっても、魔物がいない訳ではないのだ。


 「にゃっ」


栗を発見。イガに入ったまま、沢山落ちている。


 「にゃむっ」


 「ぶにゃ、にゃあ」


イガはトゲトゲで痛い。オネムが慌てて、手を引っ込める。ダイチは任せろ、と器用に除け、中身をころころ取り出していく。全体的に小ぶりだが、数は充分。ぷくりとしておいしそうだ。

今年はどんなのが食べれるだろう。パクたちはわくわくして、喉を鳴らし合った。

自分達が食べられる量だけ、カゴに入れると次へ。


 「にぃ」


 「んにゃあ」


しらゆきが小さな実を見つけた。どんぐり、と声を上げるはソラだ。

周りの木を見上げ、葉っぱを確認。色々な種類があるが、ぼうしを付けたままのそれは、くぬぎという名前らしい。栗と一緒に入れておく。ファスへのお土産だ。


 「なう」


はやては果物を見つけ、素早く登っていく。つん、と固さを確かめ、すぱりと切った。一つ一つ、慎重に落としていく。甘酸っぱい梨はみんなのお気に入り。なので全員一つずつ。ちょっと重くなってしまった。

力を合わせてカゴを引っ張り、次へ向かう。

みんなで周囲に目を配り、目的のつるを発見。枯れ色の葉に、丸い実。むかごだ。山の芋の肉芽で、ほくほく素朴な味。ごはんに混ぜるとおいしいし、さっと揚げたのもおいしい。

ダイチはつるを追い、匂いを嗅ぐ。そして当たりをつけて、ソラと共に掘り始めた。パクたちはその間に、むかごを収穫。


 「ぶにゃぶにゃぶにゃ…」


ダイチは山の芋を知ってから、いつか全て掘り取るのが目標になっていた。中々の体力仕事なので、根気が必要だ。時折魔法を使って、石を取り除き、順調に掘り進めていく。


 「にゃあ、にゃにゃ」


 「にゃんにゃ」


見守るパクたちは、ふたりが出られるよう、つるを準備。今回も深くなりつつある。


 「んにっっ」


ソラの慌てた声に振り向くと、折れてしまった山の芋。泣きそうな顔でダイチを窺っているが、折れた所で支障は無い。仕方ないと、ダイチは頷く。

気を取り直して、進めていったふたりだが、やはり深い。そして、固くて動かない。これ以上は危険だと上から呼ばれ、仕方なく出ている部分だけをもらい、穴から這い出す。そのままでは危ないので、ちゃんと埋め直していく。その時にひげ根も埋めておいた。うまくいけば、また大きくなってくれるだろう。

すっかり泥だらけになったので、一旦巣に帰る事に。また力を合わせて運んでいく。

お帰り、と労われ、手に入れた食料を見せると、ファスは喜んでくれた。


 「もうすぐ暗くなるし、今日はここまでだね。明日は俺も行くよ」


夢中になっていたから、時間を忘れていた。空を見上げると、ほんのり朱が差している。秋は日が暮れるのがあっという間だ。ファスがお風呂の準備をしてくれていたので、全員で浸かる。

泥だらけだった、ダイチとソラは先に手早く洗われ、パクたちもやはり洗われた。

お風呂は好きだ。すっきりする。毛皮の手触りも違うので、こんなにもかと驚いたものだ。

暖かい巣の中で、タオルに巻かれたパクたちは、幸せを感じて喉を鳴らし合う。こうしてのんびり過ごせるのも、ファスの御陰だ。


 「にゃ、にゃーあぁ」


 「…?こちらこそ、ありがとう。パクたちの御陰で、冬ごもりには困らないよ」


ファスは柔らかく笑って、タオルを交換してくれた。暖炉の近くで温められていたのでほっこほこ。濡れていた毛皮は、すぐに乾いた。こうもぬくぬくだと、眠気が差してくる。動いた後は、尚更。

見渡せば、みんなも舟を漕いでいた。


 「パクも、ひと眠りした方がいいよ。その間に、ご飯作っておくね」


 「にゃあ……」


撫でる手は優しくて、温かい。パクは安心して、目を閉じた。






 「……」


すよすよと眠るパクたちを起こさないように、ファスはそっと動く。

採ってきてくれた食料は、まだカゴに入ったままだ。栗に梨、山の芋にむかご、きのこもある。重かっただろうに、頑張ってくれたのだ。丁寧に分け、台所に持っていく。折角旬のものが手に入ったのだから、早速作ってみよう。


 「…あれ、どんぐり……」


コロン、と栗と一緒に転がるは、ぼうしをつけたままのどんぐり。落ちていたのを拾ったのだろう。

食料集めの時に、こうして他の秋を見付けるのが、パクたちの最近の楽しみなのだ。きっと起きたら、教えてくれる筈。

ファスは小さなカゴに集め、色とりどりの葉と共に飾っておいた。自然と笑顔が零れる。

幸せだな、心からそう思う。今年も、暖かい冬を過ごせそうだ。

…恵みに感謝を、生かしてくれる事に感謝を。


 「……」


見よう見まねだが、ファスは感謝の祈りを忘れない。

よし、と腕まくりをすると、ご飯作りに取り掛かる。今日は、栗ご飯にきのこのスープ。お芋を柔らかく煮て、根菜も入れよう。

メニューを決め、手早く動き始める。

ファスは今日も、家族の為にと邁進していた。




これは同居話とはまた別の、冬ごもり話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ