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33.




冒険者ギルド。

大雪で移動が出来ず、足止めを喰らった同業でごった返している。

依頼と言っても、雪掻きが大半を占めている状態。仕方ないと、酒で体を温めながら情報交換に勤しむ者が殆どだ。

要は、暇なのである。


 「よぉ!トオヤじゃん!」


トオヤは声の方へ振り向く。同業の波を掻き分け掻き分け、手を振り現れたるは、ソロの時分によく組んでいた兄弟冒険者、兄の方だ。


 「エルド。久しぶりだな。王都に来てたのか」


 「おう、昨日な。寒かったわー、オーベルの筋肉壁がなかったらやばかったな」


 「弟を雪風避けにするお前もやばいと思うがな」


 「相変わらずの冷静なツッコミだな。そういや、どうよ?Sランクと組んで。稼いでんのか稼いでんだろなんか奢ってくれ」


 「そっちは相変わらずの金欠か。久々の再会で堂々とたかる奴があるか」


とはいえ、空きっ腹に寒さは堪えるだろう。仕方なしに移動し、併設されている酒場へ。狭いが、大体揃っているのでいつも人が居る。トオヤが兄弟分の酒と軽食を頼んでいる間、エルドは席を確保していた。


 「オーベルはどうした?」


 「あれ、トオヤのは?弟なら、ホレ」


エルドが指す先から声がする。


 「うららちゃあぁぁぁぁん!!」


 「ひいぃぃぃぃぃぃぃ??!」


 「な?」


 「……」


オーベル曰く、うららちゃんは心のオアシス。

うらら曰く、声も体も馬鹿でかいゴリラ。

誰が見ても分かる程の一方通行である。それを分かっていて、敢えて弟を止めない兄は、完全に楽しんでいる。

弟の恋路を応援してやりたいのが、兄心ってもんでしょ。…と、尤もらしい事を言っていたが、あれは見て爆笑して酒の肴にしているだけの、ただの酷い兄だった。


 「合流予定なんだ、俺は行くぞ」


 「うん。ついでに弟こっちに呼んでくれ」


トオヤはまた、仕方なしに移動する。必死のうららに盾にされつつ、オーベルを兄の元へ帰す。

変に食い下がらず、大仰に手を振りながら去っていった。会えただけで満足らしい。


 「ね、ねぇ、なんか、カイの事聞き回ってるのがいるから気をつけろって…」


 「オーベルが言ったのか?」


困惑顔で頷くうらら。ちらと目線を向ける先、男女五人組のパーティが。

知ってはいる。余り、いい噂を聞かないという意味で。うららも同様らしい、関わりたくないと顔に出ている。

トオヤは酒場に目を遣った。エルドが、弟に伝言を頼んだに違いない。


 「よぉ、来てたのか」


 「あれ、何で?」


どうしたものかと考えていると、当の本人が階段を下りてくる所であった。


 「ギルマスにちょっとな、依頼はないってよ。ただ…寒さに耐性がある魔物が、範囲を広げるかもな。警戒はしといた方がよさそうだ」


今、北国での対処法を、伝達魔道具にてやり取り中だという。

それは分かったけど、とうららはジト目を向けた。


 「噂になってるよ」


 「一応、聞いとく。どうせ湾曲されてんだろうけど」


 「お前が結婚して所帯を持った上、ペットを飼い始めその世話係を雇っている。だが世話係はペットではなくお前の世話ばかりしている、堂々とした浮気。もう修羅場だそうだ」


 「どこでどうしてそうなった、だよ」


 「それな。結婚したのは間違いねぇけど」


 「間違ってるよ」


真顔で頷くカイに、呆れるうらら。

大雪のせいでやる事がなかった為、様々な噂話が飛び交っているのである。余りいい気分ではないが、否定して回ると、余計尾ひれが付くのだから非常に面倒くさい。


 「…好きに言わせとけ、その内消える。余計な事さえしなきゃ、こっちも手は出さねぇよ」


カイは迫力ある笑顔で、ギルドを見渡す。目が合った幾人かは、さっと顔を伏せ知らぬフリだ。Sランクに正面から喧嘩を売るバカはいないだろう。


 「後、あいつらは知ってるか」


 「知ってる」


とうに気付いていたらしいカイは、五人組に笑みを向けた。

男達は引きつったが、女二人は嬉しそうに微笑み此方へやって来る。


 「俺の事嗅ぎ回ってるらしいけど、何の用?」


 「酷い言い方ァ。前は優しかったのに、なんか冷たいじゃない」


 「ホント。Sランクになっちゃって、せーかく変わった?」


女達は自然に両隣を取り、腕を絡める。

うわ、と引きつりそうになったうららだが、そこは耐えた。トオヤは真顔だ。


 「ねぇ、私達とまた組まない?それとも…、あの子がいいの?」


うららは睨まれた。なんやかんやで組んで長い、嫉妬だろう。何であの子なのと目が言っている。

とんだ見当違いだ!!…と、あらん限りの力で叫びたいうらら、内心で歯を食いしばる。

ここで別の存在を匂わせたら、面倒が重なる。全ては聖母とモフモフの為。


 「無理、悪いな」


全く悪いと思っていない顔で、カイはあっさり断った。


 「二人が居れば充分なんだ。足手纏いが増えても困る」


男達が射殺しそうな視線を寄こしているが、女達は涼しい顔だ。

あのパーティの中心は彼女達らしい。睨みつけはするが、動こうとはしない。まるでマテをされているようだ。

主人と忠犬。そんな言葉が、トオヤの脳裏に浮かんだ。


 「……ねー、長くなるかな」


 「…諦める様子はないし、まだ続くんじゃないか」


彼女らはカイがお気に入りらしい。どうしても、手元に置いておきたいのか、二人してアパートに連れていけと迫っている。

見た目は美形だし、ソロでSランクに上り詰めた実力者だ。普通は放ってはおかないだろう。彼女らは隣に据えて、自慢したいだけだ。


 「自慢……したい?」


 「俺達は奴の本性を知ってるからそう思うが、他が見ると…なんか、良く見えるんじゃないか?」


 「見た目がいいって、色々と覆い隠すんだね」


 「そうだな。人は見た目が九割というが、その九割で多くの人間が騙されているという事だ」


 「深いね……」


 「そうか?」


二人がどうでもいい会話を続けている間も、カイの纏う空気は冷えていく。分かってはいるが、口は出さない。下手に出れば、話がややこしくなりそうなのだ。

どういう関わりだったのかは知らない上、肉体関係があったかどうかなぞ、此方も知りたくはない。二人が会ったのは、ファスと出会った後のカイである。それ以前はどうであったのか、『変わった』と、少しでも彼を知る者がそう口を揃えるのだから、だいぶ印象が違うのだろう。


 「帰っていいかなぁ…」


ポツリと呟いたうららは、もう飽きている。


 「ギルマスが来たぞ」


トオヤの声に顔を上げれば、アレクが取り込み中?と指差していた。

カイは女達を振り払い、男らの方へ向かう。何事か告げたのだろう、一瞬で顔色を変え、渋る女二人を引っ張ってギルドを出て行った。


 「悪いね、待たせちゃって。…彼等、まだ居たんだね」


 「それで、調べはついてんのかよ」


何事にも温厚に対処するアレクが、珍しい程に冷えた声音、突き放す物言い。その理由は、執務室にて明かされた。

あのパーティはBランクではあるが、黒い噂が絶えない。ギルド側も把握し、調べを進めていたという。


 「その結果がまぁ、やりたい放題でね。一般庶民にも手を出してたよ」


ランクも自力で上げた訳ではない。上のランクの者と組み、誑かし、唆し、手柄を横取りしていた。時には人質を取り、脅してまで。口封じに殺された者も居た。彼等の快楽の為だけに犠牲になった者も居た。


 「コレはもう、駄目だ」


トン、と叩くはパーティの名が連なった正式書類。ランク剥奪。彼等は二度と冒険者には戻れない。

けれどそれだけでは、ただ夜盗になるだけ。更に被害が広がる恐れがある。


 「全てのギルドに通達はしてある。…とはいえ、あいつ等は悪知恵だけは働く。一番いいのは、今すぐ捕まえる事だね」


普段のアレクとは空気が違う。相当お怒りのようだ。


 「原型無くなってもいいなら、俺が行くけど」


 「アカン、アカンやつだねそれ。数少ないSランクを更に減らすような真似できないんだよ。頼むから大人しくしててね?ちゃんと手は回してるから」


 「加勢ならいいだろ。ちょっと手が滑って色々飛び出してるかもしれんけど」


 「滑ってないね狙ってるね確実に。大丈夫、軽く見えるけど絶対になびかなくて探索が得意な兄弟に任せたから!」


 「あの二人か。いいんですか?加減を知らない二人ですよ。この内容を聞いたのなら、あの五人木っ端微塵だと思いますが」


 「やだもっと酷くなってる!…もういいや、虫の息でも生きてたら」


 「投げ出すの早いね、ギルマス。私は息の根止めてやりたいけど」


 「過激だよ最近の子達は。トオヤ君、止めて」


 「奴等を結界で圧縮していいのなら」


アレク以上にお怒りの冒険者達が居た。執務室は殺気で満ちている。

この空気に流されてはいけない…。アレクはギルマスとして、一番重要な事を訊かねばならないのだ。


 「……ところで、カイ君。君、過去に組んだ事あるよね」


鋭い目を向ける。対するカイも、一睨み。


 「男共に嫉妬されて、崖から落とされた。それが一番の理由だな、ソロにこだわるのは」


 「……成程ね。…了解、安心したよ。奴等に一瞬でも荷担してたらどうしようかと…」


盛大に息を吐く、アレクの纏う空気が弛緩する。一番確かめたかったのは、そこなのだろう。仕方ないとはいえ、失礼なとカイは顰め面になる。

目的もなくダラダラと生きてきた自覚はあるが、奴等ほど堕ちてはいない。

そうして解散した数分後…。

捕まえたと兄弟から連絡が入り。

盛大に暴れたらしい、大量の請求書を渡され。

アレクは頭を抱えた。




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