表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/107

28.





今回の依頼はAランク。魔物の巣を壊滅させる事であった。

近隣に人里があり、被害も出ている。早急且つ迅速に、そして確実に。そんな理由で選ばれたカイ達は、依頼は完遂した。しかし、予期せぬトラブルが起こったのである。


 「それまでも、魔物が出た時は自分達で対処していたらしい。依頼を出すのもタダじゃないからな。まぁつまり、村の連中には心得があった」


 「でも巣を作られたのは初めてだったんだよね」


話に耳を傾けながら、ファスは戸棚から薬を取り出し、包帯や当て布が入った箱も出す。

しらゆきが、ホワンソウのクリームを指す。頷き、それも手渡した。


 「依頼を出したのは向こうだってのに、勝手に動いてやがった。それで上手くいったならいい。でも結果は、魔物共を怒らせただけだった」


到着を待たず、若者達が血気盛んにも乗り込んだらしい。

カイ達は、青い顔で慌てふためく村長の出迎えで、早々に目的地へ向かう事に。運が良かったのかどうなのか、若者達は重傷を負っていたが生きていた。

そんな姿を目にしたら、治癒を使える者はすぐ動くだろう。トオヤもそうであった。しかし、それがいけなかった。

全て治し、大人しくしていろと言ったのに、若者達はまた乗り込んできたのである。

こいつら死にたいのか。三人の思いは同調した。

いくら心得があるといったとて、カイ達に言わせれば素人だ。はっきり言うならば、


 「邪魔だった…」


 「邪魔でしかなかったな…」


 「邪魔だよぉ…」


三人の呟きは、重い。相当だったのだろう。

コトコトと音がする。お湯が沸いたようだ、ダイチが呼びに来た。ファスは台所に行くと、深い器に移す。残りはお茶だ。準備を終えると、近くに居たうららに座るよう促す。


 「簡単に手当てしただけだから、まだちょっと痛いんだ」


 「…火傷もありますね。しらゆき、クリーム温めておいてくれる?」


 「にゃん」


しらゆきは頷き、一さじ分を小皿に乗せお湯の入った器の上に置く。


 「じゃあ、薬が無いのは…」


 「一応あいつ等も無事だが、魔法の余波喰らってまた怪我してたし、全部置いてきたんだ」


 「治癒を使えば簡単だが、自分達がやった愚かな行為まで忘れられちゃ困る。しっかりその身に刻み込んでもらわないとな」


ともすれば死んでいたかもしれない、危険な行為だ。若者らは村長に激怒され、家族からも容赦ない拳骨を喰らい、その時はとても小さくなっていたらしい。

手間を増やした上、薬まで渡された村の者達は平謝りだったという。


 「あ、でもこれだけは渡さなかったんだぁ」


と、うららが指すは、ポポワタゲで作られた包帯。


 「ファスさんとパクちゃんたちが心を込めて作ったのに、あいつらに渡すの癪だったから」


 「それを言うなら、全部渡したくなかったけどな」


三人とも、中々お怒りのようだ。今までこうした愚痴は聞いた事が無い。

ファスとパクは顔を見合わせ、話題を変える事にした。


 「にゃあにゃ、にゃう」


 「丁度、新しく作ったんですよ。良かったら、また買ってくれると嬉しいです」


人肌程に温めたクリームを受け取り、手当てを始める。


 「こうして温めてから塗ると、よく浸透するんです。痛みが酷い時は、こっちの方がいいと思います」


 「ほぇー…、やっぱいい匂い…」


 「傷は…、良かった、浅いものだし、ちゃんと処置できてるので化膿する心配はなさそう…」


テキパキと動くファスの横で、パクが包帯を取っている。時折、ぷにと肉球が触れるので、今のうららは幸せしかないらしい。怒りは何処かへ行ったようだ。

使用済みの包帯はタライの中へ。しっかり洗って煮沸消毒だ。ポポワタゲは繰り返し使うと、より柔らかく肌当たりが優しくなる。余程の場合でなければ、魔法で綺麗にして再利用の形になる。


 「ありがとー!何だかラクになった気がするー!」


いつもの元気が戻ってきたうらら。今にも飛び跳ねそうだ。頬には当て布をしているが、痛みは引いたようである。


 「これ、どうぞ。朝晩に塗って、跡が薄くなったら一回に減らしてくださいね」


 「えっ?!いいのっ?!!」


ホワンソウのクリームを別容器に移し、うららに手渡す。気に入っていた彼女は大喜びだ。

次は、トオヤだ。軽傷に見えるが、念には念を入れ、ファスとパクで包帯を取り、傷を見て薬を塗っていく。


 「にっ…にゅいぃ……」


 「すまん、自分でやったからな…」


パクは固く、団子結びになっていた包帯に苦戦している。器用とはいえ無理にやると、トオヤの腕に爪を立ててしまいそうだ。

仕方ない、と隙間にちょいと爪を入れ、切り取った。

次に、減っている傷薬を補充する。


 「ありがとう。…ここ、まだ血が止まってないです。無理に動かしました?」


 「まぁ…、利き腕だからな。ゔ、」


 「パク、当て布もう一枚くれる?少しきつめに巻いておきます。痛みが引くまでは、余り動かさないでくださいね」


ファスは血を拭き取り、新たな当て布をすると、手早く巻いていく。程良い力加減で、不思議と腕が軽くなったようだ。トオヤは思わず腕を回したくなったが、やめておく。注意されたばかりである。


 「んにゃ、」


ソラは包帯や布が切れないように、棚とテーブルを行ったり来たりと補充してくれている。

煮沸消毒でしらゆき、はやて、オネムが取られているので、大変そうだ。あれ足りない、と見回せば、ダイチは外で包帯を干していた。働き者の魔猫たちである。

てけてけと薬を運んできたソラに、トオヤは微笑んだ。


 「ありがとう。本当によく働くな、お前たちは」


 「んに?にゃにゃ!」


耳をぴんと立て返事をするソラは、当然だと言っているようだ。トオヤは一撫ですると立ち上がった。あとはカイだけである。


 「お待たせしました。痛い所はありますか?」


 「いや、見ての通り動けるし、大した事ねえよ」


 「にゃーあ」


 「悪い、これでいいか?」


パクが取りやすいように身体を動かすと、カイは何ともないように笑う。しかし、念には念をと手当てはきちんとされる。


 「……みんな、火傷してますね。これは魔法でですか?」


 「あぁ、うららの」


ぐっと詰まる音。


 「さっき言った魔法の余波は、あいつのなんだよ。魔法放つ時に、一人が射程圏内に入ってな」


 「直撃していたら、下手したら死んでただろう。うららの判断は間違っていない」


うららは咄嗟に、地面に向けて放った。それでも威力は落ちず、地面を走り、魔物と仲間と若者らを巻き込んで爆発。当然、本人も巻き込まれた。…よく軽傷で済んだものである。


 「そこはトオヤの結界だな。あの一瞬で全員に張ったから、こうして生きてる訳だ」


 「……」


右に火傷と切り傷。左の腕と肩口にも。彼は普段、ここまでの傷は負わない。

恐らく、若者達を庇った時のだろう。トオヤも、利き腕でない方にも怪我をしていたので、同じ理由。


 「ありがと、ソラちゃん!」


器用にお茶を入れたソラに、笑顔のうらら。彼女の頬には、跡が残りそうな傷。それだって、己の身より、当てないよう軌道をずらす事に集中したからだ。

パクと目が合う。パクも気付いているのだ。

若者達の行動には感心しないが、それでも見捨てず守った行動は、誰もが出来る事じゃない。

なんて強くて、優しい人達なんだろう。


 「にゃあ、にゃにゃ」


 「……うん、そうだね」


 「ファス?」


 「…カイ達は、すごくカッコいいです。それが今日改めて、よく分かりました」


同意するように頷くパクたちに、びし、と固まるカイ達。


 「みんなが本調子で動けるように、しっかり手当てしますね」


頼りにしている人は、大勢いるのだから。気合いを入れ直し、ファスはパクたちの手も借りテキパキ動く。多少動いてもズレないように、包帯を巻いていった。

その間、カイは赤い顔でずっと静かであった。彼だけでなく、トオヤとうららも。

妙な静けさに気付いたファスは心配していたが、理由に気付いているパクたちは、三人に生温い視線を送っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ