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27. 





 「は?」


 「薬師ギルドだよ。連絡があってさ、人を探してるんだって」


 「…それ、私たちへの依頼ってコト?そんなに難しいの?」


そうじゃなくてね、とアレクは乱雑な机から書類を掘り出している。整理しろと何度言っても改善されない。

三人にとって三ヵ月振りの王都だ。久々の高ランク依頼で、遠征に出ていた。

本来ならば半年予定であったのだが、巻きに巻いての三ヵ月。アレクの第一声は、なんで居るの?だった。完了の書類を叩きつけ、今に至る。


 「あったあった。…どこも人手不足だからさ、優秀な人材は確保しときたいよね。特に薬師は少ないから。なんでも、腕のいい子を見付けたんだけど、所在が分からない」


 「それを俺たちに探せと?」


 「いんや、カイ君の知り合いなら紹介してくれって話」


前に一緒に歩いてたの見たらしいよ、と言うアレクは、Sランクの表情が僅かに変わったのを見て取った。


 「あいつは、何て言ってんだ?」


ギルドには本人が顔を出している筈である。態々紹介の形なぞ取らずとも、その場で話せばいいだけだ。となると、勧誘が思うように進んでいないのだろう。中々首を縦に振らず、何処に住んでいるのかも分からない。けれど諦めきれない…といった所か。

カイは首を振った。


 「俺が決める事じゃねぇ。断られたなら諦めろ」


 「まだ特徴も言ってないのに、すぐ分かったんだねぇ…。最近めっきり来なくなって、困ってるんだってさ」


 「知るか。まさか、俺に説得しろとか書いてんじゃねーだろうな」


 「流石にそこまでは。……文面からはして欲しい圧を感じるけどね。向こうの気持ちも、よく分かるんだよなぁ。カイ君、薬師ギルドに直接そう言ってくれないかな。そうすれば大人しくなると思うんだけど……」


 「俺が口出ししても拗れるだけだ、意味がない」


冷たく聞こえるが、カイはファスの意思を尊重したいのだろう。横槍を入れてややこしくしてしまっては、解決しない。

アレクは予想していたか、あっさりと引き下がった。あくまでお願いであって、依頼ではない。向こうには連絡しておくよ、の一言で解散となった。

三人はギルドを出る。カイは無言で先を行くが、トオヤとうららも続く。

そんな二人に胡乱な目を向けた。


 「なんで付いてくんだよ」


 「心配だからに決まってるだろう。顔を出さなくなったというのも気に掛かる。無茶な勧誘をされて、参ってるんじゃないか」


 「いつも平気そうにしてるけど、人に慣れた訳じゃないよ。怖くなったんじゃないかな」


思いの外、真剣な顔の二人に、カイは溜息を押し隠すと門へと向かう。

しかし。

ファスたちは居なかった。何処かへ出掛けたらしく、巣には気配も無い。

以前のように、巣ごと消えた訳ではないので、取り乱す事はなかったものの。三ヵ月振りであったので、三人は心配しながらも、少し肩を落として戻ったのだった。







 「パクたちの方が早いのにな……」


かちゃかちゃと道具を洗いながら、ファスは呟く。

一人だとやはり時間が掛かる。でも、あと少しで目標の時間内に入る。ファスは気合いを入れなおした。

あれから、何回も話し合って再認識したのだ。やはり、パクたちと一緒がいいのだと。

みんなで薬草を採り、次は何を作ろうかと本とにらめっこしたり、成功したら喜び合ったり……。

パクたちとだから、楽しい。ただギルドで薬師として働いていたら、ここまで楽しいとは思わなかったかもしれない。


 「……」


ファスは、前に渡された書類に目を遣る。薬師試験の案内だ。

せめてこれだけでも受け取ってと、必死に渡されたので持って帰ってしまったが、パクたちに必要な情報だったので良かった。

座学と実技。薬草学の基本なら頭に叩き込んであるが、問題は実技だ。

魔法が使えないと、どうしても時間が掛かる。それを考慮しての時間設定なのだろうが、今の作り方ではとても間に合わない。なので、最近はファス一人で作り、それをパクたちが試す形になっている。

偶にうずうずしているので、みんなやりたい筈なのだ。でも我慢して、薬草選別や糸作りばかり。

こんなに協力してくれているのだ。自分のやり方が通じるか不安はあるが、やり遂げなければならない。持てる力を出し切るのだ。


 「なぅ!」


 「あ、はやて、ダイチ。具合はどう?」


はやてとダイチが、傷を拵えて帰ってきたのは一昨日の事だ。

食料集めの為、木に生っていた果物を取ろうとしたら落ちてきたという。幸い軽傷だったが、ぶつけたのは頭。心配したファスは手当てをし、今日まで休ませていた。

ふたりは器用に当て布を剥がす。傷は残ってなさそうである。


 「動いて、気持ち悪いとかない?」


 「ぶにゃあ、にゃーあ」


大丈夫と尻尾を立て、お礼代わりのスリスリ。よかったと笑うファスは、優しく撫でる。

ふたりが使ったのは、ファスが作ったモノだ。棚の薬を取り出そうとしたら、そっちを使いたいと主張してきた。よもや、態と怪我をしてきたのではと心配したが、本当に偶然らしい。

効いてよかった、と安堵するファス。しかし、はやてとダイチは当然、という顔だ。

ファスが手ずから作ったものには必ず、ぽわぽわが入っているのだ。効かない訳もないし、元気にならない訳もない。薬にも入っていると気付いたパクたちは喜んだものだ。治りが一段と早くなるのだから。

しかし、これが人間にも効くかが問題だ。

ずっと見てきたが、カイ達はご飯を食べても、ぽわぽわに気付いている様子はない。身体の調子や肌の調子が良くなったと口にしていたが、それは以前の食生活が偏っていたせいかもしれないので、判断できなかったのだ。


 「ぶにゃにゃ?」


 「うん、できたよ。でも…もう少し、工夫しないと…」


出来たばかりの傷薬が五本、テーブルに並んでいた。

きゅぽ、とはやては器用に開け、匂いを嗅ぐ。ぽわぽわがある。薬効も充分だ。


 「なうぅ」


満足気に頷くはやては、外を見た。人の気配だ。

パトロールから帰ってきたパクたちの声もする。ファスと共に出迎えに行くと、


 「にゃあぅ?」


 「にー…?」


 「久しぶり、今日もモフモフだねぇ!わ、すごい歓迎されてる…?!」


 「いや、違うだろ」


珍しく、カイ達は怪我をしていた。頬には湿布、腕には包帯。動くには問題ないようだが、疲れた様子だ。

その姿に、パトロール組は目を丸くし、一人一人を窺うようにぐるぐる回っている。


 「どうしたんですか…?!」


 「ちょっとな。急で悪いけど、薬ある?」


 「と、とにかく入ってください。手当てしますから」


三人を慌てて巣に押し込み、ファスとパクたちは必要な物の用意を始めた。






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