閑話 名残の夏と秋の旬
まだ、暑いですね…。
水分補給を忘れず、もう少し頑張ろうと思います…。皆さんもお気をつけて、無事乗り切ってください。
夏も終わる。
今年はいつにも増して、暑い。いくら魔法があるとはいえ、万能ではない。 暑いものは、暑いのだ。
誰かに問いたい。本当に、夏は終わったのか。今は本当に秋なのか。秋、こんなに暑かったか。
窓の外を見る。日差しがこれでもかとばかりに、石畳を焼いている。水撒きは定期的にしているようだが、撒いた傍から蒸発している気がしてならない。
カイは開けた窓から入ってくる、生温い風を浴びながら呟いた。
「…そうだ、ファスんトコ行こう」
奇跡的に、同時刻に似た台詞を呟いた者が二人居た。
「…あ、こんにちは。まだまだ暑いですね…、大丈夫ですか?」
「にゃ?」
ファスとパクたちは、何処かやつれているような三人を出迎えた。
山は木陰が多く、風もあるので過ごしやすい。休憩がてら、全員で外でくつろいでいた。
ともかく、三人に座ってもらいお茶を用意する。冷たいおしぼりも作って、先に渡すようパクたちに頼んだ。
「にゃーあ」
「…ありがとな、……生き返るー…」
「助かる…。もう汗は出尽くしたと思っていた……」
「にゃむー」
「…この気遣いが沁みるぅぅぅ……」
冒険者は体が資本というが、流石に連日続く猛暑には参っているようだ。
「お疲れ様です。食欲はありますか?今からお昼にしようと思ってたんですが…」
「食べたい…、でも、なんか調子悪い…」
「なら、お腹に優しいもの、作りますね」
いつも元気印のうららが、珍しく食欲減退している。けれど食べたい欲求はあるようだ。
いつも通りのファスは、巣に戻って行った。手伝うのか、パクとしらゆき、ダイチが続く。残ったはやては、暑さが和らぐようにそよ風を送り。オネムはおしぼりを復活させ、ソラは木陰を作ってくれていた。
その優しさと癒しに、三人はいつもより早く回復。お昼が出来る頃には、喋る元気も戻っていた。
「どうぞ、」
「わ、…?スープ?」
「はい。まずはそれを」
ファスは微笑んで、また戻って行った。
三人に手渡されたのは、琥珀色のスープ。いつもなら具が入っているのだが、何も無い。
「ちょうどいい」
「とろみがあるな」
ファスは、三人の好みを熟知している。抵抗なく口にする男二人につられ、うららも一口。
丁度いい温かさ。ほんのりと味付けされ、これなら食欲がなくても飲める。
「これも、どうぞ。それは下げますね」
空になった器を受け取り、代わりにタルトが乗ったお皿を渡す。ファスはまた戻って行った。
タルトは甘いものではなく、野菜が入っているようだ。
「ほわぁ…、ファスさんタルトも作れるんだ…。底までカリッと焼けてるよ、難しいって聞いたけど、……おいしい!!」
生地はさくさく、具はお芋ときのこ。ふんわり卵と絡んで絶妙だ。少し焦げたお芋がまた美味しい。
無言で食べ進める三人の隣で、パクたちもにゃあにゃあとお昼ごはん。
タルトの具材は季節によって変わるが、そこが気に入っている、パクたちの好物である。
「にぃ!」
「今年はこれで終わりかな、はい」
目を輝かせるしらゆきの前に、普段見るより輝いている小さなトマトが。湯むきしたトマトをシロップ漬けにした、夏の定番だという。
しらゆきは、食べる前にうっとりと眺める。
「甘いですけど、食べますか?」
「く、…それだけしかないんだよね……?」
「二つずつ、どうぞ」
ファスはそれぞれのお皿にころんと入れた。
甘いというが、控えめで果物のようだ。早速口にしたカイは、そんな感想を持った。うららは、しらゆきに負けないぐらいに輝いた目で食べている。
「…元気になったみたいで、よかったです」
「すげーうまかった、ありがとな」
「昼間はまだ暑いですけど、秋の空気はありますよね。タルトのきのこ、今朝見付けたんですよ」
空は高くなって、雲の形も変わり、朝と夕方に吹く風は少しひんやりしている。
山の木々も、少しずつ秋の様相になりつつあるという。
「もうすぐに、秋になりますよ。パクたちがそう言ってますから」
ファスはお腹をさするパクたちを見て、にこりと笑った。
三人は顔を見合わせる。…思いの外、心配させていたようだ。それほど、此処へ来た時の姿は酷かったのだろう。王都の暑さにやられていたのは、確かである。
以前は耐えて凌ぐしかなかったが、今は此処に来たら何とかなると、半ば本気で考えている。
「……」
自分達が思っている以上に、拠り所になっているんだな。
改めて自覚した冒険者達は、必ずこの場所を守ろうと、心の中で誓った。




