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23.

切りのいい所で切ったら短くなりました…





…最近の彼等は深刻な顔で、何やら話し合っている。今は依頼はないので別件だろう。

けれど、余りにも鬼気迫っている様子に、何かあるのではと周りも不安がっている。由々しき事態である。時折訊きに来る者もいるが、ギルドは関与していないので、分かりませんと言う他ない。

もしや解散か。いやいや仲間を募るのではと、すっかり噂になっていた。


 「………二ヵ月だ。もうこれは何かあったとしか思えない。ファスが俺の助けを待っている」


 「落ち着け。…今は冬じゃないんだ、薬草採りに行っただけとは考えられないか」


 「……でも、だったら、……言ってくれるハズだよ………」


 「お互いの予定が完全に決まっている訳じゃないんだ。現に、俺達の依頼も急だったろう。擦れ違っているだけかもしれん」


 「んな事言って、どっかで監禁されてたらどうする。手遅れだ、殺そう」


 「……実際何もなかったらどうするつもりだ、お前は」


カイの目が仄暗い。本当にやりそうなので、釘を刺しておく事は忘れない。

うららはうららで、普段の元気印は空の彼方。お山座りで、声にも張りが無いままだ。

年長トオヤだけが、冷静に事を見ているのだが、彼なりに心配はしている。冬の過ごし方は決まっていても、他の季節はファスたちとて移動するだろう。

薬草や食料は、動かなければ手に入らないのだから。


 「………そもそもさぁ、……そもそもそも、家ごと行かなくてもいーじゃん……」


 「そもが多い。結界を直しに人が来るから、と言ってたのはうららだろう」


 「……そんな事もあったなぁ……。でもそれ、二年前でしょ……私は今の話をしてるんだよ…」


 「年月を先取りする奴があるか。戻ってこい」


彼女の思考回路は、高速回転しているらしい。二ヵ月の癒し不足で、時の流れがえらい事になっている。これで本当に戻ってこなければ、廃人になるかもしれない。


 「そういえば、ソラを薬草採りに連れて行くと言ってたな。だから長期になっているのかもしれないぞ。ソラは植物好きだから」


訪ねると、必ず図鑑を読んでいたのを思い出すトオヤ。

薬草の名や、効能もすぐに覚え、選り分ける姿は楽しそうであった。ファスは優しく眺めながら、今度連れて行くと約束したのだと笑っていた。


 「…やっぱり、ただの薬草採りなんじゃないか?」


 「何で俺が知らない事をお前が知ってるんだ……この間男が」


 「色々とツッコミどころ満載だが、まず、お前とファスは付き合ってすらいないからな」


 「俺からファスを奪う奴はミンナシネ」


こっちもえらい事になっている。目に光が無い。

付き合う以前に、告白すらしていない男が、堂々と俺のもの宣言。ただのやべぇ奴である。

二ヵ月でこの状態。依存が半端ねぇ。

早く戻ってきてくれないだろうか。トオヤは殺気をビシバシと当てられながら、遠い目をしていた。






山の芋は、じゃがいもやさつまいもとは、少々勝手が違った。

皮を剝くと滑り、危うく手を切りそうになった。粘り気があるせいだ。慎重に輪切りにして焼くと、ホクホクして、しっとりとした食べ応え。柔らかいが、太めに切れば煮る事もできそうだ。

ただ、それだけでは物足りないだろう。ファスは悩みながら、山の芋を眺める。栄養があるのだから、是非美味しく食べたいのだ。それに、守り神様にも。

お昼が終わった後、巣の外に折れた山の芋が置いてあったのだ。ダイチたちが獲ってきた芋と合わせると、一致したので同じだろう。一番下であったらしい部分は、より太く、手のようになっていた。掘り取るのは大変だったに違いない。他に人も居ないので、自然と守り神様だと分かり、思わず手を合わせてしまったファス。これはきちんとお返しをしなくては。


 「そうだ、」


ファスはすりこぎとすり鉢を用意すると、洗いながら土を丁寧に落とし、皮のヒゲを焼いて払う。それからすり始める。根気良くすっていくと、とろりとした液状になった。更にふわふわにする為、すりこぎでせっせと滑らかにしていく。


 「できた、それと…」


作っておいたスープの味を調え、小さなお玉で一つ一つ掬い入れ、フタを閉める。粘りが強いので、崩れる事はない…と、思いたい。

恐る恐るフタを開け、確認。ファスはにこりと笑うと、器によそい、パクたちの元へ。

匂いで分かったか、みんなテーブルに着いて待っていた。

中を覗き込むパク。白い、まんまるになった山の芋がスープに浮いている。初めて見た食べ物に、目が瞬く。


 「スープと一緒に食べてみて、熱いから気を付けてね」


受け取ったスプーンを、白いまんまるに入れる。ふわと湯気が上がった。優しい香りだ。

ふうふうと冷まし、ぱくり。途端に、パクの目が輝いた。


 「にゃああぁぁ…!にゃ!にゃ!」


 「…よかった。味、薄くない?」


 「にぃ!にゃんにゃ!」


続いてみんなの目も輝き、ふわふわもちもちあったかい!とにゃあにゃあ歓声が上がる。

気に入ったくれたようだ。進みが早い。早いが…、味見で作ったので、今ある分しかない。ファスは台所に戻った。もう一品、考えたものがある。揚げ芋だ。パクたちは揚げ芋が大好きなので、お芋が美味しい時期は、よく食卓に上る。

皮を剥き、気持ち薄めに切り、水気を取っておく。温めておいた油に、まずは低温から。そして高温でカリっときつね色に。しっかりと油をきって、塩を振って持っていく。

空になった六つの器と、期待に満ちた眼差し。


 「はい、揚げてみたよ。塩が足りない時は言ってね」


 「……にゃああぁぁ…!!」


結果、これも好評であった。パリパリほくほくと、これまた早い。幸いお腹は満たされたらしく、おかわりの声は上がらなかった。満足気だ。

ファスは好評だった二品を作り、守り神様の元へ。温かいままで食べて欲しかったのだ。それらは、祈っている間に消えた。初めてのことである。

そして、次の日。


 「わらわも、もちもちとパリパリを、しょくしたいぞ!!」


御方サマが朝早くから息巻いてやってきたので、ファスとパクたちは目を丸くして出迎えた。


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