表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/106

22.





薬草が沢山ある、この場所を見付けたのは偶然だった。

よく怪我をするパクたちにとっては有難い。けれど、そこは既に他の魔物の縄張りだった。

が、細かいことは気にしないのか、パクたちの出入りは許してくれたのだ。弱小種族故か、荒らすことはないと判断されたのだろう。しかし。

まだ幼いファスを連れて来た時は、流石に見過ごせなかったか、その魔物は姿を現した。

まだ子供だが、ニンゲンは欲深い。この地の事を喋られたら、荒らされてしまう。そう懸念した魔物は、ファスを手に掛けようとした。が、それを必死に止めたはパクたちだ。

この子は悪いコじゃない、絶対秘密にしてくれる。とても優しいコで、巣もキレイにあったかくしてくれる。ただ、このコも沢山怪我してるから、治してあげたいだけ。

…と、パクたちは震えながらも、気絶したファスから離れなかった。

まだ体力が戻っておらず、弱っている状態だった。そこへ魔物の殺気に中てられたファスは、早々に倒れてしまったのだ。

どんなに脅しても決して離れず、それどころか、更にぎゅう、と守るように塊になってしまう。…折れたのは魔物の方だった。

子供には秘密だと、決して喋らないよう約束させる事。此処のモノは取り過ぎない事を条件に、出入りを許したのである。勿論、魔物は陰で監視するつもりであった。

それから今日に至るまで、ファスは約束を破ってはいない。それどころか、自分からお供えをするようになった。ひと際立派な大木、その根元に供え、祈る。


 『…なんだか、まもってくれてるきがするんだ。きっと、まもりがみさまだよ』


その木は魔物の寝床だった。

ファスが怖がるといけないと、詳しいことは伝えていなかったパクたち。ただただ、驚いていた。

そしてその様子を上から見ていた魔物も、驚いていた。

お供えは、主に食べ物だった。放っておけば、ただ腐るだけ。

魔物は仕方なく、帰ったのを確認後、己の腹に入れ処分していた。最初こそ、オノレニンゲン…!と、怒りで嚙み砕いていたが。年月が経つにつれ、腕を上げ、美味しくなっていくお供えを心待ちするようになった。皿は最近、返すようにしている。パクたちも、魔物の様子に気付いて、ファスが祈る横で一緒に感謝を伝えていた。

しかし、パクたちは知らなかった。

ワタシを守り神と祈って供え物をする、魔猫と暮らしているニンゲンが出入りしてるんです。

…と、魔物の長に定期報告しているなぞ、全く。




 「にゃあ、」


 「ぶにゃ…」


 「なーうぅ…」


昔の事を思い出したのは、巣に残る匂いのせいだ。

あの魔物に似ているが、少し違う。はやてとダイチは特に気になって、歩き回って確かめている。自分たちが寝ている間に入られてしまったのだ、いくら弱いといったとて、悔しいものは悔しい。

パクに呼ばれて戻ってきたものの、ふたりは少々すねていた。


 「そんなに歩き回って、大丈夫?まだ魔力、戻ってないんでしょ?」


ごはんを運んできたファスが、気遣わし気に見る。無理しないでね、とみんなの前に具だくさんのシチューを置く。いい匂いだ。

あの後、早目にパクたちが起きてしまい、おかゆは断念。具をいつもより小さめに、強めの火で煮込んだので柔らかくなっている。

全員の目が輝く。巣はすぐに、美味しそうな匂いで満たされる。

はやてとダイチの機嫌も直ったか、スプーンを手に頬張った。


 「んにぃっ!にぃっ!」


ソラはまだ、回復が遅れているのか、みんな程動けない。なのでファスの膝の上だ。食べたいと、シチューに手を伸ばしている。


 「…はい、どうぞ」


ファスは少し冷ますと、ソラの口元へ。すぐにぱく、と食いつき、喉を鳴らした。


 「んにゃー……!」


あったかい膝の上で食べさせてもらう。ソラは幸せを感じて、ふくふくしている。

動けないから仕方ないとはいえ、いいなぁ。後でたくさん撫でてもらおう。

パクたちはそう心に決め、今はご飯を味わうことにした。






 「…なんで戻ってこないの……?」


あれから一ヶ月。ファスたちは戻ってきていない。

結界は半月程前に直され、無事機能している。これで大丈夫だと、安堵して待っていたが、一向に気配がないのだ。最初は、まだ警戒しているのだろうと思っていたのだが、様子見で現れる事すらない。

うららは更地を眺め、ひとり、ぽつねんと座り込んでいた。

毎日出掛けて、夕方遅く、門が閉まる直前に、肩を落として帰ってくる。そんな彼女の姿は噂になっているが、余りの落ち込みように、誰も声を掛けられない。周囲の者らは、個人依頼で出ている男二人の帰還を待ちわびていた。


 「うぅ……、パクちゃん、しらゆきちゃん、はやてちゃん、ダイチちゃん、オネムちゃん、ソラちゃん……。もふもふ…、もふもふうぅぅ――……!」


せめて、転移先が分かれば追いかけられるのに。うららは半泣きになった。

移動した先で何かあって、動けなくなったのか。ただ単に、そこが気に入ったから長居しているのか。それともやはり…、人が少ない所がいいと、引っ越してしまったのか。


 「…それなら、黙って行かないもん。ファスさんちゃんと言ってくれるもんっ!だからそれは絶対ナイもんっっ!!」


浮かんだ考えを慌てて打ち消し、ブンブンと頭を振る。

依頼を終えて、パクたちに癒されながら、おいしいご飯を頂く…。それが、今のうららのルーティンだった。疲れた時、弱気になって落ち込んでいる時、素直に吐き出せる場所を、やっと見付けられたと思っていたのに。

くるる、とお腹が鳴る。余計に寂しくなり、うららはますます小さくなった。その時、


 「……え……?」


一ヶ月前のうららと同じ顔をした、カイが立っていた。






次の日、元気いっぱいになったパクたちと共に、薬草採り開始だ。

全員揃って来る事は余り無かったので、新鮮である。先に大事なお供えを済ませ、あちこちで探し始める。

昨年採ったものは冬の間に、薬や食料になる。一年保つようにしていたが、ここ最近はお客さんが来るようになったり、ソラが新たな家族になったりと、色々あったので倉庫は空に近い。


 「あった、ヨゴミ」


今年は多めに採らせてもらおう。ファスは柔らかい芽を選び、摘んでいく。

ヨゴミはお茶にもお菓子にもなるし、薬にもなるのでよくお世話になっている。


 「こっちはお供え用…、あ、」


此処で手に入れたモノは、お供えにも使っている。食べ物に出来ないものは、別の方法で。

ふと顔を上げると、ぷくと膨らんだ蕾が目に入った。これは確か、食べられる花だった。


 「んにゃにゃにゃ!」


いつの間にか、ソラが足元に来ており、同じように見上げていた。きらきらした目で。持っているカゴは、もういっぱいだ。


 「ヤブバナだ。一日しか咲かない花だったよね」


朝に咲いて、夕方にはしぼむ一日花。よく見れば蕾はいくつもある。明日にも咲きそうだ。

ファスは自分のカゴにソラの分を入れ、代わりにヤブバナを茎の方から採り、手渡す。


 「咲いたら、みんなと一緒に見ようね」


 「んにゃあ!」


尻尾をぴんと立て、ソラは何度も頷く。葉も、根の部分も薬になるので少しだけもらう事に。

ソラは大事にカゴへ入れ、次を探し始める。とても楽しそうで、連れてこれて良かったとファスは微笑んだ。


 「これは、クダミ」


暗緑色の大きな葉に、白い花がちょんちょんと咲いている。独特な匂いもあるが、お茶にしてもいいし、お酒に漬け込めば、虫刺されに効く。

漬ける時はガラス瓶に入れると、見た目も綺麗なのでしらゆきのお気に入りだ。

そっと採り、瓶の大きさ分だけ、カゴに入れる。

保存できる量、自分たちが食べる量だけ。それは此処に初めて訪れた時からの、パクたちとの約束だ。今回はソラが初めてという事で、一種類につき一つだけ、と決めている。

ファスはソラの分を見た。ちゃんと守って、一つずつだ。けれど気になるものが多くて、すぐにいっぱいになってしまうのだろう。サバトラ柄を探してみると…、やはり、カゴはもう半分埋まっていた。


 「んにゃにゃ……にゃあ!」


またひとつ、嬉しそうにカゴへ。

集中しているが、そろそろ休憩を入れなくては。ファスがお昼にしよう、と呼び掛けると、あちこちから返事が来る。

巣に戻り、みんなのカゴを受け取り、ザルに広げる。今回も沢山採れた。


 「…あれ?ダイチとオネムは?」


収穫を喜び合っていたが、ふたりの姿が見当たらない。

辺りを見回していると、がさがさとふたりが戻ってきた。長い、枝のようなものを運びながら。


 「ぶにゃあ」


 「にゃーむぅ」


泥だらけのふたりに、ファスとパクたちは目を見張った。


 「どうしたの?怪我はない?」


 「ぶにぃ」


 「にゃむ、にゃむにゃあ」


穴掘りをしていただけで、転んだとかではないらしい。持っていたのは枝ではなく、掘り出したもの。途中で折れたか、白い断面が顔を出しており、触れると粘りがあった。ただの根っこではなく……、


 「ぶにゃー?」


 「あ、これ、お芋だよ。確か、山の芋って呼ばれてたと思う。山に自生してるから、山の芋なんだって。すごいよダイチ、オネム。よく見つけられたねぇ」


 「にゃむ!」


褒められたふたりは、ででんと胸を張る。

でも、途中で折ってしまったと顔を見合わせた。かなり深く地中に伸びているようで、力も道具も足りず断念したのだ。

山の芋の収穫は、根気の要る作業と聞く。仕方ないよ、とファスは微笑む。これだけでも充分だ。


 「栄養豊富で、おいしいらしいよ。後で食べてみよう」


新しい食材に、目を輝かせる一人と六匹は気付かなかった。

ずっと監視していた守り神が、聞いていた事に。

此処で取れたモノは、守り神にもお供えとして手に入る。おいしい…だと?と、確保の為動き出すとは、流石に思いもしなかったのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ