表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/106

20.





棚の商品を熱心に眺めるファス。雑貨を見ろと言われて、素直に従う姿は律儀とも思える。

目の前のマグカップを、何ともなしに手に取り、カイはちらとファスの後ろ姿を見遣る。

どうにも、期待してしまう。

仕事になったと思い込み、残念そうであったのが、違うと分かるや、嬉しそうに柔らかく笑うのだから。

あれは、友人と思う相手に向ける表情ではない。…と、思いたい。

余り人と接してこなかった分、パクたち…家族に向ける想いと同等かもしれないし、ファス自身まだ分かっていない可能性もある。

焦ってはいけないと、重々承知しているが……。こう、脈アリな部分をちょいちょい出されてしまうと、いけるのでは?と考えてしまう。怖がられていないなら、尚更。


 「……」


どういう経緯でパクたちと居るのかは、少しだけ話してくれたので知っている。

捨てられたのだと、本人は笑っていたが、ただ捨てられただけで、ああも人を恐れるようになるとは思えない。

魔物ではなく、人だ。

パクたちが、人は恐ろしいモノだと、幼いファスに教え込んだというのは無いだろう。いつも心配気に寄り添っているから。

傷付いて、死にかけていた幼子を助けたのは、人じゃない。魔物であるパクたちだった。

過去を変えるなぞ、出来やしないが。恐怖を植え付けた人間には、殺意しかない。


 「カイ、これどう思いますか?」


 「ん?」


ファスが手にしているのは、手のひらサイズの陶器の置物。猫が座って本を読んでいる。毛皮は白黒だ。


 「なんだか、似てる」


黒毛の割合は少ないが、確かにパクに似ているように見える。ファスは嬉しそうに眺め、微笑む。

いかん、可愛い。危うく表情が崩れそうになったカイは、棚に視線を移した。

他にも猫は居るらしく、全て擬人化されている。二匹で荷物を運ぶ猫。コック姿の猫に食べる猫、踊る猫に楽器で遊ぶ猫…等々。この一角は猫が占めていた。此処の店主は猫好きなのだろうか。

ファスはずっと読書猫を見つめている。


 「気に入った?」


 「はい、可愛いです。カイは…それですか?」


マグカップを持ったままだった。何の柄もない、色がついただけのものだが、丁度いいサイズだとは思っていた。家にはまだ揃えていない物もあったのだ。


 「こういう所に入ったのは、初めてなんです。本当に色々あるんですね…」


 「どうせなら、全部揃える?六匹分」


 「いえ、そんな…」


確かに、似ているコは他にも居るが、置き場所がない。けれど、カイの表情は思っていたより真剣だった。視線は棚の猫たちをなぞっている

あ、コイツ棚買いする気だ。…と、仲間二人ならすぐ察しただろう。それには気付かないファスだが、不穏な空気は感じ取ったか、慌ててカイを止めた。


 「そうだ、あの、買わせてくれませんか?今日のお礼に」


カイの手からマグカップを受け取る。こうして安心して街中を歩けるのは、彼が居てくれるお陰。

うららには買ってもらえと言われたが、逆でも思い出になるのではと、精一杯考えた結果だ。

でも、とファスは棚のものと見比べ、赤色を選んだ。こっちの方が似合う気がしたからである。そのまま会計に向かうが、がしりと止められる。言わずもがな、カイだった。


 「俺が払う」


 「え、」


 「そっち、猫は俺が出すから、ファス、それ頼む」


有無を言わさず、カイはさっさと猫を奪い先に行ってしまった。慌てたファスだが、店内で騒ぐのはよろしくない。大人しく会計を終え、二人は店を出た。


 「本当に、いいんですか?」


 「勿論。これ、ありがとな。大事にする」


 「……、俺も、大事にします」


 「割ったら俺の命で償うから」


 「…?!やめて下さい?!」


真顔で重い事を口走るカイに、度肝抜かれた。

形あるものは、いつか壊れる。そして、いつかは必ず来る。


 「つ、償うとか、言わないで下さい…、大事にしてくれれば、その気持ちで嬉しいですから」


 「冗談だって。それより、色変えたのは何で?」


 「あ…、そっちの方が、カイに似合うかなって、思いまして…」


照れたように、はにかむファス。


 「…俺も、カイに負けないくらい、大事にしますね」





……後日、うららにこれでもかという程の大量の菓子が贈られた。無論、贈り主はカイである。

ファスへの感情が爆発しそうになったSランクは、必要無いものの爆買いで、なんとか安定を保ったらしい。

うっひょおぉぉぉい!と喜ぶ妹分の姿を眺め、あいつよっぽど嬉しかったんだな、と頷くトオヤが居た。









猫は、赤いマフラーを巻いたまま、ずっと本を読んでいる。

何を読んでいるのか気になって覗き込むが、丁度前足に隠されて見えない。ならばと背後に回してみるが、頭でこれまた見えない。中々絶妙な作りだ。

ファスがくれたお土産は、いつでも見られるようにテーブルの真ん中に置いている。

いつもは本やお皿だったりしたので、この手のモノは珍しい。パクは喉を鳴らしながら眺める。しらゆきも気に入ったらしく、並んで眺めていた。

どんなモノでも、ファスが選んでくれたのだ。それが嬉しい。

向かい側ではソラも興味津々と、猫の足元に咲く花を見て、図鑑をめくる。同じものはないかと探しているのだろう。


 「はい、お茶入ったよ。みんな、気に入ってくれたんだね」


笑顔のファスに、昨日は楽しかったのだな、と分かる。

楽しませてくれたカイには、感謝している。こうしてどんどん人と交流して、恐怖心も和らいで、…いずれ、人の街がいいと、ファスは思うようになるかもしれない。


 「にぃ」


パクはちょん、とつついた。猫は平気な顔で、読み続けている。

こんな風に、見送れるだろうか。さよならと言われたら、平気な顔でいられるだろうか。


 「…よいしょ。……やっぱり、あったかい」


 「にゃー?にゃあぁ」


あったかいのは、ファスの方だ。パクは抱っこされ、膝の上に乗る。


 「昨日は、留守番ありがとう。カイにお礼が出来たし、色々見れて、楽しかった」


だけど、とみんなを見渡すファスの目は、優しい。


 「やっぱり、パクたちと居ると安心する…」


 「!」


パクは耳をピンと立てる。みんなもだ。みんなも、同じ事を考えていたのだ。

でもファスは、一緒に居たいと思ってくれている。家族なのだと。

それが、ぽわぽわからも伝わってくる。ファスは、変わらずに居てくれるのだ。

パクたちは、ぎゅぎゅっと集まりすり寄った。


 「…いつか、みんなで出掛けられるといいな……」


何にも怯えず、安心してみんなと街へ行けたら、どんなにいいだろう。

そんな事を夢見て、一人と六匹は仲良くベッドに潜り込んだ。




美形よりモフモフ派のファスさん

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ