11. 時々、魔猫たちの思う事
パクたちはファスが大好きだ。仲間、家族と言ってもいい。
気紛れで助けた人の子。すぐに居なくなるだろうと思いきや、お礼をさせてと巣を綺麗にし始めた。ファスは、パクたちが安心して快適に過ごせるよう、努力を怠らない。今や史上最高の巣である。こんないい暮らしをしている魔猫は、自分たちだけではなかろうか。ゴロゴロが止まらない。
共に暮らして、二つ気付いた事がある。
一つ目、ファスは常人より魔素を溜められる。そして、一度取り込んだ魔素はぽわぽわであったかい。
それまでは普通に大気中の魔素を取り込んでいたが、気付いてからはファスの側に居る。ぽわぽわを取り込むと、その方が元気になれるのだ。
二つ目はごはんだ。
最初こそ材料も調味料もなくて、専ら薬草中心生活だった。それでもできる限り、おいしく食べられるようにと、ファスは頑張ってくれた。その姿を見ていたから、パクたちは、例え失敗したと落ち込んでいても全部食べた。気持ちが嬉しかったのだ。
しかし腕が上達してくると、ぽわぽわがごはんにもあると気付いた。心を込めて作ってくれているからこそだ。
ファスと過ごす日々、パクたちは元気いっぱいになった。常に気力が充実している。以前の逃げ隠れ生活を続けていたら、こうはならなかっただろう。あの子のお陰だ。
けれども、お世話になりっぱなしもよくない。何か手伝えないかと考え、薬草学の勉強を始める。それがどんどんエスカレートして、魔法学へ。パクたちは自分の属性を正確に知り、基礎をマスターした。
冬の間は、雪の少ない土地に移る。
その間に巣を盗られやしないかと、ひやひやしていたパクたち。ファスの何気ない一言で転移魔法を思い付いた。早速…と試してみるも、やはり難しい。
元々の魔力量が少ないせいで、コップ一つが精一杯。…それでも、ファスはすごいと驚いてくれたのだが。本にあるのは、魔力ありきの方法だった。
パクたちは隅々まで読み漁り、考えを話し合った。そして、逆にしてみたらどうかと思い付いたのだ。
魔力ではなく、魔素に依存させる。これが可能なら、全員分の魔力と増強で何とかなる筈。問題は媒体だ。これだと、相当分の魔素が必要。
魔導士用の武器や装飾品では、容量がある。必要分は溜められない。魔法陣なら壊れる心配はないが、やはり足りない。魔道具という便利なものもあるらしいが、高くて手が出ない。
パクたちは悩みに悩み抜いた。
実は丁度いい媒体は、近くにある。けれどパクたちは躊躇っていた。でも、だけど、と議論に議論を重ね……。物は試し、とファスに転移魔法を披露する形で、手伝ってもらった。
結果、全員でいつもの薬草群生地に転移できたのだ。やってなんだが、驚いた。
すごいすごいと褒めてくれるファスに、体調の悪さは見られない。けれど、ぽわぽわは減っていた。これならば、と次の冬の前に決行。そして、成功したのだ。
無事に目的の地点に転移できたのを確認し、喜び合ったものの魔力はからっぽ。パクたちは動けなくなってしまった。
本来なら命に関わる程。けれどファスに世話をしてもらい、ごはんを食べると元に戻った。
たった一日でだ。
ぽわぽわすごいにゃ。パクたちはそう言い合ったが、そのぽわぽわもだいぶ減っている。やはり、ファスにも負担はあるのだ。転移は緊急時にだけ使おうと固く決めた。
何よりも、心配させてしまったから。パクたちはファスの笑顔が好きなのだ。
媒体は、ファス。
けどこれは誰にも言わない、パクたちだけの秘密。
何故ファスが、ここまで魔素を溜められるのかは分からない。況してや元気になれる魔素に変換できるなんて。他の人間に知られたら、この子がどうなるか。だから、この子にも秘密だ。
優しい子。大事な子。パクたちの大好きな子。
弱くても、この子は絶対守るのだ。
「にゃっ」
「よ、…なんだよその顔。また来やがった、みたいな」
ファスとパクたちだけの巣に、ここ最近人間が出入りするようになった。
金髪で赤い瞳の、派手な人間だ。カイと名乗ったこの男、何故だかファスを随分気に入ったらしく、暇さえあればこうして来る。一人の時が多いが、時折仲間とも来る。
トオヤとうららという名の人間たちは、ちゃんと約束を守り誰にも話していないようだ。今の所、不審な人間が現れた事はない。
「こんにちは、カイ。今日は一人ですか?」
ファスは友達ができたと喜んでいる。なので無下にはできない。
けれどパクたちは不安だ。やっぱり人といるのがいいと、出て行ってしまうのでは、と。
「トオヤが言ってた薬草、見つけたんです。早く教えたかったんですが…」
「……。…俺一人じゃ、不満かよ」
カイは、ファスが他の人間の話をすると機嫌が悪くなる。巣の空気がピリピリするからやめて欲しい。
あれがヤキモチにゃ、としらゆきが言っていた。
「いいえ、会えて嬉しいです。どうぞ、あ…パク、しらゆきたち呼んできてくれる?おやつにしよう」
「にゃっ!」
彼等が来るようになってよかった事は、おやつの時間が増えた事だ。ファスはいつ来てもいいように、毎日作るようになった。
「あの…これ、味見してくれませんか?これなら、カイも食べられるかと思って」
甘いのはおいしいのに、カイは苦手らしいのだ。前は少ししか口にせず、薬草茶ばかり飲んでいた。それを気にしていたファスは、色々と試行錯誤していた。パクからしたら物足りない甘さのクッキー。でも、さくさくでおいしい。
また食べないなら、出入り禁止にしてやるのにゃ。頑張るファスの姿を見ているパクたちはそう決めた。
「……、俺のために?なんか悪いな。そうか…俺だけのために…」
トオヤっていう人間も苦手みたいだったにゃ、とはやてが言っていた。ファスも気付いていたので、決してカイだけの為ではない。けれど嬉しそうに、機嫌も直ったようなのでパクは見上げるだけだ。
「うまい、これなら食える」
「よかった…」
当然にゃ、とパクはででんと胸を張る。
ファスは安堵したのか、とびきり笑顔だ。おいしいと喜んでもらえるのが、何より嬉しいのだ。
ゴロゴロと喜びを共にしていたが、カイの顔が少し赤いのに気付いて首を傾げる。
「パク、みんなは?」
「!」
おやつに呼ばなかったと知れたら怒られる。パクは慌てて走っていった。




