90. 魔猫と人の子 時々、
……時間は掛かったが、気持ちを自覚し、勇気を持って伝えられた。
それだけでも、ファスの一歩は大きい。
少しずつ、変わっていくのだろう。けれど、こうして一緒に過ごす日々は、変わらない。
春は、薬草や山菜を採って、お花見をする。
夏は、群生地にお邪魔して、珍しい薬草を採ったり、御方サマと守り神様と過ごす。
秋は、山の恵みを分けてもらって、おいしいモノをたくさん作る。
冬は、あったかい巣で、みんなと静かな時間を楽しむ。
その変わらない日々の中に、家族がもう一人。
パクたちは、遠慮なくファスにくっつくカイを見遣った。ああして二人で過ごす時間は、なるべく邪魔しないよう心掛けている。
恋人になったと言っても、Sランク冒険者は忙しいようだ。依頼があちこちから舞い込み、長く戻れない時もある。なのでパクたちは、二人にさせてあげるのだ。その方がカイも元気になるから。
「どれだけ遠征させれば気が済むんだよ、あのギルマス……。やっとファスを堪能できると思ったのによー……」
「……そ、それだけカイが頼りになるんですよ。でも、無茶はしないでくださいね」
「勿論。絶対ファスんとこに帰るから」
そう言って、カイは毎回ギリギリまで粘るので、毎回トオヤとうららに引き摺られて旅立っていく。
ファスとパクたちは、その姿を毎回見送るのが日常になってきていた。
「にゃあにゃ?」
「うん、平気だよ。パクたちが居るから」
「にぃ!」
パクたちに向ける、その眼差しはいつだって優しい。
変わらないファスに、全員ゴロゴロと喉を鳴らした。
……魔猫と人の子は、相変わらず仲良く暮らしている。
こっそりひっそり、それでも毎日楽しく。
少しずつ、少しずつ時は進んでいく。
変わらないものを大切に、変わっていくものをゆっくり受け入れて。
魔猫と人の子は、日々を生きる。
――トントン、と戸が叩かれた。
時々、この巣にはお客がやってくる。
顔を見合わせ、全員で出迎えるべく、そっと戸を開ける。
鮮やかな金色が目に入ると、人の子は嬉しそうに微笑んだ。
おかえりなさい!
人の子が嬉しいのは、魔猫たちも嬉しい。
同じく、おかえり、と喉を鳴らした。
――大切な人の子が、これからも幸せでありますように。
改めまして、リアクション送ってくれた方々、ブックマークしてくれた方々。優しい方々に感謝を。
読んでくれてありがとうございます……!




