四話④終
冬と春の間頃。賑やかな大講堂にて延期されていた建国祭は恙無く執り行われ、新年を告げることとなる。
屋代の乱にて延びた影響で今年一年は季節一つ分短くなるのだが、変わり目が少しばかりズレただけというものだ。
続けて行われた叙勲式にて貴族らを大いに沸かせたのは、素楽への男爵位勲章の授与と王家所有の宝物である爛石の下賜だ。彗星のごとく現れ名誉竜人としての地位と爵士勲章、そして王弟と婚約と話題に欠かない存在だったのだが、次に表舞台へ顔を出したときには誉れ高い勲章を与えられたのだ。大して感心を抱いていなかった者らも無視できなくなってくるというもの。
否が応でも世間を騒がせていた噂が本物だったのだと理解させられる。王家の為に尽力した救国の英雄などという噂話だ。
次いで報じられるのは空いた席への配置変え等々、ここで翔吾及び素楽が中央に呼び戻されるかのかと思えば、そういった話はなくあいも変わらず茶蔵という地方に配置されたまま。寿徳に仕える主流な貴族家からの冷遇を疑い始める。
なにせ数年前まで表面上で翔吾は有象無象の貴族に纏わりつかれながら、寿徳との政争をしていたのだが当然といえば当然。
例年とそう変わりない主要な話を終え、季節遅れの社交期になるのだと思っていると、件の素楽と翔吾が壇上に上がり寿徳の許で新たな魔法の発表を行う。
一例として、飲水を生み出せる魔法、眩い光を放つ魔法、活版を用いずに文言を複写する魔法等。戦の遠具としてしか見られていなかった魔法の常識を一転させる新たな技術としての魔法だ。
これを国王である寿徳と中央魔法部の長である千輝が認可するとと共に、彼女が茶蔵へと足を運び研究、成果が得られた暁には彩鱗に普及させるという発表が成された。
いくらか前から魔石の値段が徐々に高騰し、茶蔵へ運ばれていた理由に合点がいくというもの。大きな利益を生むわけでもない屑石が掘れるばかりだと邪魔な山だと考えられていた魔石鉱山、これらを持つ貴族らは内心で大はしゃぎである。
騒乱と混乱で終わった一二六五年は、新たな躍進の一二六六年として始まることとなった。
これを期に香月素楽、中央祭務長、香花鶏男爵位という異例の新米貴族は、彩鱗史の寿徳王時代において外すことのできない人物とし擡頭する。
―――
あれやこれやと忙しさに忙しさを乗算したような日々を過ごし、ようやく中央から離れることになるのは春の中頃。行きとは少し異なる大所帯となった王弟一行は出立当日となっていた。
「本当に行ってしまうの素楽叔母様?」
「茶蔵でやらなくちゃいけないことが沢山あるからねー、寂しいけど小夏も元気でね」
「…うん、また三人でお話しよう」
「素楽、あなたは無茶ばかりする性格みたいだから身体に気をつけなさい!友人、いえ親友としての忠告よ!」
「りょーかい、天音も元気で、また次の建国祭には来るから土産話をもってくるよ」
友情を確かめるように抱きしめあった三人。
「そえじゃあ、またねー」
羽毛の生えた腕を振りながら素楽は翔吾の手を支えに馬車へと乗り込み出立する。
「はぁー、寂しくなっちゃな」
「気軽に遊びに来れる場所ではないからね」
手を浮かせては引っ込め、一度覚悟を決めてから翔吾は素楽の鱗に覆われた手へと自らの手を重ね、優しく壊れないように包み込む。
「ふふっ」
くるりと手を回しては、指を絡めて離せないようにと手を握りしめる。
「っ」
跳ねる心臓を抑え込むすべなどなく、高鳴る音を素楽に聴かれては王弟の頬は赤く染まる。
第五編は以上となります。
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