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そらの飛ぶお仕事  作者: 野干かん
第五編 鱗を彩る。
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二話①

 礼装に身を包んだ素楽そらが馬車で辿り着いたのは、王都にある糸日谷いとひや家の屋敷予定地。


 現在の政において主流たる生駒いこまを筆頭とする派閥において、取り分け歴史を長く積み重ねている糸日谷は、老朽化した屋敷を一度取り壊して新たに立て直すことに。

 そしてそこに運良く香月素楽という祭務長が王都滞在していると来た。この祭務長、所属こそ中央祭事部に所属しているのだが、普段は茶蔵にいるので良い機会だと祭事部を訪れて頼み事をする貴族が急増。いや大きな商会を始め、市井からも人が来ては祭務官の職務を圧迫していた。

 果てはどこどこの領まで出張して欲しいなどという始末。


 式典前、そして不安定な情勢の中、一人しかいない縁起者の素楽を外に出したくないのが、祭事部上層の考えだったのだが仕方ないと割り切りいくらかの祭事を任せることにしたのである。

 さて、その際にどういった選別をするかという話。積み上げた金子きんすで決めるというのが真っ先に出た案なのだが、ふと、指名料、という懐かしい言葉を思い出した素楽は、抽選方式なら後腐れなく終えられるのではないかと提案した。

 白烏は導きの象徴であり、抽選とはいえ選ばれたのだから十分に価値があると皆勝手に考えて参加し、結果に熱狂するのである。


「これは縁起の良さそうな」

 感嘆の声を上げるのは糸日屋の者ら。当選者の中では歴史と格を備えた家であるため、一番に訪れることとなった。素楽にとっては中央での初仕事となる。

 白を基調とした礼装を纏い、手には嘴磨はしがきの枝を。後ろには楽器を奏でる祭務官を引き連れては、更地となっている予定地へと歩み進む。

 内容こそは難しいこともなく、ただ手に持った枝を予定の地面に差しては振り返り、一度礼をすればおしまい。


(わぁ、聞こえてはいたけどもすごい人だかりだー。みんな興味津々だったんだね)

 白烏の生まれ変わりだ、天の御遣いだと好き勝手に言われ、噂話が独り歩きした結果なのだが、一目見ようと押しかける人は少なくない。愛想を振りまくくらいであれば失うものもないので、小さく手を振りながら笑みを見せれば人々の声が混じり合い響き渡る。


「ありがとうございました香月祭務長、噂に違わぬかわい、愛らしさをなさっているのですね。王弟殿下が心を奪われるのも納得がいくというものです」

「ふふ、お上手ですね。そんなに言われては照れてしまいます」

 照れ困るような表情を浮かべながら、短い歓談を行い出発の準備を待つ。

 王都内のみとはいえ、今日一日で両手で数え切れないほども回らなければならない多忙の身。社交辞令のような簡素な会話をしては、馬車に乗り込み腰を下ろす。


「次は――」

 予定を管理している奈那子が告げる目的地を聞きながら、人でごった返している王都に目を向ける。


―――


 王宮を一人歩き書庫に向かうのは白髪榛瞳の狐系獣人の男。背丈は素楽よりか少し大きいほどであるが、年齢は数百歳と長く生きる種族だ。


「ここじゃったかな。こほん、私はテオドル・ブロムクビストと申す者だが、書庫で古書の閲覧を行いたい。許可証はこの通り」

 王宮の、国王である寿徳の印判の押された許可証を差し出せば、事前に話が通っているようで司書に案内される。


「先ずはこちらを」

 手渡されたのは彩鱗あやこけ古字を読み解くための変換表と辞典。文字そのものは大きく変わってはおらず、多少の簡略化がなされた程度なのだが、文章として見ると変化は多いので資料無しで読み解くのは難しいとのこと。


「奥に行けば行くほど年代を遡り、古い写本が多くなっています。古書は丁寧にお読みください」

 並べられている古書は写本であり、原本は歴史資料として厳重に保管がされている。


(同書でも解釈の異なる物がいくつかあるようじゃし、蔵書量がとんでもないのう。建国から一二〇〇年といくらかでこれほどとは…。国の成り立ちから探ってみるか)

 龍神神話と呼ばれる創世の龍より始まりし物語はどの文献であろうとも、ほぼ同じ解釈で書かれておる。八柱生まれた支龍神の末娘である栄世さかえよ人創支神ひとつくりのかみは天上の楽園には適応できず、常世とこよ磐創支神いわつくりのかみとともに地上に降り立ち竜人を生み出した。然しながら地上は荒廃したb大地であったため、子孫たる竜人は安住の地を求めては旅に出て白烏に導かれたという。


(荒廃の大地?竜人は何代も代替わりを経てようやくたどり着いたようじゃが…この大陸に人が住めないほどの地はなかった気がするがのう。…そもそも竜人は彩鱗と角皆にしかおらんはずじゃ、長い旅の最中であればいくらか人が途中離脱しその地に根付くもの、それに降り立ったとされる地が聖地とされそうな…。大陸内をぐるりと旅をしたが…)

 竜人はニーグルランドの獅子系獣人ほどではないにしろ、自種族を中心とした思想と国作りをしている。それこそ名誉竜人なんという地位にいる素楽が特異すぎるほど。


(白烏、という存在は本当に神の遣いということかのう。では先日に素楽ちゃんを運んできたのは…?)

 大なり小なりの疑問を覚えながら、彩鱗古字への理解を深めるために文献をさらう。


(そもそもどんな経路で旅をしたことすらわからん。しいていうなら角皆つのかいの、南方から北上したわけではなさそうじゃな)

 角皆という竜人の国は一〇〇〇年ほど昔に大飢饉に陥った際、当時の王子を中心とした一部の竜人が新天地を求めるべく南下したことを始まりとする国家だ。文献的にみても国家間の関係こそ良好なことが多いため、口減らしに追い出されたというわけではなく惜しまれながら旅立ったと文献には記されている。事実、二年ごとに行われる分国祭には彩鱗の王族貴族が足を運んでおり、歓迎がなされている。逆も然り。


(わからんな。いや、竜人もワシらや素楽ちゃんと同じく門を通ったとしたら…。だがのう、白臼山にある物は彩鱗古字が使われとるんじゃよなぁ、文字そのものも建国以前から使われてたようじゃし。…獣神のように知恵を授け導く存在がいたと考えるしかあるまいか)

 どこの世界も似たような始まりをしているのだとテオドルはため息を吐き出した。

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