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そらの飛ぶお仕事  作者: 野干かん
第四編 石に魔はさす。
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七話

 茶蔵城襲撃事件から数日。素楽そらは寝台に寝転がり退屈な時間をすごしていた。


 晩春とはいえ夜は冷える茶蔵の地。防寒の魔石も使わずに長時間飛行したことや、様々な要因から体調を崩し静臥せいがしているのだ。いくらか本に目を通していれば、くしゃみとコマが本に覆いかぶさるようにして妨害を行い、おとなしく寝ていろ、と言わんばかりの鳴くのだからどうしようもない。


 死者の弔いや怪我人の慰問に向かうなど以ての外で、一度口に出した際は翔吾を呼ばれて雷を落とされた。

 これといってすることもない時を、毛玉を捏ねながら過ごすのであった。

 扉が開く音に視線を動かせば奈那子ななことグニルが顔を見せる。彼女らは弔事に向かっていたとのこと。

 毒に侵され、手を怪我したグニルはといえば、二日ほどぶっ通しで寝続けて完治していた。医官は匙を投げ、首を傾げしきりだったらしい。


「ちゃんと寝てるッスか」

「うん、暇で困ってるところ」

「はぁ…、いい薬ッスよ。毎日毎日、祭事で茶蔵中を飛び回ったり、魔石を捏ね繰り回したり、小難しい本を読んでたり、体を休めることも大事なんス」

 余計なことをいえば、寝台に縛り付けられそうなので耳を貸す。


(みんな過保護すぎなんじゃないかなー)

 松野ならもうちょっとと思わないこともないが、あちらもあちらで過保護だった事を思い出し、どっちもどっちに落ち着くのである。可愛がってもらっている、もしくは愛されている証左なのだから邪険には扱うことはしない。

 とはいえ何かしらすることは欲しいもので。


「なにかすることない?」

 外出、魔法関連、読書を禁止されてしまえば、素楽が一人で出来ることなど無いに等しい。


「それじゃ札遊びでもするッスか。グニルさんも一緒に」

「やりかた知らない」

「わたしも」

「教えますよ。取ってくるんで待っててください」

 仕方なし、といった態度を見せて部屋を出ていった奈那子だが、尻尾はゆらゆらと揺れていた。


「グニルはもう良くなったんだ」

「丈夫だから」

 ドヤっと笑顔を見せる。


「大変だったみたいだけど、この前はありがとうねー。わたしも奈那子も助かったよ」

「護衛だし」

 何かしらの言葉が続きそうな間があったものの、無言のままでグニルは素楽の頭を優しく撫でる。非常に撫でることに慣れた手付きで、だ。


「素楽は…家族とあえなくて寂しい?」

「少しだけねー。もう慣れちゃったし、茶蔵のみんなもいるからへっちゃらだよ」

「そう、研究頑張らないとね」

「うん」

 無理をしているわけではなく、いつかまた会えるだろうという楽天的な考えが主である素楽は、こうして過保護な人たちに囲まれた状況では寂しいと思う暇はなかった。それにそう遠くない先には結婚という形で、翔吾と夫婦となるのだ。孤独とは遠い環境である。

 帰ってきた奈那子に札遊びを教わりながら、長い休暇を過ごすのであった。


―――


 弔事や慰問等を行う日々が終わりを告げる頃には初夏となっていた。


 ようやく体躯を十分に動かせると喜び、素楽は白臼山に足を運んでいた。相変わらず白樺の森と大湖の綺麗な自然豊かな場所である。湖の上を飛び回り水中に目を向けてみれば、平べったく大きい蜥蜴のような生き物は定位置で沈んだままだ。

 今日は実験でも調査でもなく、ただの気分転換に訪れている。ここ数日、死者と怪我人の数には彼女も思うところがあった。

 今回の襲撃、目的は素楽の身柄と魔石魔法の技術であったと明言されてしまったからである。何れ起こる事であり、責任を負う覚悟はあったのだが、実被害が目の前に出てしまえば何も感じずにはいられない。


(翔吾も覚悟をしてわたしの手を取ってくれたんだ、今更怖気づいてなんていられない。…けども、堪えるなー)

 考えれば西門の遺体は被害者そのもので、弔事の際には彼らの家族も目にしている。

 特になにかするでなく、大湖の畔、浜辺となっている場所で水を蹴り足を濡らす。


(防諜や警備関連なんていうのは、わたしに出番はない。いや警備に加わることは出来るけど、平時のそれは求められている役割ではないねー。やっぱ祭務長としての仕事と魔石魔法関連で頑張るしかないかな)

 揺れる水面を眺めていれば、小島が水中から現れて再び沈んでいく、吸気に浮き上がってきたのだろう。

 思考に耽るも結局の所行き着く答えは、ただ藻掻き羽撃き突き進むこと。

 よし、と言ちて朱い翼を広げては砂浜を蹴る。どうせ白臼山にいるのだから、と現地調査を兼ねて散策をすることにしたようだ。


(そういえば噴泉を見て回りたかったんだよねー)

 地中から温泉が勢いよく柱となって吹き出る場所がいくつもある。勢いのない湧泉状の箇所が殆どではあるが、こういった自然の神秘は見応えがあるというもの。


(温泉の開発ができれば観光事業を起こせるのかな。とはいえ道を敷いたりお金もかかるだろうし、上手くいくかもわからないけど、茶蔵を潤す一つの財源にしたいね)

 門外漢たる素楽は思いを馳せるばかり、正確な計画など存在しない。


(なんにせよ道は引きたいなー、白臼山にどれだけの価値を示せるか、頑張りどころなんだろうね)

 石門の研究は何一つ進んでいないのだが、それでも事が上手く運んだ際には新たな国境が生まれる可能性があるのだ。周辺の整備等を行っておきたいというのが考えの根底で、温泉地開発も延長線の一つである。


 バサリ、バサリ、と朱い翼は茶蔵のそらを羽撃く。

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