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そらの飛ぶお仕事  作者: 野干かん
第四編 石に魔はさす。
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六話⑤終

 兵士らと西門の内部を調査していれば、本日の夜警を行っていた者で間違いなく、敵の侵入経路がここであったと推測する。

 夜間であるため細かな情報こそ掴めず仕舞いではあるが、血濡れた足跡から屋上から侵入したのではないかと兵士はいう。


「わかりました、わたしの方からも上に報告しておきます。…みなさん、お気をつけてくださいね」

「香月祭務長もですよ。敵は何処に潜んでいるかわかりませんから」

「…そうですね」

 兵士に見送られる形で西門をでた素楽そらは、曖昧な笑顔を見せながら小さく礼をする。


(結構被害が大きい。城内はどうなんだろう…)

 魔力視によって城を見渡せば、一箇所に多くの魔力が集まっている。非戦闘員の避難所であることは想像に難くないため、視線を動かして情報を浚う。単独行動している者らが点々とおり、城を策的などをおこなっているのだろうと察する。

 城内での戦闘と思える人の動きはなく、南門方向も無事に鎮圧が出来てきているようだ。


(なんか気怠い…魔力を使いすぎたってことかな?)

 今までは一瞬で使用を止めていた魔眼、これは案外に魔力を消費するもの。そして瞳に負荷を掛けぬよう余剰な分を角の形をして放出させていることもあり、人生において初めてともいえる感覚を味わっていた。疲労こそ感じることはないのだが、何処か気怠く気力という物を削られているような感覚だ。


(戻る序に休息を挟んだほうがいいかなー。奈那子の事も気になるし)

 朱い翼を展開し飛び立とうという時、視界の端に不自然な魔力を見つける。

 方向にして北からこちらに向かってくる人型の魔力が三つ。道を外れ人目を避けるような進み方をしているのだから、不審でないはずがなく。

 唐突に、そして何も言わずに魔導銃を構えた素楽に驚いた兵士だが、緊急事態ということもあり見送りに来ていた者は急ぎ迎撃陣形をとる。


「もうじき姿が見えるはずです。警戒を」

 いざという時のため、翼人笛を咥えては魔導銃に魔力を注ぐ。

 短剣を握り飛び出してきたのは覆面をした者、廊下に転がっていた屍骸と同じような格好である。


 ―!

 短く甲高い笛の音と共に素楽は引き金を引く。目にも留まらぬ速さで突き進んだ魔法弾は、凶手の胴を貫き風穴を開ける。


「弔い合戦だッ!」

「「応ッ!」」


 ――、――!

 敵襲を告げる音を鳴らして次弾を撃ち放つために魔力を注ぐのだが、ここに来て魔力を注ぐことに難儀する。魔力不足、飛行のために使用する量は大したものではないのだが、魔眼の多用と魔導銃の使用によって底をついたのである。

 気怠さを超えて苛立ちすら感じる中、無理繰りに捻り出した一発は凶手の腕を掠めるに留める。


(くっ)

 再装填をした所で次を撃つことは敵わないと理解できている。そして飛び去って逃げることも難しいだろう、翼にも魔力を消費するのだから。

 腰にいた短剣に手を掛けるも、間合いの短い武器は素楽の得物はない。見るからに戦闘に手慣れた凶手を相手には力不足も甚だしい。


(仕方ないね。こういった使い方はあんまり好きじゃないんだけど…)

 手元で魔導銃をクルリと回しては銃身を握る。少しばかり前にも銃床で屍骸の関節を叩き潰していたが、金属と木材で作られた魔導銃は鈍器としても使えないことはない。本物と比べると些か頼りないが。

 無闇矢鱈むやみやたらに前へは出ず、戦況を探るように瞳を動かす。魔眼の使用は既に不可能、月明かりの下で黒尽くめの凶手と戦うことになる。


 相手の一人は即死しているため、残りは二人。片方は腕に魔法弾が掠り二の腕の肉が抉られている。

 対してこちらは兵士が五人。残りは西門内で遺体を弔う準備に駆り出されているが、笛の音に反応して飛び出してくるだろう。

 素楽を含めれば六対二、一人に三人を当てられると考えれば十分に数的有利であろう。


 手早く制圧をしてしまいたいという感情から、手負いの凶手へ向けて鈍器を振りかぶる。兵士二人に押されている状況、魔法師と目されていた素楽からの不意打ちに近い一撃を受けようと、肉が抉れ負傷していた腕を盾にする。


『ぐぁあああ!!』

 子供と相違ない体格から繰り出される悍ましい威力の打撃に、凶手は耐えられず悲鳴を漏らす。怯み二歩三歩と後退すれば大きな隙が生まれて、兵士の刃が胴を貫き蹴飛ばされる。悶え苦しみ、血反吐を吐き出しながら這いつくばった末に、首を落とされ絶命。

 西門内部からも兵士が現れて多勢に無勢、距離をおいて小瓶に手を掛けた。自害するつもりだろう。


「させない」

 情報を吐かせるためにも生きている必要がある。全力で振りかぶった魔導銃は月光の下で勢いよく飛んでいき、凶手へと命中し気絶させることに成功した。


「「おおぉ!」」「すげぇ…」「当たるもんなんだな…」

「香月祭務長、お怪我はありませんか?」

 沸き上がる兵士は王弟の婚約者に怪我がないかを問う。感覚が麻痺し咄嗟とっさに共同戦線を組んでいたが、こういった場所にいていいような存在ではない。その身に何かあれば心配するのは、明日の我が身になるのだから当然だろう。


「はい、こちらから一方的に殴っただけなので大丈夫ですよ。敵を緊縛してしまいましょうか」

((緊縛…?))

 なんとなくいかがわしい言い回しに、翔吾のあれやこれやが疑われることになるのだが、本人にそのことが届くことはない。


―――


「うわぁ…」

 凶手の拘束行っている最中、素楽は魔導銃であったものも見つける。馬鹿力によって放り出された結果、木材で出来た部分を中心に、引き金等の精密な部分ごと砕け散っていたのである。そして致命的な事に、根幹である本体の魔石が粉々になってしまったのである。

 それなりの回数使ってきたうえ、弾丸たる魔石も残り一つと仕方ないところはあるのだが、愛着が湧いていたこともあって精神的な損失は大きい。


「これは…」

 兵士も言葉に詰まる。


 気怠さと苛立ち、加えることに喪失感。一度大きく深呼吸をして思考を整えるも、大きな効果は得られることもなく。一部の兵士を護衛にトボトボと歩きながら城を登る。

 厳重な警戒をほぼ素通りして、向かったのは執務室。先ずは仕事である報告だ。


「―――という状況で、帰り際に敵が現れたので戦闘。二名を討ち、一人を捕らえました」

 ただ淡々と語られるだけの報告。感情の機微はなく、手に持つ残骸から苦戦をしいられたのではないかと翔吾は推察した。


「そうか…報告は受け取った。随分と疲弊しているようだから休息が必要だね、素楽の部屋は…少しばかり難があるので私の寝所を使ってくれていいよ」

「ありがとうございます。奈那子はどうなりましたか?」

「無事だよ。今はお婆とともに行動しているさ」

「…良かった。では寝台をお借りしますね」

 礼をして執務室を後にすれば、なご、と屋住みが二匹。頼み事を聞いてやったのだから褒めろ、とでも言いたいのだろう。頭や顎の下を撫でれば、ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らす。

 二匹を連れ立って向かったのは翔吾の私室、そして連なる寝室だ。


(そういえば入るのは初めてかも)

 順繰りと視線を回してみれば、前に素楽が描いた絵が飾られている。


(気に入ってたけど飾るほどなんだ、ふふ)

「ふぁあ」

 気が抜けたからだろう、中途半端な睡眠と一夜を飛び回っていた疲労が決壊して欠伸という鉄砲水になる。

 温かなくしゃみとコマと共に、翔吾の匂いのする寝台でうずまり寝息を立てるのであった。


―――


「城内には不審な人物は確認できません」

 日が昇る頃には侵入したソリエノの猫系獣人の掃討は終わった。尋問の状況は芳しいとは言い難く、兵士らが手を焼いているようだ。


「鼠の証拠は抑えたか?」

「はい、ここに一覧が」

 書かれている名前は古くから茶蔵に仕えていた貴族の一部。翔吾が茶蔵主に任じられたことによって、いくらかの不正が露見し地位を追われた者たちの縁者。もしくは本人だ。


「これらが素楽を拐かす手引を」

「物的証拠があっただけなので、本人らの考えまでは推測をする必要がありますが…。殿下の背後には中央祭事部がいるようにも見えますからね、繋がりを断ってから引きずり下ろす算段だったのでしょうね」

 はぁ、とつまらなそうな溜息を吐き出した重忠しげただは肩を竦める。


「それで獣を引き込んだと。……なるほど、祭事部の面々は一人もいないね」

「祭事の心は素楽さんがしっかりと掴んでいますからね、よほどの事があっても反意など持ちません」

「ならば大掃除の手伝いを頼むとしようか。土地の不正利用とでも銘打てば、勇み協力するだろうね」


「今年の仕事は順調に終えたみたいですから丁度よいでしょう。付け加えるなら素楽さんが狙われたことも告げれば、我が方とも一層の結束を期待できるのではないでしょうか」

「それはそれで中央から小言でももらってしまいそうなんだがね、まぁいいか」

 ある程度の落ち着きが見えたからか、眠気が押し寄せるも自身の寝床は素楽によって占領されている事を思い出す。


 同意の元で同衾したのならばともかく、眠っている乙女の隣に潜り込むことなどできよう筈もなく、私室の長椅子あたりで体躯を休めようかと考える。寝心地こそよろしくないが、仮眠には丁度いいだろう、と。


「今から仮眠を取る余裕は?」

「あるとお思いで?」

「……はぁ、仕方ないか」

 仮眠の計画は頓挫、おとなしく軽食を摂りながら頭を動かしていくのであった。

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