一話⑥
翌日。騎士の装いをした素楽は、染田の街へと向かっていた。賊討伐の戦列に加わるように、と文虎から指示を出されたからである。
騎士の装いとはいったものの、厳つい鎧姿で馬に跨っているわけではない。松葉色と白色を基とした騎士服で、普段のように腰袋はなく、鉈の代わりに短剣を佩いている。足首には銀色の魔石で作られた足飾りが輝いている。
この足飾りは、香月家長男の香月徹が制作した試作品の魔導具。魔力を岩に変えて射出するというもので、戦場に行くのだから、と急ぎ渡した品だ。足の向いている方向に射出されるので飛行中に放つとことで、敵の頭上から岩が降り注ぐことになる。とはいえ妖禽たる素楽は、翼の維持に魔力を消費し続ける、故にあくまで護身用の品だと念押しされている。
昨日に修練場にて試射した時には、魔力の勢いが強すぎた影響か的が木端微塵に吹き飛んだ。生まれたときから彼女のことを知っている徹は驚きもせず、ご満悦といった表情で記録を取っていた。的をいくつか壊した頃に、香月家次男の旭が現れて兄妹共々怒られたのだが、まあよくあることである。
素楽は常日頃から翼に魔力を扱っている都合上、魔力自体は非常に多いのだが、魔力の扱いは非常に不得手で出力しないか最大出力の二択である。故に的を木っ端微塵にするような結果を出すことになる。そうなると、飛行中に石を落とし続けるのではないか、と思うことだろうが足の握りで発動の瞬間を任意に行うことができる仕掛けが施されている。少々、いや大分アレな香月家の長子だが、魔導具制作の腕はピカイチである。
そんなわけで、素楽は染田の街へ向かって翼を羽ばたかせる。
日の出から時一つ、世間一般では人々が活動をし始める時間帯に、素楽は染田の屯所へとたどり着いていた。
「ああ、石堂さんですか。彼なら昨日には兵と冒険者を連れて上川に向かいましたよ。どうにも上川が襲撃されたらしく、予定を繰り上げにしたんですよ」
素楽の知り得ない情報なのだが、染田から松野までは馬でも半日は覚悟しなければならない距離だ。入れ違いになった可能性は大いにある。
居残りの兵によれば、結構な人数が馬車に鮨詰めになって上川へと送られた、とのことなので、もしかしたら何もすることなく、情報だけ持ってとんぼ返りになる可能性すらできたのだ。
それならそれでいいか、などと考えつつ、兵士に礼を告げて上川の村へと向かう。
―――
さて、戦地になったという上川の村はといえば、村の中央に結界の魔石が輝き、半透明の帳が降りている。
村の周囲には戦闘の後が見て取れる状況で、警邏を行う人が多く見て取れる。上空の、やや旧上川の村方面には翼人が二人哨戒しており、素楽の予想通り廃村を根城としていることが窺える。
村自体には被害という被害がないことから、防衛戦は上手いこといったのだろう。名うての傭兵団が、とある冒険者の情報を有効活用して、武功を得たことは想像に難くない。
結界が張られているので、村の外れに降り立ってから人の集まる場所を目指す。
普段は冒険者をしている騎士、ということもあって松野の組合で、見知った顔ともすれ違うことが多々ある。彼ら、彼女らは二度見をした後、納得したような納得してないような表情を見せるのであった。
「アレって赤羽じゃねーのか?」「なんだ知らなかったのか?どこぞ貴族サマの娘だって噂あったろ」「うっへぇ、マジか。でもよご令嬢サマがなんで冒険者なんてやってんのよ」「知らねぇよ、んなこと」「なんか複雑な事情があるのかもしれねぇな…」「ちげえねえ」
そんな具合で話合が進んでいるのだが、残念なことに素楽が冒険者になりたいと我儘いっただけなのだが。知らぬがなんとやら。
本営とも呼べる天幕へと足を運べば、中には幾人の騎士が難しい顔を合わせている。
石堂隊とよばれる松野騎士の一隊だ。長は石堂猛、髪を短く切りそろえた屈強な男で、現役松野の騎士では最年長の四十歳である。最近は思春期真っ盛りの息子に手を焼いているとのことだ。
「失礼します。領主文虎の命にて、石堂騎士長の指揮下に入るため、参上仕りました」
簡易敬礼で騎士たちに頭を下げれば、彼らも少々驚いた表情を見せた後に敬礼を返す。
「ご苦労、楽にしてくれて構わないよ。宗雪様から話は聞いていたが、本当に来るとは……。しかし素楽くんが加わるとなれば、こちらもだいぶ楽になるね、暁星は東風に積んでいるのかい?」
「いえ、今回は索敵の任とのことで、この身一つ…護身用として魔導具を徹兄様から与えられていますが、戦力としてはイマイチかと」
暁星とは弓の銘であり、素楽の愛弓だ。長さ七尺強の大弓で、半里駆けや四人通しなどとも呼ばれる逸品絶品の類である。竹弓である暁星は、名匠兼弦の生前最後の作品、所謂遺作だ。前竹には仙鱗竹、弦には老龍髭、弓芯には…と素材だけでも一級品、それを今は亡き名匠の手によって一つの弓に成ったのだから、市場価値なんてつけることの出来ない香月家の家宝だ。
曰く、半里を駆けて将を討った。曰く、一矢が四人を貫いた。などといった尾鰭背鰭がついた逸話が残る弓でもある。有効射程が一町程、風向き良く飛んだとしても八半里が精々である弓が、半里など飛ぶはずもない。四人を貫いたというのも、言わずもがなだろう。
東風は香月家の所有する馬の一頭で、騎手がいれば名馬などといわれている牝馬だ。非常に、それはもうとてつもなく性格に難のある馬で、背を許しているのは素楽一人ということで、推して知るべしだろう。
どちらも彼女が成人した祝いに与えられたものなのだが、冒険者業には無用の長物ということもあって、香月家で管理されている。
さて、何故にそんな物を素楽に与えられているかといえば、宗雪の親馬鹿というわけではなく、弓騎兵としての才がずば抜けていることに所以する。意外なことに馬に乗せて弓を持たせれば、そんじょそこらの騎士では歯が立たなくなるのだから、世の中わからないものだ。
本来の騎兵、騎士としての素楽がこの場にいれば、翼の生えた虎が援軍になったようなものなのだが、残念なことに本日の素楽は翼の生えた猫である。翼人が一人増えただけでも十分であるが、期待値が高ければ高いほど転ぶ時は痛いのだ。
「そうか…それは残念だが、まあ良いだろう。確か素楽くんは、低空での行動が出来たね?」
「はい、可能です」
「危険を伴うことにはなるが、低空からの細やかな索敵と撹乱を頼むよ」
「承知しましたー」
素楽を加わったことで、再度一から作戦の確認が行われることになる。
縞尾の翼人によって、敵の数は三十から四十人の大所帯ということが判明している。対して松野の手勢は騎士九、兵士二十、冒険者四十、翼人五と圧倒的に数的有利を取っている。素楽と翼人の六人は索敵が主となるが、それでも七十人弱がいるとなれば、先ず負けることはないだろう。
しかしながら、今回の作戦は敵の掃討ということになっている。夏至に行われる天夏祭に憂いを残さないために、ひとり残らず処理する必要があるのだ。そのため敵の生死は問わないとのことだ。
文虎からしても背景に何がいるのかが想像に難くないので、態々捕らえて情報を吐かせる必要もないと考えだろう。石堂に裁量を与え、作戦指揮を一任した結果、一人も逃さずに捕らえることは不可能と判断し、撫で切りにするという事になったのだ。そういった事情がなくとも、彼らは根絶やしにされていたのだが。
「我々は数の有利があるものの、立地では賊の方が有利だ。慢心せずに臨むように。いいかな?」
「「承知」」
「素楽くんは耳役のシャクナゲくんと音を合わせておくように。隣の建物に詰めているはずだからね」
「はーい」
間延びした返事をした素楽は会議を後にして、隣の建物へと向かっていった。
「はぁ、親馬鹿ってやつなのかな…」
「ん?あぁ素楽姫の」
「そう、弓と馬があれば百人力だろう?こういった勝ち戦は実戦経験を積ませるいい機会だからね」
「自分はお目にかかったことがないのですが、隊長が手放しで褒めるほどなのですか?言葉を疑うわけではありませんが、信じがたいといいますか」
「…実際に見たほうがわかりやすいんだけども、昨年の騎射会には出てこなかったからね。宗雪様がいうには今年はでるようだから、その時に拝むと良いよ。当日、警備やなんかに駆り出されたくなかったら、騎射会に参加すれば確実に見れるさ」
「おお。それは参加せねば!」
「その前に片付けなければならない仕事があるよ、気を引き締めてね」
「「は!」」
―――
「失礼しまーす。シャクナゲさん、いますか?」
指示されたとおりに耳役の元へとやってきた素楽はシャクナゲを探す。
この耳役、どういった役割かといえば、翼人は翼人笛といった笛を使い空中で意思疎通を行う。一対一であれば、翼人以外の人間でも問題なく聴き取ることが可能なのだが、一人の翼人が全域を索敵することは難しい。故に幾人も飛ぶことになると音が混雑することになる。それを解消するのが耳役で、複数の笛を聞き分けて指揮官に伝えるといった重要な役割である。
飛び役も指揮官の音を記憶しなければならないので、双方の音を合わせる必要があるのだ。翼人笛はどれも個性的な音をしているために、一つを覚え意識するのはそう難しくない。笛を持った者同士で向き合って音を出せば、音合わせは終わりである。
「はーい、シャクナゲは私です。…あっ、あなたはおばあさまを助けてくれた…素楽さん、でしたっけ?」
「そんなこともありましたねー。カシワおばあちゃんは元気ですか?」
「ええ、お陰様で元気ですよ。元気すぎるくらいで、今回の野盗討伐にも加わるって言ってたくらいです。さすがに止めましたが、大変でした…」
賊に単身挑む跳ねっ返り老婆だ、勇む姿は脳裏に浮かぶようである。
「あはは、元気そうでなによりです。私は石堂騎士長の指揮下に加わる事になりましたので、音を合わせにきました」
「なるほど。では笛を――」
互いの音を記憶する作業は、それほど時間の掛かるものではない。簡単なものだ。
「――然と耳に置きました。……それにしても驚きました、騎士様だったのですね」
女三人寄ればなんとやら、というが二人でも話の花は咲くもので、戦前ということも忘れて四方山話を始める翼人二人であった。
―――
騒々しい、というのが相応しいだろうか。旧上川の村では翼人が吹く笛の音がひっきりなしに聞こえてくる。
旧上川の村は名前の通り、現在使われてはいない廃村である。何故に村を移したかといえば、地滑りによって農地が壊滅し、街との往路が断たれたことが原因であった。故郷から移り住むという決断には、当時の村民も苦渋の決断だったのだろう。村民が二世三世と世代を交代していっても、定期的に手入れが行われていた。そこに目を付けたのが賊だというのだから、いたたまれない気持ちもあろう、上川の村民たちは後方支援に尽力をしている。
そんな旧上川は戦地となっている。いや、一方的な戦闘といってもいいだろう。
上空からの偵察役が五人、白兵戦を行える人員が敵より五割も多いのだから、負けるのも難しいというものだ。戦いとは数と情報である。最初こそ賊は廃村を砦のようにして、防衛戦を有利に進めていたのだが目上を飛び回る翼人の報告によって、弱点を暴かれた末に戦線は崩壊。今となっては賊たちが散り散りに逃げようとするばかりである。
だが残念な事に石堂の目的は掃討であり、騎士の率いる別働隊によって退路は断たれ、潔く投降するか抗って今生を終えるかの二択となっている。
あからさまな勝ち戦なのだが、どんなに優位であろうとも、無闇矢鱈に飛び込めば足を掬われるのは戦場の常。武功を立てようと逸る者を抑えるのが指揮官というもので、兵と冒険者混合の班を率いる騎士らは、賊を討つより大変だと苦心するばかりである。
暫時、戦などなく賊騒ぎもなかった松野において、対人間の戦闘経験が浅かった。いつ平時が終わりを告げるとも限らないこの世、騎士たちに兵を率いる経験を積ませるいい機会となっていた。理想をいえば安泰の世が続く方が良いが、そうもいっていられないだろう。
さて、戦場の上を素早く飛び回る翼人が一人。香月の姫にして領主側近である素楽は、縞尾の翼人の報告に耳を傾けながら、細かな補足のような報告を翼人笛で行っている。
地上からの魔法や弓が届かない場所からの偵察が翼人の基本なのだが、速く小回りの効く彼女は建物や樹木に追突しない距離で飛び回っている。これも一種の才能で、縞尾の翼人たちが舌を巻くほどだ。
「――っ!」
素楽は地上で杖を構える賊を見つけ、急遽翼を翻して高度を上げる。
杖の柄と先に付いた魔石には、文字と図形が彫られている。これは魔導杖や魔導具と呼ばれる武器だ。先日にカシワの傷を直した癒法の様に、毎度毎度一から描くのでは実用たり得ないので、特定の魔法に特化した道具が存在する。それが魔導具であり、使い手は魔法師だ。
どうやら賊の魔法師は、目の上を飛ぶ翼人に一矢報いようと、素楽の軌道を予測し待ち構えていたのだろう。魔法師は杖に魔力を込め、魔力の弾を数発射出する。
(追尾弾ではないし、速度も…イマイチ。これくらいなら回避は簡単だねー)
難なく魔法弾を回避し、目下の魔法師を観察する。再度魔力を込め始めているのだが、肩で息をしている様子から既に消耗していたのだろう。
(また狙われても面倒だし、撹乱しておいたほうがいいかな)
素楽の役割は索敵と撹乱。多少、そう少しだけ手を出すことは撹乱行為に含まれる、という拡大解釈である。彼女の場合、出るのは手ではなく足になるのだろうが。
上空を旋回していた素楽は、目下の魔法師に狙いを定めて急降下する。魔力で出来た翼を小さくまとめ、頭を真下にすることで速度を上げて肉薄する。目標の手前で翼を大きく広げて減速し、鱗の付いた足で強烈な一撃をお見舞いする。
翼人の跋扈する戦場では、魔法師が単体で動くというのは下策なのだが、この状況ではどうしようもないのだろう。
小さくうめき声を上げている魔法師だが、まだ抵抗を諦めてはいないようで、立ち上がろうとしている。何度も何度も魔法で攻撃されては邪魔だと、素楽は魔法師を趾で強く掴み大きく羽ばたいて地上から離れる。
「や、やめろ!おろせぇ!」
これから起こることが嫌でも想像出来てしまったのだろう。彼はジタバタと藻掻くも高度は上がるばかり、地上から五間ほど離れたところで素楽は趾を離す。望み通り降ろされる事となる。
空を掴もうが如く藻掻くも成果などある筈もなく地上に激突する。仮に打ちどころが良かろうとも骨折は免れない、打ちどころが悪ければ死んでいる。魔法師を無力化した、というのは十分戦果となり得るだろう。
上空を飛び回り始めて時一つ、そろそろ本陣へと帰還するべきかと考えていると、一つの家屋から獣の咆哮のような号びが響く。
[獣の声、確認に行く]
笛を吹いた素楽は直様に家屋の上空を陣取り、クルクルと円を描くように旋回する。
「クソがっ!言うこと聞きやがれってんだ!いくらしたと思ってんだ馬鹿蜥蜴が!!」
人相の悪い男が逃げるようにして家屋から飛び出してくる。
グアアアァァ!!
耳を突くような咆哮に素楽は小さく身を震わせる。彼女の本能が告げているのだろう、拙い相手だと。
家屋の壁を突き破って出てきた生き物は、全身を鈍く光る鱗で覆われた四肢生物で、前肢にはコウモリのような翼が生えている。大きさは若い鷲獅子、雪丸と同等か少し大きいくらいで、口には鋭利な歯牙、蛇のような眼は血走っている。
この生き物は竜種、とりわけ飛竜や翼竜と呼ばれる存在だ。大きさや身体の特徴から、亜竜である翼竜とみて間違いないだろう。
赤褐色の鱗に丁子色の翼膜、小ぶりな二本角、その色合いから銅翼竜と呼ばれる種だ。獰猛で飼育の出来ない亜竜で、乾燥した岩石台地に生息しており、松野領には存在しない生き物である。
何故そんな飛竜が、と考えれば、先程の悪態をついていた口汚い賊が、何らかの目的で連れてきたのだろうことは推測できる。
[翼竜発見。推定、銅翼竜]
翼竜の頭上で笛を吹いて報告した素楽であるが、直様自分の失態に気が付く。苛立たしそうな瞳で周囲を見回していた亜竜が、音のする方、真上へと視線を向けたのだ。
(これは拙いね…)
竜種は一部を除いてほぼ全てが人肉を喰らう。
つまり、真上で騒々しい音を立てながら飛び回る素楽は、餌として狙いを定められてしまったのである。命がけの追いかけっこの始まりだ。
魔力を推進力に変えて飛ぶ素楽は、逃げるだけであれば優位にある。とはいえ時一つも飛び回っていれば疲労も溜まるというもの、長引けば長引くだけ不利になっていく。
そんな折、彼女の耳に前線を下げて飛竜を迎撃するとの旨が届く。体制を整えるまで時間を稼いで欲しいという要望も交えてだ。
[委細承知]
自身を標的に据えたまま追いかけっこを継続させるため、適度に速度を落として松野の民へと被害が出ない位置へと誘導する。元々苛立たしいような瞳を向けていた翼竜だが、挑発的な飛行をされては怒りが募るというもので、気付けば憎々しいといった瞳に変わっている。
翼竜を引きつけては、その体躯では通れないような木々の隙間を抜け、距離が開けば体力を温存する為に滑空を行う。眼前でこんな飛び方をされれば、頭に血も上るのも当然といえよう。
―――
「ありゃすげえ。んでどうしますかい?奴さんはこの機に乗じてとんずらする算段でしょう、お上の指示を継続で?」
「そうなるな。翼竜程度なら俺らが出張らなくてもなんとかなる。指示通り野盗の頭を潰すぞ」
「へいへい。とりあえず翼竜の飛び立った地点に向かいやしょうか」
上空で行われている追いかけっこを横目に、傭兵団の面々は道なき道を進む。彼らは先日の襲撃で賊の頭目を確認していることと、実力が十分であることから、彼を捕縛もしくは討伐の指示を受けている。本人らは貧乏くじだとぼやいていたものの、騎士からの指示となれば断ることは難しい、と別働隊として頭目を探していた。
非公式ではあるが、組合は香月からの資金提供と長に佐平玄鐘を据えられたこと、兵事の一部を戎事依頼と銘打って卸していることで、半ば領営組織と化している。故に有事の際には“どこぞの貴族”の手勢として駆り出される事になっている。暗黙の了解というものだ。
そんなこんなで彼ら傭兵団は、石堂指示の元こうして動いているという訳だ。
「あーあ、折角美味い情報を仕入れたってのに、やってることは山歩きとはなー」
イヌ系獣人の男はつまらなそうにぶーたれる。大暴れしてガッポガッポと稼げると考えていた彼からすれば、小悪党をちまちま探して潰すなんてことは性に合わないのだろう。
「上川でやった時に暴れただろうに…。これも実入りが良いことにはちげえねえんだ、その詰まってる鼻かっぽじって奴さん嗅ぎつけてくんな」
「うるせー。最近、花粉症なんだよバーカ!」
「…そろそろ目的の場所だ。静かに、な」
「おうよ」
彼らは一様に気を引き締め進む。家屋の様子を遠目に確認したところ、賊らは出払っているようで当ては外れたことになる。とはいえ追跡に必要な情報は多く揃っているようだ。
「聡耳、追えるか?」
「へっ、あたしを誰だと思ってるんですかい?朝飯よか余裕ありますぜ」
「任せるぞ。照、お前は家探しをしてくれ、裏方の尻尾を拝めれば万々歳、なくても構わん」
「……ういうい」
陰気そうな男は一人、翼竜のいた家屋へと踏み入る。
情報を掴んだ聡耳が無言で一方を指差せば、それを合図に彼らは武器を構え歩みを進めてゆく。
幾らか歩いた後、上を飛び回っていた素楽が地上から放たれた魔法によって撃ち抜かれた。
振り仮名の修正 3/29