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そらの飛ぶお仕事  作者: 野干かん
第二編 常の磐は。
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六話②

 宙を滑るように旋回するのは橙瞳白髪の翼人。


 その下を征くのは筒路つつじを中心とする中央、茶蔵さくらの連合軍。筒路と比べたら兵士の数は少ないものだが、戦乱の最中に王弟が尻尾を巻いて逃げ出した、となどと吹聴されようものならば、都合のいい攻撃材料になる。


 陛下を仰ぎ第一王子を担ぐ政の中心たる主流貴族には、王弟たる翔吾しょうごは厄介な政敵と目され続けているのだから、先に打てる手は打っておくのが吉となるのだ。

 加えて素楽そらという珠を掌中に抱え込んでいるため、掠めたられたり害されないよう、防衛策はあればあるだけよい状況だ。


 哨戒索敵中の素楽は適度に魔力視を用いては、周囲の魔力に気を配る。先日に厄介な伏兵と干戈を交えているため、目を皿にしての索敵だ。然しながら魔眼は負担が大きいため、一瞬使っては暫く眼を休めての繰り返しとなっている。


(今のところは大丈夫そうだねー。一旦降りて報告しておこ)

 大空から滑り降りては体躯と羽を立てて、綺麗に馬上へと降り立つ。何度か背中に降り立ったが、驚き暴れることのない優秀な馬である。

 ケネスの配下を討ち鹵獲ろかくした馬、調教が行き届いており乗りやすいのだが、素楽は物足りないと感じている。

 名馬は我と体躯が強く賢く爆発力のある馬こそが、そして名馬はいずれも悍馬かんばから生ずる、と考えているからだ。

 貶すところのない優等生に跨った彼女は、足で腹を叩いて馬を走らせる。


「公敏さま、ほうこく。へんなもの、みえないです」

 なにもないのなら報告が要らないという訳ではないので、時折こうして降りてきては軍を率いる公敏きみとしへと告げる。

 翼人笛の音信号を仕込めていれば手間を省けたのだが、緊急時の音しか伝えきれていない。


「聞き取ったぞ、香月祭務長。先から休みなく飛んでいるだろう、異常がないのであれば休むといい」

「わかりました」


 筒路と鐔切つばきの境を超えて、目指すは国境沿いの防衛砦。

 連なる山脈の特別に高くない一部、元は山間の峠道があった場所を均すようにして土地を確保し、そこにこさえる城壁と山城。防衛という観点では、自然を大いに活用したうえで石造りの堅牢な砦を建てた要塞がそこにはある。


 矢越城やこしのしろ、と呼ばれる鐔切の地が東方からの侵攻に耐え続けられる由縁たる山城だ。高所というのは戦いにおいて優位なものであり、魔法師が主体となっている魔法戦においても、麓から魔法が届かない相手の足を潰せる利点は大きい。故にこの矢越城は築城から現在に至るまで、一度も破られたことがないとのこと。

 そして鐔切側の麓には街を形成し、常駐兵の多くは城下の街で生活をしている。


「おおっ」

 遠くからでも異彩を放っていたのだが、城下から見上げる矢越城はとてつもない力強さがある。


(すごいなー、奈那子ななこが殿下は絶対帰ってくるって言ってた意味もわかるよ。海閂の街よりも強固なんじゃないかな)

「おどろいたかい?」

「はい、おどろいたです。やまのしろ、はじめてみるです」

「ほんとうにはくりょくのあるしろだ、わたしもみるのははじめてなのだけどね…」


(翔吾様の顔色が優れない、戦は不安なんだろうなぁ。よし)

 素楽がこうして戦に加わる事が主たる原因なのだが、あまり得意でない長旅と予期せぬ出来事が重なったこともあって、疲労と不安が溜まりだしているのは確かだろう。


「翔吾さま」

「なんだい、素楽」

「わたし、翔吾さまのこと、たいせつ。まもるから、あんしんするです。茶蔵も、みんなも、たいせつ」

「……、ありがとう、素楽。くく、わたしもね、きみのことがたいせつなんだ。だから…」

 今からでも筒路の城に戻って欲しい、そう思うままに告げてしまいたい心と、素楽の意思を尊重したい心が拮抗する。


「……」

「…?」

 なんともいえない表情と間であったが、そんな空気をかき消すように城からの掛け声やらが響く。ニーグルランドの兵士が攻め込んできたらしい。


「翔吾さま、わたしとぶ」

「ああ、むちゃは…しないでくれ」

 小さく首肯した素楽は馬上で朱い翼と尾羽を展開しては、一目散で飛んでいく。


「…はぁ」

(相手がそこらの貴族であれば、悩むこともなく使えるのにね。…たいせつ、か)

 王弟のため息を聞くものはいない。


―――


 魔力を推進力に変え、空を穿つ弾丸のごとく勢いで高度上げた素楽は、矢越城のニーグルランド方面を観察する。


 おびただしい数の獅子系獣人が矢越城を目指して山を駆け上がっており、それを鐔切軍が上から弓矢や魔法で打ち下ろしている状況のようだ。城壁に等間隔で開けられた小さな口付近には、石やら煮え湯やらの準備が見られるため、あれらも迎撃手段の一つのようだ。

 山を駆け上がる騎兵や歩兵の中には、盾で上部を覆った亀のような一団がみられる。


(あれが敏春様が言ってた魔法師隊かな?)

 城攻めにおいて最重要な役割をもつ魔法師隊、助法師を多く従える主法師が放つ魔法は最新の攻城兵器足り得るために、射程範囲内までなんとしてもたどり着くことが命題となる。

 全員が騎兵となって突撃する策や装甲馬車なんという手や様々だが、地形的な都合から盾で亀のように囲む作戦のようだ。鐔切軍が城を起点に守りの戦術を取っているからこそ、敵騎兵歩兵がいないためにとれる策といえる。


 事前に公敏らに知らされていた場所を重点に観察する。

 麓から駆け上がる敵兵には強いが、迂回され側面から殴られるのは痛手となる。近づかれれば物見が気付くであろうが、やはり迎撃までの猶予は欲しいというもので、考えうる要所を教え込まれている。


 特に警戒すべき、とされる山陰の上空を飛び回ってみれば少なくない数のニーグルランド兵。矢越の攻略においては基本であり定石だ。

 監視塔の建造を進めているのだが、相手側も放っては置けるはずもなく予定地でば常時小競り合いが発生している。逆に麓へ砦でも建てようとする動きがあれば、鐔切が攻撃を仕掛けるといった様子だ。


 大体数百から一〇〇〇満たない獅子系の獣人がおり、素楽と目があっては首を傾げる。翼人、もしくは鳥系の獣人が存在しえないので、上空の存在を上手く認識出来ないのだろう。

 開戦前に出立していたようで、足の進みがすこぶる良いようだ。


(本隊が急いだのかな?奇襲するなら下と合わせたほうがいいと思うけど。とりあえずは大まかな数だけ数えて伝えなきゃ)

 一から十まで数える必要が無いため、そそくさと翼を翻して矢越の城へと舞い戻る。

「公敏さま、いちばん、五〇〇いじょう…一〇〇〇くらい、ちかいところです」

 直接に鐔切の長に伝えられるのがいいのだが、顔合わせの間もなく戦の始まりが告げられてしまったので、公敏らを挟む必要がある。


「良くやった香月祭務長、二番三番も頼む」

「りょーかいです」

 大翼を羽ばたかせては地上を離れ姿を小さくしていく。


「親父、先行って伝えてくるぜ」

「頼む」


―――


 要点二番三番は一番の反対側。堅牢な山城であろうと弱点というのはあるもの、ニーグルランド側から攻略しようとすれば、確実に使うであろう場所の三点だ。


 眼下の矢越城などお構いなしに飛び抜けて目的の空域を目指す。

 こちらも尾根に隠れるように位置する山陰。先程の場所より優先度が下がる理由はといえば、敵が姿を露出させてから城へ着くまでに距離があることと、傾斜がキツく大軍で踏破が難しいことが原因だ。


(こっちはいないのかな?向こうと比べると視界がいまいちだねー、うーん…魔眼は温存しておきたいけど、見落としは困るしっ)

 あまり多くの魔力を見ないよう眇めてから魔力視を行う。


「うがっ!」

 眼を突き刺されるような痛みに体躯の均衡を崩すも、墜落を堪え涙目になりながら記憶の整理を行う。


(とりあえず…いない、かなー。はぁー、位置取りとか上手くやらないと、人の多い所で使うのは拙いね)

 使うのを控える、というのが最善なのであるが。

 魔眼というのはあくまで後遺症であり、便利な異能ではない。瞳に魔力を充填させて無理矢理に魔眼症の類似症状を起こしては、魔力視を行っているだけにすぎない。人には過ぎたる状態である。


(戻って報告しなくちゃ。…ん?あぁ、あそこにニーグルランドの本陣があるんだね。…なるほど、この地形ならこっち側からも攻めづらいから、ある程度近くに置いても問題ない、のかな?)

 矢越城からは直接見えない位置に多くの天幕が張られた、敵の本陣と思しき場所がある。守りに長けるということは攻めに転じ難い、ということだ。


(ふぅん、何度も戦ってるだろうから知ってると思うけど、序に報告したほうがいいかな。あの馬車とかは輸送と補給だよね、道も整備されているように見えるし、この戦にかなり財と労力をつぎ込んでいるみたいだねー)

 凧のように宙へ自身を縫い留めた素楽は、敵後方の状態を観察する。


あきら兄ちゃんだったらもっと分かるんだろうけどなー。知った情報を最大まで伝えられるように、言葉を考えないとね。うーん)

 縦回転をしつつ体躯を捩って一八〇度反転しては、矢越城を目指す。


―――


(さて、どこに降りたらいいのかな?)

 翔吾を始めとする者は既に城内にいるらしく、降り立つ場所に悩んでいる状況だ。


 現状の素楽は部外者に違いないため、下手に独りで降りてしまえば衝突が起こらないとも限らない。竜人の単一種族国家である彩鱗国民からすると、彼女の姿は獣人に見えるようで時折獣人として扱われている。翼人は鳥系の獣人、と考えれば強ち間違いではないのだが、それ故に獣人国家と戦をしている最中、防衛城の敷地内に立てば言わずもがな。

 ニーグルランドも獅子系獣人の単一種族国家なのだが、竜人からすれば獅子でも狸でも狐でも鳥でも大まかに獣人となる。

 一応のこと、茶蔵の所属を表す意匠の軍服を纏ってはいるのだが、余計な揉め事は避けたいと考える。


「こっちだよー」

 城の一角からは、よくよく聞き馴染んだ声。橙色の瞳を向けてみれば翔吾が手を振っている。…なんとなく場違いな風だ。


「ただいまもどりました、翔吾さま」

「おかえり、素楽」

 難なく着地した素楽は、翔吾を見上げてはニコリと微笑む。


「おりるところ、こまりだった。ありがとうございます」

「くく、いやね。素楽がうえでこまっているって、おしえてくれたへいしがいたんだ。かいけつになったのなら、よかったよ。それじゃあ、みたものをきくから、ついてきてね」

「はい」

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