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そらの飛ぶお仕事  作者: 野干かん
第二編 常の磐は。
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五話②

「くく、このせいで財部と魔法部が騒いでいたのか」

 黄銅と思われる金属塊を手に青みがかった黒髪を揺らしながら、くつくつと笑うは茶蔵を収める常磐翔吾ときわしょうご

 夕餉ゆうげ前の歓談に昼間の出来事を話すとともに、実物を渡している。何処となく生成時とは形が違うため、あの後に何が行われたかは想像に難くない。


「マドウグのほうこくでもあったけれど、マツノのまほうははじったいとして、のこりつづけるのだね」

「まりょくそのまま、とばすはきえる。べつ、かたちにする、のこる」

「ほう、なら素楽のつばさは、まりょくそのままなのかい?」

「きっとそう」

 朱い翼は腕から離れると、魔力へ還って霧散する。攻撃に用いられる魔導杖や魔導銃の魔法弾も同様に、一定以上を進むと消え去ってしまう。


 魔法弾、もしくは魔力弾と呼ばれるそれ以外を生成し、杖と銃で射出する魔導具もあるったのだが、使い勝手の悪さと手間から武器として採用されることがすくない。

 実際、素楽が手放したつぶての魔導具も制作の費用と手間はそれなりであり、小型魔導銃よりも高価なのだ。

 そして彩鱗あやこけで使用される魔法は、石の槍を作り飛ばそうとも一定時間で消滅する。火を起こして延焼した場合などの二次的な現象は残るが、そのものが残り事がない。


(晴子が意見を変えて積極的に囲い込むように進言するのにも肯ける、石ころと金属では訳が違う。それに金属だけではないだろうから…流出は避けるべきだろうね。…何かあっては危険、と実験用の部屋を用意しようか。うん、それがいい)


「素楽、まほうのじっけんには、じっけんようのへやをよういするよ。だからそこでするようにね」

「わかりました、ありがとうございます。ませきまほう、翔吾さまにわたす。うまくつかう、です」

(薬とかのお礼もしたいし、返せる恩は返さないとねー。あやういたちばってともえが言ってたし、利益として役に立てると良いんだけど)

 城に滞在していなければ、確実に息絶えていた事を考えれば安いものだと考える。


「わたし、翔吾さまの、ちからになるです」

 にへっと締まりのない笑みを浮かべ、助力の意思を告げる。翔吾に対しては悪い感情はなく、素楽としては心好く思うことの多い日々だ。


「…そうか、ならよろこんでうけとるよ」

(……。)

「でも、うまくいかない、ときあるおもう。…きたい、おおくきたいする、よくないです」

「素楽なりに、のびのびとやってくれていいよ」

「わかりました」


―――


 雪が消え去り桜の花弁が咲き誇る三寒四温の中春、中央へと向かう茶蔵さくらの馬車群。


 街道は良く整備されてはいるのだが、乗り心地が良いかと問われれば、間違いなく首を振りたくなる乗り物だ。中央は近くないので日数を要する行程、素楽は上空から彩鱗の地を見下ろしていた。

 端的に言ってしまえば退屈だった、言葉の学習がてら翔吾と話すのにも限度というものがある。羽根を伸ばすことと哨戒を兼ねた空中散歩を楽しんでいる最中である。

 野獣なんかは所々で見かけるが、脅威的な存在は居らず人を見れば逃げ去る程度。暇つぶしに曲芸飛行を行う程には、なにもない日々である。


(よくもまあ、あんな飛び方をして落ちないね…。見ているこっちがヒヤヒヤするよ)

 そんな行程の中、筒路領への領境も間近という頃合いに、素楽が森の中に隠れるように待機している人の影を見つける。


(なんであんななんにもないところに人がいるんだろう。…こっちの進行から隠れるようにしている、ようにも見えるなー。ちょっと視てみようか)

 眼に力を込めると橙色の瞳が朱色に染まる。


 魔力視の魔眼。魔力とその流れを視る後遺症なのだが、魔力のある対象であれば多少の遮蔽物しゃへいぶつを透かして視る事ができる。地中にも龍脈という魔力が流れているので、上空から使う場合はあまり精度がよろしくないのだが裸眼では得られない情報もある。


「うぐっ…」

 細かく見ようとしたせいか、魔眼の負荷により眼を焼かれるような痛みが走る。脳裏に焼き付けた記憶を頼りに、魔力の形が大きい対象を数える。小動物の魔力というのは、姿通り小さいため上空からでは龍脈の影響で殆ど見えないのだが。


(…はぁ、二十よりは多い二五か三十、他より大きいのは馬かなー。接近するまでは半時くらいありそうな距離かなー。敏春としはる様に伝えたほうがいいね)

 すーっと滑るようにして、馬に跨る敏春の後ろの降り立つ。


「うおわっ!驚いたぞ、香月の嬢ちゃん!こう見えても小心者なんだ、驚かせないでくれよ」

 護衛の隊を指揮している彼は、いきなり背に飛び乗られたことで心底驚いていた。そんなことはお構い無しに、耳へ口を近づけて小さな声でささやく。


(しずかに、敏春さま。すすむまえ、ときはんぶんきょり、かくれた、ひと…にじゅうにん、さんじゅうにんくらい、いたです)

(…マジか。魔眼で周囲を探って貰えるか?)

(とぶとき、みた。ちかい、だいじょうぶ)

(よくやった、人の姿、旗とかで覚えているものは?)

(…うま、いる。みえるはた、ない、かくれたひと、だった)

「…よーし、予定にはないがここらで一息つこうか」

 逡巡の末、隊を止めて休憩という建前を述べる。護衛を行っている中央軍は、二人の神妙な表情での密談になにかしら感づいているようだ。


「もういっかい、とぶ、みる」

「気を付けな、近づき過ぎないように」

 馬の背から飛び降りた素楽は、再度上空から見下ろして偵察する。


 高度を上げての旋回飛翔、戦端が開かれておらず相手が彼女を認識していないため、なるべく音を立てないような帆翔に注力している。

 王弟一行の存在には気付いているようで、相手方も集まり話し合いのようなことをしている。


(鱗の尻尾じゃないし、頭のは耳?獣人種ってことかな、茶蔵の街でも偶に見かけるけど、こうして組織立ってるのは可怪しいねー。鎧を着込んで…武器もある、道も封鎖されてるし厄介事なのは確定)

 くるりと転身し敏春らの場所へと降り立つ。


「はなしはきいたよ、どうだった素楽」

 翔吾も話に加わっていたようで、真面目な風貌で尋ねる。


「けもののひと、みみとしっぽ」

 頭の上に両の手を置き耳を動かすような身振り手振りを行い、偵察結果を伝えるのだがどうにも話が入ってこない人がチラホラと。そんなことはお構いなしに、素楽は口を開く。


「ぜんいんか、おおく、けもののひと。よろいきる、ぶきある、はなしあい、してる。みち、き、たおす、とおれない」

「獣人か、帝国ってこたないと思うんで…調子付いてるお隣さんでしょうね。最近なにかと活発だって聞きましたし」

「ニーグルランドだね。数が二十程となると偵察か、人質として王族でもかどわかしに来た、とか」

「道を塞いでるのですから、後者と見る方が無難ですね。中央でキナ臭い動きがあるとは聞きましたが、手引きをしている不届き者がいそうですね」

 呆れたような表情の直之なおゆきは、敏春へと視線を向ける。場所が場所だ、筒路の貴族が、と無言の避難を行う。

なにせ、彼の出身は筒路なのだから。


「国境が接てるわけでもないんで、決めつけないでほしいんですがね、はぁ。なんにせよ、道が塞がれている有無に関わらず今回は大所帯なんで、強行突破は出来ません。相手さんよか人数は多くいますが、殿下と非戦闘員の護衛を考えると攻め込むにはイマイチ足りないってところです」

 バツの悪そうな表情のまま、状況を整理して述べる。


 素楽の体調を考慮して出立を遅くし、身軽にした事が仇となった。中央祭事部への顔見せは必須事項となっているため、予定をズラしてでも連れて行く必要ある。


「決めつけは良くないよ直之。筒路つつじの貴族は信心深いし情に厚い、私はそんな彼らを好ましく思っているんだから」

「そう、ですね。すまない杵島きしま

「お、おう、多めに見といてやるよ。んで、こっちに気が付いてる様子はあったか?」

「きっと、きがついているです。かくれる、ばしょいた」

「となると逃げるのは厳しいね、馬車の回頭に手間取っている間に叩かれてしまいそうだ。ただの賊なら助かるのだけど、望みは薄いか」

 賊であれば金品等を握らせて逃してしまえば、王族なんかに手を出そうとは考えない。確実に命取りになるからだ。


「…やっぱ最低限の護衛だけ残して攻め込みますかね。香月の嬢ちゃん、相手の場所を教えてくれ」

「わかったです」

 簡素な地図を地面に描き魔力と障害物の位置を示す。地面が盛り上がり丘となった向こう側、こちらからでは地形が邪魔をして登りきるまで視認することが出来ない場所。襲撃防衛逃亡に有利な布陣を敷かれていることになる。


「よし、そんじゃ戦功を上げにいきますかね。防衛は任せるんで」

 わかりました、と返事をするのは茶蔵の兵を束ねる兵士長。歴戦の猛者たる八間川重忠やまかわしげただは、城で留守番をしている最中だ。


(馬と槍でも借りれれば前に出れるけど、下手に連携の難のあるあたしは入らない方がうまくいくかなー。魔導銃があるし防衛に加わった方がいいか)

 馬車から武具の一式を取り出して身につけていく。魔導銃雷目式、小型魔導銃、魔石各種。短剣は置いてきてしまったので、兵士に頼み予備の剣を一振り借り受ける。


(魔導銃に使える魔石の残りは九つ、雷目式だけで使っても十八発。今更惜しむつもりはないけど、どうにかしたいねー)


「素楽も…戦うつもりなのかい」

 後ろから声をかけるのは、困り顔の翔吾だ。


「翔吾さま、まもる。そうだ、これもつ。まりょくいれる、ここ、さわる。『結界』まほう、あぶないを、まもるまほうです」

 五角形の重なり合った正十二面体に加工された魔石の使い方を説明する。高価な基調な魔石であるが翔吾の身を守れる札となるのならば、と惜しみなく手渡す。


「…まもりのまほうであるなら、素楽がもったほうがいいとおもうのだけど」

「そとからまもる。なかから、そともまもる。たたかい、いまいち」

 魔導銃や魔力の翼をも阻害する結界の魔法は、素楽との相性が頗る悪い。


「わかったよ、わたしがかりうけよう。いいかい、むちゃはしないでね。わたしは、素楽のことたいせつにおもっているんだから」

「わたしもたいせつ、だからたたかう、まもるです」

 普段の緩い雰囲気を消し去った彼女は、馬車の上に陣取り魔導銃を構えるのであった。


(大切、か。きっと私の言った大切とは意味合いが違うのだろうね。でも嬉しいよ)

 獲物を狙う猛禽のような眼をした翼人の少女に一瞥をした王弟は、自身のやるべきことを行うために体を翻す。

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