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そらの飛ぶお仕事  作者: 野干かん
第一編 月が香る。
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四話①

 乾風が大地を撫でる初秋の頃。あいも変わらず素楽は、早朝から掲示板に瞳を向けている。


 松野に帰還し氷床郁子(ひょうしょうむべ)を納めると、(すず)と城の医官が協力し朔也(さくや)の魔力特性を抑える薬を仕上げた。

 入手に難がある代物を用いた調薬の製法など、どうやって知り得たかといえば、椋原当主嘉政が王家と取引して手に入れたものだという。大昔の王族にも同様の症状をもった者が居たらしく、臣下を方々へと向けて様々な薬草類を試したらしい。

 実際に症状を和らげることの出来た組み合わせを記録してあったのだというものだ。


 その名前すら付いていない薬を摂取した朔也は、またたく間に魔力の特性が失われていき、人に囲まれるような状況になっても問題がなくなった。本来であれば和らげるだけなのだが完全に完治してしまったのである。

 効果の違いに関しては、鮮度の違いではないかという説が上がっている。素楽(そら)の運搬速度と冬龍が茂みを囲って低温を維持していたこと、その二つが重要であったとのこと。あくまで仮説だが。


 そんな大団円な結果に朔也は喜び、今は椋原屋敷に戻り報告を行っている。

 あくまで松野の査察、監視という建前があるため、再び松野に戻りしばらくの間は仕事を行うことになってる。中秋か晩秋には戻ると言い残していた。


 そんなこんなで、非常に大変な大仕事を終えた素楽は、依頼紙を剥ぎ取り受付へ向かう。


 いつものように採取を中心とした依頼を熟し、市井での友人らと休日をすごして、忙しくも落ち着いた日常を満喫するのである。


―――


 珍しい事に(とおる)の名前で呼び出しを受けた素楽は、香月屋敷にて呼び出した本人の帰りを待つ。


「やあ、待たせたね」

 ほくほく顔の香月家長子、雷目の採取から帰還後、常にこんな顔をしているらしい。魔道具作成に使える貴重な素材が山程手に入ったのだから、落ち着いていろというのも無理な話。


「おかえりー。なんの用?」

「先ずは贈り物だ。もうじき誕生日だろ?早めだけど渡しておきたくてね」

 素楽が生を受けたのは晩秋、そして今は初秋。もうじきといっても三十日以上も間が空いている。贈り物、というのは建前で新しく製造した玩具を見せびらかしに呼んだのだ。


 こういったことはよくあるので、素楽は特別気にした様子もなく、手荷物へと視線を向ける。


「先ずはこの魔導銃。雷目を台木と床尾に使用していて、核となる魔石と筒には丹精込めて刻み込んだ魔法式。見てよコレ、この魔石は内部を削ることが出来てね、耐久性の上昇と小型化が同時に行えたんだ。試射をいくらか行ったけども、今までの魔導銃と比べて謙遜の無い威力と、頭一つ抜けた命中精度をしているんだ。魔法式を描けるのが僕しかいなくて、完成までに丸々三日も掛かったから、量産は不可能だけど、いずれはこの試作品を元にした魔導銃を配備したいね」

 これ以上なく早口で語る徹から、魔導銃を受け取り様々な角度から眺める。試作品ということもあり、洗練された形状からは遠く、撃てれば十分といった代物。


 長さは三尺(きゅうじゅっせんち)、重さは一貫弱(さんきろぐらむ はん)といったところ。今までに遊んできた物と比べるとやや小さい印象を受ける魔導銃で、これであれば帯で括り飛行することも可能ではないかと考える。


「本体も小型化したんだね、射程は変わったの?」

「おお、わかるか。そうなんだ雷目のお陰で小さくまとめることが出来てね。射程も同程度だよ。後は…使用する消耗用の魔石は据え置きさ」


「へーすごいねー。でもこれ貰っちゃっていいの?重要な試作品でしょ」

「かまわないよ、なんせ後二丁あるからね!試作品の中で一番小型化できた物は贈ろうとおもってね」

 わぁ、と生返事をしながら一度構えてみれば、なかなかに構え心地が良い。弾丸に相当する魔石を装填していないため、射撃はできないが、はいっている想定で動作を試す。


「うん、問題ない。言葉に甘えて貰っちゃうねー。使うかどうかはわからないけども」

「ああ、受け取ってくれ、手入れは前に教えたとおりだからね。次はこれ、雷笛。ここでは吹かないように、居間が大変なことになる」

 翼人笛のような小さな笛。材質はやはり雷目である。丁寧な事に、首へ掛けられるように紐を通されている。


「これに息を吹き込むと、向いている方向へと恐ろしい音と衝撃を繰り出すものでね。研究室が既にめちゃくちゃになって、皆に怒られてしまったんだ。一応、吹く際は耳を塞いたほうが良いね、結構煩いから」

 雷笛の表面にも魔法式が刻み込まれており、吹き込んだ際に魔力で増幅するもののようだ。


 徹がこのように素楽へと玩具を贈ることは少なくない。似た者同士兄妹、というのもあるのだろう、魔法と魔道具に魅入られている徹と、知識欲を満たすことが好きな素楽の相性は悪くない。


 ただ、魔力の量こそ多いものの、感知に難があり、操作は壊滅的な素楽。幼い頃に徹がどう教えても魔法が扱えず、ふくれっ面をしていたこともあった。魔力を注ぐだけで扱える魔石魔法を学び、彼女に教えて共に遊んだところから、彼の魔法馬鹿に拍車がかかった、というのは昔の話。


 今でも屋敷の倉庫には、そういった昔懐かしいものから、新しい玩具が仕舞われている。


 余談ではあるが、旭に贈ると非常に嫌そうな顔をしてから、危険物でも扱うように倉庫へと押し込まれる。


「――という仕組みだ」

 どうやら雷笛の説明を行っていたらしい。満足げな徹に、雷笛に興味津々な素楽、やはり似た者同士なのだろう。


「そうそう、ここからが本題なのだけど。春先か春の終わりころか、未知の言語で欠かれた不明な本があったろ?アレについてなんと、進展が会ったんだ」

「ホントっ!どこの言語だったの?砂の大陸?氷の大陸?」


「流石にそこまではわからないのだけど。いつだったか忘れたが、南方の、三沢尾(みさわお)の村あたりに星が落ちたらしく、村人が落下地点を物見にいったんだ。そしたら、星からそう遠くないところに、翡翠(ひすい)色の石門が立っていたらしい。場所が村から離れた普段からあまり近づかない場所だから、いつからあったのかという記録や口伝もなく、もしかしたら危険のある物ではないかと、調査の嘆願がきたみたい。その石門の表面に書かれていた文字が同封されていて、その文字があの本のに似ているってわけだね。調査に向かうことになったから、素楽を誘おうとこうして呼びつけたんだ。来るかい?」

「行きたーい!」

 素楽は瞳を輝かせるようにして食いつく。隕石に、未知の石門、惹かれないはずもない。


「ただし、ここ半年くらい、まぁ色々とあったからね。先行は許可できない、同行するか後から追ってきてもらうことになる」

 はーい、と間延びした返事をして、素楽はわくわくと思いを馳せる。


「それじゃ、同行するなら出立は――」

 香月の問題児が結託して行動する。となれば、静止役が必要になるというもの。残念なことに白羽の矢が立つのは、二人の間に挟まれる香月の次子なのである。

 文虎(ふみとら)から話を聞いた(あきら)は、目を覆い天を仰いだという。


―――


「君たちが傭兵団か、色々と噂を聞いているよ。しばらくの間、護衛としてよろしく頼むよ」

 松野の街中。旅装をした徹と旭、城の魔法師と騎士が二名ずつ、傭兵団の八人が顔を合わせていた。


 隕石と石門の調査は、そこまで重要事ではない、ということで人員を大きく充てることができなかった。故に護衛として腕利きの冒険者を雇うことになったのだ。


 どこぞの冒険者と仲がいいこともあり、“噂”が上がってきやすく、玄鐘(げんしょう)からも推薦されることになった。

 傭兵団からしても知り合いのご家族が、長期間で(まと)まった金額の依頼をしてくれた、と万々歳な様子だ。


「三沢尾に到着した頃合いに、領主の側近が合流することになる。彼女の周りを固めてくれると我々も助かる。どうにも今年は面倒事に巻き込まれやすい星の巡り合わせらしいのでね」

 あー、と傭兵団の面々は何かを察した様子を見せる。どうにも共通の知人はお転婆らしい。


「了解です。一応確認なんですが、三沢尾間の往復と調査中の間を護衛するってことでいいんですかね?」

「ああ、その認識で間違いないよ。宿は村の集会場を借りることになっているから、滞在中の心配はしなくていい。食事やなんかもこちらで用意するよ」


「へぇ、文字通りとはおどろいた。ここまで手厚い依頼とあっちゃ、真面目に挑まなけりゃ名が廃るってもんです。護衛には期待してください」

 傭兵団の長である長命が、なるべく失礼にならないよう真面目に対応をする。素楽がこの場にいれば、クスクス笑っていただろう。


 護衛依頼といういうのは、寝床食事まで面倒を見るということは殆どない。報酬金にその手の料金も含まれている、というのが理由で、二重で支払いたい奇特な依頼者など、そうはいない。とはいえ手厚く面倒を見てくれる依頼とあれば、冒険者もやる気を出してくれるので、手元に余裕のあるものは。二重で支払ったりする。


「それじゃ、しばらくの間よろしくね」

 バラバラな返事をした傭兵団は、出立の準備を急ぎ進めるのであった。


―――


 三沢尾の村を目指す。


(あれって、徹兄ちゃんたちかな?半日くらい遅れてるみたい)

 朱い翼を広げた素楽は体を立て、減速しながら馬車団を追い越す。街道の脇に除けつつ待てば、馬車は素楽の目の前で停まる。


「やっほ、こんな所で会うなんて奇遇だねー。遅れてる感じ?」

「やあ素楽。どうにも魔物が多くてね、龍脈が活性化しているのかもしれない。この時期に畑食(はたば)みは少しばかり攻撃的だから、進みが悪くなってしまったんだ」

 見れば三沢尾の村に向かう者はどこか疲労の色が見え隠れしている。


 追いついた馬車から顔を見せた傭兵団も、同じくといったところ。思ったよりか大変な仕事になったボヤいているのだろう。


「なるほどねー、それじゃあたしが索敵しながら同行するよ。…いざという時は、魔導銃で迎撃にも加わるよ。試し撃ちもしたいし」

「助かる。翼人笛は持ってきているか?」

 旭は十分に余裕の有りそうな顔である。心做(こころな)しか溌剌(はつらつ)としていなくもない。


「あるよー。忘れてないとは思うけど、これが音を覚えておいてね」

 翼人一人であれば、覚える必要もないのだが、癖というものだろうか。

 旭からすれば聞き間違えることのない、よく馴染んだ音が耳を過ぎ去る。


 それから時一つもしない内に、畑食みと呼ばれる草食魔物の一団に襲撃されることとなった。

 畑食みとは、読んで字の如し田畑を荒らす厄介な魔物だ。一匹一匹の力は然程強くないのだが、収穫の時期になると群れを成し襲撃を行うのだ。だからこの時期は、畑食み狩りの依頼が多い。


 襲撃を受けたといっても居合わせる人員は、戦闘に難のない手練であるため、簡単に撃退することができる。ただし、時間は消費するため、進みは悪くなるのであった。


―――


 三沢尾に近づくと、それはそれは畑食みが多く、畑食みを狙った肉食みまで現れる始末。


 ようやくの思いで到着すれば、村長を始めとする村人らに泣きつかれ、調査を延期し魔物討伐を行うことになった。


「はぁ県の街で物資を補給していて良かったよ。傭兵団もすまない、金額は帰還し次第上乗せするから協力してくれ」

「俺らは上乗せしてくれるってんなら、喜んで畑食みで肉食みでも狩りますよ」

「ふふ、頼りになるねー。さぞ高名な冒険者なんだろうねっ」

 素知らぬ顔の素楽は(おど)けてみせる。あくまで領主側近、もしくは騎士の一人としてこの場にいるためだ。


「いやいや、俺らよりも高名な冒険者なんて数え切れないくらいいますよ。特に赤羽なんてな、それはそれは優秀で」

「あー、あたしもよぉくしてっまさ。松野中を飛び回るってすんごい翼人の冒険者でしてね」

「あはは、そんな冒険者もいるんだねー」

 くだらない掛け合いをしながらも、装備を整える。

 今回同行した騎士と魔法師も、素楽のことを知っている香月に縁のある者で、こういったやり取りを楽しそうに眺めている。


「そいつが赤羽の獲物なんですかい?弓はつかわないんでさ?」

「試作魔導銃だよー。暁星は持ってきてないんだよね、こんな状況になるとは思ってなかったから」

 帯の付いた試作魔導銃を肩に掛け、先日も使用した小型魔導銃を帯紐の銃入れに納める。最後に腰に短剣を()けば準備は完了だ。

 上空を主とする都合、鎧などは着用しない。故に騎士というよりかは魔法師に近しい姿といえる。


「あたしは上から索敵するから、下は頼んだよー。いざという時は降りて援護するけど、この顔ぶれで苦戦するようなら、あたしが居ようとも変わらないだろうね」

 発破をかけるように、からかうように、素楽は笑みを浮かべてから飛び立つ。


「ちげえねえ。おめえら気合入れてやんぞ!俺らの得意なこったあ、一つだけだ!」

「「「おおお!!」」」

「こちらもアレやる?楽しそうじゃない?」

 雄叫びを上げる傭兵団を見て、徹は楽しそうに騎士と魔法師に瞳を向ける。


 騎士であれば戦の前に(とき)の声をあげる事があるが、魔法師はそういった事が少ない。魔力を効率よく魔道具に流し込むために、精神統一などを行うことが主である。


「…はぁ。…我は松野騎士!我が後ろには民があり、我が前に敵がある!戦いぞ!!」

「「応ッ!!」」

「おー!」「「お、おー」」

 鬨を上げ終わると同時に翼人笛の音が響く。農地に向かう畑食みの群れ、数は――。


 魔法局長、騎士長という二人の英邁(えいまい)に、よく鍛えられた騎士と魔法師、翼人の目、名うての冒険者。この少数精鋭部隊は次々に魔物を屠り、魔力の活性化が収まるまでの間、三沢尾の村を防衛しきったのであった。

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