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そらの飛ぶお仕事  作者: 野干かん
第六編 門に迷う。
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三話④

 山鳥のさえずる朝方。千輝ちあきに抱きつかれた形で目を覚ました素楽そらは、するするとすり抜けては伸びをする。天幕の内には防寒石を使っているとはいえ、温かいとは言い難く義姉に布団を掛けてから着替える。


 昨晩はあれやこれやと千輝に質問攻めにあい、うとうとと舟を漕ぎ眠りに就いていたようだ。

 着替えが終わり起こしてないかと再確認するもこれといった変化はなく、安らかに寝息を立てている。

 天幕を出ると少しばかり湿った冷たい空気が肌を撫でられれば、否が応でも背筋が伸ばされるというもの。個人用の防寒石に魔力を注ぎ寒さを遠ざけた。


「おはようございます、香月祭務長。お早い目覚めですね、眠れませんでしたか?」

「おはようございます。わたしはいつもこれくらいの時間に起きているもので、ふふ、寝心地に不満はありませんでしたよ」

 男子禁制の女性陣の屯している天幕周辺、警護をしているのも勿論女性で、いくらか眠そうな表情が見て取れる。


「そうでしたか、ならよかったです。これからは何を?」

「いい機会なので散策をと思いまして、馬を借りる事は可能でしょうか?」

「わかりました。ですが護衛は付けてくださいね、なにが潜んでいるかわかりませんので」

「任せて」

 どこからともなく現れたのはグニル。元々、彼女の役職は素楽の護衛だ、実力からしても最適の人材だろう。


「おはようグニル、護衛よろしくね」

 静かな早朝とはいえ、起きている者は少なくない。顔を合わせるたびに挨拶を交わし、簡易的な馬房へと向かう。

 兵士に話を通せばすんなりとくらを用意しあぶみの高さを調整してくれる。

 どうせならと弓矢を携え、二人は朝の散歩へと出るのであった。

 周辺の地形は山岳とはいえ非常になだらか傾斜に間伐の手が行き届いた林と、馬を常歩あるかせる分には悪くない地形だ。

 植物図鑑で知り得た知識と照らし合わせながら山林を楽しみ、時半分いちじかん程の散策を終えた。残念ながら人の往来が多かった影響か、野生動物は姿を見せず弓矢が役に立つことはなかった。


「よう、帰ったか。なんか面白いものでもあったか?」

 素楽とグニルが散策から帰れば、敏春が見つけては声をかける。


「おはようございます、敏春としはる様。これといって特別なものはなにも、初夏の野草を見て楽しんできただけですよ」

「そうかい。弓を持ってったって聞いたから、狩りにでも出たのかと思ったが…獲物はなさそうだな」

「ええ、人の往来や戦闘がありましたからね、野生動物は逃げてしまったのでしょう」

 残念がる風でもなく、こんなものだと素楽は肩を竦める。


「今日の予定だが、今の軍は士気が高く被害もない。この勢いのまま物量で押しつぶそうって話になってな、香月の嬢ちゃんにはまた上からの索敵を頼むことになる」

「お安い御用です」

「頼りにしてんぜ。そんじゃ飯でも喰って待っててくれ」

 はい、と返事をしては素楽とグニルは天幕の方へと足を進める。


「地上の事は任せるねグニル。数はこちらに分があるけども、あの大熊が懐に入ってきたら多くの被害は免れないからさ」

「わかった」

 その後、出立するまでに一番苦戦したのが千輝を起こすことだったらしい。


―――


 迷界の内には広大な空間が広がっている。


 どれ程かと調べようとした者がいた。彼は門を出て真っ直ぐに左へ向かって歩いていったのだが、時一つ(にじかん)もしないうちに右から現れたのだと。次いで縄を持ち再び歩みだせば縄は繋がったまま姿を現し、引っ張れば進んでいった方向に消えていく。

 門を通らぬ限り何処へとも行くことの敵わない迷いの世界を人は迷界と称することにした。

 そんな迷界の宙を飛んだ初めての者は素楽となるのだが、彼女は違和感や不気味さを覚えていた。


(全く風がない。地上では吹いているのに…)

 風というのは障害物がない上空の方が強くなるというもの。飛び立つ前には地上の枯れ葉が風で揺れていたことが記憶に新しく、無風という筈はない。無風だろうが飛ぶことは出来るうえ難の障害もないのだが、外界とは違う異界であるのだと考える。

 普段通りくるくると旋回飛翔をしながら地上にある魔力の反応を確かめれば、昨日とは異なり奥まった場所に一際大きな魔力を二つほど見つけることが出来た。首魁と迷宮の核であろう。

 力いっぱいの羽ばたきと推進力を以て距離を詰めれば、そこには大熊というには大きすぎる熊がやかましそうな雰囲気を醸し出しながら宙を舞う素楽を睨めつけている。ひと目でわかる存在感、果たして魔法が通じるのかという疑問さえ覚えるほどで、狼の首魁などは児子に思えるほど。


(急いで報告をしたほうがいいねー。なんなら…一時撤退して作戦を練った方がいいのかな。遊びに兵士の命を失うのは得策じゃないし)

 翼を翻しては敏春の許へと降り立つ。


「敏春様、首魁を発見しました。方角は――」

 方角、距離、首魁の大きさ、過程で見つけることの出来た大熊の場所と数を事細かに報告する。


「大熊よりも二回りデカい、と。…チッ、厄介そうな相手だな。越路こいじどう考える?」

「そう、ですね。……、やはり元の計画通り物量と魔法で押し潰すしかないかと、被害は少なくないと思いますが」

「だよなぁ…。香月祭務長が居る限り不意は取られないと割り切って、一団となって行軍するしかねぇか」

「魔法師の隊をいくらか小分けにして手数を増やすかい?私が主法師となる隊以外は露払いに回すのも手だと思うのだが」

「…九つでも手に余りそうな状況なので今の数を維持したいです。寧ろ統合する事でどれだけの手数が落ちますかね?」

「敵の数は二〇弱だろう?…一隊二〇人以上となると、威力こそ確実性を帯びるが詠唱にかかる時間は跳ね上がる。前線の負荷を考えるとオススメはできないよ、杵島殿」

「なるほど…」

 臨時の作戦会議にはこれといって成果がなく、既に決まった策で対処するしかないと結末で終わりを告げる。


(ワシも手を貸してやりたいが使い所じゃが)

 然しなぁ、と考え込むテオドルは自身の衣嚢に手を入れ、魔石の数を確かめる。指先に触れるのは間違いなく八つの魔石で、王城で使用した白い大狐で周囲を荒らし回る魔法を隠し玉として持っている。だがこれを含め彼の用いる大規模な魔法というのは、周囲へ甚大な被害を出すことになる。

 決して制御ができないというわけではない、完全な制御をして尚も災のようになってしまうのだ。


(他にもあるがどれものう、もちっと周囲と協力する行き方をしてくるべきじゃったな。……、誰かに魔石一つ託すにしてもグニルは論外、竜人たちは圧倒的な魔力不足。そうなると素楽ちゃんじゃが、未知数な部分が多いが窮地を覆す手段を託しておくか。一人歩きしがちじゃが協調性も確かにあるし、根底は鳥類じゃろう)

 一人頷きテオドルは素楽の許へと歩み寄る。


「のう素楽ちゃんや」

「どうしましたテオドルさん?」

「いやな、この魔石を預けておこうと思ってのう。ワシが使うと白い狐が沢山出てきてアホほど暴れまわる危険な代物なんじゃが、素楽ちゃんであればもっとまともな結果を引き出せそうでな。…首魁とやらに苦戦するようなら使ってほしい」

 コロンカロン、と手渡すのは八つの魔石。どれにもテオドルたちが使う魔法陣に使用されている文字で“我の尾は九つ、隠れし八つを顕現させる権限は石にあて、虚神の居陣は今ここに”刻まれている。


「わかりました。ただ、グニルじゃダメなのですか?」

「グニルに任せなかっただけの理由がある、と言っておこう」

 自身が使うことに不安も残る素楽であるが、信頼という勘定が彼の表情からは読み取れて力強く頷き返す。

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