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そらの飛ぶお仕事  作者: 野干かん
第六編 門に迷う。
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二話⑤終

「ようやくみつけました先生、忙しいのはわかるんですが少しは研究室や魔法部にも顔を出してください」

 長身の好青年が城内で素楽を見かけては呼び止める。はて、と首を傾げればとある少年の面影が。彼は杵島きしま春生はるお、季節二つ以上顔を合わせていな方とはいえ、生意気坊主だった事を考えれば大成長。

 男子三日会わざれば刮目して見よ、とはよく行ったものだがひと目でわからないのは大問題だ。親である敏春としはるなど引っ繰り返ったとかなんとか。


「ごきげんよう春生くん。大きくなったし、ふふ、物腰が柔らかくなったねー。こんなチビガキに何を教わるんだよ!なんて怒ってたのが嘘みたい」

「…うっ、あの頃は田舎に連れてこられて苛々してりしたんです。それより!魔法部へはいつ頃来てくれるんですか?というか俺たちも迷界の制圧に駆り出されることになりましたし、なによりあんな人を押し付けたままにしないでくださいよ!」

「まさか春生くんたちも参加すると思ってなくてね、予定を色々変更して今から行くところだったんだ。色々とごめんね、なかなかに忙しい身で」

「仕事もほどほどに」

「会う人みんなにいわれてるなぁ、それ。そうそう、晴子さんから聞いたよ、不在の時に魔石の制作をしてくれたんだって?」

「先生が残してくれていた魔石もありましたので、模倣するだけなら簡単でした」

「へぇ、それでも凄いよー。わたしに教えられることはもうなくなっちゃったじゃないかな」

「教本の追加はもうないのですか?」

「ないよ、教本自体はね。わたしは専門家じゃなくて、基礎を遊びがてら学んだだけだからね。…あっちにあった魔導具を教えてあげることは出来るけど、仕組みまではわからないし。ある程度、周知が進んだら魔法部の方で歩んでもらうことになるね」

 これでも初心者に毛が生えただけの存在なんだよ、と付け加えた素楽は少しばかり懐かしむような表情を見せる。


「意外です。すべてを知っているかのように思えていたので」

「こんなことになるならもっと、なんて思わなくもないけど、時間なんて戻らないからねー。あるものでこっちから突き進まなくちゃいけないんだ、暗闇でもね」

「…?」

 どこか自身に言い聞かせているような言葉に疑問を浮かべながら、春生は素楽の後ろをついて歩く。小さな体躯ではあるが背中は大きく見える。

 教えられることはない、という言葉には失望感はなく、達成感と思える感情も湧き上がらない。まだまだ彼女からは学べることがたくさんある証拠ではないかと、若い彼は期待を寄せて大きな一歩を踏み出す。

(先生の故郷か、行ってみたいな)


―――


「やあ待っていたよ義妹殿」

 魔法部へと向かう途中で実験室から大きな物音を聞き取り、魔力視をしてみれば魔力の反応がいくつも。実験をしているのだろうと、覗いてみれば何れ義姉となる王族と魔法師の幾人がそこにいる。

 青味がかった黒髪に水色に近い瞳の色、そして暗く輝く鮮やかな鱗に翔吾や他の王族と血の繋がりを感じる美女、早船はやふね千輝ちあきだ。


「ごきげんよう千輝様、実験の最中でしたか?」

「ああ、その通りだ。それよりも、だ。千輝様、では堅苦しくはないか、何れ義理の姉妹となる間柄なんだから気安く呼んでほしい」

「では千輝義姉さんで」

「よろしい、私も素楽と呼ばせてもらうよ。然し随分と忙しそうだね」

「雪解け水みたいなもので、夏になれば落ち着けるかと」

「ほどほどにね。それよりも、素楽の持ち込んでくれた魔石魔法は面白いね!ここ何日か年甲斐もなくはしゃぎしきりで、この有り様だよ」

 ははははっ、と笑い顎で指したのはこれ以上無く散らかっている実験室である。

 もっと言うのならば中央から来た魔法師もいくらかげんなりとしている。


「式の組み立てや魔法文字には慣れることができそうですか?こちらの魔法とはあまりにも違いが大きすぎて、四苦八苦したという話も聞きましたので」

「この程度なら障害にすらならないよ、寧ろ飽くなき探求心は轟々と燃え上がっているところで、夫と息子に叱られてばかりさ」

 没頭すると周囲を置き去りにする類いの人種なのだろう。


「陛下からお話があったと思いますが、魔石魔法の規格作りはどうでしょう?翔吾様とわたしは責任者として並び立ってはいますが、魔法規格や規則といったものに対しては専門家ではありませんので」

「いくらか実験や研究が必要だが、問題なく取りかかれそうだよ。新たな技術を独占せずに普及させようなんて、無欲を通り越して阿呆なのではないかと勘ぐったが、触れてみて合点がいったよ。攻撃として用いるものは別として、水や湯、氷、炎と基本として書き記してある魔法の多くは我々よりかは従者や市井の者らに大きく役に立つ魔法であり、普及させられれば生活水準を大きく引き上げて国力を上げることができると気付かされてね。そもそも魔石魔法というのは市井から生まれた魔法だったりするかな?君の得意不得意が関係する可能性もあるのだけれど、攻撃用の魔法よりも生活に役立つ魔法の方が、こう…流麗で整っているように思えるんだ。魔石革命だったか」

「姫殿下落ち着いてください、素楽さんがついていけてません」

 呆れた表情で現れたのは晴子せいこ。話が始まった瞬間に奈那子が察し、魔法部まで急ぎ向かい連れてきたのだ。


「あー…すまない。楽しくなってしまった」

「順調ならなによりです。…魔石を使って色々と作ってるのですね、なにか面白いものは出来ましたか?」

 素楽も素楽で好奇心の塊のような性格、興味関心の火種は徐々に熱を増していく。


「魔法弾の運用について研究を勧めていてね、素楽さんの使っていた魔導銃を参に。…ただ威力も射程も十分といえなく」

 肩を竦めては首をふる。


「これを使うのならば弓でいいというのが現状だろうね」

 面白いけども使い道は、と千輝も評価する。

 然程長くない杖の先には魔法陣の刻み込まれた魔石。式を見るに魔力が一定まで注がれれば魔法弾が射出されるといった仕組み。


(魔法弾を参考にしているけど魔導銃はそこまで真似ているわけじゃないんだね)

 構え魔力を注げば拳ほどの石を投げつけた程度の弾が案山子に命中する。場所を移動し射程を確かめれば八か九間(じゅうごめーとる)程。言われた通り弓に満たない性能だ。


「魔力量の上限を上げたものってありますか?」

「あるよ、これだ」

 試してみるも毛が生えた程度の結果。


(教えた範囲の順当な使い方じゃこっちの魔石でもこの程度なんだなー)

 魔導銃というのは二つの魔石を組み合わせて使う魔道具の一つ。

 魔法弾の発射機構を司る核と魔力を過負荷状態になるまで注ぎ込まれる弾丸。単一の魔石でも再現出来なくないのだが、核の魔石を量産することの手間と費用を考えると、質の悪い魔石を使い捨てに弾丸として消費する方が効率的だと複数使用する方式が採用される。

 加えて素楽の使っていた雷目式や小型魔導銃というのは、量産することを考えていない高級試作品。基礎となる部品には魔力を良く通し魔石に近い性質を持つ、金子に羽が生えて飛んでいくほどの価値がある素材を惜しげもなく使用している。

 ちなみに素楽は価値を知っていながら鈍器として用い、挙句の果てには投擲し破損した。


「もう少し大きな魔石を用いて…魔力を多く使用する方がいいですね。威力は手数で補いましょうか」

「残念ながら我々の魔力では手数を張るは難しくてね」

「そういえばそうでしたね。…魔法師の有無に関わらず魔力を使い、鍛錬とすることのできる環境を作ったほうが良いかもしれませんね」

(不本意だけど軍備は必要。ニーグルランドがいつちょっかいを出してくるかわからないし、迷界の頻度が上がったり同時発生した場合を考えておきたい。中央に睨まれちゃうかもしれないけど、千輝義姉さんや優建様には最大限役に立ってもらわないと)

 素楽に反意がなくとも周囲がそう捉えるか否かは別の話、今は便利な防波堤が存在しているので使わない手はない。そもそも防衛力となるのならば中央軍でも構わないというのが彼女の考えだ。


「日常的に魔力を使える環境か、迷界を解決したら考えねばな」

「問題は山積み、ですね、ふふ」

 興味好奇心で色々と物色しているといつの間にか姿を消していた春生が戻ってくる。手には鏑矢の様に先の膨らんだ矢と弓の一具。


「先生、これは俺が陣を刻み込んだ魔石なんですが見てもらってもいいですか?」

「へぇ、魔石を先に付けているんだ。……炸裂の魔法陣ってところかな?」

「はい、少ない魔力で効果的な魔法を武器と出来るかと思いまして、魔力を注いでからこの面を叩けば一定時間後に炸裂する仕様です」

 先端に魔石を括り付けた都合上、射程が短くなり軌道にも癖がでるが破壊力のある矢になるではないかと作ったとのこと。番え狙い弦を引く事を考慮し、起爆までの時間を長めに取ってるようで、彼は熱心に説明する。


「試射してもいい?」

「どうぞ。…というか俺は弓がさっぱりで」

 弦の張り具合を確かめ、矢の重心の偏りを見る。弓は大弓でなくやや小さめ、一般的な代物だ。

 魔石に魔力を注ぎ背面を小突いてから矢を番え狙いを定める。実験室は広くないため落下を気にするほどの距離はなく、気持ち程度の角度調整の後に案山子を射る。

 馬上ですら必中の弓矢が地上で外れるはずもなく、着せられていた古びた鎧の隙間を縫うよう喉の辺りに突き刺さった矢。一拍二拍と時を置き、ボン、と音を立てて案山子を内側から破壊する。


「おー、良い破壊力だねー。射出する式を省いて魔力を全て威力に載せたんだ、これなら…」

 残っている矢を手に取り式を確認しながら十露盤を手に取り、紙に筆を走らせる。


「なんの式を編んでいるのですか?」

「ん―、今の魔石を参考にして、魔石の価値を最大まで引き出そうと思ってね」

 矢の先に括り付けられる手頃な魔石を探り出し採寸を行って式を調整、刻筆で彫り込む。


「ほほう、これが素楽の」

 他の魔法師、主に春生らの魔石制作風景はいくらか見ているのだが、千輝は興味深そうに尻尾を揺らしながら観察をしている。


「手慣れているね、本職の魔法師ではないと伺ったが」

「水や湯の魔石を沢山作ったので。最近は魔法部に任せられるようになった分、ご無沙汰ですが」

 彫り終えれば間違いがないかを紙面と見比べて確認作業へ入る。武器として用いる危険物、二度三度確かめて頷く。


「魔導銃はここでも一度だけ試射したことがあり、弾丸の魔石を見せたことがあると思います」

 どうしてもまた見てみたいと晴子に頼み込まれる形で、素楽は魔石一個分の試射をしている。


「疑問に思いませんでしたか、魔法としての効果、魔力の効率が良いはずの彩鱗の魔石で何故に不足を感じるのか。それは魔石に異常な負荷を掛け崩壊寸前にまで追いやり、……わたしは実物をみたことがないのですが、とある大魚は死後に肉が膨れ上がり爆発すると読んだことがあります。それに似たもので過剰な魔力を注ぎ込み、本来では引き出せない力に転じるのです」

 魔石の産出量の少ない桧井国、一つ一つの価値を最大限引き出そうとした結果が魔力の過負荷である。限界まで魔力を注ぎ込みき止めてから放つことで、威力を増す方面へと足を進めていたのである。


「それを教本に書かなかったのは、危険だからかい?」

「はい、危険を孕む実験を避けたかった、というのが本心ですね。先日まで、わたしはただ外つ国から魔法技術を持ち込んだだけの存在でしたから」

 魔石魔法を司る長は茶蔵主である翔吾、そして魔法部の長である千輝の王族二人。そして素楽は二人を補佐し相談を受ける顧問官としての地位に就いている。


「では移動しましょうか、室内で使うものではありません」

 向かったのは軍部の演習場。迷界の制圧を行うため出立の準備をしているため、使っているものもおらず簡単に場所を借りられた。


「では試射してみましょうか、危ないので皆さん離れていてくださいねー」

(彩鱗の魔石は耐久性欠ける。幅は持たせているけれど絶対安全とはいいきれないからね)

 十分に、いや十二分に魔力を注ぎ先程のように案山子を狙い撃つ。距離を空けているため弧を描くような曲射気味な一射は、やはり外れることはなく綺麗に突き刺さる。

 パキッと亀裂音が聞こえたかと思えば、轟音と共に案山子を粉微塵にすべく魔力爆発が起こる。


(思った以上の結果、やっぱり彩鱗の魔石は質がいいのかな。…奈那子には残ってもらって正解だったね)

 先程の魔石と比べれば桁違いの破壊力を示したそれは、魔法師らの肝を冷やすには十分であった。

 詠唱魔法の方が自由が効き、威力も幾分かは上であろう。然しながら素楽であれば今の魔石魔法を単独で扱え、本人の様子を見る限り魔力に余裕がある。

 ならば魔石と式の規模を大きくすることが可能。加えて飛行能力を持つため態々弓矢という手段を持ちいらずとも、相手の頭上から落とすだけでも十分。


(彼女が気が付いていない筈はないだろう。下手に突けば出てくるのは…考えたくないな)

「普段遣いする程に取り回しの良いものではありませんが、魔石に負荷をかけた結果の危険性は学べたと思います。くれぐれも、実験をする際には細心の注意を払い行ってくださいね」

 普段の暢気しきりな雰囲気はどこへやら、真面目な表情で素楽は魔法師らに忠告をした。

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