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第3話 『勇者』ってバカが欲しがるスキルです。

追い出されてしまった。


15年間、ずっと暮らしていた家を……。


でも、まぁいいか。


僕にはウィンベル商会の時に蓄えた資金がある。


それこそ、一生は食べていけるだけの額だ。


だから、焦りは全く無い。


それどころか、家から解放された喜びではしゃぎたくなるほどだ。


僕の経営で立て直そうとすると、いつも父上が邪魔をしてくる。


それで、どれだけの赤字が出ているか……。


僕がいつもその尻拭いをさせられていたんだ。


それでいて、結果は全て父上のもの……。


やっていられるかっていうんだ!!


これからは自分のお金で自分の店を持つ……。


だが、主たる目的はそこにはない。


家族を持つこと……これこそが一番重要で、一番難しいミッションだ。


僕自身も、家族からの愛情を受けたことはない。


そもそも家族って何? 美味しいの? と思うくらい、疎遠なものだった。


接してくるのは、家令のみ。


食事はいつも一人で、側付きの執事だけが唯一の話し相手だ。


父上とは……商売以外の話をした試しがない。


それに僕の頭にある、あの人の記憶の中にも家族というものがない。


これをどうやって克服していくのか……。


『出会い』スキルこそが、それを導いてくれるのだ。


さて……。


僕の将来の伴侶となる人物を探してみよう……。


『敵』、『敵』、『敵』、『敵』、『敵』、『どうでもいい』、『敵』、『敵』、『敵』、『敵』。


敵ばっかりじゃねぇか!


それに、どうでもいいってなんだよ。


僕にとって、どうでもいい人ってことか?


それとも相手にとって、僕はどうでもいいってこと?


まぁ、関わりになることはないんだろう。


……いない……。


どこにもいないぞ。


おっ?


『従業員』


そんなのはいらん!!


『飲み友達』


そんなのもいらん!!


どこだ……。


どこに僕の将来の伴侶が……。


いや、ちょっと待て。


僕は重大なことを忘れていることに気付いてしまった。


「女性と仕事以外の会話をしたことがない、な」


考えてみれば、当たり前だ。


それ以外の会話は必要ない生活をしていたのだ。


だが、今の僕は……無職。


つまり、仕事の会話が出来ない。


あれ?


何を話せばいいんだ?


……ヤバイ、何も思いつかない……。


くっ……やっぱり、仕事探しが優先だ!!


なんでもいい、仕事……仕事を探さないと……。


それから、伴侶探しをする。


まずは仕事の話……慣れてきたら、次のステップ。


これだ!!


といっても、仕事か……。


『出会い』スキルははっきり言って、直接的には仕事には不向きだ。


特に身体能力が向上するわけでもないし、魔法が使えるわけでもない。


実家の商会に入ればこそ、大きな力を発揮できるのだ。


……あれ?


結構、ヤバイんじゃないか?


王国は仕事の種類は極端に少ない。


ダンジョン探索者か商売人。


それくらいしかない。


食べ物や物資はダンジョンで採ることが出来る。


それを担うのがダンジョン探索者。


そして、それを売るのが商人。


当然、選ぶべきは商人なのだが……新規参入が難しい。


王国には3つの大店の商会がある。


その一つが僕の実家だ。


それらが全ての物資を奪い取っているのだ。


資金力の不確かな者が入っていけるほど、甘い世界ではない。


だからこそ、僕はダンジョン探索者の途を選ばざるを得なかった。


ダンジョンは王国に点在している。


王都の近くにも大きなダンジョンがある。


ダンジョン周辺は街が形成され、そこはライムートの街と呼ばれている。


「なにあれ? 『出会い』スキルだって、だっさ!!」

「可哀想……あんなスキルしか手に入れられないなんて」

「無能は死ねばいいのに」


『出会い』服は効果覿面だ。


スキルを使わなくても、『敵』をあぶり出してくれる。


お前らこそ、だっさい『勇者』服だぞ、と笑ってやりたいがやめておこう。


あんな奴らに喧嘩を売られたら、最悪、死んでしまうからな。


ダンジョンは特に誰かに断りを入れる必要もない。


勝手に入って、勝手に採取し、勝手に売る。


ダンジョン周りには商会の店が並び、ダンジョン探索者からその日の収穫物を買い取っていく。


優秀な人たちはそれでその日の生活費を稼いでいく。


もっとも、『勇者』や『聖女』ほど惨めなものはない。


それは武具屋に行ってみるとよく分かる。


「どれがいいだろうか?」


武具など、商売の道具としてみていなかった。


自分の命を守る道具と思うと、なかなか悩んでしまう。


性能が高いからといって、自分にあっているとは限らないからな。


「これを試着させてくれ」

「好きにしてくれ」


武具屋の親父は『どうでもいい人』だった。


客に無関心なんだろう。


いくつか、試着してから武具を決めていく。


「この辺りがいいだろう」


それなりにお金がかかった。


まぁ、僕は金持ちだから、それくらいの出費は痛くも痒くもない。


「金貨300枚な。それと別途……って『出会い』か。別途はいらない、と」


これだ!!


別途というのが実は厄介なのだ。


身につけるものには、必ず目に見えるような形でスキル名を入れなければならない。


その名を入れるために別途費用がかかる。


王国は『勇者』達に年給を払っている。


その回収を目的としたものなのだろう。


別途費用が尋常じゃないほど高い。


僕の横で餌食となる『勇者』様が買い物をしていた。


「なぁ、親父、この防具をまけてくれないか?」

「あん? じゃあ、金貨10枚でいいぞ」


随分と思い切った値切りだ。


だが、恐ろしいのはこれからだ。


「別途、金貨50枚な」

「ああ」


これだ!


買った商品よりも遥かに高い金額を当たり前のように請求される。


だが、こいつはバカだから、搾取されていることに気づかないのだ。


なにせ、金貨300枚を毎年、もらえているから……。


その点、価値の低いと思われているスキルには別途費用がかからない。


王国からお金を貰っていないから。


それでも彼らは同じようなことを言う。


「やっぱり、『勇者』マークはかっけええええええ」


本当にバカだ。


そんなものにいくらを使っているのか分かっていないのだろう。


安物に『勇者』と書いても、性能は上がらないのだぞ?


その点、僕は余計な出費はしていない。


高性能な武器に防具……自分の体に合ったオーダー品だ。


まぁ、悲しいこともある。


そんな優れた武具に身を包んでも、布の服しか身に着けていない『勇者』よりも能力で全てが劣っているということ。


これでダンジョン探索者が出来るのかなぁ?

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