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プロローグ
目を覚まさせたものは、母親の良く通る声でも目覚まし時計のアラームでもなく、轟々と燃え盛る炎だった。
まだ夢の中なのかと思ったのだが、フローリングの上に転がっていたゲームのコントローラーがぐにゃりと変形しているのを見て、現実に起きていることなのだと理解した。
瞬時にベッドから降りて部屋から飛び出そうとしたが、橙色の炎がドアを飲み込み、出口を塞いでいた。
黒煙は部屋全体を包み、触手のようにうねりを上げて迫る圧倒的な力を前に、本日九歳を迎えたばかりの柔らかい肉体では、為す術も無くベッドの上で固まる他なかった。
誰か助けて。誰か助けて。声を絞り叫んでみるも、今まで感じた事のない熱量が喉を焦がし、咳き込むばかりで声にならない。
だんだんと視界もぼやけ、ベッドに倒れこんだ。
「大丈夫かっ!」
窓ガラスが割れる音がともに、炎を纏いながら大きな黒塊が飛び込んできた。
「……たすけ……て」
薄まりゆく意識の中、震える手を必死に伸ばした。