第92話 『実力を期待して』
怪盗イタッチ大作戦!!
著者:ピラフドリア
第92話
『実力を期待して』
スティンクと名乗ったカメムシは、フクロウ警部の登場に興奮する。
「なぜ俺に……」
「私達は全力でぶつかり合える相手を探していたの。そんな時に聞いた。あなたのような警官がいると」
スティンクと話していると斧を拾った鹿がスティンクの前まで歩き、スティンクを守るようにフクロウ警部と向かい合う。
「…………」
無言で睨みつけてくる鹿。何者なのかは分からないが、凄まじい気迫を感じる。
「彼はディアー。私の可愛い弟よ。あなたの部下を倒したもの、この子よ」
ディアーは何も喋ることはなく。姉に全ての会話を任せる。
「さてとお喋りはここまで。あなたが期待通りの景観だと信じているぞ」
スティンクの合図に従い、ディアーは斧を握りしめてフクロウ警部に襲いかかる。
両手で斧を握り、大きく振りかぶる。
フクロウ警部は拳銃に弾を込めると、向かってくるディアーに向かって発砲した。
しかし、
「………………」
ディアーは斧を盾にして弾丸を防ぐ。防がせたことで斧での攻撃は防いだが、接近されたフクロウ警部に、ディアーは蹴りで攻撃する。
強力な蹴り。その一撃でフクロウ警部の身体が一瞬浮く。だが、
「軽いなぁ……」
フクロウ警部はクチバシを食いしばりながら蹴りを耐え切った。ダメージはある。かなり痛いが強がって受け止めた警部。
フクロウ警部は蹴り終えた足を掴むと、ディアーの重心を傾けて、転ばせる容量で投げ飛ばした。
ディアーの背中が地面に叩きつけられる。衝撃で橋が揺れるほどの威力だが、そんな攻撃を受けてもディアーは一言も喋ることはなかった。
「無口な奴だな……」
投げ飛ばしたフクロウ警部は手を叩いて埃を払う。
「弟はシャイでね。仮面をつけているのも人に素顔を見られるのが恥ずかしいからなのさ」
「その弟は倒した。仇でもうちに来るかい、お姉さん……」
スティンクは腕を組み、余裕の表情を見せる。
「弟はやられてないよ」
スティンクの宣言通り、ディアーは背中を摩りながらも立ち上がる。ダメージはあったあったようだが、大きなダメージだったというわけではなさそうだ。
「ディー。まだまだこんなもんじゃないだろ。見せてやりな」
「………………」
落ちていた斧を拾ったディアーは、スティンクに返事をするように頷く。そして斧を大きく上に振り上げた。
「あの距離から……何を…………」
ディアーとフクロウ警部の距離は乗用車2台分。あそこで斧を振り上げてもまだまだ距離がある。
「………………」
ディアーは両手に力を入れると、筋肉が浮かび上がり、腕の太さが倍ほどになる。そして、
「やれ、ディー」
ディアーはその場で斧を振り下ろした。
斧は勢いよく橋の地面に突き刺さる。すると、斧の突き刺さった場所から地割れになり、橋にヒビが入る。
「橋が!?」
崩れることはなかったが、衝撃で橋が揺れてフクロウ警部はバランスを崩す。
その隙にディアーはフクロウ警部に一気に近づき、距離を詰めた。