第32話 『暗闇からの暗殺者』
怪盗イタッチ大作戦!!
著者:ピラフドリア
第32話
『暗闇からの暗殺者』
暗闇に蠢く影。
「…………四神のダッチか。面白い」
ナイフから滴る液体を舐めて、影はニヤリと笑った。
「いらっしゃいませ〜」
カフェの扉が開き、一人の客が入ってくる。黒いコートを羽織った初老の男性だ。黒いマスクで顔を隠して頭には黒いバンダナを巻いている。
男性はカウンター席に座ると、コーヒーを注文する。
イタチの店員はコーヒーを作り、客に提供する。男性はコーヒーを受け取り、コーヒーを一口飲むと、
「美味しいな……」
と一言だけ口にする。それから静かな時間ご流れて、男性はコーヒーを飲みながら優雅な時間を過ごす。
時間が経過してコーヒーを飲み終えた男性は、席を立ち上がり会計を済ませると、男性は店を出ようと出口に向かう。
男性が扉に手を伸ばすと、その前に扉が開いた。
「んっ、すまねぇ。先にどうぞ」
扉を開けて入ろうとしていたのはダッチ模様のウサギ。ウサギは身体を横にして先に男性を出れるようにする。
男性は軽く頭を下げて一礼すると、店を出ていく。ウサギは男性とすれ違い、店の中に入るとカウンター席に座った。
「店主よ、知り合いか?」
ウサギの質問にイタチの店主は首を振る。
「そうか、っま、いいか」
ウサギは懐から一枚の紙を取り出した。
「すれ違った時に入れられたか……。誰だか知らねぇが、喧嘩を売るってんなら買おうじゃねーか」
無線を耳につけて、果し状に書かれていた川辺へと向かう。
無線の先から喫茶店の二階にいるイタッチとアンの声が聞こえる。
『ダッチ。アンの情報で奴について分かったぞ』
アンからパソコンの画面を見せてもらい、イタッチは無線に話し、その声がダッチに届く。
『名前はカビーラ。ベトナムを中心に活動している殺し屋だ。一部のマフィアからは賞金もかけられてる……』
「カビーラ。ああ、名前は聞いたことがあるな」
『生まれはインドだが、両親の離婚からミャンマーに行ってる……そのあと……』
イタッチが説明を続ける中、ダッチが遮る。
「概要はいい、奴の雇い主は誰だ?」
『……恐らくは…………』
「ウンランか……。よくまぁ、そんな有名な殺し屋を雇えたもんだ」
話しているうちにダッチは約束の川辺に着いた。そこには既に黒いコートにマスクで顔を隠した男がいた。
「待っていたぞ。ダッチ……」
「約束の時間10分前だ。早すぎるのもどうかと思うぜ」
カビーラはコートの中から三十センチ程度のナイフを取り出すと、それをペンを回すように手の上で回転させる。
「俺は仕事にこだわりを持っている。痛みは苦痛だ……だからこそ、狙った相手は一撃であの世に送ることに決めている」
「ほぉそうかい、それは仕事熱心なことで……」
どうでも良さげにダッチが聞いていると、前触れも無く突然ナイフを投げつけてきた。
ダッチは咄嗟に身体を逸らして攻撃を躱す。
「あぶねっ!?」
身体を逸らして躱したダッチ。ダッチの視界には青空が広がっていたが、その青空に横からカビーラの顔が現れる。
ニヤリと笑ったカビーラは、ナイフをもう一本取り出して振り下ろす。
「うっ!?」
ダッチは足の力を抜いてわざと倒れることでナイフを避ける。
ナイフを振り下ろし重心が傾いたカビーラ。
地面に背中をつけたダッチは、カビーラの足を払い蹴り、カビーラを転ばせる。
カビーラが転ぶと、ダッチは立ち上がってカビーラから3歩下がって距離を取った。
背中についた砂を払いながらダッチはカビーラを見下ろす。
「お前、その顔は……。普通の人間か……」
カビーラは転んだ時に腰を打ったのか。腰をゆすりながらゆっくりと立ち上がった。
「……動物人間に比べて身体能力で劣ると言われる。それが我々人類だ……。だから勝つために工夫する!!」
カビーラはナイフを拾うと、それを大きく振り上げた。すると、太陽の光に反射して小さな糸が伸びているのが見える。
「後ろ……っ!?」
ダッチは咄嗟に振り返り腕でガードする。糸で繋がっていたのは最初に投げたナイフ。
カビーラが持つナイフを引っ張ることで、投げられていたナイフが引っ張られてダッチに向かって飛んできていた。
咄嗟に腕でガードしたことで頭に直撃していたはずのナイフは腕に刺さる。
ダッチはナイフを抜いて投げ捨てる。白い毛の上を赤い液体が流れる。
ナイフを抜いたダッチだが、視界が眩み始める。血を流しすぎたのか、しかし、そういう感じではなかった。
「……言ったよな。一撃で終わらせるって」
「毒……か」
「痛みを和らげる薬も入れてある……。時期に楽に行けるさ……」
足元のふらつくダッチ。そんなダッチに背を向けてカビーラはこの場から去ろうとする。しかし、
「待て……よ」
ダッチは腰から鞘の収まった刀を取り出すと、それを杖代わりにして倒れないようにする。
「無駄だ。戦うことはできない……」
「……でき……る」
ダッチは鞘に杖代わりにしながら刀を抜けるように右手で刀を握りしめる。そんなダッチの姿を見てカビーラはニヤリと笑う。
「……これはダッチか。面白い」
カビーラはナイフを両手に持ち二刀流の構えを取る。
「ならば、反撃してみせろ!」
カビーラはダッチに向かって走り、ダッチの直前でジャンプすると飛び降りながら切り掛かった。
武器を振り終えた二人は、背を向け合う、
武器を振り、すれ違いでの攻撃。倒れたのはカビーラだった。
ダッチは刀を鞘に収めると、カビーラのすぐ隣に倒れた。
「……お前は一撃で倒してくれないんだな」
倒されたカビーラは隣に倒れてきたダッチに話しかける。
「お前を倒したら。解毒剤を探す手間がかかる……」
ダッチの言葉を聞き、カビーラはニヤリと口から血を流しながら笑顔を見せると、
「……仕事だからな。それはできない」
「そうか……なら」
ダッチは懐から札束を取り出す。
「人生最後の仕事だ。俺を助けろ……」
カビーラは頭のバンダナの中から瓶を取り出す。その中には液体が入っており、解毒剤と書かれていた。
ダッチは手を伸ばす……しかし、
「いやーだね!!」
カビーラはダッチのいるところとは反対側に瓶を投げ捨てた。
投げ捨てたカビーラは最後の力だったのか。身体が動かなくなった。
「……なんてことを。これは。やばいな……」
意識が朦朧としてくる。目の前が真っ暗になり、ダッチは瞼を開けていることができなかった。
「っ!? ここは!!」
ダッチが起き上がると、そこはイタチの経営する喫茶店の二階。ダッチは部屋の端に敷かれた布団の上で寝ていた。
「あ、ダッチさん。起きましたか!」
部屋の中央のちゃぶ台でパソコンを操作していたアンがダッチが目覚めたことに気づき、イタッチを呼ぶ。
イタッチが階段を登って二階にやってくる。
「おぉ、ダッチ起きたか」
「イタッチ。俺は……。なんで生きてる?」
あの時、解毒剤は反対側に投げられた。あのまま毒によりやられてしまうはずだった。
「イタッチさんが迎えにいったんですよ。解毒剤はその時に飲ませたんです」
ちょっと怒ってる様子のアン。心配をかけたことをダッチもわかっているようで、目は合わせない。
「俺はお前に助けられたのか……。情けねぇな」
「ああ、貧弱で馬鹿で弱い。あのままだったら確実に相打ちでやられてた」
イラっときたダッチはイタッチを睨みつける。だが、そんなダッチにイタッチは笑いかける。
「だが、良いじゃないか。失敗はするし、一人じゃどうしようとない時もある。その時のための仲間だろ。そう亀の爺さんが言ってたぜ……。俺はずっと一人だったがな」
「親父が……」
イタッチはダッチに手を伸ばす。ダッチがその手を掴むと、ダッチを立ち上がらせた。
「カビーラは殺し屋だ。最後まで自分の信念を貫いた。……だが、俺達は怪盗だ。孤独じゃなければ、最後の時を待つこともしない。全て自分の手で盗み取る。命も、仲間も、お宝もだ!!」