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怪盗イタッチ大作戦!!  作者: ピラフドリア
22/208

第22話 『デジタルアートファミリー』

怪盗イタッチ大作戦!!




著者:ピラフドリア




第22話

『デジタルアートファミリー』





 古びた喫茶店。その喫茶店に一人の客が来店する。




「……どうだ? 最近の調子は……?」




 コートにシルクハットの帽子。サングラスをかけており、その顔は見えない。しかし、帽子が少し浮いているところから、耳を折りたたんで帽子の中に隠しているのはわかる。




「ボチボチだよ」




 店主のイタチは適当な回答をする。





「お客さん。注文は……?」




 客はテーブルを3回叩き、メニュー表を3回擦る選ぶ、そして選んだものを差して3回叩いた。




「そうだな……。モカで……」




 店主は注文を聞き、コーヒーを淹れる。




「どうぞ」




 完成して私と客は帽子もサングラスも取らずに、そのままの格好で飲み始めた。




「一つ、質問がある……」




「なんだ?」




 客はしばらく店主の顔を見て、動きを止めて




「いや、なんでもない」




 何も言わずにカップをテーブルに置いた。




 ポケットから小銭を出してそれをテーブルに置く。




「また会う時を待っている……」




 そう言うと客は店を去っていった。










 日が暮れて店を閉めたイタチは、夜道を歩いて近くにある公衆電話へと向かう。

 中に入り、コインを入れると、ある人物に電話をかける。




「ああ、俺だ。仕事が入った。今から来れるか?」




 電話を終え、喫茶店の二階で待つこと一時間。ある男がやってきた。




 コートを着たダッチウサギ。




「よぉ、イタッチ。仕事だってな……」




「来たか。ダッチ」







 部屋の中央にあるテーブルにイタッチは客の置いていった小銭を広げる。




「ん……なんだ、この金は?」




「これが今回の報酬だ」




 自慢げに言うイタッチにダッチは不満げの顔をする。




「おい、どういうことだ? まだ仕事してねぇし、こんな小銭じゃ……」




「これは小銭じゃねーよ」




 イタッチは腕を組むと説明を始める。




「1700年にブルジルネ氏により作られた貨幣で、円形でなく角が尖っているのが、この貨幣の特徴。だが、ラムダカットは羊が描かれており、幸運をもたらすとされているが、これは違う……」




 イタッチに言われてダッチがコインの絵を見ると、そこには悪魔の絵が描かれていた。




「悪魔の描かれた特別な金貨だ。流通はしなかったが、数の少ない品として高額で取引されることがある」




 ダッチはコインを摘むと、不思議そうにそのコインを見る。




「ほぉ、こいつに価値があるのは分かった」




 ダッチはコインを弾き、目の高さまで飛ばした後、キャッチする。




「だが、これが宝でこれから仕事ってのはどういうことだ?」




 ダッチの疑問にイタッチはマントを靡かせて、窓に映る月を背に語った。




「俺達泥棒には珍しい。先払いの仕事ってことだ」









 豪華客船アメティスト。そこに真っ赤なドレスを着た女性が現れる。




「おい、あのネェちゃんキレイだなぁ」




「なんと美しい……」




 乗客の皆が釘付けになる中。髪を整えて、ネクタイをしっかりと締めると、一人の男性が近づく。




「お嬢さん。もしよろしければ、お話しでも……」




「ええ、喜んで」




 笑顔で返す女性に男性は目を逸らす。バイキングの食事を摂り、テーブルへと向かう途中、すれ違いでウサギの乗客にぶつかり、女性は手に持っていた食事を、ドレスにこぼしてしまった。

 ウサギは頭を下げてそそくさと去っていく。




「大丈夫ですか?」




「ええ、でも…………」




 汚れてしまったドレス。男性はハンカチを取り出し、ドレスを拭くが汚れは落ちない。




「水で洗ってきた方が良いですね」




「そうさせてもらいます」




 男性に見送られて女性は化粧室へと向かう。

 人気の少ない廊下に出ると、さっきぶつかったウサギが廊下で待っていた。




「どうだ? ブツは奪ったのか?」




「完璧だ」




 女性は身体を覆っていた折り紙を剥がす。そしてイタチの姿になった。

 イタッチの手には鍵が握られている。




「それじゃ、この船の裏側にでも行こうか」




 イタッチとダッチは、鍵を開けて船内にある奥へ通路に侵入する。

 表では豪華客船として扱われているこの船だが、船の大きさに比べて閉鎖されている区間は多い。




 暗く狭い通路を進んでいくと、奥からコツンコツンと何かを叩く音が聞こえてきた。




「なんの音だ?」




 ダッチとイタッチは音を警戒して、武器をすぐに出せる姿勢で先に進む。すると、明かりの照らされている部屋があり、杖で壁を優しく叩き続ける、オラウータンの老人がいた。

 老人は杖でリズムを刻みながら、何かを口ずさむ。




「名を馳せ、轟かせ、魂に刻むまで。その魂が黄金に輝く時、真の力を世界が与える」




「ジイさん、ここで何してる?」




 イタッチ達が話しかけると、老人は歌うのをやめて、そっと座った。




「ヨォ来たな。お主達……」




「俺達が来ることを知って待ち伏せていたのか?」




 イタッチが聞くと老人は目を細めて首を振る。




「違うぞ。だが、ワシはここの見張りを任された老いぼれの傭兵……。雇い主に任された以上、ここを通すわけにはいかないな」




「事情を聞く気はないか……」




「ない……。金さえ払えば、なんでもする。それがワシじゃからな」




 老人は座ったまま杖の先端をイタッチの方へと向ける。

 すると、老人の杖の先から銃口が現れて、銃声が鳴る。




「イタッチ!!」




 ダッチがイタッチの名前を叫ぶが、イタッチは撃たれることを予測して身体をずらして躱していた。




「金で働くなら、俺たちもすでに雇われてる」




 イタッチは折り紙で剣を作り、老人へと走り出す。

 老人は杖の先端を向けて発砲するが、その弾丸を全て避けて、老人に近づいた。




「ワシには勝ち目はなかったか」




 イタッチの一振りが老人を貫く。老人は悲鳴を上げることもなく、静かに倒れた。




「ダッチ、先に行くぞ」




「ああ、……だが、良いのか? まだ…………」




「どうせ追っては来れないさ。それに…………」




 イタッチが先にある扉を開けると、手錠をつけられた犬の男性がいた。

 かなり痩せ細っている状態で、身体も傷だらけだ。




「……たった数時間で。すまないな……。急いだつもりだったんだが…………」




 イタッチはその男性に話しかける。男性はボロボロな身体であるが意識はあるようで、イタッチの顔を見た。




「ダメ元だったが……本当に来てくれた…………それだけでも嬉しいさ、イタッチ……」




 二人の会話を聞いたダッチは首をかしげる。




「イタッチ知り合いか?」




「ああ、ほんの数時間前に知り合っただけだけどな。しかし、おかしいな。あんたを捕らえている奴が出てこないなんてな」




 男性は下を向き、イタッチの質問に答える。




「俺が用済みだからだ。後は娘さえいれば足りる……。俺を解放してくれ、娘を……今すぐに助けに…………」




 イタッチは折り紙で鍵を作るとそれで手錠を外す。そして男性を解放したのだが、




「ガーハハハッ!! モカ様の予言は本当に当たる。あの猿野郎は役に立たないし、ゴミには虫が湧く!!」




 閉じ込められていた部屋の出口に人影が現れる。イタッチは男性に肩を貸して立ち上がり、ダッチが刀は抜いて警戒する。




「なぜ、泥棒如きがこの件に関わってるかは知らないが。モカ様の邪魔になるなら、消し炭にしてやろう!!」




 二メートル以上ある巨大を持つサイ。男のような体格をしているが、服装や身体の特徴から女性のようだ。




「イタッチ。こいつがその犬を閉じ込めてたやつか?」




「その部下ってところだろう。ダッチ、任せられるか?」




「良いぜ。だが、終わったら事情を話せよ。敵がわかんないんじゃ、俺もやりにくい!!」




 ダッチは刀を抜いてサイへと斬りかかる。サイは背中に背負っていたハンマーを取り出すと、それを横に振ってダッチを狙った。




「当たるかよ!!」




 ダッチはハンマーを避けてサイへと刀を振る。ダッチに刀がサイの身体に触れるが、ダッチの刀はサイの皮膚に弾かれて防がれてしまった。




「クソ、また硬いやつかよ」




 刀が効かないことに気づいたダッチは距離をとって、今度は音による攻撃をしようとする。しかし、後ろに下がったダッチの身体に何かが抱きつく。




「なっ!? 何もいない……けど、なんだ!?」




「けっへっへー、カメレオンの擬態能力だよぉ〜ん!!」




 カメレオンの敵がダッチの背後に隠れており、抱きついて動きを止めていた。

 動けないダッチにサイは拳を握りしめて、ボディにパンチする。




「ぐっは!?」




「ダッチ!!」




 崩れ落ちるダッチ。イタッチも援護に行きたいが、この男性から離れると危険だ。




 ダッチを倒したサイとカメレオンは腕時計で時間を確認すると、




「そろそろか」




「モカ様の命令だ。乗客ごとってことだしな」




 そう言ってサイとカメレオンはどこかへと走り消えていく。




 イタッチはダッチの元へと駆け寄る。




「大丈夫か?」




「すまねぇ、油断した……」




「馬鹿野郎が…………。肩がしてやるから掴まれ」




 ダッチと男性を両肩に背負ったイタッチ。背負うと同時に、爆発音と共に船が大きく揺れた。




「何が……」




「あいつら……船を沈没させる気か。急ぐぞ」







 突然の爆発と共に船は沈没。しかし、乗客は全員助かった。

 折り紙で造られた避難経路と、避難船で無事に沈没船から脱出することができた。




 整備不良の影響と貨物にモエールという果実が積まれていたことが原因と報道されたが、実際のところは不明だ。




 港に着いたイタッチとダッチ、犬の三人は傷の手当てをしていた。

 犬が寝ている中、イタッチはダッチに説明をする。




「あのコインはこの犬からの前払いで。こいつを助けることが仕事だったってことか」




「そういうことだ」




「だが、こいつは何者なんだ? お前に助けを求めるってことは、お前の正体を知ってたってことだよな」




「俺も驚いた。だが、船の中で顔を見て思い出した。各国の軍事システムに入り込んで、全世界に恐怖を与えるテロを行ったハッカー」




「ん? そんなことあったか?」




「ああ、一般的には知られていないが。当時の軍上層部がそれほどの大犯罪人を隠したからな」




 イタッチは海を見る。




「男の名はドーギー。軍事システムをハッキングして、ミサイルを撃ち、世界を巻き込む戦争を引き起こそうとした男だ。そしてこいつはその息子……。こいつのその天才ハッカーの息子だ、その力を見込まれて働かされていたんだろう」




「そんなことが……。だが、何を目的で……」




 ダッチが聞いた時、犬が起きて質問に答えた。




「ドーギーの意志を復活させるため……。それがモカの目的だ」




 犬が答えると、それにダッチは反応する。




「起きたか……。ドーギーの意志ってことは。戦争を……?」




「世界に第三、第四と大戦を引き起こす。それが私の父の目的だった」




「なんのために!?」




「ロザントスの怪奇。父には変わった力があり、そう語っていた。世界の先にいる英雄。それを生み出すと……」




 そこまで語ると犬は立ち上がる。




「こんなところで休んでいる暇はない……急いで娘の元に……。娘にあんなことをさせるわけにはいかない」




 どこかへ行こうとする犬をイタッチが腕を出して止めた。




「待てよ。ロザントスがどうなるのか、そして大戦のことは分からねぇ。だが、まだ折角助けた命を捨てられちゃ、俺としては心が痛む」




「救ってくれたことは感謝する。だが、私は娘を……」




「どうだ。追加報酬で俺たちを雇わないか?」






 世界の地図から抹消された街ロザントス。イタッチとダッチ、そして依頼人である犬はそこに来ていた。




「ロザントスの怪奇。それがなんなのかは分からない。だが、モカがドーギーと同じことをしようとするのなら、ロザントスにいるはずだ」




 イタッチ達はロザントスで聞き込みを行う。ロザントスは世界で最も危険で言われる街で、法律も効かず、世界中の悪人が集まる場所。




 まともに聞き込みをしても、効果は得られないため、情報屋を探し、そこから探していく。




 そして情報屋のシェイニーからモカがロザントスで拠点にしている施設を突き止めて、そこにたどり着いた。




「ここがモカのアジトだ」




 そこは3階建てのコンクリート作りのビル。見張りはおらず、自由に入ってくれという風に扉も開いていた。




 中に入ると、そこは豪華なロビー。そして




「そこで止まれ!」




 ロビーの中央まで歩くと、銃を持った兵士が大勢で出迎えてくれた。




 そして兵士たちの中から拍手をしながら、ヤギの男が現れた。




「いやー、よく来てくれた。怪盗イタッチ」




 そのヤギを見て犬が叫ぶ。




「モカ!!」




 笑顔で出迎えたモカ。そんなモカにイタッチは話しかける。




「まるで俺達が来ることを知っていたような対応だな」




「当然だ。私は預言者、この世界の創造主から力を与えられた特別な存在だ」




「預言者ねぇ……。だから俺達がここに来ることも知っていたと?」




「……その通り…………と言いたいところだけど。本当は船の襲撃があったから用意していただけだ。私の能力は不便な力で、観れるのはあり得たかもしれない世界の一部を見るだけだ」




 そこまでモカは語った後、部下に命令してある人物を連れてこさせる。

 銃口を突きつけられて、連れて来させられたのは、フードを深く被った子猫。




「アン!! 良かった、無事だったのか!!」




 犬は叫ぶが子猫は何も返さない。モカは部下から銃を受け取ると、銃口をアンにつけつける。




「お前が娘と呼ぶこいつを返して欲しければ、そこにいるイタッチを撃て」




 モカは部下に指示して犬の足元に銃を投げさせる。




「お前がなんの目的で。ここに何を盗みに来たか。だが、私たちの計画の邪魔はさせない。さぁ、撃て!!」




 犬は震える手で銃を拾い、イタッチに向ける。




「イタッチさん……」




「撃つなら打てよ。俺は死んでも、約束は守ってやるからよ」




「イタッチさん、ごめんなさい」




 犬は引き金を引こうとする。しかし、指を動かすだけというところで、銃口を下ろした。




「やっぱりできない……。私は父のような、悪魔じゃない……」




「そうか、なら。俺がやってやる」




 モカはアンに向けていた銃口をイタッチに向けて放つ。弾丸がイタッチを貫く。

 しかし、イタッチの身体からは血が流れることはなく。それどころか……。




「折り紙……!? まさか!?」




「そのまさかだよ」




 モカの背後にいた部下が突然モカに襲い掛かる。モカから銃を奪い、モカを蹴り飛ばした。




「モカ様!?」



 焦った部下達は一斉にイタッチに銃口を向けるが、モカが叫ぶ。




「やめろ! 女に当たる!!」




 モカの言葉を聞き、部下達は銃を下ろす。イタッチはアンを保護する。




「コイツは貰っていく。ダッチ、援護しろ。逃げるぞ」




「了解」




 ダッチはハンドガンを取り出すと、入り口を塞ぐ兵士達を撃ち倒していく。

 イタッチはアンを連れて、ダッチ達と合流しようとする。しかし、




「やめて!!」




 アンが暴れてイタッチから離れた。




「おい、どうしたんだ。父親と一緒に逃げるんじゃ……」




「あんなの私のお父さんじゃない。本当のお父さんじゃないから!!」




 アンはそう叫ぶと、施設の奥へと逃げていく。




 イタッチは追おうとするが、兵士達が邪魔をしてアンに逃げられてしまった。




「……どうなってんだよ」




 イタッチは折り紙で剣と盾を作り、武装する兵士達に対抗する。




「どうなってんだ。お前の娘じゃないって」




 イタッチは兵士達の弾丸を盾で弾きながら、ダッチと共にいる犬に聞く。すると、犬は訳ありげな顔をし、答えない。




「それはあいつが、その犬、イーギーの娘じゃないからだ」




 モカは立ち上がりながらイタッチに話す。




「あの子はこの世を恨んでる。私にはその気持ちがすごく理解できるぞ……。お前もそうだろう、イーギー」





「…………」




 犬は答えない。アンがいなくなったことで、兵士達の攻撃は激化する。このままでは厳しいと判断したイタッチは、ダッチ達の元へと走って戻った。




「一旦退くぞ」




「その方が良さそうだ」




 イタッチの意見にダッチも賛同する。




「しかし、娘が……」




「ここで全滅したら助けられねぇよ。それにまだ話してないことがあるんだろ」




「…………」




 犬もどうにか説得してイタッチ達は一旦退却した。






 モカの追手を撒いたイタッチ達は、ロザントスにある宿で作戦を整えていた。




「それでだ。本当の娘じゃないってのはどういうことだ」




 イタッチが聞くと最初は戸惑っていた犬もゆっくりと口を開く。




「あの子は私の子じゃない。養子なんだ」




 ダッチは武器を手入れしながら犬の話に耳を傾ける。




「色々と事情があって。私が引き取ることになった。そして私が父から受け継いだ知識、私達の技術を全てあの子には叩き込んである」




 ダッチは刀を見つめ、犬に質問をする。




「技術か……。あのガキもお前と同じ知識がある。だからモカはそれを理由しようとしてるのか」




「そうなる。それにもうとっくに私を超えているよ」




「だけどなぜ、逃げたんだ。助かりたくないのか?」




「あの子は私が嫌いなんだよ。私がアンを育てたのは、ハッカーにするためだと思ってる。どちらにしろ、利用される運命、そうだと思ったんだろう」




 刀を見つめていたダッチだが、犬のことを睨んだ。




「あんたはそのつもりだったのか?」




「私はそんなこと考えてなかったさ。ただあの子のためになればと……」




 そこまで聞いたダッチは立ち上がり、刀を腰にかけた。




「イタッチ。今回の件。俺にやらせてくれ。その代わり、モカのことは頼んだぜ」




「了解だ。相棒」






 さっきまで晴れていた街に雨が降り始める。




 雨の中、ウサギがビルに向かって歩いてくる。




「あれは……ダッチか。モカ様に報告しろ」




 ビルの前で見張っていた兵士たちが一斉にダッチに銃口を向ける。




「また来たか。思っていたより早かったな」




 銃口を向けられているダッチだが、静かにゆっくりと両腰につけている刀とハンドガンを抜き、右手に刀、左手にハンドガンを持ってその手をクロスさせる。




「四神ダッチ。いざ、参る」




 両手に武器を持ち、ダッチは走る。兵士達は銃を放つが、ダッチは左右に素早く避けて銃弾を躱す。




 そして一番前にいた兵士の一人を刀で切り捨てる。




「ぐぁあっ!?」




 切り倒した兵士を他の兵士の元へと投げて視界を塞ぎ、死角から銃を放って次々と兵士を倒す。




 あっという間にたった一人のウサギによって、十人以上いた兵士達が全滅させられた。




 ダッチは顔についた液体を腕で拭う。




「ガッハッハー!! また会ったな!!!!」




「懲りないね〜」




 ビルの中に入ると、サイとカメレオンが待機していた。




「お前たちか……」




 サイはハンマーを取り出して、カメレオンは姿を消す。サイはハンマーをブンブンを振り回しながら




「船では時間がなかったが。今ならもっともーっと、痛めつけられる!!」




 そう言ってダッチに襲いかかる。ダッチは銃をしまうと、刀を鞘に収めて居合の体制になる。




「捧げよう、我が父の技を……」




 振り下ろされるハンマー。姿を消し近づくカメレオン。ダッチは前方へと踏み込む。




「…………」




 ハンマーが振り下ろされるが、そこにはダッチはいない。

 ダッチがいたのはサイと背後。

 そしてダッチは刀を鞘にしまっていく。




「いつの間に……」



 サイはハンマーをもう一度振り上げようとするが、身体が動かない。

 そしてそれは姿を消していたカメレオンも同様であった。




 姿を消して近づき、近づく予定がそこから動けない。




 ダッチの刀が鞘に収まると同時に、二人は意識を失った。









 3階にいるモカの元に部下が駆けつける。




「モカ様、たいへ…………」




 しかし、扉を開けると同時に気を失う。倒れた部下の背後には赤いマントをつけたイタチと、犬の姿。




「またお前達か」




「私の娘はどこだ!!」




「さぁな。ここにはいない。自由に探してきたらどうだ。どうせ、部下は倒してきたんだろ」




 犬はイタッチに確認して、イタッチが頷くとここから離れて娘を探しにいく。

 残ったイタッチはモカに近づく。




 モカは焦る様子はなく。部屋にあるコーヒーメーカーからコーヒーを抽出すると、それをテーブルに置いて座った。




「なぜ、イーギーに手伝う。お前には関係ないことだろ」




「まぁな。俺としても戦争が起ころうがどうでもいいことだ。だが、報酬を貰っちまったからにはやるしかねぇな」




「そうか。まぁ座れ……。私も一度、君とは話してみたかった」




 イタッチはモカの反対側に座る。コーヒーの香りが漂う。




「イタッチ。お前は裏切られたことはあるか……。信じてきたものから、愛してきたものから…………」




「泥棒は裏切り裏切られの世界だぜ」




「ふっ、私も君のように生きられたら良かったよ。だが、そうはならなかった。一度の裏切りで俺はここまで落ちぶれた……」




 モカは懐からハンドガンを取り出した。




「U.S.9mmM9 ヘヴィウェイトか……」




「私は元軍人だ。だが、作戦行動中に仲間に見捨てられ、軍を追放された」




「軍への復讐が目的か?」




「そう簡単なものじゃない。追放されても、どこへ行こうとも。私の愛国心は変わらない。祖国が全ての国を凌駕する、そのために再び戦争を起こし、英雄を生み出す」




「ドーギーもだが、英雄とはなんなんだ。お前達の持つ力で何を見たんだ」




「ふっ、軍には感謝だ。この力を与えてくれた……。あの鏡が教えてくれた英雄こそが世界を救う鍵」




 モカはコーヒーを持ち終えて、カップをテーブルに置くと、テーブルに置いていた銃を手に持った。そしてイタッチに向ける。




「教えるのはここまでだ。イタッチ」








 ビルの一階に地下につながる通路を発見したダッチは、その通路を降りて地下室に向かった。

 地下にたどり着くと、ノートパソコンを片手に操作している子猫がいた。




「見つけたぞ。ガキ」




「四神のダッチ…………」




 ダッチに気づくとアンはパソコンの操作を止める。




「なんでここまで来たの。あなたには関係ないでしょ……」




「ああ、俺はイタッチと違うからな」




 ダッチはハンドガンを取り出すと、それをアンに向ける。




「お前みたいなガキを助けるなんて一言も言ってない。だから殺しに来た」




「嘘ね。私を脅してもここから出る気は……」




 そこまで言ったアンの頬を銃弾が掠める。アンの髭にはまだ弾丸が通過した感覚が残っている。




「俺は四神。マフィアだ。正義の味方じゃねーぞ」




 ダッチの気迫に押されたアンは、腰をついて座る。地面についた尻は少し湿っている。




「質問に答えろ。お前が本当にやりたいことは、それなのか?」




 座ったアンにダッチは銃口を向け直す。




「世界を巻き込む大戦争。それがお前のやりたいことか?」




「…………そうよ、私は……そうしたいのよ」




 ダッチは銃口を自分に向けて放つ。そしてアンよりも深く頬に傷を作ってみせた。




「……俺は後悔してる。俺を拾ってくれたのは親父だ。だが、俺はあの人から全てを奪おうとした」




 ダッチの額を紅い液体が流れる。




「俺はあの人に拾われて、後継者となるためだけに育てられたと思ってた。でも、違った。それは俺が選べば良いだけだ。選択肢は俺にある」




 ダッチは再び銃口をアンに向ける。




「さぁ、選べば。お前は何者だ。『世界の破壊者』かそれとも『一人の娘』か」




「私は…………」




 アンが答える前に扉が開き、一人の犬が入ってきた。




「アン!! 無事だったか!!」




 犬はアンに駆け寄り抱きつく。




「良かった。無事だったんだね…………アン、この傷は…………」




 イーギーはアンの頬の気づく。すると、ダッチのことを睨みつけた。




「ダッチ!!」




 そして立ち上がるとダッチのことを殴り飛ばした。ダッチは抵抗することなく、殴り飛ばされて地面に倒れる。




「私の娘に。なんてことをするんだ」




「お父さん……私は…………」




「お前が何をしようともお前は私の娘だ」




 アンはパソコンを捨て、父親に抱きついた。




「お父さんは私のことが嫌いだから、だから、パソコンのことを教えてくれないのかもって。だから、自分で勉強して……でも、どうしたら認めてもらえるんだろうって」




「お前を嫌いなわけないだろ。お前はとっくに私を超えてるんだ。私を許してくれ、お前に知識を教えることしかできなかった私を」




 二人の言葉を聞きながらダッチはゆっくりと立ち上がる。そしてパソコンの方を見ると、誰も操作していないはずの、パソコンが動きていることに気づいた。




「パソコンが動いてる…………」




 そして何かの警告画面が出てくる。メッセージが出てきて、パソコンの中から音声が流れた。




「ミサイル発射まで残り10分。キャンセルの場合は5分以内にパスワードを打ってください」




 そんなメッセージが流れて、部屋にいる人たちの動きが止まる。




「どうして……」




 アンが動揺しながらパソコンの元へと向かおうとするが、見えない何かに捕まる。




「けっへっへー!! 動くなよ」




 アンを捕まえたカメレオンが姿を現した。




「ダッチ。お前の攻撃は効いたぜ。だが、完全に仕留め切ることはできなかったようだな」




 カメレオンはアンとパソコンを持って、部屋の出口に向かう。




「キャンセルされなければ、世界中のミサイルが一斉に発射され、戦争が始まる。モカ様がいなくなろうとも、俺が全てを初めてやる」




 カメレオンはそう言ってアンを連れて、部屋を出ていく。




 アンを人質に取られたダッチ達は動くことができず、カメレオンが地下を出るのを待つしかできない。




 カメレオンが地下から出て、ダッチ達は武器を持って地下から出る。

 すると、一階で二階から降りてきたイタッチと再開する。




「イタッチ、私の娘が!!」




「分かってる。すぐに追うぞ」




 外に出ると外に止めてあった黒い車に乗り込むカメレオン。

 イタッチ達がきたことに気づくと、カメレオンは急いで車を発進させる。




「このままじゃ逃げられる」




 焦る犬。しかし、イタチは折り紙を取り出すと、




「俺に任せろ」




 折り紙で車を作った。




「早く乗り込め」




 全員が乗ったのを確認すると、イタッチは発進させてカメレオンを追う。

 カメレオンの乗る車の後部座席には二人の部下が乗っているようで、左右の窓から発砲してくる。




 ダッチが対抗して発砲するが、なかなか弾丸が当たらない。




「回り込むぞ」




 イタッチはそう言うと、狭い路地に車を入り込ませて、車を斜めにしながら走る。そして広い道路に飛び出ると、こちらに向かってくるカメレオンの乗った車があった。




 車からダッチは降りると、走ってくる車のエンジンに弾丸を打ち込み、車を停止させた。

 カメレオンはアンを車から引き摺り出し、車から部下達も出てくる。




 カメレオン達はイタッチ達に向けて発砲する。イタッチ達は車に隠れて弾丸を防いでいた。




「どうする。このままじゃ……」




「ダッチ、時間を稼げ。その後は任せてくれ」




「了解、相棒」




 イタッチが折り紙を折る中、ダッチは車の影から飛び出して銃で応戦する。

 二人いるうちの一人を銃で倒したが、ダッチの身体を弾丸が貫く。

 どうにか急所をずらしはしたが、ダメージが大きい。




 ダッチが時間を稼いだおかげでイタッチの作品が完成した。




「完成だ」




 イタッチはイーギーと共に完成したバイクに乗り込む。このバイクは普通のバイクと異なり、強力なエンジンを折り紙で作っており、それにより超スピードで移動して、一瞬でカメレオンの元に辿り着いた。




 イタッチは折り紙で剣を作り、カメレオンと残っていた部下を倒す。

 そして後は、




「パスワードを打ち込んで止めろ」




 イタッチの言葉を聞き、アンはパソコンの元へと駆け寄り、キャンセルをしようとする。しかし、




「キャンセルなんてさせるか……パスワードを知ってるその子供をやれば……それで……」




 まだ意識のあったカメレオンがアンに向けて最後の一発を撃った。

 それと同時にカメレオンは力尽きたように倒れる。




「アン!!」




 アンに向けて撃たれた弾丸。しかし、それはイーギーが身を盾にして防いでいた。




「ぐはっ!?」




「お父さん!!」




 アンは父親の元へと駆け寄る。




「なんで、全部私のせいなのに……」




「そうだとしても、その責任は私にもある。お前を守ってやれなかった、私には……」




 イタッチもイーギーの元に駆け寄るが、イーギーの状態は今喋れているのがキセキのような状態だ。




「お父さんを……お父さんを助けて」




 アンのお願いにイタッチは首を振る。




「もう…………」




 それをイーギーも分かっていたのだろう。イーギーは最後の力を振り絞り、娘に伝えた。




「お前は、お前らしく。やりたいようにやれ……。私のように縛られる……な…………」













 アンによりパスワードが打ち込まれ、ミサイルの発射は阻止することができた。

 今回のハッキング事件もドーギーの時同様に、軍上層部でのみの大事件となるだろう。




 あれから数ヶ月。ダッチは四神の経営する病院から退院して、イタチの経営するカフェへと向かう。




「いらっしゃいませー!!」




 そこにはコップを洗う店主のイタチと、バイトで働いている子猫の姿があった。




「あ、ダッチさん!」




「久しぶりだな。アン。元気にしてたか?」




 ダッチはアンの頭を撫でる。ダッチは優しく撫でてるつもりだが、アンの姿勢は低くなっている。




「お陰様で……。イタッチさんにここで働かせてるよ」




「そうかそうか」




 笑顔のダッチにコップを洗い終えたイタチが話しかける。




「ここでその名前はやめろ。後さっさと注文しろよ」




「へいへい」






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