第19話 『カンパニュラ』
怪盗イタッチ大作戦!!
著者:ピラフドリア
第19話
『カンパニュラ』
イタッチとリーダーが向かい合っている中、ダッチは副リーダーの拳を刀で受け止めていた。
副リーダーはもう片方の腕を振り上げると、その拳で今度はダッチを殴ろうとしてくる。
ダッチは素早く刀を戻すと、副リーダーに接近することで攻撃を躱す。
距離を取って避けると考えていた副リーダーは、ダッチの予想外の行動についていくことができずに、大きく拳を空振りする。
近づいたダッチは刀を鞘にしまうと、左手で副リーダーの顎を張り手して、そのまま突き飛ばした。
副リーダーはダッチに突き飛ばされた勢いで、列車の天井に頭を貫通させて埋まった。
「おっと、やりすぎたか……」
ダッチは副リーダーに背を向けて、捨て台詞を吐いた。
そして副リーダーが天井から抜けて落ちた音を聞いて、その場から立ち去ろうとした時。
後ろから身体をがっちりと掴まれる。ダッチが何者かと後ろを振り返ると、それはさっき倒したと思い込んでいた副リーダーがダッチのことを鷲掴みにしていた。
「離せ……」
ダッチは抜け出そうと暴れるが、その力の強さに抜け出すことができない。
副リーダーはダッチの身体を浮かばせると、天井に向かって投げ飛ばした。
ボールのように飛ばされるダッチ。ダッチは天井にぶつかりそうになった時に、急いで刀を抜くと、刀で天井を切って穴を開ける。
それで天井にぶつかる衝撃をなくすことができた。
だが、天井がなくなったことでダッチは列車の上空を舞う。
そして列車の屋根の上に着地した。かなりのスピードが出ている列車、風が強く吹いており簡単には立っていられない。
そんな列車の屋根に登ってしまったダッチを追いかけて、副リーダーも屋根の上へとよじ登ってきた。
「おいおい、ここでやるのかよ」
副リーダーは屋根に登り切ると、風を受けながらも問題がなさそうに立つ。
ダッチは刀を抜いて副リーダーに斬りかかる。ダッチを向かい打つため、副リーダーも拳を握りしめた。
風は向かい風。ダッチの方が不利だ。
だが、ダッチはフェイントをかけて、副リーダーの拳を躱すと、刀を振って副リーダーの身体を横一線に切ろうとする。
しかし、ダッチの刀は副リーダーの身体に触れて皮を一枚切ったところで止まってしまった。
「硬い……」
刀がピクリとも動かない。
何か装備をしているのか。今度は首を狙って斬りかかる。しかし、首も同様にダッチの刀は途中で止まってしまった。
装備じゃない。異様に硬い身体。
だが、その硬さは虫や甲殻類のような外殻の硬さではない。鍛えられたボディ。筋肉の鎧だ。
止まったダッチの刀を副リーダーは素手で掴む。刀を掴んだことで副リーダーの手から血が出るが、それでも強く握って刀を持ち上げる。
刀が持ち上げられたことで刀を握っていたダッチの身体は浮く。
ダッチは刀を取られないように暴れて、副リーダーの手を離させようとするが、副リーダーは手を離すことはない。
持ち上げられたダッチ。ダッチの身体が二センチほど宙に浮く。このままでは刀が折れてしまう。
ダッチは刀の鞘を差している腰とは反対側につけているホルスターからリボルバーを取り出す。そして副リーダーの顔に向けて二発弾丸を放った。
副リーダーは弾丸が当たるとその衝撃で首が後ろに傾くが、弾丸は副リーダーを貫通することはなく。皮膚の一枚を削っただけで止まってしまった。
「化け物が……」
ダッチは副リーダーを睨む。
刀も弾丸も効かない。そんな人間は見たことがない。
刀を握っていた副リーダーの手は、血により掴む力が弱くなる。その隙にダッチは刀を振って副リーダーの手から刀を振り払う。
刀を取り返したダッチは副リーダーから距離を取ろうとする。そんなダッチを副リーダーは追ってこようとするが、ダッチは退がったタイミングで銃を撃ち、副リーダーの動きを一瞬止めると、人車両分の距離を取った。
副リーダーはダッチを追いかけるために、列車の上を走ってくる。
ダッチは刀を横にすると刀を小刻みに振るわせ始めた。
ダッチの刀から発せられる音波。それが周囲に響き渡る。それは強靭な肉体を持つ副リーダーをも襲った。
副リーダーは頭を押さえて膝をつく。
「流石の化け物でも音に対する耐性はないみたいだな……」
動けなくなった副リーダー。そんな副リーダーを見ながらダッチは刀をしまった。
そして列車の進む進路の先を見ると、
「いつでもリベンジは受け付けてやる。また会うことがあればな…………」
そう言うと車両と車両の隙間にある連結器のある場所へと降りて、車内に戻っていった。
ダッチがいなくなったことで音が無くなり、意識の戻ってきた副リーダーは、手をつきながらも立ち上がる。
そして車内に戻ったダッチを追おうとしたが、
目の前に壁が現れた。
列車の上にいた副リーダーは、その壁にぶつかり列車から弾き落とされてしまった。
ダッチと副リーダーが屋根の上に登り、イタッチとリーダーは睨み合っていた。
イタッチの後ろにいるフクロウ警部が肩を押さえながらイタッチの方へと近づいてくる。
「手を貸すか?」
「さっきも言ったろ。サシだ……。邪魔はするなよ」
イタッチは振り向かずにフクロウ警部に答える。それを聞いたフクロウ警部は、少し顔が緩み笑う。
そしてイタッチに背を向けると、
「そうか、なら任せるぞ。だが、決着がついたら逮捕するからな」
「やれるものならやってみろ」
フクロウ警部はネコ刑事達の元へと向かう。
「良いんですか? 警部……」
「これはチャンスだろ。二人が披露したところで一網打尽……。これでイタッチも終わりだ。だが、その前に……」
フクロウ警部は銃を上げるとネコ刑事の後ろに向かって発砲した。
ネコ刑事は驚いて振り返ると、血を流して乗客の一人が倒れた。
「警部!? なんのつもりですか!?」
ネコ刑事はフクロウ警部に掴みかかるが、フクロウ警部は冷静に撃った乗客を見る。
「よく見ろ……」
「え……」
その乗客の手には銃が握られていた。その銃は覆面の集団が持っていたものと同じもの。
「どうやらここにはまともな乗客はいないらしい」
続々と乗客達が武器を持ち、警備員達に襲い掛かろうとしてくる。
「まさか……全員……」
「奴の手伝いをするのは不本意だが…………」
フクロウ警部は大きく声を張り上げて、部下達に伝える。
「お前達、この犯罪者達は全員逮捕だ!! だが、絶対に死ぬな!! 身の安全を守りつつ、全力で確保しろ!!」
「騒がしいな?」
リーダーはイタッチに向けて言う。それを聞いたイタッチは、
「祭りは嫌いか?」
「いや、嫌いじゃない。私はパーティは大好きだ!!」
リーダーはイタッチに向けて、子猫を突き飛ばす。子猫の少女は体勢を崩して、イタッチの身体に寄りかかる。
イタッチが子猫を受け止めている隙に、リーダーは落とした銃を拾った。
リーダーは拾った銃をイタッチに向けると、素早く銃を放つ。
イタッチは子猫を退かすと、リーダーの弾から子猫を守る。
弾丸はイタッチの胸を貫く。
「イタッチ!!」
撃たれた瞬間を見たフクロウ警部は、覆面の集団と戦いながら叫ぶ。
子猫の目の前でイタッチは、撃たれたことで仰け反りながら倒れそうになる。
だが、大きく身体を傾けた後、
「おっとっと……」
イタッチは足をふらつかせたが、すぐに真っ直ぐに立って見せた。
「な……なぜ、今貫通したはずじゃ……」
イタッチの身体には穴は空いていない。驚くリーダーにネタバラシをするように、イタッチは光を反射する銀の折り紙を取り出した。
まるで鏡のように辺りの様子を映し出す折り紙。
「貫通した? 掠りはしたが俺は避けたぜ」
イタッチは鏡のような折り紙を使い、リーダーの弾丸を避けた。
子猫を避けさせた後、自分の姿を折り紙で反射させて、弾丸が貫通したように見せてみせた。
そしてその避けたタイミング。その隙に……。
「祭りが好きって言ってたな。じゃあ、派手にいきな!」
イタッチは折り紙で作った鎖を引っ張る。すると、リーダーの足が引っ張られて、リーダーは転んでしまった。
「いつの間に……」
転んだリーダーは焦りながら銃で鎖を撃って、鎖を破壊する。自由になったリーダーだが、そんなリーダーに折り紙で作られた剣が向けられた。
「俺の勝ちだ」
剣を向けられたリーダー。銃を向ければすぐに撃てるが、リーダーが撃つよりも早くイタッチが動く。
リーダーは銃を捨てて諦めた。
「…………私の負けか」
リーダーは悔しそうにイタッチのことを睨む。
イタッチがリーダーを倒したのと同時に、フクロウ警部達も覆面の集団の鎮圧が終わったらしく、フクロウ警部がイタッチ達の元へと駆け寄ってきた。
「決着はついたようだな」
そう言って手錠を取り出すとリーダーに手錠をはめる。そしてリーダーの身柄を部下に任せると、フクロウ警部は子猫の元へと向かった。
「すまない。怖い思いをさせた……」
フクロウ警部は帽子をとると深々頭を下げる。
「いえ、あなた達、そしてあの人が守ってくれましたから」
子猫はそう言ってイタッチのいた方向を見る。しかし、そこにはイタッチの姿はなかった。
イタッチがどこに行ったのかと見渡していると、フクロウ警部は子猫の首にネックレスが無くなっていることに気がついた。
「あいつ……イタッチめ!! 次こそは逮捕してやる!!」
フクロウ警部がそう叫ぶ中、ネックレスのなくなったというのに、子猫はどこか安心したような顔をしていた。
蒸気機関車が駅に停まり、警備員に見つからないように脱出したダッチは、打ち合わせしていた合流ポイントに向かった。
そこは山奥にある湖の釣り堀。人は少なく静かで、釣り糸を水に落とすと、その音がはっきりと聞こえた。
「どうだ。手に入れたんだろうな」
ダッチは釣り糸を垂らしてイタッチの隣に座る。
「俺に失敗はないぜ」
イタッチは右手で竿を持ち、もう片方の手でネックレスをダッチに見せた。
「……だが、こいつは要らないな」
イタッチは湖の中にネックレスを投げ捨てた。それを見ていたダッチは驚いて固まる。
「お、おい、何してんだよ」
「あれは偽物だよ……」
「偽物? まさか、俺達騙されたのか?」
「いや、鉄道関係者も警察もこのことは知らないだろうな。知ってるのはヴィオレットゥ家の者だけだ」
「どういうことだ」
イタッチは竿をあげて、餌がなくなった餌をつけ直して、もう一度湖に糸を垂らした。
「ヴィオレットゥ家は鉄道が完成した時にこのネックレスをプレゼントした。だが、それは偽物の安物だったんだ。今回の鉄道の復興の記念にあのネックレスが一般公開されることになり、ヴィオレットゥ家は焦った」
「偽物をプレゼントしていたことがバレる……。そういうことか」
「ああ、だからパンテール雇った。俺達の予告状もあり、宝石を盗まれたことにすれば、偽物であることはバレないからな」
ダッチは肩を落とす。
「なんだよ、今回はタダ働きってわけか……」
イタッチの釣り糸に何かが引っかかる。イタッチは竿を引いて、それを引き寄せた。
「そうでもないぜ」
イタッチはそう言って吊り上げたものをダッチに見せる。そこには瓶に金のような形をした紫色の花が入れられていた。