第9話、執事系魔王に服を脱がされました。
「な! なんで、服脱がそうと
してるんですか!」
「何言ってるんです?
あんな大勢の前で脱いだ癖に」
「あれは、そういうステージですから!」
「他の男には見せられて、
私には見せられないと?」
「そうじゃなくて!
ここ、街中! 外!」
「大丈夫ですよ。
路地の影で、誰も見てませんよ。
私以外は」
「そういう問題ではなく!
まったくなく!」
「四の五の言ってないで、
私にも見せて下さい」
プツとボタンが外され、
シャツの両側を大きく開かれる。
「う……」
開いたシャツから、
ステージ衣装に包まれた胸覗いた。
心臓が跳ね上がる。
思わず、顔を反らした。
「あなたがした格好が、
どんなに淫らか、
私が教えて差し上げます」
クレアは胸元に顔を近づけて、
匂いを嗅ぐように息を吸い込んだ。
触れてもいないのに、
身悶えするほどの羞恥心で、
息ができない。
「ま、待って分かった……
脱ぐから。自分で脱ぐから
やめて……」
脱がそうとするクレアの手を握って、
懇願するように言った。
「そうですか。
自分で脱いでくれるなら。
でも、ここで脱いで下さい」
クレアは冷たい目で言い放って、
やっとシャツを離した。
なにそれ、目の前で服脱ぐの
めっちゃ恥ずかしい!
私はほとんど涙目で、
ゆっくりと上着を脱ぐ。
ズボンを脱ぎ捨て、
下着より小さい、ステージ衣装を晒す。
「ほう」
クレアの視線を感じて、
顔が熱くなる。
なぜだか、恐ろしく恥ずかしい。
「踊れ、なんて言いませんから
安心してください」
「そりゃ、どうも」
クレアが近づいてきて、
私の頬を撫でる。
そんな事、今まで沢山あったのに、
ずっとドキドキする。
体を守るものが無いだけで、
距離が近い。
「こっち見て下さい」
「いや、無理、恥ずかしい」
顔を上げる事ができない。
まともに顔を見れない。
どうしてだろう。
大勢に見られても平気なのに。
あなたには恥ずかしくてたまらない。
呼吸ができないほどに苦しい。
ツイと、クレアは手を伸ばし、
私を抱きしめる。
ん?
耳元に口を寄せて
「とても素敵ですよ」
甘く呟く。
ドクンと心臓が鳴った。
恥ずかしさが解けていく。
も、もしかして、
大勢に見られても平気になれたのに、
あなたに見られるのは苦しいのは、
あなたに綺麗だと思われたいから。
答えが不安だから。
それは……
「ほら、こっち見てください」
顎をつかまれて、顔を向けられる。
間近にクレアの顔があって、
心臓が鳴る。
「もう二度と、
ステージでは踊らないで下さい。
こんなに素敵なあなたを、
他の男に見られるのは耐えられません」
それは……どういう……
「忘れないで下さい。
あなたは、私のモノですからね」
その言葉が、心に入り込んで、
心臓を絡め取る。
苦しさとも暖かさとも解釈できる
感情で埋まっていく。
いつ見ても綺麗なその顔、
眼鏡の奥の目が少し笑っていた。
「あ……魔王様」
何を口走ろうとしたのかわからない。
何か言うより早く、
私の口は、塞がれたから。
キスされたの何度めだっけ?
と考えてやめる。
思考が追いつかない。
何も考えられない。
快感と衝撃だけが、体内で波打つ。
あぁ……
ほとんど反射的に、
クレアの首に、手をからめた時だった。
「え? マスター?」
バチンと音を立てて、
思考が戻った。
え?
顔を向けると、路地の先に、
見慣れた少年の姿があった。
──ファイ
え? 見られた?
キスしてる所を?
なんで? たまたま?
そんな偶然……
グイとクレアが私を抱き寄せた。
へ? なんで?
クレアは笑っていた。
ファイに見られた事で、
動揺する私をみて。
まるで、当然のように。
「まさか、はじめから……そのために」
「そろそろ、
立場をわかってもらわないと、
いけませんので」
そう言って笑う。
眼鏡の奥で。
「魔王……」
ファイが呟く。
怒りと憎しみに濡れた声で。
その震える小さな体を見て、
私の背中にサアと冷たいものが走った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「マスターから……離れろ!」
「嫌ですよ。自分のモノを、
どうしようと、私の勝手です」
「ちょ! やめて……嫌!」
「許さない、と言いました」
次回も、お楽しみに!