第8話、力を得る為に脱ぐ事を要求されました
「じゃあ、マスター。僕出かけるけど、
マスターはルームにいてよね」
「うん、わかってる」
「狙われるのはマスターなんだからね。
絶対出ちゃダメだからね!」
「分かった分かった。
ファイも気をつけてね」
笑って手を振ると、
やっとファイは出かけていった。
やれやれ、
すっかり過保護になったなぁ。
聖龍石を狙う強盗団を、
ファイが探ってくれるらしい。
「そういう情報網があるからね」
と、得意げに言ったから、
期待しよう。
「さてと……」
出ちゃダメだと言われたが、
「そういう訳にも、行かないよね」
□□□□
「あんたが、ユリア?
あたしはメイラ。メイラードよ。
この劇場の主」
そう言ったのは──
すごい美形の男の人!
服もキラキラ!
「踊り子特性があるんだって?」
「そ、そのようです」
「踊り子スキルを上げたいのね」
「お願いします」
もう、あんな格好するだけして、
役に立たないのは嫌なのだ。
だから修行にきた。
適性検査の受付嬢に、
『踊り子』の人を紹介してもらって。
「あたしは容赦しないけど、
覚悟はよくって?」
と、頬をなでながら聞いてくる、
なんかドキドキする。
笑い方も妖艶で。
セクシーの塊みたいな男の人。
「も、もちろんです」
どんな厳しい修行でも!
やり遂げる所存。
「じゃ、まずは脱いで?」
へ?
「この服、いつもの踊り子服より、
キワドイんですけどー」
「着こなしは、まぁまぁね」
「下乳見えてるんですけど!」
「スタイルは、もう少し肉がいるわね。
腹筋が割れてるのも、可愛くない」
「ほっといて下さい!」
メイラはついでと、私に、
黒髪ポニテのウィッグをつけて
「30分したらステージに立つからね」
「は? え?」
「10分で踊りは覚えて。
お客さんいっぱいだから」
「いやいや、無理ですよ!
いきなりステージって!」
渋る私の鼻をメイラはゆび指さして、
「覚えておきなさい。踊り子の本質は、
『踊る』事じゃない」
え? 違うの?
「『見られる』事よ」
み、見られる……
「すべての視線を集めて!
1つでも外れたら、やられる。
それが踊り子よ」
すべての……
「あなたは何の為に踊るの?
誰かの為に命をかけて行動するのが
勇者でしょ?」
そうだ、命をかける。
踊る事に。
戦闘で踊れなきゃ、やられるだけ。
「さ! 開幕まで時間が無いわ!
気合い入れて!」
メイラの言葉に、私は叫ぶ!
「はい!」
あ、これが『再行動』か。
□□□□
幕が上がった。
沢山のお客さんが、その視線が、
私に刺さるのがわかる。
お腹、胸、足、すべて視線を感じる。
スポットライト、音楽。
私は両手を上げる。
すべて視線を集めて、
あなたに届きますように。
みんなに届きますように。
明日の活力を!
疲れてる人も、苦しい人もいるだろう。
でも、頑張って! 私が力をあげる。
もう一度、力を!
もう一度、立ち上がる元気を!
それが『踊り子』
それが『再行動』
そのために、命をかけて踊る!
それも勇者!
拍手と歓声とが、
気持ち良く耳に届いた。
□□□□
「は、恥ずかしかった……流石に」
ステージを終えて、戻った時には、
グッタリだった。
「素晴らしかったわ! 上出来よ!」
メイラが拍手しながら讃えてれる。
「あ、ありがとうございます」
「次のステージは一時間後だからね」
「は? え? まだやるんですか?」
「当然よ。踊りの甘い所、
直してあげるから、死ぬ気で覚えて!」
「はえ?」
「腕はしなやかに上げて!
胸は揺らさないで!
今日中に立派な踊り子にしてあげるわ
死ぬ気で覚えなさぁい!」
「はい!」
□□□□
修行が終わった時には、
もう日が傾いていた。
「つ、疲れた……」
路地を歩きながら、呟く。
ファイ、帰ってないといいけど。
先にルームに戻らないと、
外出したのがバレる。
修行は、して良かった。
なんか上手く働かされた気も
しなくもないけど。
「衣装はあげるから、
着て帰って良いわ。
給料代わりよ」
と、メイラが言ってくれたので、
喜んで頂いた。
着て帰ると言っても、
流石に上に服を着ているが。
本来なら、修行なので、
こっちがお金を払うべきなのに。
「良い人だったなぁ」
メイラの綺麗な顔を思い出して、
ため息をつく。
魔王様とどっちが美形かな、
と、考えて、ふふっと笑う。
「ずいぶんと、ご機嫌ですね」
耳元でいきなり声がした。
は?
振り返るより早く、口を押さえられて、
脇道に引っ張りこまれる。
うそ! これは!
グイと抱き寄せられて、
強引に顔を向けられる。
バチと、その人物と
至近距離で目が合った。
眼鏡? でもその冷たい目と
そこまでも綺麗な顔……
紫の髪が、ふわと頬を撫でた。
「……魔王様?」
脇道の暗がりで、私を抱き寄せたのは、
眼鏡でスーツを着た、
魔王クレア様、その人だ。
「そんなに楽しかったのですか?」
そう言って、
眼鏡の奥で冷たい目をする。
へ? 眼鏡でスーツで敬語?
じゃなくて……怒ってらっしゃる?
「沢山の男に見られて満足でしたか?」
へ? え?
「そろそろ、
理解してもらわないと困ります。
ご自分の立場を」
え? ステージで踊ったから?
他の男に見られたから、
怒ってるって事?
クレアの細い指が、私の頬を撫でて、
ドクンと心臓が鳴った。
「ご自分が誰の所有物か、
その身体に教えて差し上げます」
へ? え? それはどういう……
細い指が、私の服の襟を掴んで、
ボタンを外していった。
「い……」
私の口から、震える声が漏れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「な! なんで、服脱がそうと
してるんですか!」
「他の男には見せられて、
私には見せられないと?」
「そういう問題ではなく!
まったくなく!」
「あなたがした格好が、
どんなに淫らか、
私が教えて差し上げます」
次回も、お楽しみに!