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第7話、ショタに押し倒されて攻められました

「報酬、多めにもらえて良かったよねー」

 ファイがニコニコしながら、

 前を歩いている。


「何も良くない……酷い目にあった」


 ゴブリン退治の帰り道、

 嬉しそうなファイ後ろを、

 ため息付きながらあるく。


 規定以上の数を倒したので、

 神殿からの報酬が多めだったのは良い。


「それも、マスターがあんな格好で、

 ゴブリンを呼び寄せたおかげだよ」


「そういう用途じゃないから、

 踊り子服って」


「あれ着て帰れば良いのに」


「街中じゃ絶対無理! 恥ずかしい!」


「そんな事ないって、すっごく綺麗だよ

 また着てよぉー」


 クルクル回って、ごきげんなファイは

 キャッキャッ笑って、歳相応に見える。


 まぁ、楽しそうなのは何よりだが。


「そうだマスター、なんか美味しい物──」


 ごきげんなファイの顔が、

 ふと真顔になった。


「ん? ファイ?」


 視線をクルリと周りにまわして、

「あー……囲まれてるよ、マスター」

 と声をだした。


「え? マジで?」


 少し歩いて、

 ファイがピタリと足を止める。


 夕刻の、暗くなってきた路地から、

 少しずつ人が集まってくる。


 黒い服で、顔を隠した男達……

 見覚えがあった。


「こないだの強盗? マジで?」


 女の恰好でもないのに、

 一人歩きでもないのに。

 

 これは、つまり

「『私達が』狙われてる、って事?」


「舐められたもんだよね」


 ジリと、男達が近づいてくる。

 こないだより多い。

 十数人はいる。


 うわー、どうしようかなー


 1人の男が、私の前に立った。

「『聖龍石』を渡してもらう」


「え? なに?」

 龍石狙いって事?


 顔は隠れているけど、

 声で男なのは分かる。

 金目の物を狙った無作為じゃなく、

 龍石狙いの、組織だって事か。

 なるほど、分かった。


 私は覚悟を決めて、両手を握りしめた。


「ファイ」


「抜け道は知ってる」


「1人で行ける?」


「もちろん」


「私が全部引き付ける。

 荷物、頼んで良い?」


「まかせて」


「頼んだ」


 私は息を吸い込むと、

 目の前の男を睨んで、

 ハッキリと叫んだ。


「龍石は渡さない。私は、負けない!」


 そして、バサッと服を脱ぎ捨てた。


 は?


 男が驚いた声が聞こえる。


 私がいきなり踊り子服になったからだ。

 すべての視線が私に向く。

 そうだ、この格好は、

 すべての視線を集める。


 私は両手を上げる。

 踊るように、すべての視線の中で。

 そして叫ぶ。


「レイ!」

 持ち上げた龍石が、激しく光った。


「光あれ!」


 龍石から放たれた閃光は

 すべての男達の目をくらました。

 すべての視線を集めていたから。


 数秒、すべての動きが止まった。


 そして視力が戻った時には、

 私も、ファイもそこにいなかった。


「逃げられた」


 と、男達が気が付くのに、

 時間はかからなかった。



□□□□



「抜け道って……マンホールの下だと、

 思わないじゃん! 狭っ!」


「マスターならギリギリ通れるよ。

 感謝してよね」


「不自然な位置で止まったなーとは

 思ったのよね」


「逃げる事を考えて、

 場所を決めるのは鉄則だよ」


 囲まれてるのに気が付いて、

 すぐに抜け道の上まで移動して、

 そこで戦闘を始めたのね。


「頼りになるわ」


「マスターが注目を集めたおかげだよ」


「あんたも、ありがとう、レイ」

 と、龍石を取り出す。


「本来、私は

 そういう用途じゃないんですけど」

 と、龍石が話す。


「その石、名前あったんだー」


「レイディアスです。

 覚えておいてください」


「光るのは便利よね。

 ちょっと明かりになって」


「だから、

 そういう用途じゃないですから!」


「君は、僕が盗むからね」


「やめて下さい! 呪います!」


「さ、早めに帰ろう。

 あいつらが来ないうちに」


 地下道は神殿の近くまで続いていて、

 無事にギルドルームまで戻れた。


「あー良かった……」


 服を着替えて、身体を綺麗にして。

 ベッドに腰かけてなんとか息をつく。


 今日はもう疲れた。


「ねぇ、マスター・・・あいつらって」

 とファイが聞いてくる。


「龍石狙う組織とかあるんだねー

 前も襲われたけど、

 ただの強盗だと思ってた」


「前はどうやって倒したの?」


「あー、魔王様が助けてくれて……」


「え?」


 ファイの声が、一瞬重くなって、

 あれ? と、私は顔をあげた。


「魔王?」

 聞き返す、その声が黒い。


「なんで?」

 ファイの顔から表情が消えていた。

「なんで、魔王が、人間を……助けるのさ」


 そうだね。普通は疑問だよね、それ。


「それには、いろいろ……

 いろいろありまして」


 私は表情を無くしたファイに、

 何がどうしてそうなったか話した。

 話して、なんでそうなってるのか、

 自分でもわからなくなった。


 私、なんで魔王に好かれてるんだっけ。


「つまり、

 マスターは魔王のモノなんだね」


 ファイの声が怖い。


 怒ってる? 怒ってるよね。

 幼い顔が怒りに染まっていて、

 ゆっくりと近づいてくる。


 あ、もしかして……

「ファイ、魔王様をめっちゃ憎んでる?」


「魔王を憎んでない人間なんているの?」


 いや、その通りですけど!


「僕の家族は……

 モンスターに襲われて死んだんだ」

 ポツリと、ファイが呟く。


 え?……


「そうなの?」


「お父さんも、お母さんも、妹も……

 僕が帰ってきたら、家の中、真っ赤で」


 妹……だから食堂で、

 女の子を見捨てなかった。


「魔王が、

 その辺一帯の殲滅を指揮したから

 僕の家は巻き込まれた」


 ファイの声が重い。

 淡々と話してるのに、

 言葉の端がズシと沈む。


「僕は見たよ。

 沢山の魔物を従える、魔王。

 紫の髪の……あの、悪魔!」


 怒りで濡れる視線が、私に刺さる。


 そうだね、そりゃ憎いよね。当然だ。

 そんなヤツと仲良くしてると聞いたら、


 怒りをぶつけられて、当然だ。


「その魔王に、マスターはずいぶんと

 大切にされてるんだね」


 いや、大切にされてる自覚は、

 正直ない──ん?


 視界が覆われた。


 ファイが私を抱きしめたから。


 ん? んんんんんん?


 ファイに押されて、

 身体がベッドに倒れる。

 小さい身体が、私を押し倒している。


「え? ちょっと、ファイ?」


 グイと両肩を押さえつけられる。

 無表情で無機質な顔が、

 私を見下ろしてる。


「じゃあ、僕がマスターを奪ったら、

 魔王は悔しがるよね」


 へ? え?


 ずいぶんと大人びた顔をして。

 私の頬を撫でる。


「あなたは、僕が奪う。魔王から」


 い! いやいやいやいや!


 そんな無表情で

 切ない事いわれましては……


「魔王なんかより、

 ずっとイイコトできるよ。マスター……」


 そのまま、

 首元に近づいてきたファイの頭に


「いや、やめなさい、って」

 チョップを振り下ろす。


「痛って!……なんで?」


 ファイが顔を上げる。

 いつもの、幼い顔だ。


「僕、ちゃんと出来るよ!」


「いや、うん分かってる」


「僕、可愛いでしょ?

 全然出来るでしょ?」


 自分で分かってるんだ。

 可愛いさ、そりゃ。

 全然可愛いよ。


「じゃあ、なんで!」


「自分の身体を、復讐の道具に

 するもんじゃない。そういうのは、

 後で、絶対に後悔する」


 そうだ、そういうのは、

 消えない、んだ。


「自分の身体は、大事にしなさい」


「なにそれ! 説教?」


「別にそんなんじゃないよ。

 あてつけで、されても気分悪い」


「魔王には簡単にさせるのに?」


 いやいや、まだなにもしてないから!


「私、魔王様の元に嫁ぐと

 決めた訳じゃないからね」

 一応、魔王の所を目指してるけど。


「でも、それでもいいなぁ、

 とは思ってるんでしょ? マスター」


「う……」


「……あてつけ、じゃなきゃいいんだね」


 ん? それは、どういう……


「僕は、いつか魔王に勝つ」

 ファイは私を見て、真っ直ぐ言い放つ。


「あなたに、選ばれる男になる。

 それまで、待っててよね」


「うん……うん」

 嬉しくて、私は笑顔で、頷いた。


「じゃあ、今日はもう寝るね」

 とたんに眠そうな顔になって、

「すごく……眠いんだ」

 と、眠そうに欠伸をした。


 今日は一日、戦いっぱなしだったからね


「うん。おやすみ。また明日ね」


 ファイは、その歳相応に戻った顔で、

 自分のベッドにもぐりこんで、寝た。


 その寝顔を眺めながら、

 人のモノって、欲しくなるよね。

 と考える。


 あ、魔王様も、それかな。


 人のモノって、欲しくなるよね。


 じゃあ、手に入った後は?


 考えて、ひとつため息をついた。


「私も、愛されたい、だけなのにな……」


 ぽつりとつぶやいて、

 私もベッドに横になった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「ずいぶんと、ごきげんですね」


「へ? 誰?」


「そろそろ、

 理解してもらわないと困ります」


「は? 魔王様?」


「ご自分が誰の所有物か、

 その身体に教えて差し上げます」


「いやいや、性格変わりすぎでしょ!」


次回も、お楽しみに!

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