第5話、ショタに抱きつかれて触られました
「適正ジョブ検査?」
「そう! 無料だから、受けてみてよ!」
「自分にピッタリのジョブが分かる……と」
大きな街にはなんでもあるんだなぁ、
と気軽に受けてみたんだけど……
「は? あ、あの今なんて?」
「だから、あなたにピッタリのジョブよ」
にっこり、笑って受付嬢が言う。
「それが……」
「『踊り子』」
はー? いやいや、聞いた事無い!
「私も初めて見たわ。
適正が『踊り子』ってでた人」
「そもそもどんなジョブなんですか?」
「すごく珍しい。適正が無いとなれない」
「なにが出来るんですか」
「踊って、仲間を鼓舞する事で、
『再行動』させる事ができる」
そ、そりゃ強いんでしょうけど……
でしょうけど……
「ちょっと踊り子の服、試着してみる?」
「へ? え?」
「さ、こっちにきて、着せてあげるから」
「ちょっと、あの! あー……」
そうして、着せられた、
踊り子の標準服ってヤツが
「め、めっちゃ恥ずかしい!
これ、本当に戦闘時の服ですか!」
いやもう、なんか水着なんだけど!
ビキニなんだけど!
「胸とか半分以上出てるんですけど!
下は普段はいてる下着より小さい!」
「すごいお似合い! スタイル完璧!」
「コレ防御とかどうなってるんです?
敵の攻撃受けられます?」
「そうね。敵の攻撃に対しては無防備よ」
「は? え?」
「一撃でも攻撃を受けたら致命傷
それが、『踊り子』」
マ、マジで……
一応、仮にも、認めてないけど、
聖龍勇者なのに
表向き、魔王討伐を目指しているのに?
「でも、間違いなく貴重ジョブだから
極めれば、有名ギルドから
引っ張りだこよ!」
え? マジで?
「その服、お買い上げします?」
「は? え?」
「購入すれば、今日から踊り子ですよ」
い、今更ながら、
検査は無料な理由がよく分かった。
「ち、ちなみにおいくらですか?」
「大丈夫! お安いわよ!
なんせ、布の面積極小だから!」
□□□□
「で、買ってしまった」
確かに安かった。安かったけどさ。
踊り子か……戦えないし、防御ゼロ……
正直、不安しかない……
まぁでも、貴重ジョブだし。
高レベルギルドに、入れてもらって
高レベルの勇者様と出会って結ばれる……
みたいな未来でもいいかも! うん!
「良い訳ないでしょ」
だいぶ久々に、ポケットから声がした。
「あんた、久しぶりね。忘れてた」
「忘れないで下さい。
魔王と親しくするのもやめて下さい。
変な指輪と一緒に入れるもやめて」
魔王……ねぇ、
昨日の事を思い出して、
チリと胸の奥が痛む。
勝手にきて、好き勝手して、
本当、あの魔王……
──忘れないで。君は、僕のモノだからね
耳元で言われた言葉を思い出して、
ヒリヒリする感情に埋まる。
胸に詰まっていくこの感情が、
愛だの恋だの思いたくない。
ただ愛されたいだけなのに……
ぶつけられるソレは、
思っていたものとは程遠い。
「早く良い人見つけて、幸せになりたい」
両手を広げて、声を上げた時だった。
「おねえさーん!」
後ろから勢いよく抱きつかれた。
「うわっ! え? なに?」
「お姉さん! 昨日はありがとう!」
満面の笑みを見せたのは
「あぁ、昨日の! 少年」
昨日、食堂で会った、少年だ。
「お姉さん、妹も、感謝してて、本当」
「そうなの、それは良かった」
私は少年の頭に手をやって、
「じゃあ、出して」
「え?」
少年が小首をかしげる。可愛い。
「盗ったもの、出して」
「お、お姉さん?」
戸惑う少年に、私は微笑む。
少年は少し押し黙ったあと、
ゆっくりと笑顔を作って、
「あぁ、もしかして、コレ?」
と、ネックレスを取り出した。
宝石のいっぱいついた、豪華な。
多分、昨日あの食堂で、盗んだやつ。
「本当に、盗んでたんだね」
ギルマスは、良い人だった。
確証なく、誰かを犯人呼ばわりしない。
つまり、掴まっていた女の子は
本当にネックレスを盗んで、
ギルマスに見られたんだ。
掴まる前にネックレスを少年に渡して。
「お姉さんには、あげないよ」
「別に良い。それより妹は?」
「別に本当に妹じゃないよ。
協力しただけ。分け前は渡した」
姉弟を装った方が、警戒されにくい。
目的が同じ相手が、協力する事はある。
「本当の妹じゃないのに?
見捨てなかったんだ」
ん? と少年は首をかしげる。
「見捨てて逃げる事も出来たのに」
なのに、しなかったんだ。それは、
「よく、出来ました。えらいえらい」
「は?」
少年が、訳が分からない顔をする。
「えらい? 盗んだのに?」
「そう、せざるを得なかったんでしょ?」
「へ?」
「分かるよ。私も、親無しだ」
子供1人が、真っ当に生きれるように、
この世界は出来ていない。
親が居ないという、その一点だけで
手は、汚れていく。否応なく。
「それは、同情? 許してくれるの?」
「まさか、許さないし、ほどこさないよ。
だから、盗った物だして」
「へ? 昨日はコレだけだよ」
「違う。今、私から盗った物。
最初に、抱きついた時に」
少年は少し息を吸い込んで、
「なんだ、完璧に盗ったと思ったのに」
と、手を開いた。
そこに、龍石と指輪が握られていた。
「完璧だったよ。
盗む時、私の胸、触らなかったら」
「そこにあったら触っちゃうじゃん」
「ちょっとは悪びれなさいよ」
ふう、と息を吐いて。
「指輪の方は、あげるわ」
「へ?」
昨日、洗ったけど、どうしても、
付ける気になれないのだ。
付けてたら、魔王様また怒るし、
捨てるのも売るのも、しにくい。
盗まれたくらいが、丁度いい。
「礼は、言わないよ」
「どうぞどうぞ。石も、持ってていいよ」
「それは、やめて下さい!」
龍石が光って、飛び上がった。
「へ? なに?」
「いきなり盗むとか、あなたなに!」
「石が……喋った?」
龍石は飛び回って、私の手に戻る。
「別に、盗まれても構わないけど」
「やめて下さい、勇者様!
聖龍様に示しがつきません!」
やいやいと話し続ける龍石を見て、
「え? お姉さん、聖龍勇者様?」
と、少年が、驚いた声を上げる。
「まぁ、一応。そうね」
「そして、それが、聖龍石……」
少年は龍石をジツと眺めて。
「欲しい」
ハッキリと、そう呟いた。
へ? なに? なんだって?
「お姉さん、僕はファイ。
ファイラウ・ルークス」
「ん? ファイ?」
「僕、役に立つよ」
「え? 何? なんの話?」
「お姉さんの、ギルドに入れて!」
「へ? え? ギルド?」
私のギルド?
「え? なんで?」
「欲しいんだ。聖龍石。それは僕が盗む」
え? 盗む? 欲しいの?
「やめて下さい! 勇者様何とかして!」
「そう。欲しいの。じゃあしょうがない」
「勇者様!」
「私は、ユリア。
良い人見つけて幸せになる」
「魔王討伐じゃなくて?」
「私のしたい事は、私が決めるから。
ファイのしたことはファイが決めて」
それが『龍石が盗みたい』なら、
別に止めない。
「やってみせてよ」
私の言葉に、
ファイがニィと笑った。
初めて、本当の笑顔を見た気がした。
「ありがとう! ギルドマスター!」
「ちょ! いきなり抱きつかないで!
秒で盗もうとするのやめて!」
「よろしくね! ギルドマスター!」
「ドサクサにおっぱい触らないで!」
「だから、あったら触っちゃうじゃん」
「ちょっとは悪びれろって言ってんの」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「え? なにそれ下着?」
「違う! 踊り子衣装!」
「太ももとか丸見えだし。
胸が揺れてすごいよ!」
「わざわざ言わないでよ、
恥ずかしいのに!」
次回も、お楽しみに!