第4話、小悪魔系な魔王の策略で自らキスするハメになりました
シャワー気持ち良い……
3日ぶりだから極上!
素肌を流れるお湯が気持ちいい。
これは悪魔的だ。
あ、あ、あ、あ、あ、
あぁ、気持ち良い!
この為にすべて差し出してしまいそう。
すでに差し出してるようなもんだが。
「ふう……」
シャワーを終えて、着替えて
そぉ、と浴室のドアを開ける。
宿の部屋は広くて、いい部屋だ。
多分、自分じゃ泊まれなかった。
「あれ? クレア様?」
その、宿をとってくれた魔王の姿が、
見つからなかった。
てっきり、待ち構えてて
捕まえられると思ってたけど
「居ない? なんで?」
部屋の、どこにもいなかった。
「クレア様ー?」
返事がない。
シンと沈黙だけが返ってくる。
なんで? え?
これ、もしかして、捨てられた?
急に、興味を無くされましたか?
きまぐれっぽかったし、
私でなくても、好きに出来るだろうし。
「そりゃ、魔王様だから……」
ぽつりとつぶやいて、
フラフラと、ベッドまで行って座る。
部屋がシンとしていて、静かだ。
「でも……これは……」
この状態で放置されるのは流石に、
「酷い、じゃないですか……」
「何が、酷いの?」
耳もとで声がして、
ビクンと身体が跳ね上がった。
「は? 魔王、さ」
言うより早く、
首元を押され、体がベッドに倒れた。
確かに居なかったはずなのに
いつの間に現れたの!
「あれ? 心配しちゃった?」
魔王──クレアは、にこにこ笑って、
当然のように、私の上にのし上がって、
私の頬をスルリと撫でた。
「べ、別に、心配した訳じゃ」
「じゃあ、なんで泣きそうだったのかな」
そ、それはですね……
「僕が居なくて寂しかった?」
「そうですね……」
そのとおりですよ。
「期待してたの?」
「いや、その」
「なに期待してたか、教えてよ」
「は? え?」
笑顔で何言ってるんですか!
「言わないの? つまりそれは──」
私の耳元に口を近づけて
「なにしても良いって事?」
ブワッと顔が熱くなったのを感じる。
今、どんな顔しているのか自信がない。
当の魔王は、
そんな私の顔を間近で眺めて、
「そんな心配しなくても、
僕は君の嫌がる事はしないよ。
拒否できるもんならね」
へ? え?
「い、いやいや、あの!」
ふふっ、とクレアは笑った。
あぁ、今、分かった。
この性格は……
「『小悪魔系』なんですね」
「魔王に向かって、
『小悪魔』とか言うのは君くらいだよ」
そう笑って、私の頬に口を付ける。
チウ、と嫌らしい音がして、
ますます顔が赤くなる。
「まぁ、」
と、クレアは、ポツリと呟いて、
「魔王と居たがる人間も君くらいだけど」
と、体を起こした。
へ? なんか悲しそう?
私もようやく、
ベッドから体を起こして、
乱れた髪を直す。
魔王だから、
大抵の人間に嫌われてる、とか
そういうの、気にしてるのかな。
その真意を知りたかったが、
クレアはすぐに、ニッと笑い
「ところでさ、コレ、何?」
と、手に持ったものを見せてきた。
「あ、」
ギルマスにもらった指輪だ。
シャワーの前に外したから。
「か、返して下さい!」
「他の男のもらったんだ。そんなに大事?」
「大事とか、大切とかじゃなくて、
返して下さい!」
クレアは、ふぅんと、
面白くなさそうに私を眺めて、
おもむろに、その指輪を
自分の口に、ほおりこんだのだ!
「な、なにやってんですか、クレア様!」
コロコロと、口の中で弄んで、
冷たい目でこっちを見下ろす。
え? 怒ってらっしゃる?
他の男に指輪もらったから?
え? マジで?
「返してほしかったら……」
舌の上の指輪を、こっちに見せて、
「取ってみなよ」
へ? え?
「君の、お口で、ね」
嫌らしく笑うその顔が、
正しく魔王に見えた。
「あ……」
心臓が変な音を立てて、
コクと喉が鳴った。
「嫌なら別に良いよ。飲み込んでも良い」
「やめて!」
「じゃあ、わかるよね?」
この……魔王が! と、心で呟く。
「ほら、おいで」
伸ばされた両手に促されて、
ベッドから立ち上がり、
クレアの首に手を絡める。
羞恥と敗北感で、頭の中が
グシャグシャしていく。
「ちゃんとやらないと、取れないからね」
「わかってる!」
私は小さく息を吸って、
覚悟を決め、
嫌らしく笑うその顔、
いつ見ても綺麗なその顔の、
唇に、自分の口を押し当てた。
コロと指輪が転がる音がする。
指輪は、二、三回舌の上で逃げて、
その度になんか変な音が漏れた。
ん……
あんまり恥ずかしくて、
私の口からも声が漏れる。
心臓が大きく鳴り響いて、
グシャグシャになった頭が、
苦痛とも快感とも区別のない、
感情に支配されていった。
ようやく、私の口に指輪が戻って、
口を離された時には、息も限界で、
フアと吸い込んだ私の顔を、
満足そうにクレアは見下ろし、
「よくできました」
と、私の頬を撫でた。
反発する気力もなくて、
力なくベッドに座り込んだ私の耳元で、
「今日は、この辺で許してあげるよ」
と、クレアが囁く。
へ?
「物足りない?」
いやいや、そんな事は、
「でも、今日はもうおしまい。
時間だ」
え……
「僕がこっちに来れる時間は限られてる。
出来る事もね」
出来る事も……
「だから君には『来て』欲しいんだ」
そう言って笑う。ふんわりと。
「じゃあ、またね。また会いに来るよ」
そして、ツイと私の耳に顔を近づけて、
「忘れないで。君は、僕のモノだからね」
そう呟き、私の心臓を大きく鳴らした。
バキバキと空間に裂け目が出来て、
魔王クレアルドはその向こうに消えた。
ドッと疲れがでて、
うなだれた私の口から、
指輪が落ちた。
ようやく喋れるようになった口から、
「あの魔王が……」
と、小さく漏れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「お姉さん!
昨日はありがとうございます」
「じゃあ、出して」
「え?」
「盗ったもの、出して」
次回もお楽しみに!