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第3話、ギルマスに口説かれて失恋しました

「姉ちゃん、名前は?」


「ユリアよ。勇者様」


 にっこり笑って、男たちに笑いかける。

 広い食堂、沢山の男たち。


 そう、ここは私の独壇場!

 素晴らしき合コン! 婚活!


 よく見たら、みんな全然男前じゃん。

 実力あるギルドっぽいし、

 真面目に働いてるだけで良物件じゃん!


「ユリア! さぁ!

 好きなだけ飲んでくれ! 祝杯だ!」


 さっきまで、

 金を持ってこないと少女を突き出す!

 と叫んでいた男が、酒をついでくれた。

 きっと彼がギルドマスターだ。


「祝杯? なんの?」


「大きな仕事が片付いたんだ。

 魔物が異様に増えて人が襲われるって、

 神殿から依頼があって」


 おぉ、神殿から依頼がくる有名ギルド!


「遠くのダンジョンが原因でさ。

 やっと攻略して帰ってこれたんだ」


 普通に人を助けてる良い人達!


「神殿から報酬も出たし、

 ドロップアイテムもたんまりさ!」


 テーブルの上に、

 無造作に積み上げられてる宝飾品は、

 血と汗で勝ち取った戦利品な訳だ。


 そりゃ盗まれたら怒るわ。


「その功績で、我がギルドに

 3つ目の星が贈られたんだ」


「星?」


 え? なに? 星?


「知らねぇのかい?

 功績を上げたギルドは、

 神殿から星が贈られ、星の数で

 より大きな仕事がもらえるんだ」


 なるほど。


「そして、5つ集めたら、

 はれて魔王討伐が許されるんだぜ!」


 ブハッ! っと、

 飲んでいたお酒を吹き出す所だった。


「え? 魔王討伐って、星がいるの?

 普通に討伐しにいけないの?」


「そりゃそうさ。

 神殿は、魔王がどこにいるか、

 5つ星ギルドにしか

 教えてくれねぇんだ」


 そうなの?


「レベルの低い奴が挑んでも、

 やられるだけだからな。

 命が無駄になる」


 そうだけど、そうだけども!

 すんなり行けるとは思ってないけど、


 そう考えると、

「3つ星って、すごいじゃん!」


「だろ? すげぇだろ」


「さすが、勇者様! すごい! 素敵!」


「勇者は大げさだ。

 俺らは暮らす為に戦う冒険者で」


「何言ってるの!

 人の為に命をかけてる人間が 

 勇者じゃなくてなんなの!」


 そうだ、困ってる人達がいたはずで、

 ダンジョン攻略って簡単に言うけど、

 何十日も命がけだったはずだ。


 私は立ち上がり、両手を広げ

「誰かの為に、命がけで戦う皆さんは、

 紛れもなく勇者様よ! 胸を張って!」


 労いと感謝を、素直に口にだした。


 歓声と口笛が、あちこちからあがった。


 ほんと、どっかの石とは大違いだ。


「お前、良い奴だな」


「え、何?」


「いや。なんか食うか?

 好きなだけ食え!」


 やった! お腹すいてたの!

 田舎にはないご馳走様!

 祝の席だから豪華!


「良い食いっぷりだ! どんどん食え!」


「ふぁい!」


 やっばい! めっちゃ良い人達じゃん!

 最初はゴロツキかと思ったけど。


 あ、ギルドルームとかあるかな、

 今日泊めてくれないかな。


 あ、ついでにギルドに入れてもらえば、

 三ッ星からのスタートじゃん!


 モグモグしながら考えてたら。


「あ、これ、やるよ」


「ん? なに? 指輪?」


「戦利品の1つだ。

 宝石いっぱいで綺麗だろ?

 お前のほうが綺麗だが」


 こ、これは!

 口説かれてる! 口説かれてるよね!

 脈あり! 脈ありよね!

 よく見ると良い男だし!

 実力あるギルマスだし、

 気前がよくて優しいし、最高じゃん。


「ほら、手、出して」


 そう言って、ギルマスは私の手をとる。

 指輪をはめるために、


「手も綺麗──」


 と、誉めようとした所で止まった。


 あ……しまった!


 慌てた時には遅かった。


 そうだ、私の手は──汚い。


「あ……ダメ」


 隠そうと引っ張ったけど、

 ギルマスはそれを許さなかった。

 ガシと私の腕を掴んだまま、

 その手をひっくり返した。


「いっ……」

 私の口から、声が漏れる。


「や、やめて下さい」


「どうして?」


「汚くて……恥ずかしい」


 私は顔を反らして、歯を食いしばる。


 私の手は豆だらけで、

 ガサガサゴツゴツしていて、

 おおよそ綺麗では無かった。


「お前、何言ってんだよ」


 ギルマスは私の手のひらを見つめて、

 そこにある豆をなぞって。

「剣が、使えるな」

 と呟いた。


「あと、拳術もできる。ついでに、

 畑仕事や野良仕事をやってきた手だ」


 そうだ。それは、孤児が

 一人で生きぬく為に、

 一人で旅をする為に、

 してきたこと、身につけた事の代償。


 そう、ならざるを得なかった手。


 私は恥ずかしくて、顔をしかめる。

 どんなに服を着飾っても、

 メイクでごまかしても、

 そこだけはごまかしが効かない。


 ギルマスは、ふっと笑って。


「恥ずかしがるなよ。

 とても、綺麗だ」


 と、呟いて指輪をはめて、

 その手に口つけた。


 へ?


「お前が言ったんだろ?

 誰かの為に戦う人は、紛れもなく勇者だ

 なら、何かの為に努力した証のこの手が

 綺麗でなくてなんなんだ?」


 あ……


 ジンっと心が濡れていく。

 口付けられた手の平が、

 熱を帯びていく。


「今日は、

 好きなだけ食べて、好きなだけ飲め。

 俺は、お前と飲めて楽しい」


 姫戯嬢じゃないと、バレたと思うが、

 ギルマスは変わらず優しくて。


 ひとしきり、楽しく食事をして、


「お前ら、そろそろお開きにするぞ!」

 と、手を叩いた。


 祝宴は、すぐにお開きになって、

 ギルマスの統制力の高さが分かった。


「本当に、送ってかなくて良いのか?」

 聞いてくるギルマスに、


「うん、大丈夫だから、

 早く奥さんの所に帰ってあげて」

 と、笑いかける。


 ギルマスのその手には結婚指輪が

 光っていた。


「そうか。今日はありがとな。

 みんな楽しく酒が飲めた」


「うん、またいつでも」


 笑って、その場は解散になった。



  □□□□



「あー、失恋した気分」


 食堂からの帰り道、外はもう真っ暗で。

 指輪を眺めながら呟いた。 


 良い人には、すでに相手がいる。

 婚活の鉄則だ、仕方ない。


「ギルドルームに泊めてもらうんだった」


 今日の宿、どうしよ……


 突然、後ろから羽交い締めにされた。


「な!」


 叫ぼうとした口を、

 誰かが押える。


 暗がりから、数人の人影が出てくる。


 なに? なになに? これは!


──強盗!


 しまった! 今、女の格好だった。


 女性の一人歩きは危ない。

 人間にも魔獣にも狙われ安い。


 だから、いつもは男装してるんだけど、

 油断した!


「やめて……この!」


 いつもなら、なんとでもなるけど、

 ドレスは動きにくい、武器は荷物の中!


「やめて! 離して!」


 暴れる手足が通用しない、

 強い力で掴まれて、動けない。


 ダメだ、これは……もう


 絶望して、歯を食いしばった時だった。


 パァンと音を立てて、

 羽交い締めしていた男が吹っ飛んだ。


 反動で私も地面に膝をつく。


 なに? なにが起こった?


「いやぁ、良くないよねぇ、

 こういうのって」


 一人、男の声が聞こえてくる。

 弾んだ、楽しそうな。


 見ると、フードを被った男が

 襲ってくる強盗に腕を突き出して──


 強盗が、吹っ飛んだ。


 へ?


 傍目にも、桁違いに強いのが分かった。


 それは強盗の奴らにも伝わったようで、

 バタバタと逃げていく。


 これは、助かった?

 助けてくれた? マジで!


「あ、ありがとうございます」


 フードの男が歩いてくる。


「大丈夫? ユリア」


 名前を呼ばれ、首を傾げる。

 どこかで会いましたっけ?


「あ、さっきのギルドの人ですかね」


 でもこんな人いたっけ?

 チラと見えた顔が、なんかイケメン。


 男は答えずに、私に両手を伸ばして、


「へ? え? うわっ!」


 私を抱き上げたのだ。

 お姫様だっこで、軽々と。


「な! ちょっと、あの!」


「僕を誰だって?

 やだなぁ、忘れちゃった?」


 パサっとフードは外れて、顔が見える。

 紫の髪で、ニッコリ笑った、その顔は、


「え? ま、魔王さま!」


 魔王、クレアルド様!


「街中で『魔王』は、マズいね、

 僕の事は、クレアって呼んで」


 ふんわり、と、変わらぬ美形で笑って。


「ク、クレア、様?……え?」


 あなた性格変わりすぎじゃないですか!

 確か、前は、俺様系で! 

『僕』とか言ってなかったのに!


「な、なんで性格違うんですか」


「あぁ、僕は『こっち』に来る時、

 体の一部しか送れないんだ。

 だから性格の一端だけになる」


「い、一端?」


「でも、記憶は同じだし、

 全部、僕には変わりないからね」


 現れる度に、性格違うって事?

 困るんですけど!


「な、なんで、いらっしゃったんですか」


「また来るって、言ったよね」


「言いましたけど……」


「こんな可愛い君、ほっとけないよ」


 へ? え?


「ドレス、本当可愛いね。よく似合うよ」


 お、お姫様だっこしたまま、

 耳元で呟かないで下さい!


「じゃあ、行こうか」


 そう言って、歩き出す。

 私を抱いたまま。


「ちょ、どこに行かれるんですか!」


「そりゃあ『お持ち帰り』だよ」


 は? え? それは


「それは、どういう?」


「嫌?」


「嫌とか、良いとか、

 そういう問題じゃなく、全然なく!」


「嫌なら、別に良いよ。

 無理にとは言わないよ、僕はね」


 お! この性格の魔王様、

 なんか物分かりが良い……


「でも、宿とってあるよ」


 へ?


「君が良ければ、泊めてあげるのになぁ、

 泊まる所、ないんでしょ?」


 あ、あ、あ、あ、あ、

 そんな家出少女を引き込むノリで……


「どうする? 君を連れて帰って良い?」


 そんな笑顔で、

 腕に抱かれたまま言われましては……


「あの……最初に、シャワー浴びても

 良いでしょうか……」


「もちろん! 好きに浴びて」


 屈する以外に、ないじゃないか。


「服は脱がせてあげるね」

 また耳元で。


 は? え?


「だって、一人じゃ脱げないんでしょ?

 それ」


 あ……ドレス、背中のファスナー……


「お、お願い、します……」

 私は諦めて声を絞り出した。


「うん、じゃ、行こうか。楽しみだよね」


 抱っこされ、ズンズン歩かれながら。 

 物分かりが良いと思ったのを後悔した。


 じゅうぶんやっかいだし、

 魔王様は魔王様だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「ところでさ、コレ、何?」


「か、返して下さい!」


「返してほしかったら……

 取ってみなよ

 君の、お口で、ね」


次回も、お楽しみに!


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