第2話、ショタに懇願されて脱ぐ事になりました
「よう、兄ちゃん、
城下町アリアンは初めてかい?」
「分かりますか。
田舎から3日かけて歩いてきました」
「どうりでボロボロなわけだ。
何か買い取るかい?」
「あ、コレ、換金したいんですけどー」
と、カウンターに白い石をおいた。
「ヤーメーロー」
石がカタカタ揺れてなんか言ってる。
「兄ちゃんコレ、龍石だろ?」
「あ、分かりますか?」
「コレを売りたいって?」
「えぇ。別に安くてもいいです」
「お止め下さい、勇者様!」
とかなんとか、石が言ってる。
「あ、なんか喋るのは気にしないで。
私──じゃなくて、僕から離れると
力なくすんで」
「それが人のすることですか!
勇者様!」
「お前に言われたく無い、石っころ」
買い取り屋の店主は、私の顔を見て、
「そうか、兄ちゃん。
伝説の聖龍勇者なのか!」
「え? いや、それは人違い……」
「──白き衣をまとい、聖龍石を胸に、
魔王を押し倒す勇者が、地に下り立つ」
なにその、テンプレみたいな言い伝え。
「それが兄ちゃんか!」
「いや、白い服着てないし。人違いです、
龍石売りたいだけで」
店主は石見て、残念そうに首を降った。
「残念だが、意思のあるアイテムは
買い取れねぇ。呪いだと困るからな」
マジで?
「代わりといっちゃあなんだが、
聖龍勇者様には、これをやろう」
店主がカウンターに何かを乗せた、
革の鞘に包まれた、ナイフ?
いや、短剣?
「これは、アリアンソードだ。
名産の魔法剣なんだが
これ、兄ちゃんにやる」
「え? いいんですか?」
「もちろんだ!
だって、魔王を倒してくれる
伝説の勇者様だからな!
これくらいしなけりゃ!」
店主は気持ちいいほどの笑顔で。
「その剣を魔王の心臓に
突き立ててくれ!」
その笑顔に押されて、剣を受け取った。
「は……ははっ……ありがとう、ございます」
□□□□
「みんな、魔王は倒して欲しいよね」
歩きながら、もらった短剣を眺める。
「民衆の願いです。
平和の為に魔王討伐下さい、勇者様」
龍石がなんか言ってる。
「いや、良い人いたら嫁に行くから」
「魔王は野放しでいいんですか?」
「いやぁ、最悪魔王様でも全然いいけど
討伐されたら終わりだし
最終手段かなーって」
「魔王を保険にする人、初めて見ました」
大体、あれは愛されてるのか疑問だ。
不意打ちでキスされただけで。
まぁ、来いと言われたから、
一応、目指しはするが。
「あー、宿に泊まってシャワー浴びたい」
村からここまで、3日かかった。
その間、野宿だっだのだ。
「あんたを売って、
そのお金で宿取るつもりだったのに」
「やめて下さい! 呪いますからね!」
「とりあえず、ご飯食べよ。温かいもの」
と、大衆食堂のドアに手をかけた。
グアシャーン!
と、ドアは開いて、人が転がりでた。
「うわっ!」
それをなんとか受け止める。
人? 少年だ。
茶色のフアフアした髪の少年。
「ちょ! あんた大丈夫?」
少年は私の服をガシッっと掴んで、
「お兄ちゃん、助けて!
妹がつれてかれちゃう!」
へ?
「よう、兄ちゃんなんだ?
ソイツの関係者か?」
食堂の中から男が現れる。
「いや、だだの通りすがり──」
「僕のギルドマスターさ!」
おいこら、なに巻き込んでんのよ。
「お願い助けて! 捕まってるのは、
僕の妹なんだ!」
ガシッと腕を掴んで、涙目で、
よくよく見れば可愛い顔した少年で、
そんなふうに見上げられましたら、
邪険にもできないけど、だからって!
食堂の中には、沢山の男たち。
多分ギルド──冒険者の集まり、
なんだろうけど。
その真ん中で、腕を掴まれてる女の子。
「お兄ちゃん!」
おぉ、なんか、看過できないじゃん。
「妹を離せ!」
「だから、金さえ持ってくれば返すって。
でなきゃ、守衛に突き出す」
ん? 守衛?
え? そんな話なの?
「すみません、なんのお金ですかね?」
とりあえず聞いてみる。
「こいつが盗んだアクセサリーの金だ。
宝石がいっぱいついた豪華な」
へ? 盗んだ?
「あたし、盗んでないもん!」
女の子が泣きながら叫んでいる。
「妹は盗みなんかしないよ! 本当さ!」
なるほどそういう話しか……
少年は私の腕を引っ張って、
「お兄ちゃんお願い!
お金を出すか、ネックレスを渡すか、
妹の無実を証明してよぉ!」
「いや、要求がハードでしょ!」
こっちは今日の宿にも困ってるのに!
「兄ちゃんどうすんだ? 金だすのか?
もしくは、姫蟻嬢を
手配するれば許してやる」
「え? なに、姫戯嬢?」
「元々、売った金で、お嬢に来てもらい、
楽しく飲もうって話だったんだ」
聞いた事ある。大きな街では、
お金もらって一緒にお酒飲む、
めっちゃ綺麗な女の人達がいるって。
彼女達は、敬意を込めてこう呼ばれる。
姫戯嬢
「知り合いに一人くらい、いないか?
とびきり美人じゃないと納得しないが」
食堂の中から笑い声があがった。
「ねぇ、少年。本当に盗んでないの?」
「盗むわけないだろう? 僕の妹が!」
「無実なら、別に突き出されても、
いいじゃない?」
「それはダメだよ!……ダメなんだ!」
探られたくない腹がある訳ね。
私は、はぁ、と息を吐き出した。
仕方ない、壮大に巻き込まれてやるか。
「わかった!」
男に向かって叫んだ。
「姫戯嬢を雇ってくればいいのね」
「とびきりのな!」
「わかった。ちょっと待ってて。
少年! 手伝って!」
私は少年の手を引いて、
その場から走り出した。
「え? ど、どうするの?」
「そこの路地、人、来ない?」
「へ? 行き止まりだし、来ないと思う」
「じゃ、ちょっと見張ってて」
「へ?」
私は路地の影になったところで、
上着を脱いだ。
「お、お兄ちゃん、お姉さんだったの?」
「こっち見ないで!」
「はいっ」
そして荷物の一番底から引っ張り出す、
勝負服のドレス!
真っ赤でキラキラして、
胸元チラ見せ! ザックリスリット!
婚活の為に準備したドレス、
こんな所で着るとはね。
それと、金髪ストレートのウィッグ!
知ってる。男は金髪が好き。
「お姉さん、全然別人!」
「人は服をベースに中身見るからね。
ちょっと背中のファスナー上げて」
「は……はいっ」
このドレス、一人じゃ、着れないし、
脱げないのよね。
そして、最後に、メイク道具!
ご所望は、とびきり美人だから、
派手に! 華やかに! リッチに!
「すごい……めっちゃ綺麗。
お姉さん、すっごい美人!」
「少年、覚えておきなさい。
美人って、いくらでも作れるの」
「人間不信なりそうだよ」
「さ、食堂に連れて帰って、
妹さんを助けるよ!」
「うん!」
大衆食堂の扉を開けると、
中の空気がピタリと変わった。
すべての視線が、私にあった。
あぁ、なにこれすっごく気持ちいい!
その中をツカツカ歩いて、
あの男の前に立つ。
「へ? 姉ちゃんもしかして」
「とびきりの美人をご希望、
と聞いたけど、私でよろしくて?」
にっこり、極上の笑顔で。
「も、もちろんだ!
姉ちゃんより綺麗な奴は見たことねぇ」
お世辞にしては上出来よ。
「じゃあ、その子を離してくれる?」
「もちろん! おい、離してやれ。
少年、もう来るなよ」
解放された女の子が、
「お姉さん、ありがとう!」
と、叫んでいる。
少年が、こっちを心配そうに
「あの……」
と、声を出す。それに、後ろ手を降る。
いいからいいから、
子供は帰りなさい。
気にしなくて良い。
なぜなら、つまりここは!
私、単独の合コン会場!
「違いますからね」
ポケットの中で、龍石が小さく呟いた。
さぁ、戦闘開始だ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「や、やめて下さい」
「どうして?」
「汚くて……恥ずかしい」
「恥ずかしがるなよ。
とても、綺麗だ」
次回も、お楽しみに!