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第15話、ショタが優しく看病してくれました

「マスター! やったよ!

 うちのギルドに星が送られるって!」


 ギルドルームに戻ってきたファイが、

 嬉しそうに報告してくれた。


「え? 星? 神殿から?」


「うん、そうだよ。昨日、アイツ……

 エインジェルの男を突き出したから」


 あぁ、タドリ。

 捕まえたら星が出るって情報、

 本当だったんだ。


 私はあの疲れた顔を思い出して、

 ボスんとまたベッドに横になった。


「まだ、体辛い? マスター」


「もう、すっごい。全身筋肉痛」


 あれから、まる一日くらいたったけど、

 聖龍化の影響で体が全然動かない。


「使ううちに、慣れるといいね」


 ファイは笑って言うけど、

 できればもう使いたくない……


「あ、パン粥、買ってきたよ」


「ありがとー、助かるー」


 嬉しい。ファイが優しい。

 1人じゃないって素晴らしい。


 粥の器と、スプーンを持って、

 ファイが私のベッドに腰掛ける。


 ん? ちょっと待って。


「はい、マスター、口あけて」

 笑顔でスプーンを差し出す。


 い、いやいやいやいや


「じ、自分で食べられるから」


「何言ってるの? 

 腕あげるのも辛いでしょ。

 スプーン掴むのも無理でしょ」


「いや、そのくらいは……なんとか」


「そう言ってコップ取りこぼして、

 ベッドびしょ濡れにしたんでしょ」


……はい、その通りです。


「無理しないで。僕ちゃんと出来るから

 はい、あーん」


「あ……あーん」


 なにこれ恥ずかしい。

 かなり恥ずかしい。


「美味しい?」


「うん、美味しい」


「ふふっ。良かった。

 はい、じゃ、また、あーんして」


「あーん……」


「今日は素直だね、マスター」


 そりゃ、一切、体が動かせなきゃ。

 素直にもなりますよ。


「口拭くから、こっち向いて」


「いや、さすがに……」


「向いて」


 グイと顔を向けられて、

 ファイに顔を拭かれる。

 あぁ、もう、好きにして。


「あ、ありがと、ファイ。もういいよ」


「まだ、だよ」


 ん? まだ?


「まだ、足りないんだ」


 なにが?


 ファイがベッドに腰掛けて、

 こっちに体を向ける。


「僕は、あなたを裏切ったんだよ」


 あぁ、そうか。気にしてるのか。

 だからこんなに、優しいのか。


「追い出されても、罵られても、

 殺されたって当然なのに」


 なのに私が、いつもと変わらないから、

 どうして良いかわからないのか。


「別に気にしなくていいのに」


「そういう訳には、いかないよ」


「だって、ファイ、最初から

 龍石盗むために、一緒にいたし

 それを『好きにして良い』って、

 私言ったし」


 はじめから、そういう子だと知ってる。

 ガッカリも幻滅もしてない。


「だから『好きに』したんでしょ?

 自分のほしい物の為に」


 何かを欲する事は、生きる為に必要だ。


「なら別に怒らないよ。

 これからも好きにして良いし、

 それより一緒にいてくれて、嬉しい」


 1人でないという事が、

 どんなにありがたいか知ってる。

 どんな理由でも、側にいてくれる事が

 泣くほど嬉しい。


「僕、まだココに居て良い?」


「もちろん。居てくれると嬉しい」


「僕、これからも好きにして良い?」


「うん。いくらでもして」


「じゃあ、あの」

 っと、ギシと、ベッドに乗り出して。


「え? なに?」


「ちょっと上着脱いで横になって」


「……へ?」



  □□□□



「マスター、気持ち良い?」


「き、気持ち良い……」


「良かった。続けるね」


「こういうの、って……どこで覚えるの?

 マッサージって」

 

 私はベッドにうつ伏せになったまま、

 背中を押されながら聞いた。


「んー。前によく言ってた店にさ

 お金貰って一緒にお酒飲むお姉さんの

 待機所があってね」


 あぁ『姫戯嬢』と呼ばれる職業の。


「そこで、お姉さん達にマッサージして

 食べ物やお駄賃を貰ってたの。

 すごく可愛がられてさ」


 あぁ、そういうちゃんとした

 働き方もしてたんだ。


「まぁ。マッサージついでに

 色々盗んでたから、出禁になったけど」


……前言撤回


「盗んだら、普通みんな怒るのに

 怒んないのはマスターくらいだよ」


 え?


「さ、次、反対ね」


「反対?」


「ほらほら、仰向けになって」


「ひゃあ! 

 や、優しくひっくり返して下さい」


「膝立てるよ」


「うわ! めっちゃ痛い、

 太ももとふくらはぎ、めっちゃ痛い!」


「聖龍の時、しっぽで地面とか

 割ってたからねぇ」


 地面、割ってたの?

 それが足って事?


「今、もみほぐすから、我慢して」


「ぎゃ! い、いたい……痛い!」


「すぐに気持ち良くなるよ」


「台詞がヤバイ!」


「この辺、硬いね」


「う……内もも痛い!」


「足閉じないで! 開いて!」


「だから、台詞がヤバイ!」


 だいぶ長い間、揉みしだかれて、

 ようやく気持ち良くなった頃には

 ぐったりで。


「ほんとだ、だいぶ楽になった」


「でしょ?」


 本当に筋肉固まってたんだなぁ。

 ほぐすのも大変だったろうに。


「ありがとう、ファイ。すごく助かった。

 お礼するから、なんでも言って」


「なんでも?」


「え? あぁ、うん。なんでも」


 マッサージしてくれたし。

 ほんと楽になったし。


「じゃあ……あの」


 と、ファイは言いにくそうに、

 恥ずかしそうに、顔を反らしながら、


 あれ? こんなファイ初めて見る。


「僕。マスターと、一緒に……寝たい」


「……へ?」


「いや……だって、マスター今寝てるの、

 僕のベッドだし。

 マスターが自分のベッドで

 水こぼしたから」


 うっ……。そうだったわ……。


「何もしないから……

 朝まで一緒に寝るだけだから」


 と、恥ずかしそうに言う。


 あれ? と、私は気がつく。

 もしかして、これは……


「うん、いいよ」


「……いいの?」


「うん、おいで」


 笑って呼ぶと、

 ファイはフワと笑顔になって。

 いそいそと私の横にもくりこんだ。


「えへへっ」


 ファイが子供っぽい笑顔を見せて、

 ギウと私の胸元に抱きつく。


 そうだ、忘れていた。

 言動が大人びているが、

 この子は、まだ子供と言って良い歳で、

 小さい頃に両親を殺されて、

 1人で生きてきたんだ。


 思えば、ちょこちょこ、朝、

 布団に潜り込んできたのは、

 そういう事か。


 まだ、欲しいよね。親の愛情が。

 それに代わる、なにかが。


「マスター……あの、ごめん」


 ファイが震える声で

 顔をつけたまま言う。


「え? なに?」


「ごめんなさい……

 あの、ごめんなさぁい……」


 声が、泣き声になっていく。


 あぁ、謝ってるのか。昨日の事を。

 泣きながら、顔も見れずに。


 謝れるようになったんだね。

 成長したねぇ、うん。


 私には、ファイの頭を優しく撫でて。


「ファイ、大好きだよ」

 笑って言ってあげる。


「……へ?」

 ファイが顔をあげて、

 その涙目と目が合った。


「大好き」


 笑顔で言うと、

 またグシャリと泣き顔になって


「うっ……ぐすっ……ひっく」


 私の胸に顔をつけ、また泣き出した。


 その頭を撫でながら、私も目を瞑った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『次回予告』


「アリアン皇帝陛下の入室です」


「あれが……アリアン皇帝陛下? え?

 若い! そしてカッコイイ!」


「マスター、だらしない顔しないで」


次回も、お楽しみに!

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