第13話、盗賊に拘束されて服の中を探られました
「わっちは、タドリ。
タドリードっていいやす。
しがない雇われ盗賊でして」
と、その男は言う。
喋り方は、そんな、なのに、
若い男で、切れ長の目をした男だ。
ただ、表情はほとんど感じ無い。
私は床に座って、
両手を後ろで拘束されたま、
男を見上げる。
ちなみに、胸元は、はだけて、
谷間と下着に包まれた胸が
半分以上覗いたままなんだけど、
気を利かせて、シャツを閉じてくれる
なんて気はなさそうだ。
「ちなみに、どこに雇われてるの?」
タドリに聞いてみる。
「それは流石に言えませんぜ、勇者様」
「冥土の土産に教えてやるよ。
みたいなの、ないの?」
「そういうのが、本当に
冥土の土産になる事は、
ほとんどないので」
なんだ、残念。
「それに、あなたの命を取るまでは、
仕事じゃあないんですよ」
え? そうなの?
「簡単には殺せやせんよ。
あなたは、自分の価値を知らなすぎる。
聖龍勇者って奴を」
どんな価値があるのか、
教えて欲しいもんだ。
「さ、聖龍石を出してくだせえ。
持ってる事は知ってやす」
「嫌だ、って言ったら?」
「沢山の男を呼んで、みんなで無理矢理、
あなたの服を剥ぎ取りやす」
タドリは躊躇なく言い放つ。
「そして、みんなで、
あなたの体のいたる所を調べます。
全員が満足するまで、ねぇ。
それは、嫌でしょ?」
「い、嫌です」
「だから、正直に教えてくだせぇよ。
今なら、わっちしかいないんで」
と、男は興味なさそうに言う。
私はふうと息を吐き出す。
「さ、聖龍石はどこにあるんで?」
と、促されて、答える。
「胸の……下着の中。ブラと胸の間……」
へぇ。と、
タドリが私の胸に視線を向ける。
「左右どっちです?」
「……探してみて」
「……は?」
「好きなだけ、確かめて」
私は、タドリを見上げて言い放つ。
表情のないその眉が、ピクリと動く。
「当たるのと、外れるのどっちが良い?」
笑ってそう聞くと、
タドリは顔をしかめて、
「あぁあぁ、こういう時は従順になる女が
タイプなんですがね」
と、心底嫌そうに吐き捨てる。
「そりゃ、分かりあえそうに無いわね」
軽口を叩くと、
タドリは私の前にしゃがみこんで、
ガッっと私の顔を掴んだ。
「まぁ、いいでしょ。こんな時まで
強気な女も、嫌いじゃありませんぜ。
お望み通り、好きなだけまさぐって
やりやしょう。泣いても許しやせんよ」
ははっ、と
私は掴まれたまま笑ってみせる。
「やって見せてよ」
ギリと、歯を食い縛る音がする。
タドリの手が、勢い良く、
服の中に突っ込まれた。
選んだのは、左。
心臓がある方。
下着と胸の間を、下がっていく指。
「あぁ……当たりだ」
タドリの手が、聖龍石に触れた。
その瞬間に呟く。
「……レイ」
「な!」
服の中から光が漏れた。
バシュンと憑依音がして、
タドリの体のがのけぞる。
そしてゆっくり、返ってきた時、
その目が、緑に光っていた。
「だから……こういうのは、
本来の用途じゃないんですけど」
と、タドリに憑依したレイが言う。
「レイ。ありがと」
タドリの体は、聖龍石に入り込まれて、
その体をレイが操っていた。
「通常、戦ってる敵を乗っ取る、
なんてできませんからね」
と、私の拘束を解きながら話す。
「警戒中の相手に入り込む
なんてできません」
「じゃあ、今は?」
「精神的に隙きだらけだったのと、
向こうから触れてきたので、なんとか」
隙き1つも作らずに、
女性の胸を触れる男は、そうは居ない。
「外れましたよ」
「ありがとう、レイ」
「あと、長くは持たないんで、
急いで逃げて下さい」
「あ、ちょっと待って」
「なんです?」
「ファイ、助けなきゃ」
私がそういうと、レイはタドリの顔で
「は?」
と、心底理解できない、って顔をした。
□□□□
……ピチョン
と響く、水滴音に、すすり泣きが交る。
……ひっく
多分、私にしか区別はつかない。
……ひっく……えっぐ……いっく……うっ……
だから、見つける事ができた。
「ファイ」
包まれた袋に、声をかける。
中から、聞こえていた
すすり泣きが止まる。
「待って、今ほどくから、すぐ出す」
「……ま、マスター……ど、どうやって」
「まぁ、ちょっとした反則で」
と、袋から出たファイに、
緑の目をしたタドリを指す。
「へ? え? 聖龍石って、
人も乗っとる事もできるの?」
「長くは持ちませんよ」
と、レイがタドリの体で言う。
「だから早く逃げよ、ファイ」
「で、でもマスター……僕は、あなたを
裏切って……今更……」
と、ファイが泣き顔を見せる。
私は、その小さな体を抱きしめる。
「……へ?」
「怖かったね。もう大丈夫だから」
「あ……」
ギウと抱きしめてから、体を離し、
その顔を真っ直ぐ見つめる。
「私は仲間を裏切らないし、見捨てない。
あなたは、今も、私の仲間よ、ね」
ファイの、涙でいっぱいの目が見開く。
「私を欲しい、て言ってくれて
嬉しかった」
顔を撫でて笑いかけると、
ファイの顔に赤みがさす。
それが可愛くて、頬に両手で触れる。
年相応に幼い、その顔。
その口を私の口で包んだ。
ビクリと、ファイの体が反応する。
ファイが目をつぶって、全て委ねる。
フアと、口の端から、吐息が漏れた。
「……これが、大人のキス。覚えた?」
荒い呼吸を繰り返しながら、
ファイはコクコクと頷く。
「続きは、帰ったらしてあげる。
だからお願い。案内して!
私じゃ、道わかんないの!」
「ま、任せてよ、マスター!」
ファイはいつもの調子で、走り出した。
それを見ていたレイが、
「まったく……」
と、タドリの顔で呆れていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「やれやれ、お前は世話が焼けるな」
「ま……魔王様
あ、ありがとうございます」
「お礼なら、
その口で支払ってくれれば良い」
……へ?
次回も、お楽しみに!




