第10話、執事系魔王に攻められ咥えさせられる
「マスターから……離れろ! 魔王!」
ファイの叫びが、路地に響く。
「嫌ですよ。自分のモノを、
どうしようと、私の勝手です」
クレアは片手でグッと私を抱きしめる。
「ちょ! やめて、離して!」
「それで私が許すとでもお思いですか」
「へ? え?」
「ご自分に立場を、まだお分かりにない。
あなたも、あの子も」
顔を掴まれて無理矢理引き寄せられる。
ちょ! 今、キスしないで!
「や、やめて! いや……嫌!」
「許さない、と言いました」
抵抗する私の口にクレアの口が触れる。
ファイに見せるために。
「ん……」
背筋がざわめいて、ジワと涙が滲んだ。
「魔王!」
風切り音と同時に聞こえる叫び。
ファイが飛びかかって剣を振り降ろす。
早い、変わらず──いやいつもより。
短剣が刺さるより早く、
クレアは私を抱いたまま飛んだ。
「ひや!」
だいぶ大きくジャンプして、着地する。
私を抱いてるのに、身のこなしが軽い。
「離せっ、て!」
ファイが間合いを詰め、
逆手に握る短剣を、
斜め下から振り上げた。
そ! その角度だと、私にも刺さ──
抱かれた腕から力が抜け、
私の体が落ちる。
胸上ギリギリを、短剣が通った。
ガンッと入り交じる音が響いた。
痛った! 痛……腰、痛い……
私は地面に落とされ盛大に腰を打った。
あ、ファイは?
すぐ真上。
ファイの動きは止まっていた。
魔王が、剣を持つ、その手首を、
掴んでいるから。
「う、あ……」
ファイが振りほどこうと暴れるけど、
逆にその手を持ち上げられて、
足が浮いた。
その光景に、息を飲む。
クレアが、ファイの片手だけ掴んで
吊り下げていた。
「離せ! この!」
ファイが精一杯暴れる。
でも、手も足も届かない。
「まだ立場がわからない?」
グッと手首を握られて、
ファイの顔が苦痛に歪む。
アリアンソードが手から落ちて、
地面で音を立てる。
「や、やめて! 降ろしてあげて!」
私はたまらず叫ぶ。
「ダメです。
この子はまだ諦めてないので」
冷たい声で言い放ってから、
クレアは、おや? と呟いた。
「見覚えのあるもの、付けてますね」
へ?
魔王が、握ってるファイの手から、
何かを抜き取った。
「あ! か、返せ!」
ファイ叫ぶ。
なに? 指輪?
それは、私にも見覚えがあった。
かつて私が、
食堂で会ったギルマスからもらい
ファイにあげた指輪だ。
え? 持ってたの? つけてたの?
てっきり、売ったもんだと。
「返せよ! 僕のだ!」
ファイが暴れ、クレアがすんなり放す。
地面に倒れ込んたファイは、
すぐにクレアに飛びかかる。
ダメ!
飛びかかるファイの腹に、腕が伸びる。
ただ伸ばしただけに見えるその手から
衝撃波が見え、ファイは跳ね返った。
「あぁ!」
地面で一度転がり、うつ伏せで倒れる。
駆け寄ろうとした私を、
クレアが止める。
まっすぐ私に手を伸ばし、冷たい顔で。
行くのは許さないと、そう伝えてくる。
心臓が縛られたように苦しい。
眼鏡の奥の目を見ると、体が動かない。
「大丈夫ですよ。
これでも手加減したんです」
そ、そうなの?
「う……」
ファイは苦しそうだが、
なんとか顔だけ上げて、こっちを見る。
「か、返せ……僕のだ。
僕が、もらったんだ、マスターから」
動けないファイを見下ろして、
クレアは顔をしかめる。
「与えられなかった子供は
手に入ったモノに執着しますよね」
指輪を持ち上げて、眺めたクレアが
それを自分の手にはめる。
ファイにはブカブカな指輪は、
クレアの細く、しなやかな人差し指に
ピッタリはまる。
「返せよ! 僕のだ! 返せ……」
ファイがなんとか手を動かして、
落ちていた剣に手を伸ばす。
「諦めが悪いですね」
その手を、クレアが踏みつける。
「うっ」
「やめて!」
私は這うように、クレアに駆け寄る。
「お願い。やめて!」
踏みつけるその足にすがりついて、
懇願する。
「やめて……」
「そんなにこの子が大事ですか?」
その声に答えが見つからなくて、
言葉につまる。
大事とも違うとも、答えられない。
そんな私を冷たい目が見下ろす。
「あなたが、誰かに指輪をもらうのも
気分が悪いですが、」
と、私の頭に手を乗せる。
「あなたが、誰かに指輪をあげるのも、
気分が悪いんです。わかりますね」
コクコクと私は頷く。
やっと、ファイを踏みつける足が
もちあがった。
「こっち見て」
クレアの手が、私の顎を掴んで、
上を向かされる。
冷たく見下ろす視線で、全身が濡れる。
「あなたは私のモノです。わかりますね」
「……はい」
そうだ。私はすべてを捧げたのだ。
心も、体も、命さえも。あなたに。
「私は、すべて、あなたのモノです」
ギリと、歯を食いしめる音が、
ファイの方から聞こえた。
「だから、お願い。指輪は返してあげて」
私の言葉に、クレアは顔をしかめる。
「本っ当……あなたは、」
と、呟いて、
「返してほしかったら……」
と、その冷たい視線で、
「取って見せてください」
と、私の顔の前に、手を差し出した。
「あなたの、お口で、ね」
は?
ドクンと、心臓が固まった。
クレアの顔を見上げる。
それは確かに、前に指輪を口に含んで、
同じ言葉を吐いたのと、同じ顔。
「やりかたは、わかりますね」
と、その細くてしなやかな指を揺らす。
そこに光る指輪を、口で?
「ちゃんとやらないと、取れませんよ」
あぁ。
咥えろ、と、そう言う……
私はチラとファイに目をやる。
今にも泣きそうなその顔。
あぁそんな、別に。
別に、大丈夫なのに。
にっこり、笑ってみせる。
大丈夫。そう伝える為に。
私は、クレアのその手を両手で掴む。
一度コクと息を飲み込んでから、
その細い指を、
人差し指と中指の2本を、
ゆっくり、口に含んだ。
感情が、かき消える。
考えるのを、やめる。
何も思わず、だだ咥えたそれに、
舌をはわせる事だけを考える。
舌の上で、指が動く。
「ん……」
その度に、口の端から息が漏れる。
口の中を、好き勝手かき回されて、
苦しい。
それでも、舌を動かし続け、
口を動かし続ける。
耳を塞ぎたくなる水音がして、
消えたはずの心がざわめく。
ファイにも聞こえてるんだと思うと、
消え入りたくなる。
あぁ。ごめんね。
と、遠くの心で呟く。
ごめん……
コロと口の中に指輪が落ちた。
やっと、クレアの指が
口の中から出ていく。
私は濡れた口のまま、
荒い呼吸を吸い込む。
どっと疲れが全身にまわり、
両手を地面についた。
「今日はここまでです」
前回も同じような事を言っていた。
性格は違っても同じ人物なんだと、
改めて思う。
どんな性格でも、魔王だ。
口から指輪が落ちて、地面で転がった。
「また来ますからね」
耳元で、魔王が言う。
私は、荒い呼吸だけを返す。
「あなた来るまで、何度でも」
ゾクと背中が震えて、
自然に、息が止まった。
空間が割れて、魔王が帰って行くのを、
座り込んだまま、ぼんやり眺める。
「マスター!」
ファイの声に、え? と振り返る。
ファイが自分の上着をかけてくれる。
あぁ、そうだ、私、踊り子衣装で……。
「ファイ、大丈夫? 怪我はない?」
「僕はいいよ。でも、マスターが……」
「そっか。怪我がなくて良かった」
「じゃなくて……」
「そうだ、指輪……」
近くに落ちているのを見つけて、
手を伸ばす。
洗ってファイに返さないと。
もう、もらってくれないかもだけど。
私が掴むより早く、
ファイが指輪を拾い上げた。
え?
「……僕のだから」
「洗ってあげるよ。
そのままじゃ汚いでしょ」
「汚くない。汚くないよ。これは僕の。
僕の、だから……」
泣きそうな顔で、必死に。
ギウと指輪を握りしめる。
「そっか、良かった」
フワと笑って、立ち上がる。
「ごめんね。辛かったよね」
「なんでマスターが謝るの」
「ごめんね……ファイ。帰ろう、疲れた」
すごく、なんだか、疲れたんだ。
「大体……ルームに居てって言ったのに
なんで守らなかったの? マスター」
「う……いや、それは」
「そこまでして魔王に会いたかったの」
「ち、違う違う、全く違う」
「じゃあ、今日なにしたのか
帰ったらじっくりきくから」
「え……いや、それは……」
「その踊り子服、見た事無いんだけど」
「いっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「ふふっ、あんた可愛いわね」
「メイラさん! 来てくれたんですか?」
「なんで、顔が真っ赤なのかしら?」
「いや……その」
「ねぇ、その性格悪い男と、あたし
どっちが綺麗?」
「そ、それはもう!」
次回も、お楽しみに!




