表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

第1話、俺様な魔王にいきなりキスされました

──俺、お前が好きなんだ。

──俺と結婚しよう。

──俺がお前を絶対守る。


 と、言っていた幼馴染が、

 今日、他の子と結婚します。


 いやぁ、びっくりだよね!


 そのため

 ユリアーノ・フラウディア


 この村を旅立ちます。

 勇者として。


 村の掟で、

 結婚相手のいない若者は、

 魔王討伐に行かなきゃならないから!


 幼馴染と結婚出来る思っていたら、

 本家の跡取りの彼には、

 相手が決められていた。


 私みたいな、孤児じゃなくて、

 良家のお嬢さんが。


 別に恨んでないし、いやマジで。


 長い髪、バッサリ切ったし。

 未練はない。


「ユリア!」


 後ろから名前を呼ぶ、この声は


「シアン?」


 そこには、今日、まさに

 結婚式をやってるはずの

 幼馴染が、立っていた。


 いや、なんでいるのよ。


「ユリア、どうした? その格好……」


 旅立ちの為の、勇者の男装です。

 女の一人旅は危険だから。


「もう旅立つの」


「何も今日じゃなくても」


「今日じゃなきゃダメなのよ」

 今日じゃなきゃ、決意が鈍る。


「だから、シアンも早く戻って。

 私も、外で良い人見つけるから」


 そうだ。決めたのだ。

 あなたより良い男を見つけて、

 幸せになる。


 最強の勇者様か、王子様か、

 とにかくたっぷり愛されるのよ!


「ユリア!」

 いきなり抱きしめられた。


「俺、お前が好きだ」


 いや、なにこれ。


「もし……お前さえよければ──」


 結婚、取りやめてくれる?

 一緒に駆け落ちしてくれる?


「妾として、屋敷で囲う事もできる」


……期待した私がバカだった。


「ねぇ、シアン」


「なに? 分かってくれた?」


「左頬を差し出しなさい!

 グーでストレートをお見舞いするわ!」


「わ! ちょ! ストップ!」


 慌てて距離をとった幼馴染に、

……まったく、と呆れて笑いかける。


「元気でね。奥さんを大事にしてね」


「ユリア……」


「じゃ、もう行くから」


「あ、待って。これ持って行けよ」


 ん? なに? 石? 宝石?


「なにそれ」


「お前が山ん中で見つかった時、

 持ってた。『龍石』とか言う宝石、

 だったかな」


 なるほど、拾われた時の。


「お前を養うお金のため、

 本家が買い取ってたんだ。

 宝物庫から持ってきた。持ってけよ」


「え? マジで? いいの?」


「あぁ。元々お前のだし。

 旅の費用の足しにしてくれ」


「というかシアン、勝手に持ってきたの?

 大丈夫なの?」


「平気さ。俺、今日から当主だから」


 ニカッと笑う、その顔。

 そうだ、この顔に惚れたんだ。


「ありがとね」


「ほら、落とすなよ」


 コロ、と龍石を手に乗せられる。

 原石みたいな、少しゴツゴツしてて、

 光って……


 光ってる?


「これ、こんな光ってたっけ?」


「え? なんだそれ!」


 光りだした石は、飛び上がって、

 空中で、ふわふわと浮き、


「あぁ、20年……20年待ちました」


 突然、話しだした。


「石が、喋った!」

 

「私はレイディアス、聖龍様の使いです」


「レ? レイ、ディ……?」


「レイとお呼び下さい、勇者様」


 勇者? 私?

 私に向かって言ってる?


「レイ。勇者って? どういうこと?」


「あなた様は、聖龍様の力を受け継いだ、

 聖龍勇者様です。光の力を受け継ぐ者。

 魔王に打ち勝つ存在」


 マジで!


 え? 私が山の中で拾われたのって、

 そもそも人から産まれてないって話?


「魔王を打ち倒すための、

 あなたが最後の希望です」


 え? なにこの急展開!


「いや、ちょっと待って!

 私、結婚して、旦那様に愛されて、

 ラブラブハッピーしたいだけだから!」


「あなたが諦めたら、

 魔王を討伐するすべは無くなります」


 ちょ! いきなり荷が重い!


「ゆえに、あなたが最後の希──」


 レイの声が、

 バチンッとかき消えた。


 誰かが、宙に浮いていた龍石を、

 掴んだから。


 何もない空中の裂け目から、

 真っ黒の腕が突き出していた。


「は?」


 バキバキと音を立てて、空間が割れる。

 そこから、黒い手の主が現れる。


「最後の希望?

 全く笑わせてくれる……」


 低く響く声と共に、

 紫の髪の、長身の男が、

 そこに降り立った。


「は? え? だ、だ、誰ですか!」


 龍石を掴んだ男は私を冷たい目で見て、


「俺の名を聞いたか? 人間」


 は、はい、お聞きしました。


「俺はクレアルド。

 すべてを手にする魔王」


「ま、魔王、クレアルド……って、

まさか本物の……」


 魔王? は? え? なんで?

 てか、魔王様! 

 冷たい目をしたマジ美形! 


「落ちぶれた龍神ごときが、

 やっかいな人間を産み出しやがって……」


 低い声で、龍石を握りしめる。


 へ? 聖龍勇者を消しに来たってこと?


「お前はここでおれが消す。

 ありがたく思えよ。

 俺が手を下してやる」


 魔王がゆっくりと手を伸ばす。

 その手から、紫の炎が渦巻く。


「ひっ!」


 私、まだ旅立っても、いないんだけど!

 旅立つ前から魔王にやられるとか、

 笑えもしないんだけど!


「やめろ!」


 私の前に、シアンが立った。

 その辺に転がってた太い棒を構えて。


「シ、シ、シアン?」


「約束したんだ。俺はお前を守るって!」


 シアンが飛びかかり、

 木の棒が振り降ろされる。

 魔王は顔色1つ変えず、それを掴んだ。


「ひれ伏せ、人間」


 反対の手が、シアンに伸びた。

 ただ伸ばしただけなのに、

 衝撃波で、シアンの身体が吹っ飛ぶ。


 あぁ!


 魔王の手から飛び出した龍石が、

 シアンに入るのを見た。


 シアンが空中で身をよじって、

 両手両足で着地。


「緊急回避です。この体、借ります」


 そう言うシアンの顔は表情が無く、

 目が緑に光っていた。


「レイ? シアンの中に入った?」


 魔王がそれを見て、

 小さく舌打ちをした。


「切り刻んで、掴みだすから覚悟しろ」


 え? 今、なんておっしゃいましたか。


 魔王が一歩、足を踏み出す。


「いや、ちょ! ちょっと待って!」


「どけ、聖龍の御子」


「いや……だって、シアン関係無いでしょ」


 そうだ、魔王の目的は私だ。


「レイ! 早く、シアンから出て!」


「それはできません」


「そこにいたら、シアン殺されちゃう!」


「1人の人間より、

 世界が救われる方が大事です」


 は?……今、なんて言った?


 私は振り返って、幼馴染の顔を見た。


 私が、あなたを諦めたのは……

 あなたに幸せになってもらいたいから……

 旅立つのは、あなたの幸せを

 願ってるから……


 そうだ私は、あなたの為に、

 勇者になると決めたのに。


 あの、石っころ……なにが勇者だ。


 人ひとり救えないのが、勇者なもんか。

 命を見捨てるのが、勇者なもんか。

 愛する人を守れないのが、

 勇者なもんか!


「魔王様!」


 私は決意を持って、叫んだ。


「私の命、差し上げます」


 後ろで、はぁ? とレイの声がする。


 魔王も首をかしげる。

「お前、なに言ってる?」


「私が消えれば、あの石は力無くす、

 そうですよね」


「その男の為に、

 自ら体を差し出す、と?」


「そうです。好きにしてください」

 歯を食いしばって、両手を広げる。


「おやめ下さい、勇者様!」


「黙ってて! 石っころ!」

 私はレイに向かって叫ぶ。


 命を命だと思わない奴と、

 話す言葉なんてない。


「あははははははははははっ」

 魔王が急に笑いだした。


「世界よりも、男をとるか! 

 あー、面白い、お前は良い女だな」


 女と見抜いて頂けて光栄です。

 一応男装してるのに。


「いいだろう、覚悟は良いな」


 魔王が私に手を伸ばす。

 私は目を瞑り、歯を食いしばった。


 ……


 ん?


 食い縛った歯に、変な感触を感じた。


 ん? んー……

 この感触は……


 目を開けると、目の前に

 魔王様の顔があって、

 私の唇を咥えて……


 え? キ、キスされてる?

 な、なんで?


「ん……んー……んー!」


 抗議は伝わったようで、唇は離されて、

「どうした? 好きにしていいんだろ?」


 と、超絶美形のその顔で、

 こんな至近距離で、

 勝ち誇ったように言われましたら!


「い、言いましたけど……けど!」 


「今さら、後悔しても、やめねぇからな」


 そう言われて、グイと引き寄せられて、

 またキスされて、


 いや、だからですね、あの……

 マジパニックなんですけど!


 好きにしてとか、体を差し出すとか、

 そういう意味じゃないんですけど!


 な、ん……あ……


 頭が痺れて、思考が掻き消える。

 あぁ、ダメだ。何も考えられなくて……


 やっと唇を離された時には、

 私の息も荒くて、多分顔も真っ赤で、


 そんな私を見下ろして魔王は満足げに

「ふぅん」

 と、自分の口に親指を当てて呟いた。


「お前、名前は?」


「ユリア……ユリアーノ、フラウディア」

 

「お前、俺の所までたどり着いてみせろ」


「は? え? なに?」


「待っててやる。お前が来るのを、な」


 確かに、魔王の所に辿り着くのは、

 魔王討伐の最終目標で……でも、


「覚えておけ、お前は俺のモンだからな」


「ん? んんんんん?」


「また会いに来るからな、

 次はこんなんで満足すると思うなよ」


 いやいや、それはどういう意味で……


「じゃあな」


 バキバキと空中に裂け目ができて、

 その向こうに、魔王の姿は消えた。


「あれ……ユリア? 大丈夫だったか?」

 シアンの声がして、慌てて振り返る。


「シアン、怪我はない?」


「俺は大丈夫だ。それより、魔王は?」


「か、帰りました……」


「撃退したのか! どうやって?」


 どうやって? どうやったかというと……


「え? なんで顔赤いんだ?」


「なんでもない。じゃ、私もう行くから」


「あ、この石、俺の服に入ってたぞ」


「あ……ありがとう。じゃ……」


「そうか、元気でな」


「うん、シアンも。幸せにね」


 そうして、私は旅立った。



  □□□□



 いや……旅立つ前から波乱すぎだわ……

 素敵な結婚したいだけなのになぁ。


 魔王様って、結婚してくれるのかな。


 俺の所に来い、

 ってプロポーズだったりしない?


「んなわけないでしょ」


「話しかけないで、石っころ」


「魔王討伐してくれなければ困ります」


「あんたと話す気はない。許してない。

 ちょ! 光らないで!

 勝手に飛び回らないで」


「世界の為に魔王討伐してください」


「いーやーだ!

 素敵な相手見つけて幸せになる!」


「1人の幸せより世界の……」


「私の人生は、私が決める!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 読んで下さりありがとうございます。


 これは愛されたい主人公が、

 イチャイチャラブラブしながら

 ドタバタ冒険する話です。


 是非、ブックマークをして

 ご覧くだされば幸いにございます。


 毎日更新していきます。


 感想を頂けると、励みになります。

 感想欄か、Twitterでお教えください。

 

 この作品には、次回予告があります。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 『次回予告』


「へ? 姉ちゃんもしかして」


「とびきりの美人をご希望、

 と聞いたけど、私でよろしくて?」


「も、もちろんだ!」


「ここは、私、単独の合コン会場!」


「違いますからね」


 次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ