短編小説 芳山教授の日々道楽「カレー屋」
芳山教授の日々道楽「カレー屋」
お腹が空いた。
何か、スキッと元気がでる食べ物はないか?
看板がある。
「地獄カレー」
なぬ、
凄い名前だ。
ネーミングのセンスが疑われる。
覗いて見る。
結構、お客がいる。
日差しが暑い、
今日は、ここにしてみるか。
ガラ、
中に入る。
「いらっしチまっスー」
?
変な日本語だ。
よく見ると店員は、皆、インドの人だ。
インドの人が経営しているのか?
まあ、いい。
テーブルに座る。
メニューを見る。
地獄カレー1丁前、地獄カレー2丁目、地獄カレー3丁目……地獄カレー35丁目。
なぬ、
全部、地獄カレーだ。
徹底しているぞ、
ポリシーを感じる。
地獄の丁目を掛けているんだな。
ふふん、
面白い!
挑戦してみようじゃないか。
他の客を見てみる。
ハフ、ハフ、ハフ、
みんな、辛そうだ。
何なに、みんな4丁目までらしいぞ。
ええっ、
35丁目まであるのに、4丁目、
だらしがない、
日本男子として恥ずかしくないか!
インドの人に恥ずかしくないか、
私は、35丁目だ!
35丁目に決まっている。
私は、辛いのが得意だ。この様な物など朝飯前だ!
「地獄カレー35丁目!」手を上げる。
ピタ、
店員の動きが止まる。
振り返る店員たち、
「35丁目?」
「really?」
店員が尋ねる。
「Yes、地獄カレー35丁目!プリーズ」
ザワザワ、
動揺する店員たち。
「35丁目ワン、」
店員は調理場へ伝えた。
私は、ルーティンの鼻からにおい嗅ぎをする。
スゥッ〜
スゥッ〜
美味しそうなカレーのにおいで頭の中がいっぱいになる。
さて、準備は整った。
「地獄カレー35丁目オマツー、」(店員)
カレーが届いた。
なぬ⁉︎
赤い、真っ赤だ、赤過ぎる!他の色が無い。
これはカレーか、間違えてないか?
店員を見る。無表情の店員。
(汗)
まあ、いい。
一口、口に入れる。
うががっ、
慌てて、水を飲む。
ゴクゴクゴク、
こ、これは、食べ物か?
はぁ、はぁ、はぁ、
まさに地獄カレー、
その名前にふさわしい地獄の食べ物だ。
カレーの味など、まったくしない。
しかも、この辛さは青唐辛子?ハバネロ?
いや、違う。もっと、もっと辛いぞ!
蒙古タンメン中本が可愛いものだ。
どうしよう、
帰るか?
まだ、一口しか食べていない。
しかし、これは人間の食べ物では無い。
地獄の、鬼の、食べ物だ!
店員が見ている。
ぶっ倒れるって…この俺をかい?面白いじゃないの、やってみな。
第一ラウンド…じゃねえ、30分よ!
この激辛カレーを眠らせるばかりじゃねえ、かたわにするまでの所要時間だ!(あしたのジョーより改)
行くぞ、私!
いくぞ、私!
シュッ、シュッ、
ほっ、ほっ、
シュッ、シュッ、
ほっ、ほっ、(がんばれ、元気より)
let's try!
ガバ、ガバ、ガバ、ガバー
一気にかっ込む。
ぐばっ、
体温が5℃上がった。
血液が沸騰する。
身体中が赤くなる。
「ぐ、ぐるじい、」
本当に死んでしまうかも、(汗)
店員が笑っている。白い歯が見える。
無理だと思っているんだろう。
負けるか!
インドと日本との戦いだ、
肘を左脇から離さない心構えで、やや内角を狙い、えぐりこむようにして、打つべし!打つべし、打つべし、打つべし、(あしたのジョーより)
ガバ、ガバ、ガバ、
ゴク、ゴク、ゴク、
ガバ、ガバ、ガバ、
ゴク、ゴク、ゴク、
ぐおっぐぉぉぉーーー
脳みそが沸騰するー
ぐぶ、ぐぶ、ぐぶ、
ゲホ、ゲホ、ゲホ、
ガブ、ガブ、ガブ、
ギャラクティカ、マグナムーーー(リングにかけろ より)
……食べ終わった、
燃えたよ…、まっ白に…燃えつきた…、まっ白な灰に…。(あしたのジョーより)
「お、お勘定…」小声。
私は、天国、いや地獄に、魂を引っ張られながら、お金を払った。
バタン、
調理場から店主が出て来た。
なぬ⁉︎
日本人!
店主は日本人なのか、
「ありがとうございまっす〜」
まっす〜?
「実は地獄カレー35丁目完食は、あなたが初めてでっす〜!」
「ええっ、初めて?」
「お礼に、激甘地獄アイスクリームをプレゼントしますっよ〜!」
激甘地獄アイスクリーム?
「あ、ありがとう…」
店を出た。
時計を見る。
少し、散歩を…
いや、やめとこう。
激甘地獄アイスクリームが溶けてしまう。
街が赤い、
熱い、熱い、金曜日の午後だった。