6話
アキラが道行く人に聞きながら、指定された広場に到着する。
場所を聞く人の範囲が老人や優しそうなお兄さんだけでなく道行く人になったのは、アキラの成長ともいえるだろう。一日とはいえ世の中の人々と触れ合った経験は、全く別の世界という先入観も有り、アキラの中にある閉塞的思考を緩めたのだ。
アキラが広場を見回す。そこにはすでに多くの人が集まっていた。
黙々と武器を手入れする者、パーティーメンバーと談笑する者、武器を握りしめ余裕のなさそうな様子で浮足立つ者と様々だ。
タマキが少し機嫌のよさそうな様子で呟く。
『うむ、それなりに鍛え上げられた筋肉達であるな』
「いや、筋肉じゃなくて人だからね!?」
ツッコミつつもアキラは周りを見ている。アキラの素人目にも、歴戦の猛者と呼べる雰囲気の者は確認できない。落ち着きのない者でも、装備は自前の物らしくアキラのレンタル品より性能は高そうだ。またパーティーを組んでいる者ばかりで、一人で座る者は見受けられない。
アキラは少し疎外感を感じて広場の端に座った。
それから数分待つとギルド職員が現れ、拡声器らしき魔道具を持って説明を始めた。
――この依頼はギルドと《サキシー商会》が共同で出しているもので荷馬車を随伴する。ギルドは《両塞都市ガダイ》近隣の治安維持のために。《サキシー商会》は冒険者が帰路の安全のために持ち帰らないモンスターの素材を回収するために。それぞれが協力している。
商会はギルドと連携することでより安全に荷馬車を随伴する程の規模にできる。商会から素材の費用を受け取るギルドは、そのお金の一部を依頼の報酬に上乗せして少ない出費でモンスターの間引きができる。更には冒険者の士気まで上げることが出来る。ウィンウィンの三角関係なのだ。
そういった背景の説明が終わると、次はジスカ草原での動きについてだ。
まず拠点を作り冒険者はそこを中心に拡散しつつ殲滅していく。そうして出来上がった円形の安全区域内で商会側は馬車馬の如く走り回り、倒したモンスターの回収を行う。そういった流れだ。
ちなみに、アキラは司会の話に興味が無かったため、のほほんと花壇で舞い踊る蝶を眺めていた。タマキも興味が無く自身の姿が見えない事をいい事に、冒険者の筋肉を至近距離で食い入るように見ていた。
そうこうしているうちに司会の説明が終わった。冒険者達が荷馬車の荷台に乗り込んでいく。商会の善意で行きは空いている荷台に乗せてもらえることになっている。アキラも周りに習い、空いている荷台に乗り込む。
御者のおっちゃんに小さく頭を下げるアキラの背に声が掛けられる。
「相席良いか?」
アキラが振り向くと、4人組のパーティーが立っていた。そのリーダーらしき男が一歩前に出ていて、アキラの返事を待つように視線を向けている。
アキラには断る理由も、権利もない。それは男も理解している。
その言葉に意味はない。会話の初め、話文句の様なものだ。つまり、男はアキラとコミュニケーションを取ろうとしていた。
アキラの乏しい対話能力では察することもできず、打てば響くような返事をする。
「どうぞ~」
4人はぞろぞろと荷台に乗り込む。
男はわざとらしく荷台の入り口から顔を出して周囲を見回した後、アキラに聞いた。
「ボウズの仲間は来ないのか?」
「残念ながら初心者だから仲間はいなくて……」
ボッチという事実にアキラは少し陰鬱な雰囲気で返した。
男は苦笑いを浮かべて話題を変えるように話す。
「自己紹介がまだだったな。俺はこのパーティーのリーダーをやっている戦士のバルドだ。よろしくな!」
バルドと名乗った男は20代前後の男だ。全身鎧と両手剣の重装備だ。
アキラはバルドのフレンドリーな態度に気圧されながら、差し出された握手を求める手を困惑気味で握った。
バルドは急かすように隣に座る少女を肘で小突いた。少女は嫌そうな顔を浮かべながら端的に話す。
「魔道士のリンよ!」
リンはアキラと同じくらいの年の少女で、上着にパーカーを羽織ったかなりラフな格好だ。腰のポーチからは赤い透明な球が覗いている。アキラは占いに使う水晶球を思い浮かべた。
バルドの対面に座る女性が愛想の良い笑みを浮かべながら話す。
「私はナヒタです。神官をやっています」
ナヒタは神官服で杖を持っている女性だ。どことなく柔和な雰囲気を感じられる。
そして最後に、ナヒタの隣の男だ。
「……拳闘士ダクサ」
言葉少なだが、彼はガタイが良く重厚な声も相まって寡黙という雰囲気だ。拳闘士だが籠手やナックルは持っていない。正しく『拳』闘士なのだろう。
全員の自己紹介が終わり、バルドが締めくくる。
「ということで、とりあえずろしくな、ええっと……」
言い淀むバルドを見て、アキラは自分が名乗っていない事を思い出して慌てて話す。
「どうも、僕はアキラです。まあ見ての通り駆け出しの戦士ですね。よろしくおねがいします」
「おう、よろしくな、アキラ!」
****
木が少なくなり始めた平原を荷馬車が走っている。
日本の自動車のように衝撃を吸収する機構は備わっていないようで、衝撃がダイレクトに伝わってくる。
尻の痛みを感じ始めた頃、バルドが唐突に話し始める。
「しっかし初心者でソロなんて珍しいな」
外の景色を眺めていたアキラは、突然話しかけられて内心では焦りながらも話す。
「そうなんですか? 昨日冒険者を初めたばかりなので、そこら辺はよくわかんないですよ」
「そんなに最近だったのか! 昨日はパーティーを組まなかったのか? もしかして追い出されたとか?」
「いや、昨日も一人ですよ」
「そうか、良く生き残れたな!? 駆け出しは普通、慣れてレベルが上がるまで10人くらいでパーティーを組むんだ。そうすりゃ、人数の力で大抵はごり押せるからな。まあそれでも事故は起こるがな」
「そうなんですか……」
戦いにすら慣れていない駆けだし冒険者は基本的に十人以上の集団で簡単討伐依頼を受ける。引率を雇えるだけの金持ちも存在するだろうが、この場合は除外する。
戦いになれていないとはいえ、数の暴力は偉大だ。どれだけ優れた剣士だろうと、多方向から同時に攻撃されれば対処のしようが無い。それを弱小モンスターに対して行うのだ。基本的には勝てる。
だがそれでも事故は起きる。モンスターの群れと出会ってしまい、数の有利という前提が崩れ全滅する事。モンスターが死を覚悟で道連れにする事。などと挙げられるが一番起こる原因は、恐怖によるパーティーの崩壊だ。
モンスターだろうと生きていることに変わりはない。殺されそうになれば必死になって抵抗してくる。その様子に、人情を持ち出す者。モンスターを殺したことに罪悪感を持つ者。負傷したことで痛みに対し恐怖を覚える者。そういう者が増えていく。
そうして戦える精神状態の者がいなくなった時、パーティーは崩壊する。
われさきにと街へ逃げ帰るのだ。最後まで戦意を失わなかった者は取り残され危機的状況になり、逃げ遅れた者は逃げ遅れた者同士で醜い蹴落とし合いを始め、そして騒ぎを聞きつけたモンスターが集まり各個帰らぬ人となる。
そういった事故を潜り抜けるだけの運があり、今後モンスターと戦い続けるための力と精神……つまり実力が無ければ2日目の依頼など受けないのだ。
バルドが肩をすくめて冗談っぽく返す。
「ああ、ソロでやってる命知らずなんて、たいていすぐに脱落だろうな」
アキラは苦笑を返した。
実際の失敗例を身をもって体験しているからだ。
バルドがほんのわずかに目を細めて値踏みするような視線をアキラに向けながら続ける。
「それでも生きてるとなると、何かしら事情があるのだろうな」
含みのある言い方に察しの良い人なら何を言われているのか理解しているだろうが、対話能力が低く知能まで下がっているアキラには皆目見当がつかなかった
「事情……?」
「ああそうだ。詰まるところ――はぐわっ!?」
何かを言おうとしていたバルドは、リンに後ろからヘッドロックされた。
リンは威圧感のある視線をバルドに向けながら話す。
「ねえバルド。そういう事を言うのは品性にかけると思うのだけど?」
「ぐああ、ちょ、ちょっと待って。死んじゃう! ほんとに死んじゃうから!」
首を絞められるバルドもがくが、完全にキマっていて抜け出せない。
ギブアップとばかりに床を叩くバルド無視して、リンは腕を更に絞めていく。
間もなくしてバルドが白目を向いて倒れた。
アキラはそれらの行動の意味が分からずリンに聞いた。
「リンさん、品性ってどんな事?」
リンは少し焦りながら答えた。
「え!? ああ、品性って言うのは……えっと……人の過去を聞く事よ!」
「ああ、なるほど」
他人の過去を無遠慮に聞くのは確かに品性に欠ける。アキラは異世界から来たことを説明することも面倒という事情もあり納得した。
理解の色を示すアキラを見て、リンは小さく安堵のため息を吐いた。
リンはバルドの言おうとしていた事を理解していた。バルドはアキラにステータスの事を聞こうとしたのだ。ステータスは冒険者の生命線だ。情報の漏洩は対策を練られる事に繋がる。対策を練られているのだから、敵対前提の交渉を相手に許すことになってしまう。痛い目見たくなれば条件を飲め、という事だ。
リンも含めてバルド達は、アキラを一目見た瞬間から言い知れぬ危険を感じていた。その理由はタマキの守護霊スリーパーだった。しかしそのような事を知らないバルド達は、アキラが何かしらの固有能力を持っているのではないかと疑った。そしてそう言い切れるだけの雰囲気を感じた。
バルドとフレンドリーに話し合っている様から、アキラが危険人物ではないと分かる。だがステータスを探られていると知れば普通は距離を取る。最悪の場合、『何か掴んでいるのではないか?』『何か知っていて遠回しに脅しているではないか?』と発展し、敵対することもある。それが固有能力持ちならば駆け出しとは言え警戒するに越した事は無い。それほどまでに固有能力の特異性は危険なのだ。
バルドがなぜそのような事を言おうとしたのかリンには分からない。だが危険の芽を早目に摘む意味で、バルドを黙らせたのだ。
アキラは冒険者のパーティーという事でなんとなく畏まった態度だったが、こういった楽しそうな雰囲気を見ていると、そのような態度をとる必要もなく感じた。
アキラは床に転がるバルドを指差して言う。
「これ大丈夫なの?」
リンは当たり前のように返した。
「まあ、いつものことだから大丈夫なんじゃない? 気絶させただけだし。それに、今はナヒタがいるからね」
話を振られたナヒタはニッコリと笑みを浮かべて言う。
「はい! いざとなったら私が治すので、アキラさんも安心してうちのリーダーを落としてくださいね!」
どうやらバルドの扱いはかなり雑なようだ。
やる気はないので、アキラは『あははー』と曖昧に返事しておいた。
ちなみにダクサは全く動じずに瞑想しいてる。
アキラの斜め上でタマキが小さく感心の声を漏らす。
『あそこまで完璧に決めた状態から気絶だけに留まらせるとは、あのリンという小娘、凄まじい格闘のセンスのようだな』
「そんなに難しいの?」
『うむ。我の場合、先に首の骨が折れてしまうから分からんが、昔友人から聞いた話では相当な修練を要する技術だと言っておったぞ』
「なんか根も葉もない話だね。ていうか、きんさんに友達いたんだね~」
『我ほどになると、カリスマ性で他人を引き付けてしまうのだよ』
「はいはい、ワロスワロス」
唐突に斜め上を向いて話し始めたアキラに奇異の視線が刺さる。リンはアキラの様子が、薬の幻覚の様に虚ろではなく一喜一憂している事から興味を持って反射的に聞いた。
「アキラ、誰かいるの?」
リンは言っておいて迂闊だったと後悔した。
もしこの会話が固有能力に関わる物ならかなり危険だからだ。その場合アキラは非常に質の悪い当たり屋となる。アキラには後ろ盾の組織がいて、報復行為を取り消すために多額の金銭を要求する。そのような可能性も考えられる。
リンは警戒して水晶玉に手を伸ばしながらも表情には出さないように心がけた。
そのような深読みなど知らずに、アキラは思い出す。
(そういえば、きんさんって見えないんだったな)
丸一日、朝から晩まで見えていた為、アキラは忘れていたが基本的には見えないのだ。
水面下で臨戦態勢のリンとナヒタの様子など露知らず、アキラは普通に話す。
「実は守護霊がいるんだ」
その声音が至って普通な事を確認して悲観的にとらえても敵対までは行っていないと判断して、リンは事態の好転を求めてアキラをおだてておく。
「喋れるほどの自我を持った守護霊!? それってすごいじゃない!?」
リンの意を理解して、ナヒタ優しく微笑みながら首を縦に振る。
「はい、神殿の23柱神に数えられるほどです!」
アキラはその言葉に不思議そうに返した。
「でも石を浮かせる程度しかできないから、ギルドで低級コースト認定されてたよ? それに見た目なんか暑苦しいだけで、神聖な感じも全くないし」
『なんか我、ボロクソ言われておるな……』
しょんぼりとしたタマキが小さく呟いた。
アキラはタマキを褒めちぎられる事に、嘘をついているような罪悪感を感じた。
その誤解を解くためにタマキを見せればいいと考えた。
「まあ見ればわかるよ。そんなすごい奴じゃないって。きんさんみんなに見えるようになって」
『それでは我に触れるよう言ってくれ』
「なんか見えるようにするのに、触れる必要があるらしい」
その返答はいつの間にか復活したバルドから来た。
「フッ、それなら俺が行こう!」
リンはあわよくば自分の意を察して、どうにか話題を逸らしてくれることを祈ってバルドに言う。
「ねえ、なんか最近復活するの早くない?」
「まあな、1日に5回も6回も落とされてたら耐性もつくと言う物だよ」
バルドが爽やかな笑みを浮かべて得意げに答えた。
そして、リンの考えなど欠片も理解せずに話を戻した。
「それよりアキラ! 守護霊はこの辺か?」
リンはやっぱり男はバカだ、と思い内心で諦念の大きなため息をついた。
ナヒタは静かに神に祈った。
そんな二人の事など気にする様子もなくバルドは愉しそうだ。
バルドの質問にアキラは先導する。
「ちょと右かな。そうそう、そのまま前に行って。あ、待って、そこは――」
アキラが言うより先に、バルドの手がタマキに触れた。
バルドは自然に手を正面に伸ばしていた。タマキはアキラの頭上付近に浮かんでいた。その高低差が悲惨な結果を齎した。
そう。バルドが触れたのはタマキのフンドシ中央のもっこり……彼の象徴たるアレだった。
「ああああああ!!」
「これは酷い……」
リンとナヒタは何かしらの発動条件が揃った事により精神攻撃か、と思い立ち上がりかけた。
だがアキラがまるで『やらかした』とでも言いたげな様子に違和感を感じた。
もしこれが能力による攻撃ならば、アキラがただただ攻撃したことになってしまう。それは当たり屋の手口ではなく唐突な攻撃だ。そして罪を擦り付ける口実を完全に潰したことになる。
当たり屋ではない。
(つまり戦闘を起こしたい頭のおかしい狂人?)
リンの思い着いた考えだが、自身の直感は否定していた。
アキラの態度に説明がつかない。戦闘が目的ならパーティーから恨まれる行為をするだろう。そして報復行為に備えて少なくとも臨戦態勢に入っていなければおかしいのだ。アキラはバルドに何かをしたため似たような状況だが、その自覚すらもない様子だ。
状況が分からない以上下手に手を出せず思考を続ける二人の耳に、バルドの声が届く。
「うおええぇぇ。あのモッコリ、あの柔らかい感触。俺はあのフンドシを触れたのか!? 嘘だ!? 嘘だと言ってくれ!?」
バルドの様子は混乱しているが、攻撃にあったわけではない。その裏付けに、アキラは申し訳なさそうに顔を伏せている。
つまりアキラに悪気は無く偶発的に起こった現象という事になる。
「きんさん、今度はちゃんと手出してね」
『心得た』
そして能力に関して露見しているにも拘らず、攻める様子も焦る様子も喜ぶ様子もないアキラ。冒険者としても失格で、理路整然としていないのでは当たり屋としてもっと失格だ。
その両方でもないとした場合、アキラは何なのか。
リンとナヒタは察してしまった。
ステータスが露見する事のリスクを検討すらできない低能。
即ち、『ああ、コイツはバカだ』と。
それから、全員が見えるようになった。
*******
全員に見えるようになったタマキは自信満々の態度で自己紹介をする。
『我の名は武田 たまき。近しい者は我の名の最後に『ん』を付けて呼んでおった』
「おっと、それ言っちゃう?」
アキラは取り繕う気もないタマキの様子に困惑気味で言った。初対面でヤバイ奴認定されてしまえば真面な関係など築けないだろうと危惧しての発言だったが、既に手遅れだった。
アキラにはバルドのパーティーメンバーが引き気味、もしくはタマキと関わりたくないと思っているような態度に見えた。
ただ実際には、リンとナヒタは雰囲気と発言から警戒していたアキラがただのバカだと分かり安堵の脱力をしており、バルドは男の尊厳を薄い布越しに触れてしまったことの精神的ダメージに項垂れており、ダクサは瞑想に戻っただけだった。
アキラはタマキに関する話を締めくくるようにまとめる。
「まあともかく、きんさんはそんな大層な存在じゃないって事だから」
その言葉に意識を話題に戻したリンが苦笑交じりで反応する。
「う~ん。暑苦しいって聞いて炎属性をイメージしてたんだけど、まさかこっちの方向だったとはね」
「あ、悪夢だ……。これは悪夢だ……」
続けてナヒタも反応する。
「そうですね、神殿ように神聖な存在と思ったのですが……」
「こ、この手に残る感触は悪夢だ!」
「きんさん散々な言われようだね」
アキラが嫌味ったらしい笑みで煽るが、タマキはあまり気にした様子を示さずに返す。
『お主ら、そうは言うが実際神聖な雰囲気を出す奴らの実力なぞたかが知れておるぞ』
「そ、そうなのですか!?」
「あ、悪夢……あおぐうぅ!?」
思わずナヒタが聞き返した。神官として思うところがあったようだ。
倒れ込むバルドを気に留めることなく、タマキが小さく頷いて説明する。
『神聖な雰囲気や邪悪な雰囲気というのは出すだけでも力を使うのだ。そういった脚色にリソースを割いているようでは全力が出せんし、力の制御も出来ぬようでは話にならん。例を挙げるなら、右手で腕立て伏せしながら左手でダンベルを持ち上げる、もしくは指一本で腕立て伏せをするようなものなのだ』
「例えが絶妙に分かりにくいな……」
理解はできるがややこしいと、アキラが呆れ気味で言った。
リンは要領を得ないタマキの話に、至極単純な質問をする。
「じゃあ結局の所、タマキは霊同士の戦いに強いの?」
その質問にタマキが自信満々に答える。
『もちろんだ。現世に干渉する事は不得手だが、霊同士ならまず負けないであろう!』
「ふぅん。除霊依頼とか向いてそうねー」
リンは声音から判断するに興味を無くしたようだ。
除霊依頼というのは基本的に流れてこない。悪霊退治の専門家たる神官がいるからだ。つまりタマキに出番は無い。ただの役立たずの要らない子……むしろうるさいという意味では邪魔とも言えるだろう。
(コイツ、除霊しようかな……)
既にリンとナヒタからヤバイ奴として扱われているタマキを見ながら、アキラは本気で検討した。
そのヤバイ奴に自分も加わっている事をアキラは知らない。
また、どんな能力があろうとバカなら問題ないと、警戒を解かれた事も知らない。