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女々しくても筋肉を  作者: 中田 伸英
4/25

4話

 街に戻るとアキラは依頼の報酬を受け取りにギルドに行った。


「ええっと、なんというか……大丈夫ですか?」


 受付の職員である中年の女性が引き攣った営業スマイルで迎えた。まるで不気味なものにでも出会ったような反応だ。

 アキラは疲れているせいかあまり頭が回らず、事情を話すのも億劫なので雑に流そうとする。


「大丈夫なのでクエストの達成お願いします」

「い、いえ。その……血まみれじゃないですか!」


 受付嬢が驚くのも無理はない。

 アキラは成り行きでおじさんに復活させられている。その時、肉体は完全に修復されたが、服までは直してもらえなかった。アキラの服は、引き裂かれたような穴や、歯型の穴が開いており、その周りが赤黒く変色している。更には右の袖が肩口まで存在しない。

 それでもアキラは至って普通に返す。


「返り血なんで、気にしないでください」

「歯型の穴あるじゃないですか!」

「ファッションなんで」

「いやいや、絶対嚙み千切られてますよね! なんか血塗れだし! 何なら右腕持って行かれてますよね!?」


 受付嬢の予想以上の食いつきに、アキラは生き返った事を説明するかと迷う。

 それを説明すると、異世界から来た事も言うことになるからだ。

 別に異世界から来た事を隠すつもりではない。ただ単に話が発展していき逆に長引くかもしれない。そう考え、どちらの方が手間がかからないかと迷っているのだ。

 しかし、人付き合いの経験が薄いアキラが迷って答えが出る訳もなく。このままの方針を取るしかなかった。


「僕は無傷なんで、お気になさらず~」


 自身の体を見回しながらあくまでも飄々とした態度で言うアキラに、受付嬢は少し言いずらそうに返した。


「いえ、傷の事を聞いたのではなく『頭は大丈夫ですか?』と聞いたのであって……」

「あれ!? 心配じゃなくて罵倒されてた!? いや確かにボロ切れ纏ってるし浮浪人みたいだけどさ」

「……」


 受付嬢は見るからに駆け出しであろう装備のアキラの精神を心配していた。

 この世界には魔術が存在し、傷や身体部位の欠損は魔術で治せる。しかし、その精神を治すことはできない。

 本来なら長年冒険者を続けていくうえで負傷と治癒を繰り返し傷や痛みに体を慣らしていくが、そんな期間すらなく瀕死の重傷を負えば精神に異常をきたす。

 全ての感覚を支配する痛み、何の疑問も無く動かしていた腕が無くなる喪失感、零れていく命を止められない絶望は、記憶の奥底に根付き治療後でもふとした時に想起させられ恐怖と不快感を残す。それらの象徴ともいえる武器や血などは見ただけで恐怖に駆られ発狂してもおかしくはないのだ。

 しかしアキラからはそういった発想が出てきていない。心の底から欠片も気にしていないのだ。

 それは冒険者としての才能ともいえるが、大多数の人は感性の欠落、壊れた人間と捉えるだろう。

 受付嬢はその価値観を指摘したかったが、ギルドの一職員という立場では優秀な人材なので言えなかった。

 複雑な心境で少し疲れた様子になりながら受付嬢は話を戻す。


「問題ないのなら、良いのですが……。それでは用件は依頼の報告ですね?」

「はい」

「ではステータスプレートを出してください」


 アキラはポケットからステータスプレートを出して渡す。

 少し汚れているが壊れてはいない。かなり殴られたためステータスプレートにも直撃していると思うが頑丈なのだろう。

 そんなことを考えていると、受付嬢は驚きの声を上げた。


「ええっ! ゴブリンシャーマン討伐!?」

「いや、誰だよ!?」


 むしろ驚きたいのはアキラの方だった。そのような呪文使ってきそうなゴブリンは一匹もいなかったはずだ。


「それに、後で厄介になるゴブリンシャーマンの幼体も討伐ですか!!」

「幼体……」


 アキラはなんとなく察した。

 ゴブリンリーダーではなくシャーマンだったようだ。

 見た目からムキムキで蛮刀を持っている如何にも物理で殴ってきそうなゴブリンだがシャーマンなのだ。


「それに、ゴブリン討伐数18匹!!」


 アキラは驚いている受付嬢に申し訳なさを感じて苦笑いを返した。

 ほぼ全て不意打ちで何故バレないのかも理解できない戦闘だったからだ。

 受付嬢の驚きの声で周囲の視線が集まり始める。

 引きこもりのアキラは人一倍視線に敏感で、背中に突き刺さる視線の多さに辟易する。注目されいるという事実に居心地の悪さを感じ受付嬢に続きを促す。


「そ、そんなことよりも報酬をお願いします」

「あ、はい。報酬ですね。すぐにお持ちします」


 そう言って受付嬢はカウンターの奥へと消えていった。

 一人になったことで、余計に視線に意識が向いてしまう。

 気を紛らわすためにタマキと喋ろうと斜め後ろを見る。そこには嬉しそうに微笑むタマキがいた。

 アキラは頭に浮かんだ言葉を思わず口に出す。


「うわっ、きもっ」


 タマキは一瞬で表情を驚愕に歪めて返した。


『きもっはないだろう!? 我はただアキラの成長を親身になって喜んでいただけであろう!?』

「いや知らんよ。後ろに危ない視線を向けてくる人がいたら誰だって不気味に思うだろ!? さっきの表情、キチガイか薬やってる奴だったぞ?」


 タマキは一度真剣な顔になる。


『勘違いするなアキラ。我はキチガイではない。――ヤク中だ!』

「結局アヘッってるだけじゃねーか!?」

『なんならダブルピースも付けてやろうか?』

「やめろー! そんな誰得属性を生成すんな!」

『まあ冗談はさておき、受付が戻って来たぞ』

「……冗談??」


 アキラは真意を問うような視線をタマキに向ける。

 タマキを見えない受付嬢には、戻ってきたらアキラが険しい視線を中空に向けているように見えているので少し引き気味で話す。


「あの、どこを見ているんですか?」

「おっと失礼。気にしないでください」


 タマキの事を一度保留にして、アキラは受付嬢の方に意識を戻す。

 受付嬢はここまでの会話でアキラが変人だとなんとなく察していたので、理解することを放棄して話を続ける。


「……それでは確認をお願いします。ゴブリンシャーマン2匹で10万チル。ゴブリン18匹で9万チル。合計19万チルです」


 アキラはこの世界の貨幣について何一つ知らないがノリとアドリブでどうにかしようと思い、受け取った皮袋を開け中身を確認する。

 金貨が6枚。銅貨が4枚。石貨が12枚入っていた。

 アキラは静かに皮袋をポケットにしまう。理解することを諦めた。

 そうとは知らず確認が終わったと判断した受付嬢は最後に締めくくる。


「これで依頼は達成となります。お疲れ様でした」

「どうも~」


 アキラはカウンターから離れてすぐさま出口に向かう。

 そこで思いついたことをタマキに言う。


「あ、そうだ。ねえヤク中。屋台とかでお金の単位調べてきて。支払いを見ればそれらしく分かるはずだからさ」

『それは良いのだが、先程の話は冗談だからな?』


 アキラは何も返すことなく歩みを進める。

 しっかりとした足取りで、視線を向けられた事にビクつくこともなく。

 そうなるようにタマキは他事を考えさせたのか、偶然の結果なのかは分からない。

 ただ言えることは、ギルドに居た冒険者からの視線が、『警戒すべき新入り』から『実力はあるがただの痛い子』に変わっていた事だ。

 その事をアキラは気付いてすらいなかった。




*****





 ギルドを出ると空は茜色に染まっていた。街は人で溢れかえり活気に満ち溢れている。帰宅途中の人がスタスタと早歩きで進み、食事処を求める人々が露店に立ち寄り、カップルが徘徊する。


「どこの世界でも一緒なんだなぁ」


 アキラは日本と似た姿の街を見て呟く。

 それと同意するようにタマキも感慨深く呟く。


『うむ。この世界も向こうの世界も、文明は違えど人の営みは変わらぬな……』

「そうだな、リア充爆発しないかな~」

『そういう話だった!?』


 タマキは人間の生き方について共通点を語っていたが、アキラは他人のイチャラブする姿の鬱陶しさに共通点を見出していた。

 その感想には本人の人間性が深く表れているようだった。

 そんなこんなで宿屋を探して歩くアキラはあるものを見つけ、思わず声を上げた。


「おお! 温泉じゃんか!」


 マークは違うが看板にでかでかと書かれた『公衆浴場』の文字を見て、アキラは迷うことなく入っていった。

 日本人は風呂好きというだけあって、アキラも風呂は好きなのだ。 

 入口で受付のおばちゃんに代金を払う。価格は3000チルと少々割高。しかし依頼の報酬で19万チルも貰えた事もあり、今のアキラには気にすることもない。

 ちなみに貨幣ごとの価値についてはノリとアドリブだ。おばちゃんが4回程『多いんですけど……』と『足りないんですけど……』を往復したり、アキラが記憶喪失というエピソードが加わったりしたが些細な事だ。

 銭湯の造りは日本とほぼ変わりは無いようだ。入口に暖簾のれんがかかっていて、壁や床はヒノキではないだろうが木製で、脱衣所は冒険者の使用も考慮されて、広めのロッカーとなっている。武器防具の保管も問題ない。もちろん木型を使った鍵も付いている。木型を取ればロックされ、嵌め込めば開くといった具合だ。

 アキラはロッカーに脱いだ服を入れる。動きやすくて楽なジャージだが、今では血まみれのボロキレだ。風呂を出てこれを着るのかと思うと少し気が引けるが、脱衣所まで入ってしまったし仕方ない、と割り切る。

 そして後で新しい服を買おうと誓うアキラだった。

 手早く体を洗い湯船につかる。


「はぁ~。生き返る~」


 今のアキラには仕事終わりのサラリーマンの気持ちも理解できた。少しお湯の温度が低めだが、それでも疲れが解け出て行くような心地よさはたまらないのだ。

 それからしばらく堪能して、余裕が出てきたアキラは他へと視線を向ける。

 見た所、体を洗っている人よりも、湯船につかっている人が圧倒的に多い。


「ん?」


 アキラは気付いて思わず表情を引き攣らせる。

 周りの男たちの顔が赤く、荒い呼吸を繰り返していたからだ。

 少々ぬるいとはいえ、のぼせる程長時間浸かっていたようだ。

 強面の男たち並んでが顔を真っ赤にしながらハァハァ言っている光景は絵面が悪い。むしろ汚い。 

 アキラが引き気味で少し早いが上がろうとする。

 バァーンと勢いよく扉を開けた音が木霊する。

 そして入ってきた人物は大声を張り上げた。


「今日も派手に行くぞぉ、野郎どもぉ!!」

「「「待ってましたぁぁぁぁぁッッッ!!!」」」


 ムサい男たちによる大合唱が響いた。

 アキラは突然変化した状況について行けず目を白黒させる。


「え? なに? どうなってるの!?」

『アキラ、混ざってきていいか?』

「……。行ってらっしゃい」


 どことなくソワソワしたタマキにそう言うと、タマキを置いて帰ることを決めた。

 そんなやり取りをしていると、先程入って来た男は浴場の入り口から高く飛んだ。

 上にも広い浴室の天井に届きそうなほど高く高く跳躍すると、空中で両手を突き出した。


「いくぜぇぇぇ!!」


 次の瞬間、視界が真っ赤に染まった。瞬時に生成された巨大な炎球が、太陽の如き光で全ての色を塗りつぶした。


「ま、魔じゅ――」


 アキラは初めて見る魔術に思わず驚きの声を出す。だがその言葉を最後まで言い切ることは出来なかった。

 男が生み出した炎球を霞む程の速度で湯船に投げつけ、生じた衝撃波と津波と水蒸気爆発に遮られたからだ。


「「「うああああああああああ」」」


 湯船に浸かっていた全ての男が揉みくちゃさて上も下も分からない状況に悲鳴を上げる。






 ***




 アキラは湯船に顔を鎮めた姿勢で浮かんでいた。力無く浮かぶ姿はクラゲのようだ。

 そして顔を上げた。


「ぶはあああっっ。死ぬううう!」


 抗いようのない力に流されて気を失っていた。

 ゼェゼェと呼吸を繰り返しながら体に酸素を取り込んでいく。湯船の縁までたどり着くと力無く突っ伏した。


「なにが……どうなってんだよ……?」


 誰にともなく疑問を呟いていると湯船の一角がどっと盛り上がった。


「うおおお!! 流石ドルトの旦那だあ!!!」

「疲れが消えていくぜ!!!」

「あらやぁだ~。ドルトさんったらかっこいいんだからぁ~」


 その中心にいるのはドルトと呼ばれた炎を撃った職員服の男だ。20代前後の燃えるような赤髪に赤目、頭にはハチマキを巻いている。服の上からでもわかる筋肉質の体つきは体育会けいを思わせる。


(ていうかオカマいなかったか?)


 ドルトを囲い風呂の一角では野球ドーム顔負けの声量で騒いでいる。

 その中から主役であるドルトが出てくると、アキラの方へ歩いて行く。

 ドルトは豪快笑みを浮かべてアキラに話しかける。


「よう少年。初めての顔だよな。どうだ? この銭湯は?」


 他の人たちは浴槽の一角で騒いでいるのに対し、一人ポツンと残っていたアキラは浮いていた。その姿を目にしたからドルトは話しかけたのだ。

 アキラはドルトの雰囲気に気圧されながら端的に返す。


「正直半端ないです」

「はっは。そうだろう。それがここの売りだからな!」


 愉快そうに笑い声を上げるドルトのもとに、騒いでいた男の一人がやって来る。


「ドルトの旦那! いつものやってくださいよ!」

「おう。ちょっと待ってろ。今行くからな」

「みんな待ってるんで早めに――ほぶぅ」


 楽しそうに喋っていた男の腹部を何かが貫通した。

 湯船を挟んだ向こうの壁から円錐状の氷が伸びていた。

 その壁の方から女性の声が聞こえてくる。


「アンタらいつもいつもうるさいんだよ! 女たちの事も考えろ!」


 壁を挟んで向こう側は女風呂で、壁の高い部分は空いている。そこから声が聞こえてきていた。

 仲間がやられたことを知り、男たちが騒ぎ出す。


「畜生。またヤシダがやられた!」

「ヤシダだって風呂を楽しみたいだけだろうに……」

「くっ、ヤシダの恨みここで晴らしてやる」


 男の一人が壁の上部めがけて魔術を放ち冷水を降らせる。

 女風呂の方で悲鳴が上がった。

 そこから始まる魔術の応酬。

 壁をぶち抜き魔術が飛んで来たかと思えば、こちらからも魔術が飛んで行く。壁が粉砕し融解し凍りつく。その瞬間に壁は敷井の役割を果たすべく元の姿に戻っている。お互いがお互いの姿を見ることもなく魔術を連発していく。

 驚きすぎてむしろ冷静になったアキラがドルトに言う。


「ドルトさん。ナチュラルに死人出てるんですが……」


 目の前で氷柱に貫かれて転がるヤシダと呼ばれた男。

 先ほどからピクリとも動かない。


「まあ気にすんな。そういう事もある」


 ドルトはヤシダを一別すると、近くにあったたらいに湯船のお湯を汲んでヤシダにかけた。

 氷が解けていく。異様なスピードで氷が溶解して水になった。ヤシダが串刺し状態から解放される。その腹部にはあるはずの大穴が無かった。


「何したんですか?」


 アキラが質問すると、ドルトは悪戯好きの笑みを浮かべて話す。


「はっはっは。驚いたか? これはこの温泉の効能《不死鳥の加護》だ。このお湯が触れれば大抵の傷やら呪いやらは全部治る」

「もう回復薬要らないじゃん!」

「そうでもないぞ? この公衆浴場が《不死鳥の巣》だからこれだけの効能があるのであって離れれば効能は下がるし、時間経過でも効能は抜けていくんだ」

「そんな万能じゃないんだね」


 ヤシダが起き上がり戦線に加わるのを見ながらどこか遠くの出来事の様にアキラは呟いた。


「おっ、自己紹介がまだだったな」


 ドルトは思い出したかのように言うと、片手を出してアキラに握手を求めながら続けた。


「俺の名はドルト・フェニクス! 固有能力《不死鳥》を持つここの店長だ!」

「効能ってお前のかい!?」

「うちの銭湯はどんだけ騒いでも壊しても、《不死鳥の加護》で元通り。おまけに誰にも迷惑が掛からない! いつだって来てくれる事を待ってるぜ!」

「……」


 アキラは色とりどりの魔術が飛び交う風景と、『ヤシダァァァァ!!』『お前の敵は取ってやる!』などの叫び声に、理解の限界が来て考えることをやめる。静かに湯船に浸かりなおした。

 ドルトの炎球で湯の温度は適温になっていた。





*****





 公衆浴場を出たアキラは受付のおばちゃんに聞いたオススメの宿屋に向かっていた。

 露店街で人が多いとはいえ、夜の涼しい風が風呂上がりの火照った体を心地よく冷ましてくれる。服の風通しが良い事も相まって余計にだ。


(あ、服屋あった。買っていこう)


 そうして日用品を買いながら歩いて行く。

 この街の道はしっかりと整備され街路灯も設置されているため、日本の都会と同じくらい歩きやすい。街路灯は魔道具のようで先端に光球が浮かんでいる。光度自体に問題はないようだ。

 この世界の科学技術は地球に比べれば低いが、それを魔法で補っている。

 アキラには見る物が全て珍しく思わず立ち止まりながら進んでいった。

 ちなみにタマキは銭湯に置いてきた。

 程なくしておばちゃんの言っていた宿屋についた。

 食堂になっている一階のカウンターに行き、アキラは受付に話しかける。


「すいませーん。宿泊したいんですけど!」

「宿泊ですね! 何日泊まられますか?」

「とりあえず、一週間で」

「わかりました。一日5000チルの合計35000チルです」


 アキラがお金を払うと、受付は鍵を渡した。


「まいどありがとうございます。食事は三食、食堂で出しているのでいつでもどうぞ。昼夜は弁当にもできるので気軽に言ってください! それではごゆっくり!」


 受付の営業スマイルに見送られて二階に登る。そして鍵に付いている番号の部屋番号を探し扉を開ける。

 ベット、机、椅子と、質素な部屋だ。


『普通の部屋だな』

「うわぁ、びっくりした。ていうか、なんでいるの!?」


 突然現れて話しかけるタマキにアキラは体をビクッと強張らせて聞いた。

 タマキは銭湯で強面達に混ざって騒いでたため、置いてきたはずだ。

 するとタマキは当たり前の事の様に言う。


『前に言ったであろう。我らは一心同体だと。考えていることが分かるのくらいだ。居場所など分かって当然だ』

「いや、僕の思考を読めるのは分かってるけど、その逆は一度もないんだけど。ついでに場所なんてわかんないんだけど」


 アキラが部屋に入りながら言うと、タマキはニヤリと笑みを浮かべた。


『鍛錬が足りんな!』

「えぇ、そういう問題か?」

『ふっ、仕方ない。我が霊力というものを教えてやろう』


 自身の有用性と押しつけがましいが頼られたという事実に、タマキの表情に喜色が浮かんだ。

 ただその笑みはアキラから見たらただのドヤ顔だった。

 アキラは嫌そうに歪んだ顔を隠すように、顔からベッドにダイブして言う。


「めんどくさいから、遠慮しとくよ。おやすみ~」


 抗議してくるタマキを放置して眠りにつく。

 アキラはタマキをまるで相手にしていない。

 それは今日の一日でタマキについてなんとなく察したからだ。

 ――コイツ、全く役に立たないやつだ、ということを。

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