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女々しくても筋肉を  作者: 中田 伸英
25/25

25話 登山

 何かを書き方に問題がある気がして改善しようとしてるけど、具体的な問題点が分からない。

 物事を真面目にやるとよくある停滞期的なアレです。

 原生林を抜けるとアナザーワームは追いかけて来ることなく、その巨体を地中に潜らせてあっさりと帰って行った。目的が捕食ではなく、あくまでも縄張りの防衛だったからなのだろう。

 残されたのは、進行跡である倒木の道。その道を進めば、帰りは一気にアナザーワームの縄張りを抜けることができるだろう。


 そうして《ヒデカ山地》に到着した。

 先ほどまでの濃緑色の景色とは打って変わって、岩石ばかりが見受けられる。植物は小さな枝木が岩の隙間から伸びている程度だ。

 岩ばかりといえば岩石ガメの生息していた山岳地帯だが、そことは少し違う。

 山岳地帯は茶褐色の岩で乾燥した空気だったのに対して、《ヒデカ山地》は黒灰色の岩でジメジメした空気だ。

 高山特有の霧から来る湿気と気温の低下は、寒色の岩々と相まってより一層の静寂を感じる。

 だがその静寂は環境の影響か、山奥の廃村のように不気味な雰囲気を感じてしまう。


「井戸があれば、絶対貞さだ〇とかでてくるだろうな……」


 不気味な存在を想起させる静寂を払拭するように、体をブルリと震わせながら一人ごちるアキラ。

 その呟きに疑問を抱いたシャノンが振り向いた。


「なんだ?その、さ〇こっていうのは?」


 アキラの呟きにミリアも気になったのか、周囲を警戒しながらチラッと視線の端を向けて耳を傾けている。


「SA☆DA☆KOっていうのは、髪を前に下ろして顔を隠してる女で、現世に未練とか恨みを残してて、見た人を超能力とか呪いで殺す恐ろしい人だよ」

「ということは悪霊……地縛霊だよな。フルーティの事を言ってるのか?」

「ん?」


 シャノンの言う通り、言われてみればそうだ。

 フルーティが髪を前に垂らしたら、髪色は違うが大まかな見た目は合っている。超能力も使えるので正に貞子だ。


「いや、フルーティじゃなくて……。ええっと、ゾンビ+悪霊みたいな、なんというか恐ろしい奴で……」


 地球ではそのような超能力など存在しなかったから怖かったが、今思えば身近にタマキという男版貞〇がいるし、アキラ自身も貞〇のような超能力が使える。それに住んでいる場所だって貞〇の巣窟ともいえる。

 世界が違えば常識も違うのだ。

 そんな、貞〇の恐ろしさを伝えられずに、煮え切らない様子のアキラを見てミリアは、


「アンデットが怖いのよね! 大丈夫よ! 私は火属性専門だから、あんまり聖属性は得意じゃないけど、何とかしてあげるわ!」


 まるで子供を宥めるような様子。間違いなくなにかしらの誤解を受けている。

 だが、貞〇を説明できないのでは、誤解を解けそうにない。

 ミリアの暖かい視線を受けて、アキラは居心地が悪そうに、急いで別の話題を振ることにした。


「そ、そうだね。頼むよ! ところで、索敵の様子はどう? ええっと、【水の望遠鏡】だっけ? コボルトは見かった?」

「【水鏡の瞳】よ。レベルが上がって索敵範囲は広がったけど、まだ見当たらないわ。コボルトの集落は山頂付近のようね」

「うへぇ~。まだ登るのか……」


 現在地は山の中腹程だ。

 昔とは違い、筋力が上がった事で疲れはしないが、まだ登ると思うとあまりいい気はしない。


「ちなみに【水鏡の瞳】は、どのくらい索敵範囲あるの?」

「だいたい3レアスメートル程よ」


 知るかよ!? と叫びそうになる所をグッと堪えて、『レアスメートル』を《言語翻訳》に放り込む。すると1レアスメートルは0.6キロメートルと出てきた。

 つまり1.8キロメートル。約2キロもの範囲を索敵できる事になる。

 『ほへぇ~』とアキラが感心の声を漏らすと、ミリアは一言付け加えた。


「でも索敵を欺けるスキルを相手が持っているなら意味がないから気を付けなさい」


 だからこそミリアは周囲を警戒しながら進んでいたのだろう。

 とはいえコボルトがそのようなスキルを持っているとは考えにくい。ミリアは心配性なのだろうと思いながら、アキラは霧をかき分けて登山をつづけた。





********





 山頂が近づいてきたのか、カルデラ湖があった。

 噴火でできた陥没地形に雨水がたまりできた池で、地下のマグマに温められて水蒸気を上げている。そのせいでサバンナの密林のような気候だ。


「暑いっ!」


 端的に文句を言いながら、アキラは額に流れる汗を乱暴に拭った。その肩を、ツンツンとシャノンが呼んだ。

 振り向くと、シャノンは若干天を仰ぎ見ていた。おもむろに暑さに耐えかねたように襟首を緩め始め、胸の谷間を露にする。そして見せつけていた首を一筋の雫が下って行き、形の良い鎖骨を通り、体の凹凸に従って蛇行しながら胸の谷間に入って行った。


「汗も滴る……いい女……」


 艶めかしい雰囲気を醸し出しながらそんな事を言った。

 その光景を、つぶさにその瞳に捉えていたアキラは、


「無駄な演出ご苦労様~」

「なんでだよ!?」


 ぞんざいな態度で返されてシャノンが驚愕する。


「雲間から差し込む光が霧を照らす幻想的な風景。それを背景に佇む妖艶な美女! どう考えてもその反応は違うだろ!? 俺様の美しさにほうける場面だろう!!」

「いやいや、男に対して惚けるも何もないと思うよ!」


 見た目が妖艶な美女でもシャノンは男だ。そこは変わらない。


「う、嘘だろ……。俺様の魅力に大自然の美しさを足すことで、本来ならただのエロスに終わるところを芸術的観点をも加えた、『神秘的な美女』という域まで昇華させているんだぞ!? 俺様の自信作だぞ!?」

「クソどうでもいい事なのに思ったより高度だった!?」

「俺様もまだまだという事か。……だが、悪くない。お前をれさせることができるまで、俺様の研鑽は終わらねえ!!」

「やめてぇ! バカな事やらないで!!」


 そんな入りがたい会話をする二人に、ミリアは『ゴホン』と閑話休題かんわきゅうだいさせ、真面目な声音で言った。


「大量のコボルトが索敵に引っかかったわ。ここから2レアスメートル先よ」

「了解。きんさん、地形見てきて」

『心得た!』


 ブァサァッと音を鳴らして黒い羽根をばら撒きながら出現したタマキを見送る。

 そして、岩陰に隠れて待つこと数分。返ってきたタマキが報告する。


『集落は岩の山に囲まれた場所で、まるで砦のようであった。それと少し離れた崖上にも集落があった」

「二つか……。とりあえず近い下からかな。下の集落で攻めやすそうな場所はあった?」

『特にはないようだったぞ。入口は1か所のみ。それ以外はガダイの防壁程の崖であった』

「そっか。なら正面入口から行こうか」


 それ以外の作戦も思いつかないし最善だろう。

 岩陰を縫うように伝って近づき確認すると、入口らしき崖に空いた穴と、そこを守るように2匹の二足歩行している大柄の犬を見つけた。コボルトだ。

 彼らは門番という事もあり武装をしていて、錆びが浮かぶボロボロの剣と穴だらけの金属鎧を装備している。ソニオックスの2倍弱の強さがあるとは思えない粗雑な装備だ。


「じゃあ行こうか。いっせいのうぐふっ……!?」

「ちょっと待ちなさい!」


 飛び出すタイミングを合図するアキラの襟首を、急いで追いついてきたミリアが引っ張って待ったをかけた。


「ゴホッ……ああ、首折れかけた……。ど、どしたの? おしっこ洩れそうなの?」

「違うわよ! シバかれたいの!?」


 そしてミリアはすぐに胸を張って笑みを浮かべながら続けた。


「この地形なら、私にもっといい作戦があるから任せなさい!」

「ほう。ならば任せよう!」


 正面突破が最善策だと思っているアキラは、それ以上の作戦と聞いて挑発的に答えた。



*******





「なんていうか、完全に悪役だよねー」


 目の前で起こる惨状を見ながらアキラは、せわしなく魔術を使うミリアに向かってぼやいた。

 そこはコボルトの集落を取り囲む、傾斜が急すぎる岩壁の上。本来なら立つことが出来ない切り立った岩壁の頂上で言った言葉だった。

 だが、アキラとミリアの立っている足場は他とは異なり平らにならされていた。おあつらえ向きに物見やぐらのような身を隠すことが出来る手摺てすりまで作られている。そして、後ろには登るときに使った岩壁に沿って作られた階段まである。

 これらは、全てミリアが土属性の魔術で岩を変形させた物だ。

 最初に唯一の入り口を塞ぎ、慌てふためく門番をシャノンがサクッと真正面から暗殺。そして、物見やぐらを作り、ミリアは上から一方的な火球を浴びせていた。

 立て続けに起こる爆発からコボルトは必死に逃げるが、出入り口を塞がれたこのフィールドからは逃げられない。

 全滅も時間の問題だろう。

 そんな、どこぞの魔王のような虐殺を続ける少女は、


「やめてよね! そうやって真実を伝えるの! 作戦を立てたのは私だし、結構気にしてたのよ!」


 派手な爆発で巻き起こる爆風に金髪をなびかせながら、ミリアは何か間違えたような微妙な表情を作った。


「あっ、そうなの!? 無言で淡々と続けるもんだから相当の嗜虐趣味なのかと思ったよ!」

「誰がドSよ! 私はそんな特殊性癖じゃないわよ!」

「え……。もしかして……、ドMだったの!?」


 衝撃を受けた顔で若干引き気味のアキラを見て、ミリアは表情を盛大に引き攣らせた。


「なんでそう大雑把なの!? 大と小の間に中があるって知ってる!?」

「も、もちろんだとも……」


 仮にもアキラは中学まで真面目に授業を受けてきた常識人だ。

 その程度の言語力は有している。最近記憶があやふやで、少し自信は無いが……。

 内心では『追及しないで』と、考えているアキラ。その心情を呼んでか、ミリアは魔術を撃ちながら横目に疑いの視線を向けた。


「攻撃、撤退の間は?」

「……。突撃する!」

「殴る、蹴るの間は?」

「……。突撃する!! なるほど……。言いたいことが分かったよ!」

「いや、何一つ理解できてないからね?」

「えっ!?」


 驚愕で目を見開くアキラ。だがすぐに何が間違っていたかを考え思案顔になる。

 そんなアキラを呆れ混じりの表情で見ていたミリアだったが、アキラが自信を持って言っていた事を表情から察して静かに視線を逸らした。


「諦めって重要ね……」


 遥か彼方を見つめながらサッパリと呟くミリア。その様子に、どうやら機嫌を損ねたようだと思うが、原因の分からない以上何を言っていいのか分からなかった。

 何も言われないというある意味では辛い空気に、アキラはばつの悪そうな顔でそっぽを向いた。


「僕も手伝うよ」


 誤魔化すように大量の鬼火を生成してミリアの作業を手伝い始める。空気改善のための形だけの攻撃のため、狙いすら付けていない。そもそもの話、鬼火は火種として使える程度の火勢で殺傷能力など無いに等しい。

 鬼火が直撃したコボルトの一匹が、青い炎に包まれてもがき苦しむ。

 ミリアの魔術で一瞬にして倒さなければ、逆にコボルトが辛そうだ。


「……ミリア、あの子、可哀想だから爆散させてもらっていい?」


 爆発が轟き、また一匹のコボルトが犠牲になった。

 そんな矛盾したカオスな内容のやり取りをしていると、門番コボルトを倒したシャノンが階段を上がって戻ってきた。


「うわっ、なんだこの状況は!? 地獄か!?」

「「…………」」


 コボルトの集落全体的に広がる赤々とした炎に、アキラが雑に放った青い炎が混ざり、この世の物ではないような雰囲気を醸し出している。人型の炭もゴロゴロ転がっているため、地獄と言われても差し障りない。

 そして、その光景を作り出した当の本人であるミリアは、スッと視線を彼方へ彷徨わせ、その一因であるアキラも、


「ちょっともう一つの集落が気になるから見て来るよ!」


 タマキの視力がマサイ族とはいえ、もう一つの集落がこれだけの喧騒が聞こえぬほど距離があるとは思えない。

 実際に気になってもいたアキラはタマキを連れて階段を下り、その場からそそくさと逃げていった。

 今後の展開のためにアキラ達とミリア達が分かれるようにしたら、結構強引になってしまった。

 会話文に茶番突っ込んで印象を誤魔化したけど、根本的なズレが大きすぎて埋まってない気が……。

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