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女々しくても筋肉を  作者: 中田 伸英
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24話 依頼の地へ

 冒険者ギルドに顔を出すと、職員の一人に依頼用紙を渡された。『貴殿らの腕を見込んで』ということで、ギルドマスター直々の依頼だという。

 昨日パーティーを組んだばかりでどこに期待する要素があったのか分からないが、アキラは依頼相手が相手だけに断らない方が良いだろうと判断して受け取った。


 内容は、北東に広がる原生林を抜けた先にある《ヒデカ山地》に住み着いたコボルトの集落を掃討するという物だ。

 コボルトの強さについてギルド職員に聞いたが、返ってきた答えは『5レアス程です』だ。ソニオックスが3レアスだった事から強くないのだろう。


 だが、その依頼用紙をみたミリアとシャノンは重々しい表情を浮かべた。


「予想より早いわね」

「まずいな」

「……? ヤバイね」


 そんな二人を見て、アキラも特に意味の無い同意見を口にした。

 一人だけ仲間外れは嫌なのだ。


「本来ならステータスで地力を上げてからがよかったけど、もう時間は無いみたい……」

「行きの途中でモンスターを倒せばある程度は誤魔化せるんじゃねえか?」

「襲ってくるモンスターの対処だけでも結構あるよね~」


 さも分かってる風の雰囲気で、話に混ざろうとするアキラ。そのせいで少し話の趣旨がズレていた。


「確かにそうでしょうけど、それじゃあ気休め程度よ。しんどい戦いになるわ……」

「だろうな……。だが、この試練を乗り越えるしか、残された道はねえ」

「そうだ!どんな時も強引に道を切り開けば問題ない!」


 力説するアキラに、ミリアは鬱陶しそうに据わった目でギロリと睨んだ。


「アンタはちょっと黙ってなさい!!」

「おぶはぁっ!?」


 渾身のつま先蹴りが脛に刺さり、アキラは変な声を上げて倒れた。


「お、おい。僕の防御力が低い事は知ってるだろ!? そんな強く蹴ったら、うっかり死んじゃうじゃん! 気を付けてよ!」


 アキラにとっては本当に即死する死活問題なので真面目に言うが、二人は……。


「それならモンスターを集める術式なんてどう? 大量に集めれば一気にレベルを上げれるわ」

「そいつは名案だ。だが、範囲指定をミスると疲労を残すことになるぞ?」


 そんなアキラを放置して作戦会議を続ける。その様子にアキラも、あれ? 本当に余裕がない?と思い始めた。

 アキラが疑問に思い眉をひそめていると、タマキがドヤ顔で近づいてきた。


『我の様に空気を読んで静かにしておればよかったものを。アキラもまだまだだな!』


 確かにアキラが他人と喋っている時、タマキは喋りかけてこない。空気を読んで優先してくれている。

 だが、バカの代名詞であるタマキにさとされている事に、アキラはムッと不機嫌そうな表情を浮かべ言い訳気味に言った。


「同じパーティーなのに、僕だけ仲間外れなんて嫌じゃん!」

『二人も事情があるようだ。親しい仲だからこそ、踏み込みすぎない事も重要だぞ?』

「珍しくまともなこと言ってるな……。親しき中にも礼儀あり、ってやつだね」


 年の功なのだろう。

 戦国時代から存在する霊というだけあって、流石の人付き合いの上手さだ。

 アキラは少し感心した。


『む? 何だそれは? 親しいなら直接聞けばよかろう』

「あ?」


 話が通じない……。

 やっぱりタマキはバカだと思ったアキラであった。

 そんな事をしているとミリアの声が聞こえた。


「……アキラ!早くいくわよ!時間ないんだから!」


 そう言うと、シャノンを連れてさっさと行ってしまうミリア。

 アキラは急いで追いかけた。





 *********





 《ヒデカ山地》は《両塞都市ガダイ》の北東に広がる広大な原生林の向こう側に位置する岩山だ。といっても遠いわけではなく、ガダイから北東の方向を覗けば目に入る程の距離だ。

 そこには、武器や防具に使われる上質な金属や、高級なアクセサリーに使用される貴重な鉱石が豊富に眠っているため、採取の依頼が出されているのをアキラもよく目にした。

 正に宝の山と言っても過言ではないだろう。


 そんな商人ならば誰もが独占しようと躍起になる山地だが、採掘場としての開発はおろか、冒険者も依頼を受けることも少なく、手付かずになっていた。

 《ヒデカ山地》は原生林の向こう側であるため、向かうためには原生林を通る、もしくは迂回しなければならない。

 前者は、原生林に潜む膨大な量のモンスターに襲われながら開拓して、更には道の維持もしなければならない。いくら《ヒデカ山地》が莫大な利益をもたらすと言っても、維持費だけで赤字になりかねない。

 だが後者の場合も同様に、広大な原生林を迂回するには数か月の運搬が必要になってくる。それ程の連絡路や食料の確保、護衛依頼を賄おうとする場合、金額が大きくなりすぎてしまう。現実的ではないのだ。

 故に《ヒデカ山地》というお金の山は手付かずのまま放置されてきた。他ならぬ、原生林という手の出しようがない障壁によって。


 そんな誰もが敬遠する原生林。

 そこにアキラ達は、躊躇する様子もなく入って行ってしまった。


「じゃあアキラ。手筈通りよろしくね」


 ミリアがそう言うと、アキラを前衛に他二人が後衛に位置取った。

 その言葉にアキラは力強く頷いて見せた。


「任せろ! 蜘蛛の巣は僕が全部どうにかするから!」

「どんだけ蜘蛛が嫌いなのよ! 違うわよ!! 私がアキラに【デコイ】の様な魔術を掛けるから囮になって、っていう話でしょ!!」

「おっと、失礼……」


 あまりにも蜘蛛が嫌いすぎて、頭の中が蜘蛛の巣を除去する事で占領されていたようだ。

 そんな上の空のアキラを見て、ミリアは困ったような表情を浮かべた。


「アンタ本当に覚えてるのよね!? もう一度確認のために説明はいる?」

「……。お願いします」


 バツが悪そうに視線を逸らしながら呟くアキラ。思い出そうとして記憶があやふやだったのだ。

 その様子を見て、シャノンは愉快そうにお腹を抱えて笑い、ミリアは呆れた視線を向けながら話し始めた。


「まず前提として、今回の依頼はきな臭いと思うの。人里から大分離れた場所で、討伐のメリットすら存在しない内容で私達を指定して。まず間違いなく裏があるわ。危険なモンスターか、刺客か、もしくはそれ以外か……。詳しくは分からないけど警戒しといて!」

「わかった」


 是非とも断りたい依頼ではあるのだが、差し出し相手がギルドマスターでは大した理由もなく断ることはできない。きな臭いなどと言ってしまえば、不真面目な冒険者としてギルドでの立場も危うくなってしまう。大きな組織ではよくあるしがらみだ。


「それと同時に、レベルを上げながら向かうわ。まずはさっき作った、戦士系スキルに似た効果の魔術【デコイ】をアキラにかけて敵を引き付ける」

「う、うん……」

「すぐに近場の敵が寄って来てアキラに夢中になるからその隙に、シャノンが索敵系スキルを使って右側を、私が【水鏡の瞳】っていう索敵能力を使って左側を倒すから、アキラは正面と厄介な敵が来た時の対応をよろしくね。わかった?」

「わかったよ!でもそれ、抜けられたら、僕終わるよね?」


 アキラは戦士ではあるが、【覇豪なる者】というスキルの影響で耐久力を上げられない。おかげで筋力値が異常だが、いずれにせよ本来の役割を果たすことはできない。一度でも攻撃を食らえば致命傷なのだ。

 もちろんアキラも、二人の事は自分よりマシなステータス構成だと分かり切っているので実力は認めている。ただ、根っからの小心者で不安になっているだけだ。

 だが、そんな半信半疑を吹き飛ばすように、ミリアは自信満々に言い切った。


「安心しなさい。一匹も通さなければいいだけよ。私は攻撃範囲が広いからもちろんの事、シャノンもすばしっこいから問題ないわ」


 その言葉にシャノンは頷いて同意している。


「ま、まあそうだね。本当に頼んだよ?」


 曖昧な返事を返すアキラ。二人の様子を頼もしく思いながらも、やっぱり不安は抜けなかった。

 そんな心情を察してか、ミリアは若干呆れ混じりの様子で肩をすくめながら。 


「まあいいわ。それじゃあ、さっさと始めるわよ」


 アキラの肩にミリアの手が乗せられる。すると、挑発するような赤のオーラが、アキラを包み込む。若干、闘牛のマントを想起したアキラ。だが、その思考はすぐに打ち捨てることになった。

 途端、周囲が騒がしくなった。どこからともなく草木のこすれる音が聞こえてくる。

 見られてはいないが、大勢から注目されているようにソワソワする。気配、殺気……そういった第六感的な感覚を感じる。


 そんな事を考えていると、木の上から飛び出してきた猿のようなモンスターを、出てくる場所が分かっていたように素早く移動したシャノンが切り伏せた。

 その反対側ではモンスターの姿は見えないがミリアが、木の葉の破片を舞い散らせながら水の刃を放っている。山火事になる心配がある為、水なのだろうが、時折聞こえるモンスターの呻き声から索敵能力を基に接近前から倒している事が分かる。

 そんな余裕そうな雰囲気を見てアキラは。


「全く、頼もしいなあ……!」


 先ほどの心配が杞憂であることを悟った。後ろから襲われる心配はなさそうだ。

 その勇姿に触発されてアキラもやる気に満ち溢れた表情で、自分の持ち場である正面に向かうのであった。





******





「へぶぁ……!? ちょっ、きんさん!? もっとしっかり仕事して!!」


 静かに敵を始末するシャノンと、雄叫びすら上げさせる前に始末するミリアとは違い、アキラは派手な轟音をまき散らしながら歩みを進めていく。

 その手に持つ武器は露店で買った5000チルの両手剣。見るからに粗悪品だが、それを感じさせない威力と破壊をもたらし、周囲環境ごと敵を一蹴する。

 どこからどう見ても立派な前衛の仕事をこなしているアキラ。

 ただ、顔にかかった蜘蛛の巣に異常なほどビクビクしていなければ……。


『そうは言うが、難しいのだぞ?』

「ああ、知ってるよ!」


 タマキの言い訳に、アキラは反発心を持ちながらも不承不承と言った様子で理解を示した。

 それは念動力の性質を理解しているからだ。

 念動力は基本的に無機物に対して使う力だ。生物に対して念動力を使うと、タマキに聞いた話では守護霊が阻害して無効化してしまうそうだ。

 念じるだけで物を浮かせられても、生物は浮かせられないのだ。


 それは蜘蛛の巣にも言えることで、巣そのものは糸で無機物ではあるが、そこに一匹はくっ付いている蜘蛛本体は動かすことが出来ない。

 つまり、蜘蛛の巣を除去するためには、糸で蜘蛛を包み込んでから動かさなければならないのだ。どうしても時間がかかってしまう。


 だがそれだけではない。その程度であれば、タマキとアキラの二人組で当たれば間に合う。

 そこには、もう一つの理由が除去を間に合わせなくするに起因していた。

 それは……。


 ――背後から聞こえる破砕音。

 木々が根元からへし折れる音が木霊する。

 その音から、アキラ、ミリア、シャノンは駆け足で逃走しながら襲い来るモンスターを討伐していた。

 ソレは巨大なミミズだった。全長50メートルはあろうかという巨体で、テラテラとした体をくねらせて道をこじ開けながら追いかけてくる姿は、もはや大蛇であった。

 生理的に近づきたくない見た目のモンスターではあるが、それだけで逃げているのではない。


「――【水法弾】……!」


 ミリアが周りのモンスターを討伐しながら、極大の水球をミミズに向けて放つ。

 すると、ミミズは円形の大口を開いて、その奥に広がる深淵を見せた。首を持ち上げているため水球の軌道から離れた位置だが、次の瞬間、まるで水球が意志を持っているかのように弾道を曲げて大口の中に吸い込まれてしまった。

 魔術吸収能力……それがこの大ミミズ……アナザーワームの能力であった。

 だが、それだけで終わらせるほどミリアも甘くない。指揮棒のようにクイッと指を上げると、瞬時に地面が盛り上がり、アナザーワームを突き上げた。

 地面の土を直接操作することで、攻撃は不可能ではない。

 しかし、アナザーワームは長い体を鞭のように使い、その衝撃を伝播させて受け流した。

 地面に伸ばした縄を、上下に振ってできた山が数メートルで消えてしまう原理と同じだ。巨大な衝撃も、受け流しつつ地面の摩擦や肉体の抵抗を使い、分散させて処理してしまう。

 アキラが両手剣で斬り付けたときも同様だ。5000チル程度の武器が持つ切れ味では、弾力のある皮を貫くことはできない。受け流されて終わりだ。


 思えば、数が多いだけのモンスターが集まる原生林が開拓されない事も考えてみればおかしかった。

 アナザーワームのようなどうしようもないモンスターの縄張りだからこそ、開拓がなされていないのだ。


 討伐を諦めたアキラ達は、アナザーワームから逃げながら《ヒデカ山地》を目指した。

 不幸中の幸い、ミミズのアナザーワームは巨体とはいえ移動が遅く、偶に衝撃を与えて受け流させれば足を止めることが出来る。

 こちらは走りにくいため逃げ切ることはできないが、駆け足程の速度で走れば追いつかれることもない。

 ただ、蜘蛛の巣には引っかかるが……。


 そんな逃げられてホッとするような、でも蜘蛛の巣が引っかかって不快なような、複雑な心情でアキラは歩みを進めた。

 深淵って言うと、先の見渡せない暗闇を想像する人と、別世界に繋がるゲート的な存在を想像する人がいると思う。

 こういう直感的な表現って難しいね。

 あと原生林の手が出せない様を書きたかったけど、利益関係の下りから少しズレた気がする。

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