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女々しくても筋肉を  作者: 中田 伸英
23/25

23話 武器の新調(?)

タイトルが○○話だけじゃ味気ないので、23話からで今更感はあるけど題名入れていくことにします。

「という訳で壊れにくそうな両手剣は無いか? 予算は結構ある。良さげなやつを紹介してほしい」


 以前来たことのある武器屋のおっちゃんに、アキラは要望を告げた。

 剣など無くても攻撃はできるが、唯一のスキル【フルスイング】は素手では使えないので念のため買いに来たのだ。

 すると、おっちゃんは上機嫌で笑みを浮かべた。


「いやぁ、お客さん、そこのショーケースに入ってるのでお気に召さないとは、アンタ良いセンスしてるねぇ!」

「え? あ、えっと……」


 アキラはおっちゃんの勘違いを正そうとした。ショーケースの中に入っている武器は、手入れが行き届いて光沢があるというのもそうだが、言葉にはできない気品のような高級感がある。純粋な性能も高いだと素人目にもわかる。

 その中から選ぶつもりなのだが。

 煌びやかな物、禍々しい物、一見古そうに見えるが研ぎ澄まされた業物のような気がする物、種類は様々だ。

 いつもなら気分次第で一番右や左を選ぶアキラなのだが、呪われたようなオーラを放つ剣を見て素人が選ばない方が良いと思った。100万を超える金額で、少なからず慎重になっているという事もあるだろう。

 だから聞こうとしたのだが……。

 おっちゃんは、アキラの言葉を聞く前に続けた。


「うんうん。分かるぞ、その気持ち。見栄えもそうだが、やっぱり性能と機能美を求めなきゃいけない。冒険者には強さとカッコ良さは重要だからな!」


 ペラペラと喋られて何と返そうか困っているアキラをよそに、おっちゃんは木箱を開けた。


「こちら本店自慢の一品! 世界最硬度の金属……ダマスカス鋼で作られた、ダマスカスピッケルだ! 貴重な金属で入手するのも大変だが、特別に売ってやろう!」

「いや、なんで貴重な金属をピッケルに使ってるの!? もっと造るもんあるだろ!!」

「なんだと!? 世界最硬度の美少女を造って何が悪い! 完全無欠の強くて可愛い美少女の何が悪いって言うんんだ! ほらっ! 悪い点があるのなら言ってみろよ! ああん!?」

「その思考回路がおかしいだろ! 世界最硬度の美少女ってどんなパワーワード作り出してるの!? 違うだろ! もっと性能も機能も高い武器があるだろう!」


 言われてハッとなるおっちゃん。興奮した様子を抑えて、申し訳なさそうボリボリと頭をかいた。


「悪い。熱くなってたみたいだ。確かにそうだよな。完全無欠で全てをこなしてしまう万能の存在なんて、慣れてしまえばそれが普通になってしまう。確かに違うよな。あんたの言う通りだ」

「ん?」


 話が読めずにアキラは首を傾けた。


「光があるからこそ、影がある。仕事があるからこそ、休日に喜びを感じる。だからな……」


 おっちゃんはクワッと目を見開いて力説した。


「何かできない事があるからこそ、得意な部分が際立つというものだ! なるほど……確かに完全無欠は魅力的だ。だが、それも慣れてしまえば日常になってしまうんだ!」


 歯を食いしばって、目の端に涙が浮かび始めた。


「苦も無く、楽も無く。ただのうのうと生を謳歌するだけの人生。そこには何の楽しみのない! 感情の起伏もない! ただの生き地獄だ! もう一度言おう。完全無欠も魅力的だ。だが! ――波乱万丈があるからこそ美少女が美少女足りえるのだ!」

「それで? 結局何を言いたいの?」


 何かの理論を説明していたのだろうが、考えることの苦手なアキラには理解できなかった。

 ただ一つ。おっちゃんの変態性だけは深く理解できたが。


「つまりだな……こういうことが言いたいんだ!」


 ゴトリと音を立てておっちゃんは新たなピッケルを置いた。


「最近値段高騰中の魔鋼鉄で作られたピッケルだ! 魔鋼鉄は魔術と相性が良く、属性を付与できるんだが、その属性はなんと最強クラスの【必殺】効果だ! 当たればどんな相手でも倒せる」

「おお! すごい!」


 ピッケルだが本気で買おうかと考えるアキラ。だが次の言葉に、その気は失せる事になる。


「だがまあ、そんな破格の効果を付ける代わりに少々脆くなってしまってな。……なーに、本気で振ったら折れる程度の問題だ。そこがスパイス! そこが可愛い! どうだ? 買いたいだろう!?」

「また高価な金属をゴミに使いやがったな!? 買いたくなるわけないだろ!」

「ゴミとはなんだ! ゴミとは! 確かに作った俺でも、これはどうかと思う。付けれる属性が【必殺】【脆化】【不壊】の内2つだけと知った時は本気で悩んだんだ」


 当たれば必ず倒せて破壊することもできないとなると、ピッケルではあるが伝説の武器に仲間入りだっただろう。勇者の聖剣がピッケルになっていただろう。


「それでもな……男なんて所詮、股間のジョイスティックに従って生きる生物だろう!? だったら俺の選択は絶対に間違いなんかじゃない!」

「間違いしかねえよ!」


 アキラは迷うことなく言い切った。

 世界が救われる可能性よりも、この男は自分の欲望を優先したのだ。

 その決断は間違いでしかない。

 おっちゃんは嫌そうに顔を歪めた。


「……チッ、テメエとは分かり合えそうもないな! さっさとそこのガラクタ買って帰りな!」


 そう言って、ショーケースに視線を向けるおっちゃん。彼にとってピッケル以外の武器はガラクタ同然なのだろう。

 もちろん、最初からそのつもりのアキラも異論はない。


「じゃあ、武器の効果とか教えてもらっていい?」

「教えるからさっさと買って帰れよ? いいな?」


 どうやらおっちゃんはアキラの事を完全に嫌いになったようだ。

 一応接客はしてくれるんだ、と思い内心で苦笑いしながらアキラは一番右にある禍々しい両手剣を指さした。


「じゃあ、これから」

「それは、毒魔剣カラミティ。触れた相手を毒状態にする効果を持っている。敵味方の判別も付かないから使用者も毒で死ぬ」

「本当にガラクタじゃん!じゃあこれは?」


 鋭い光を放つ両手剣を指差す。

 杖の中に仕込む仕込み刀のような形状だが、両手剣のせいで柄の部分が太すぎる。完全に丸太だ。


「それは、この前用水路に落ちてたから拾ってきた。多分【不壊】属性が付いている」

「なんで捨ててんの!?」


 とはいえ、持ち手が太すぎて抱えなければ持てない。論外だ。


「じゃあこれは?」


 となりの美しい両手剣を指差した。光り輝くオーラが漏れる神秘的な両手剣だ。


「それは聖剣エクスカリバー。勇者が男を買うために売り払っていったものだ」

「その勇者、絶対世界救う気無いだろ!?」


 あのファンタジー最強の武器……聖剣エクスカリバーが、魔王の眼前で埃を被って売られている事にアキラは驚いた。

 平和というのか、危機感がないというのか、どちらにしろ世界を救う使命は捨てている。


「いや待てよ……」


 おっちゃんの言葉に気になる点があった。『男を買うために』と言った。

 つまり、女勇者だ。そして、ちょっとエッチな趣味のようだ。

 今度、ご挨拶に向かおう……と硬く決意した。


「買うのか? 買わないのか? 早く決めろ!」


 おっちゃんの声でアキラの意識は現実に引き戻された。

 聖剣エクスカリバー……間違いなく強力な武器だ。こんな場所で誰の手にも使われないのは問題だろう。


「分かった。買うよ。いくらだ?」

「こんなガラクタでいいのか……。200万チルだ」


 かくして、アキラは聖剣を手に入れた。




***********




 ミール邸に帰ると、リビングにミリアとシャノンがいた。


「ただいまー」

「おう、おかえり!」

「遅かったわね。さっさと準備して今日も依頼いくわよ!って、その剣どうしたの?」


 急いで武器屋に行ったのだが、待たせていたようだ。

 ミリアはご立腹の態度を取っていたが、アキラが背負っている両手剣を見て興味を示した。鞘にしまっていても光るのだ。無理もないだろう。


「これは買ってきた聖剣エクスカリバー。勇者が売っていったそうだよ」

「「……は?」」


 目が点になる。

 世界を救う剣がこのような場所にあると知れば驚くのも無理はないだろう。


「聖剣って選ばれた人しか持てない武器でしょ!? なんでアンタが持てるのよ!?」

「そ、そうなの?」


 ミリアの言葉に深く考えてなかったアキラは少し深刻そうな顔になった。


「ええっと、選ばれてない人が持ったらどうなるの?」


 今も持てているから大丈夫だと思うが、一応聞いてみるアキラ。その返答はシャノンから返ってきた。


「昔、盗賊が勇者の聖剣を盗んだらしいが、盗賊は生気を吸い取られて死ぬらしいぞ!」

「ま、マジですか……」

「マジだぜ……」


 アキラは少しヒヤッとした。下手したら武器屋で死んでいたかもしれないのだ。

 確認の意味も込めて聖剣を抜いてみる。

 美しい光が溢れ……。


「あれ? いま一瞬でクラッて来た気がする」

「気のせいじゃない? 今まで持ってこられたんだし大丈夫よ」

「……そうだな!」


 あまり深く考えずにアキラは聖剣をしまった。


「じゃ、準備してくるよ」

「ああ、ちょっと待ってくれ」


 先ほどミリアに急かされた事を思い出し自室に向かおうとすると、シャノンから声がかかった。


「さっき幽霊執事のビターが、ゴミを暖炉に入れといてくれたから火をつけてくれ。姐さんの魔術だと調整がな……」

「そんなことか。分かったよ」


 ミリアはバツが悪そうにそっぽを向いた。森を灰にする程の魔術では威力が強すぎて手が出せないのも無理はない。

 アキラは暖炉に手を向けた。

 だが、そのまま不思議そうに眉をひそめた。


「あれ? 火が出ないな。朝はできたんだけどな……」


 手のひらを向けたまま唸り始めるアキラを見て、ミリアとシャノンは顔を見合わせる。

 そんな時だった。


「お兄ちゃんお帰り! あっ、でももう行っちゃうんだっけ?」


 そう言って寂しそうな顔でスウィートがアキラに近づいて行くと……。


「な、なにその剣。眩しい……。あれ? なんか力が……」


 力なく倒れそうになるスウィートを見てアキラはハッと思い浮かぶ。

 聖剣は邪悪な力を滅する聖なる力を持ってる剣だ。そして霊のスウィートは分類的には死霊系だ。

 無邪気な笑顔を浮かべるスウィートを天使と脳内変換していたが、一般的には邪悪な存在だ。

 つまり、聖剣から漏れ出す後光だけでスウィートが消滅しかけているのだ。


 改めて意識してみれば、アキラも体から急速に何かが抜けて行っている事に気が付く。そして、この感覚は霊力だと気が付いた。

 シャノンは盗賊が生気を吸い取られて死んだと言っていたが、聖剣は霊力を吸い取っていたのだ。

 誰もが守護霊を持っているのだから、誰だって霊力を持っている。それを選ばれた人以外が聖剣に触れれば、吸い取り絞り殺すのだろう。

 先ほども聖剣がちかくにあるから、鬼火が消されて使えなかったのだ。


 そうと決まればこのようなガラクタ持っていても仕方がない。スウィートに害をなす剣などゴミだ。

 急いで窓から飛び出すとアキラは、聖剣を全力で投擲した。


「そおい!」


 筋力値100を超え始めたアキラの膂力は、聖剣を空の彼方まで飛ばした。

 飛び方から見て街を越えたどこかの大地に突き刺さる事だろう。

メモ的な何か


人間の動作を事細かに書くのではなく、大雑把な擬音を入れて形容詞的な読者のイメージに頼る書き方。

この話では、アキラの霊力の膨大さを表現しようと思ったけど、なんかうまくいかなかった。

最後の理論も聖剣が霊力を吸い取るなんて、けっこう強引でごり押しな風になってしまった。

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