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女々しくても筋肉を  作者: 中田 伸英
20/25

20話

三人称にもだいぶ慣れてきた気がする。

でも少し長々と書きすぎている気もする。

今後の課題かな。

あと書く時短も。

 鬱蒼とした木々が生い茂り、雑草だらけの足下と頭上から垂れ下がる蔦、苔だらけのキノコが生えた倒木が行く手を阻んでいる。人の手が入っていない、正に原生林とでも言うべきであろう様相を醸し出している。

 アキラたちは、《両塞都市ガダイ》の北東に位置する森に生息するモンスターの間引き依頼を受けやってきた。

 この依頼はギルドから常時出されている依頼で、最低限都市の安全を確保するためのものである。報酬はお世辞にも高いとは言えない平均的なものではあるが、討伐したモンスターの種類や数に応じたボーナスが出る。パーティーメンバーそれぞれの実力を確認する力試しとしては最適の依頼だ。

 もっとも今しがた到着したばかりのアキラだが、その表情は実に疲れ果てている。

 ギルドでの一件。霊であるタマキは基本的に見えない。周囲の目には、中空に向けて何かを叫びながら拳を振るうアキラや、突然グッタリと倒れたミリアと、哀愁漂う雰囲気を醸し出すシャノンの三人組は、かなり頭のおかしな集団のように映っていた。

 そんな奇異の視線を向けられている事を機敏に気が付いたアキラは、冷や汗を流しながら”メンバーの実力テスト”という名目で、逃げるようにギルドを後にしてきたのだ。

 そして、繊細なアキラとは違い図太い性格のミリアとシャノンは……。


「見てシャノン!このキノコ、カラフルできれいよ!持って帰らない!?」

「姐さん……。それ、毒キノコだぜ?」

「…………。こ、この光ってる蕾、夜に使えそうじゃない!?」

「それは光って見えるだけで、麻痺毒の粉だ」

「ええ!?触っちゃったじゃない。どどど、どうするのよ!?」

「そのくらいなら、洗い流せばいいだろ……」


 そう言って水筒を取り出すシャノンと、その水で綺麗に手をゆすぐミリア。

 先ほど奇異の視線を向けられていたことにすら気が付いていなかったのか、気にしないだけなのか……。

 そんな、初めての物を見る子供の様に目をキラキラとさせるミリアと、世話を焼くシャノン。まるで仲睦まじい姉妹のようなやり取りをする二人。

 その実は、カッコ可愛い系の姉は男で、そこに今はギルドで殴られて伸びているためいないがタマキも加わる事になる。

 前途多難だった。




*****





「そろそろ行くぞ~。集まれ~」


 森の始まり付近の場所で、大自然の美しさを楽しんでいたミリアとシャノンがパタパタと、アキラの元へ合流する。

 ここで今後の細かな方針を話しておく。


「まず最初に、今日の依頼はお互い実力の把握を目的にしていこうと思う。来る途中に大まかには聞いたけど、まあ実際やってみないと分からない事はあると思う」


 話で聞いた印象と、実際の異差というものはどうしても存在する。

 例えば、『走ることが得意』という人でも、具体的にどの程度得意なのか聞いただけでは分からない。運動が苦手な人がスポーツの中では得意と言っているのか、運動神経抜群の人が得意と言っているのかでは、天と地程の差がある。そういった認識のズレを無くす事は、切羽詰まった状況での結果を大きく左右するのだ。


「とりあえず森の外周部を回る。そこで襲ってきたモンスターと1人を戦わせて残り二人は観戦。そうすれば何か見えてくるんじゃないか?と思う。どうかな?」

「戦うのは良いけど、なんで森に入らずに外周なの?」


 ミリアが首を傾げる。意見に対する不満では無く、純粋に理解できなかったようだ。


「見ての通り、森の中は歩きにくいし視界が狭いから、移動と索敵だけで結構な労力になる。初日なんだし安全第一で行こうという考えだよ」

「ふ~ん」


 ミリアが納得した様子で頷いた。


「……あと、蜘蛛の巣あったら嫌だから」

「そっちが本音なのね……」


 ボソッと呟いたアキラに、ミリアが呆れた。先ほどの大層な理屈が、蜘蛛が嫌だから即興で考えたでっち上げと理解したのだ。


「え、ええと、シャノンもそれでいいかな?」

「ああ、俺様は問題ないぜ!」

「よ、よし。それじゃあさっさと行こう!」


 ミリアのジト目にヒヤヒヤしながらアキラは先を急いだ。その後をシャノンも続く。





*******




 まず最初に戦うことになったのはシャノンだった。

 シャノンが森に一番近い位置を歩き、もしもの時のためにアキラとミリアは付かず離れずの距離で歩く。


「お!来たみたいだな」


 そんなシャノンの声と共に、森から3つの影が飛び出してきた。

 大型犬よりもさらに大きいな体を持つ灰色の狼で、威嚇するような低い唸り声を出す度に覗く鋭い牙と赤い目から、獰猛な気性がうかがえた。


「じゃ、ちょっくら暗殺してくるぜ!」


 今にもこちらを食い殺そうと睨み付けてくる視線を受けながらも、シャノンは気軽な様子で歩き出す。

 一歩、二歩と歩みを進め。

 ――姿が搔き消えた。

 片時も目を離していないにも関わらず、その場から忽然と姿を消した。

 何らかのスキルを使ったようで、その様子を見たアキラは『おぉ!』と小さく感嘆の声を上げた。

 シャノンの職業は、盗賊の上位職……暗殺者だ。索敵や罠の発見が得意な盗賊の特徴を受け継いでおり、先ほどのように森から飛び出す前の狼も発見可能だ。その反面、直接戦闘は少し苦手だが、スキルの特性を生かし不意打ちのみなら無類の性能を発揮する。

 今回の様に、真正面から戦うのは不利とみて、シャノンは一度姿を隠したようだ。

 見慣れているのかその戦闘にあまり関心を見せないミリアの隣で、アキラは辺りを見回した。

 遮蔽物は多くない。

 岩や木は点々とあるが、狼とアキラの両方から姿を隠すことのできる程の大きさはない。考えられるのは森だが、それは狼の向こう側だ。

 アキラは浮足立つ三匹の狼を目じりに、どのような戦い方をするのか期待を膨らませる。

 すると、消えた時と同じように突如として、小さな土埃を立てながらシャノンが現れた。


「おぉ……?」


 その位置に、アキラは疑問が浮かんだ。

 一番近い狼との距離は3メートル程。不意打ちで数を減らすには明らかに間合いの外だ。

 三匹の狼もそれに気が付き、体制を低くして唸り声を上げる。

 シャノンは勢いよく腰の短剣を抜くと構えた。体の正面に、剣先が天を向くように。


「……ん?」


 その姿に、疑問の声が漏れた。

 剣は短剣だが、その姿はまるで騎士のするようなもので……。

 シャノンは、男とは思えない女声を張り上げて言った。


「俺様の名はシャノン!いざ尋常に、勝負!」


 その声を皮切りに戦端は開かれた。

 真正面から突っ込むシャノンと、獣の俊敏な動きで動き始める狼。

 およそ暗殺者とは思えない立ち回りだ……。

 一匹の狼が飛び掛かる。シャノンが先行する狼に鋭く白刃をきらめかせると、狼の頭頂から足下まで中心線が走った。

 先行した狼の体が力を失い左右に分かれて自由落下を始めるが、その時には残りの二匹は怯むことなく、むしろ攻撃後でチャンスだ!とばかりに飛び掛かる。

 無残な仲間の死体を飛び越えて牙を剥き襲い掛かる狼に、シャノンは振り終えた右腕をそのままに、残った左手で左の狼を殴り上げ、右足で右の狼を蹴り飛ばした。

 すぐさま体制を整えると、左の狼が加えられた上方向の力を失い自由落下を始める前に空中で首を落とした。

 最後の一匹は、器用に空中で身を捻り蹴られた勢いを殺し地面に降り立った。その野性の赤い瞳に映るのは二匹の狼。

 片方は体の真ん中から綺麗に二等分され、もう片方は首から上がない。いずれにせよ、力なく地に倒れ伏せている。死んでいることは明らかだ。

 狼の判断は迅速だった。身を翻し尻尾を巻いて逃走する。彼我の戦力差は絶望的と悟ったのだ。

 それを見たシャノンは追いかける訳でもなく、その場で短剣を構えた。


「ハァ――――ッ!!」


 勢いよく短剣を地面に叩きつけると、その威力は地面に荒い傷跡を残しながら伝わっていき……。


「――キャン…………ッ!?」


 疾走する狼を輪切りに切り裂いた。

 すべては僅か数秒のうちに起きた出来事だった。





*******





 戻ってきたシャノンは開口一番、演技のような猫撫で声でアキラに向けて言った。


「……ねえねえ、アキラ!今のアタシ、どうだった……かな?」


 不安そうな表情で口に人差し指を当ててウィンクする姿は、あざとかわいい物ではあるのだが。

 ……残念ながら、それは男だ。


「……ペッ!!」


 アキラはゴミを見るような目で不機嫌そうに地面に唾を吐き捨てた。


「すまんすまん、冗談だよ!ほら、お茶目アピールも重要かな?って」

「だとしてもタイミングとやる相手がおかしいだろ!」

「……確かにそうだな」


 後ろを振り返りながらシャノンは納得気に頷いた。

 なぜ無残な死体を転がした後のムードもへったくれもない場所で、しかも男だと知られている相手にポーズを取るのか。

 思わず突っ込みを入れるアキラ。

 だが、そこから普段の振舞いを垣間見た瞬間であった。

 シャノンのあざといポーズを見てデレデレする相手に、『実は俺様は男だぜ!』と言っている光景が目に浮かぶ。

 いつもの女性的な声に戻したシャノンは言った。


「それで、真面目なところどうだったよ?」

「どうと言われても、暗殺者らしからぬ戦いだったねー、としか言いようがないな!」

「どこがだよ!?」

「ええ!?」


 突然の逆切れに、目を丸くする。 


「いや、でも『暗殺してくる!』とか言ってたのに暗殺要素無かったよね!?それに『いざ、尋常に!』って言って騎士精神見せてたし……」


 そんなアキラのド正論受けて、シャノンは呆れたように首を振った。まるで、『やれやれ』と聞こえてきそうな動作だ。


「いいか?暗殺ってのは、相手に現場をみられなきゃ暗殺になるんだ。つまるところ、相手を皆殺しにしたらそれはもう暗殺だ。どのように倒そうと、……例え魔術をぶっ放そうと、騎士精神を見せようと、結果的にバレてもその相手ごと倒せれば、それはもう暗殺だ!」

「…………」


 当たり前の事を言っている様子で教えるシャノンに、アキラは絶句するしかなかった。その理論は強引すぎる。もし国王を暗殺するとなれば、国そのものを一人残らず根絶させる必要が出てきてしまう。

 しかし、あまりにも当然のことを言うように真っすぐな視線を向けてくるシャノンに、アキラは自分の常識が間違っているのか?と疑心暗鬼になり、確認を取るようにミリアの方を向くと。

 疲れたように肩を落とし目頭を押さえているミリアの姿があった。


「…………」


 その様子が雄弁に語っている。

 シャノンの言う暗殺が間違っている事を。そして、何度言っても理解を得られないであろうことを。


「……そだねー」


 アキラはテキトウに納得の返事をしておいた。タマキとのやり取りの教訓で、バカは相手にするだけ無駄と心得ているからだ。


「……?おっ。追加が来たぞ!」


 アキラの様子に疑問符を浮かべるシャノンだが、すぐに中断された。先ほどの戦闘音を聞きつけたのか、別のモンスターが森から姿を現したのだ。

 モンスターは、森の中では木々をなぎ倒しながらでなければ進めない程の、巨大な体が派手な黄色に染まったカエル。だが、その背後の木々や雑草には巨大なものが移動してきた痕跡は見られない。

 見せつけるような蛍光色の黄色という目立つ外見だが、森から出て完全に姿を現すまで気が付かなかった。謎の不気味さが漂う。

 そんなカエルを前にして、ミリアが前に出た。


「それじゃあ次は私の番ね!」


 そう言うと、旅装束の下から小型の杖を出した。杖の先端には紫紺の結晶がはめ込まれている。


「姐さん!アキラも見てるし、舐められないためにもデカイの行こうぜ!」

「それくらい、分かってるわよ!」


 ミリアは当然とばかりに頷くと、カエルに杖を向けた。

 すると、カエルの足元が隆起し始め、短い前足と折りたたまれた後ろ足を拘束してしまった。

 先日見かけたリンの魔術とは少し違うようだ。詠唱も陣もなく、ただただ結果のみが起きている。

 カエルは足元の異変に気が付き、抜け出そうと暴れるが思いのほか頑丈で抜け出せない様子。

 ミリアの職業は魔術師だ。すでに全属性を使えるようになっているようで、その魔術の数とその汎用性は非常に高い。


「じゃあ行くわよ!……【ファイヤーボール Mk.Ⅳ】――ッ!!」

「え!?Mk.Ⅳ……!?へぶぅっ……」


 予想外の一言にアキラは聞き返すが、その返答は飛来する石礫と強烈な爆風だった。

 詠唱も陣もなく、ただ名前を言っただけで火球が生み出され……赤い残像を残してカエルに突き刺さった。カッと光が煌めき、次の瞬間……森の外周部に理不尽な暴力が振るわれた。

 目も眩むような光と暴風と共に、大地が爆ぜ【ファイヤーボール Mk.Ⅳ】の進行方向にあった森の木々が灰になる。カエルは瞬時に焼き焦げ、灰すら残さず消し飛んだ。

 それからミリアは再度魔術を使い、立ち込める煙を上空に押し流した。

 後に残ったのは、広範囲に炭化した木々と、3メートル程のクレーターだけだ。


「アキラ、それ大丈夫?」


 ミリアは心配そうにアキラの方を向いて言った。


「ん?」


 アキラは向けられた視線の先、自分の額を触れてみる。手には赤い血がべったりと付いていた。

 飛んできた石礫を大量に浴びた時だろう。爆風で吹き飛ばされないよう耐えることに必死で気が付かなかったが、大きい石が頭に当たったようだ。


「だ、大丈夫。全然平気だよ。無傷無傷!」

「噓ばっかり……」


 強がるアキラの頭に、ミリアは背伸びをしながら手をかざすと……。


「……【ヒール】!」


 回復魔術によって流れていた血が綺麗さっぱり無くなった。

 実は結構痛かった痛みも嘘のように無くなった。


「それで、私の魔法はどうよ?」


 ミリアは杖をしまうと、期待するような視線を向けた。

 アキラはその惨憺たる破壊痕をチラリと見ながら答えた。


「なんというか、えげつないな……」

「当然でしょ!」


 ミリアは胸を張って言った。その表情は魔術を褒められて嬉しそうだ。


「……そっちじゃなくて、えげつない山火事だなぁ、って」

「ああ……!!」


 一つの事に夢中になると周りが見えない質のようだ。

 あわあわと、魔術で水をかけるミリア。

 そんな様子を見流しながら、シャノンを見ると……。


「俺様も、まだまだ威力が足りねえなぁ……」


 やはり暗殺する気はなさそうだ。

 だが、アキラの心の中はホッと安堵していた。ミリアは掛け値なしの普通の魔導士だった。それだけで嬉しい事なのだ。

 身近な人に、タマキという変人を抱え、シャノンというただのバカがいて……。そんな中、ようやくまともな人だ。

 出先真っ暗だった道に、光明が差した気分だ。

 と、そんな事を考えていると、遠くからバキバキと木の折れる音が聞こえた。


「あ、あれは……!?」


 消火活動中のミリアが驚きの声を上げる。

 アキラが音の方を向くと、岩でできた顔にはめ込まれた青く光る二つの目が見えた。鈍重な足音を響かせ、木々を根本からへし折って向かってくるその姿は、顔だけ見ればわかってしまう。ゴーレムだ。

 大きさは、木の頂上から顔が見える程度で、目測で8メートル。あって10メートル程だ。


「あれが僕の相手のようだし、行ってくるよ!」

「あ、ちょっと……!?」


 アキラはそう告げると、何も聞くことなく走り出した。森の木々を一撃で切り倒し、道を作りながら進んで行く。最近は見ていないが、アキラの日々伸び続ける筋力なら容易い事であった。

 後には、援護に行くべきか迷う二人の姿が残された。





*****






 ゴーレムとの距離が近くなってきた。

 アキラは開拓作業を一旦停止すると少し後退て、自らの作った道とゴーレムの作った道とが繋がるを待った。


 改めてみると大きい。2階建ての住宅よりも更に大きい。横にずんぐりむっくりな姿は、足が無ければ雪だるまのようだ。その重量は足音と簡単にへし折れる木々から見て言わずもがな。

 だが、アキラには動揺した様子は見られない。どれだけ大きくとも、素材が岩石である以上どこまで大きかろうとただの岩という考えなのだ。岩程度なら簡単に割れる筋力があることも岩石ガメで実証済みという事も心強い自身になっている。


 少しすると、ゴーレムはアキラの作った道に到達した。

 ベキィッ――と一際大きな木の折れる破壊音が、森に木霊し……。


 ――戦闘開始の合図となった。


 アキラは力強く地面を蹴って跳躍する。足場にしていた太い倒木から軋むような音が漏れるが、構わず蹴り抜く。

 高い筋力はアキラの体を空高くへといざない、ゴーレムの身長よりも更に高く飛び上がった。

 ゴーレムの胴体辺りを目指して跳んだのだが、日々成長し続ける筋力は予想の上を行く。

 無防備な空中にいる為、途轍もない落下感に股間をキュッとさせながらも、いつでも両手剣が振れるように身構えるが、ゴーレムはアキラに見向きもしない。ゴーレムからしたらネズミのように映ったのかもしれない。


 高く飛びすぎたせいもあり狙いとは違いゴーレムの左肩に向かって落ちていくが、アキラは構わず両手剣を振りぬいた。

 ズンッ!と骨身に響く衝撃と共に、ゴーレムの足が地面にめり込み深い溝を作る。固いもの同士が衝突する音が盛大に響いた。

 ゴーレムの左肩は両手剣の打撃面から爆散し、ひび割れ、崩壊した。

 口がないため無言だが、あったのならば轟音を轟かせて叫んでいたに違いない。

 アキラは地面を陥没させながら着地すると、上から降ってくる岩が痛い為、大きく飛び退く。

 両手剣によって四散した欠片が直接飛んできた時は痛みも感じなかったが、降ってくる岩はダメージになる……。自分の攻撃と、その余波では傷つかないのかもしれない。


 片腕が岩の破片となって大地に返った事で、ようやくアキラを敵と認めたようで、ゴーレムは静かな青い視線を向けた。

 両者は見つめ合う。

 だが、再び動き始めたのは同時だ。

 ゴーレムは無言で、しかし地響きを鳴らしながら残った右腕を振り上げ――。

 アキラは地面を踏みしめて、大きく両手剣を振り被り――。


 そして……。

 攻城兵器の破城槌のような剛腕が振りぬかれ……。


「はあああああああああぁぁぁぁっっ!!!!」


 両手剣と衝突した。

 轟音が轟く。

 ゴーレムの腕が粉砕するわけでもなく、森林が破壊されることもない。

 アキラとゴーレムは、両手剣と拳を打ち合わせたまま、時間が止まったように停止している。

 人間が自分よりも大きな拳を受け止めていることに違和感を覚えるが。

 そこに変化が現れた。

 ミシミシとアキラの両手剣にヒビが入り、砕け散った。それと同時に、ゴーレムの右腕も全体的に亀裂が入り崩壊した。

 競り合いは互角だ。

 お互いに両手剣と腕というメイン武器を失った。

 しかし、ゴーレムはまだ止まらない。

 両腕を失えば人間なら発狂するが、血も涙もない土塊には痛覚も感情もない。あるのは目の前の敵を倒すという機械的な行動パターンのみだ。

 ゴーレムは全身の重量で押しつぶそうと飛び掛かった。仮にアキラが回避しようとしても、広大な体の面積で、その前に押しつぶすつもりだ。

 対してアキラは空が落下してきて暗くなっていく中、慌てるわけでもなく立ち尽くしている。諦めているわけではない。その瞳には闘志が溢れている。

 アキラは両手剣に対して、振りやすい木の棒程度の認識しかもっていなかった。岩石ガメを破壊し、サクリファイスタートルに切削された両手剣には、既に切れ味など無い。刃は潰れ、形も歪に削られている。使っていた理由など、少しリーチが長くなる程度の考えだ。


 モンスターを殴っていた木の棒が折れた。それではどうするか?

 ――拳で殴る、だ。


 アキラは力強く拳を握りしめ地を蹴った。

 凄まじい加速と共にゴーレムが近づいてくる。


「うおおおおおおおおおぉぉぉっっ!!」


 渾身の力を込めた拳が、ゴーレムの中心に吸い込まれた。

 倒れ込むゴーレムの体があまりの衝撃に一瞬静止し、胸部に大穴が穿たれた。その背中からは大量の岩石が飛んで行き、最後尾を付いて行く形で跳躍の勢いそのままにアキラ飛んで行く。


「討伐完了!」


 眼下でズシン!と地響きを立てながら倒れるゴーレムの姿を見て、アキラは満足そうに呟いた。

当初の予定ではゴーレムの大きさは3メートル程度にしようと思ったのですが、森の中でも存在感を出そうとするとどうしても大きくなって……。


今後のインフレする可能性が爆上がりしました!

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