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女々しくても筋肉を  作者: 中田 伸英
14/25

14話

 腰を痛めたが赤い岩石ガメを倒すことができた僕は、その甲羅であるルビーと思しき鉱石が高く売れると信じてリュックのスペースが許す限り詰め込んで街に向かった。

 リュックはそこそこの重量になったが、高い筋力値のおかげで問題なく運ぶことができる。

 そうして街に到着すると、依頼の報酬を受け取るためにギルドに向かった。

 もちろん受付さんはミアナ母さんだ。

 この小皺が出始めた年齢の女性というのはどうも喋りやすい。もう少し年齢が下だと親みたいに説教面してきそうで、上だとジェネレーションギャップに悩まされそうなイメージだからだ。きんさんみたいなバカ以外では唯一喋りやすい部類だ。


「こんにちはアキラさん!依頼の報告ですか?」

「は、はい、そうです」


 僕は名前を覚えられていることに驚きながらステータスプレートを渡した。

 思えば昨日、この人に100万チルの報酬を渡されたのだ。

 そんな大金を渡した人物を覚えていても不思議ではない。

 こうやって人は出世していくんだろう。

 僕が嬉しく思って顔をニマニマしているとミアナ母さんが突然驚きの声を上げた。


「岩石ガメをこんなにも沢山……。ええっ!サクリファイスタートル討伐!?」


 相変わらず驚くと声がでかい。

 この前もゴブリンシャーマン討伐とかで叫んでいた気がする。

 その声に反応して周りの冒険者がこちらを見始めてしまった。視線が痛い……。

 そんなことよりあの赤い亀、サクリファイスタートルいうらしい。

 なにをどこら辺がサクリファイスなのだろうか、よくわからんな。

 聞いてみよう。


「サクリファイスタートルって、あの赤い岩石ガメですよね。普通のと何か違うんですか?」

「分からずに倒したんですね…………。ええと、サクリファイスタートルというのは、岩石ガメの変異種です。岩食の岩石ガメと違い肉食で共食いをして育つため、その甲羅は同族の血のように赤くなると言われています。獰猛な気性で、特殊なスキルを使用することで通常の岩石ガメくらいなら一撃で倒すほどの攻撃力と、何より圧倒的な防御力があるそうです」

「そ、そうなんですか……」


 確かに強かった。きんさんに助けられなければ死んでいたし、パワーだけが自慢の僕が押し負けるかと思ったくらいだ。さぞ素晴らしい筋肉なのだろう。

 それはそうとして、どうやらあの鉱石はルビーではなかったらしい。売れなかったら結構悲しい。でもよく考えてみると、あの色は亀の血……つまり命だ。あの有名な賢者の石(亀バージョン)かもしれない。少しは期待できそうだ。


「そうですよ!時間さえかければ倒せる岩石ガメとは違い、サクリファイスタートルは非常に強力なモンスターです。いくら腕に自信があるといっても、アキラさんはまだ冒険者になって数日です。あまり無理はしないでください!」

「は、はい。気を付けます……」


 おしかりを受けてしまった。だが、こうやって親身になってしかってくれるのもミアナ母さんの優しいところだろう。

 しかし、こうしてしかられるのはいつぶりだろうか。元の世界の親は元気にしてるだろうか。母親はお世話大好きウーマンだったし、父親はそんな親子を見守るのが趣味だったりする。

 絶対に母さんは寂しがっているだろうが、まあ子離れのいい機会だろう。かく言う僕も、仕事を始めたのだ。良い事だ。

 僕が遠い目で若干ホームシックに浸っている間に、ミアナ母さんはテキパキと報酬の袋を持ってきた。


「どうぞ。岩石ガメとサクリファイスタートルの討伐報酬42万チルです」

「あ、ありがとうございます」


 その額に、冒険者という職業が儲かりすぎて若干怖くなった。

 僕は報酬を受け取りポケットに突っ込んだ。


「ああ、ちゃんと金額を確認しないとだめですよ!」

「分かってますよ!」


 本当に親しみやすい人だ。

 満足げな気分でギルドの出口へ向かう。

 と、そんな僕に喋りかける冒険者がいた。


「よう、兄ちゃん!ちょっといいか?」


 その冒険者は身長190センチはあるであろう大柄な男でモヒカンが特徴的だ。

 どうやら、彼は新人いびりなのだろう。こんな見た目の人に金を出せとか言われたら逆らえないかもしれない。

 いや、そんな時は『きんさん!やっておしまいなさい!』だ。

 念動力でどうにかしてくれるはずだ。

 僕は男の方を見上げると、なるべく自然に答えた。


「な、なんでしょうか?」

「ああ、そんな警戒すんなって。俺はちょっと話をしたかっただけなんだ」

「そっすか」

「おう、そうさ!……そういえば、自己紹介がまだだったな!俺はバシカ。冒険者パーティー『フール』のリーダーさ!よろしくな!」


 そう言うと、バシカと名乗った男は豪快な笑みを浮かべた。

 どうやら新人いびりじゃなさそうだ。


「アキラです。よろしくお願いします!バシカさん!」

「そんなかしこまんなって!もっと普通に喋ればいいんだぜ?俺たちは冒険者。傲岸不遜、自分勝手でなんぼだろう?なめられてちゃやっていけねーぜ?」

「そういうもんかな……?」


 先輩のいう事なんだしそういう物なのだろう。

 自分に自信を持てとはこのことなのかもしれない。

 今日から冒険者らしく少し砕けた口調にしていこう。


「よろしく!バシカ!」

「おう!」


 僕はバシカと熱い握手を交わした。

 漢の友情は熱い魂。それだけだ。


「にしても、アキラお前すげぇな!」

「ええと、どこら辺が?」

「どこら辺って、ここ数日でやってきたこと思い出してみろ」


 ここ数日やってきたことを思い返す。

 一番記憶に残っているのは…………エロ本屋!

 それを言いたくて、言葉を濁しているのだろう。


「確かにそうだな。大人の階段を上ったというか男になったというか」

「何の話してるんだ?討伐の事だよ討伐の!」


 な、なんだと……。

 コイツ、エロよりも討伐と申すか。賢者モードなのか!

 と思ったが、良く考えたら僕の私生活なんて知るわけない。知っていたらストーカーだ。

 独りでに納得する僕を置いて、バシカは語り始める。


「このギルドに初めて入ってきたお前を見たとき、こんななよなよしい奴すぐ死ぬと思ってたんだ。だが、予想とは違って帰ってくるたびに俺を驚かせてくれた。初日にゴブリンシャーマンを討伐したかと思えば、次の日はヘルストラトスの撃退。そして今日はサクリファイスタートルの討伐だ。2度まではまぐれだと思ったが、3度目があるってことは実力だ。アキラ、あんたはすげぇぜ!」

「お、おう……」


 豪快な笑みを浮かべて語るバシカを見て僕は察した。

 コイツ、ギルドに引きこもってやがる…………。

 外出時間が多いはずの冒険者が、僕の依頼達成報告の時間に毎回いるというのもおかしな話だ。

 きっと引きこもりなのだろう。

 ゴツくてデカくてモヒカンの見た目だが、案外僕と通じる部分があるかもしれない。

 でも残念。この世界での僕は引きこもらない。まったりとではあるが、冒険者をやっていくつもりだ。


「バシカ……」


 僕は彼の肩に手を置いて優しく語りかけた。


「ちゃんと仕事しようぜ!」

「…………??」


 バシカは頭に大量の疑問符を浮かべた。

 核心を突かれたから、分からないフリをしてやり過ごそうという考えだろう。

 こういう時は何を言っても無駄なのだ。反発心を煽るだけ。働きたくないなら働く気が湧くまで放置が一番だ。ちなみに体験談だ。


「ちゃんと仕事はしているぞ?」


 おっと。違ったらしい。どうやら、コイツは僕とは違うらしい。悲しきかな。


「それはよかった。そういえば、何か用があったのか?」

「ああ、そうだったな。簡単に言えば、分からない事があったら気軽に俺みたいな冒険者の先輩に聞いて欲しいってとだ。お前みたいな出来のいい後輩に何かを教えたって実績があれば拍が付くってもんだ。アキラは知らないことが聞ける。俺はそんなすげぇ奴に教えたって実績を持てる。ウィンウィンだろう?」


 実にしたたかな理由だった。

 バシカが教えて、僕が出世。出世した僕の先生は誰だ!バシカだ!

 そういうシナリオなのだろう。だが残念ながら僕は出世なんてしない。気ままに冒険者をやっていくだけのクソザコだ。


「そうは言うけど、僕はそんな強いわけじゃないぞ?」

「冗談きついぜ。でもまあ悩んでるんだろ?この件について考えといてくれ」


 それだけ言うと、バシカ去って行った。

 予想以上に信頼されているようだ。自分の目を信じるとかいう類の人なのだろう。

 それなら、その善意に寄生させてもらおう。どうせすぐ実力なんてばれるだろう。それまでは無償だ。


「ああそうだアキラ」


 バシカが元の席に戻る途中で振り返った。


「最近、西の方で魔法都市のゴーレムがよく見かけられるそうだ」

「ゴーレム?」

「なんだ知らないのか?神の恩恵であるステータスで戦力を整えたこの都市とは違って、魔法都市は精霊魔法で守りを固めてるんだ。ゴーレムってのはその高度な技術を詰め込まれた自立兵器だ。当然強いんだが、今回の話は更にヤベー。本来は王室守護兵のインペリアルナイトも見かけられたそうだ。気を付けろ、というか見かけたら逃げろよ!」

「了解だ。ありがとう」

「いいってことよ。じゃあな!」


 そう言うと今度こそ席に戻っていった。

 彼はニートではなく情報屋なのかもしれない。

 疑ってすまない、バシカよ。

 そんなこんなで僕は帰路に就いた。

 まずは銭湯に行って荒々しい異世界式の風呂で疲れを癒した後、宿に帰り夕食をとった。

 部屋に戻るとリュックを下した。


「そういえばコレ売れる場所聞いとけばよかったな」


 リュックの中には大量の赤い甲羅が詰まっている。

 筋力が上がり重さを感じないこともありすっかり忘れていた。

 明日になったら売る場所を聞いて売りに行く。もしくは有効活用できそうな手段に使おう。


「……やっぱめんどくさいな」


 売れる前提で考えているが、そもそも価値なんてないかもしれない。

 売りに行って値段すらつかなかったら、徒労感で引きこもってしまいそうだ。そんな事は無いけど。

 とりあえず今は金もあるし、部屋の隅に置いておいた。この部屋は今後も借り続けるる予定だ。置いても問題ないだろう。

 

『いらないなら我が食べてもよいか?何やらおいしそうな匂いがする』


 きんさんが言い出したことに僕は呆れた。


「え、マジで言ってる?石食べても大丈夫?」

『普通の石なら無理だが、これは何やら魂の力が宿っているようだ。我が取り込めばパワーアップできるであろう』

「ああ、そういうことか」


 てっきりバリボリと食べるのかと思った。

 サクリファイスタートルの甲羅は岩石ガメの血で出来ているという話だ。きんさんは霊だから岩石ガメの囚われた魂を吸い出して……ゲフンゲフン、思いを受けついでパワーアップできるという事か。

 きんさんの力は攻撃できないとはいえ、緊急回避に使える。あげてもいいだろう。


「食べてもいいよ」

『感謝するぞ』


 きんさんがそう言うと赤い甲羅が消えた。取り込んだのだろう。

 餌付けも大切だな。


「さて、寝るか!」


 腰痛は風呂の効能で治ったが、疲労までは取れない。睡眠は重要だ。

 と、その前に……。

 ステータスプレートを取り出す。

 しっかりとレベルが上がっているが筋力以外の数値は1のままだ。

 おや?新しい称号がある。なになに?


----------


・正面突破


 筋力+7


 強敵を相手に真正面から打ち砕いた者に与えられる称号。


----------


 そろそろ耐久力が欲しいです。切実に。

 とはいえ無理なのだろう。

 すべてのポイントが筋力へと吸い取られ、頼みの称号も明確な取得条件がある。条件から察するに、耐久関係の称号は相手の攻撃を耐え続けないともらえないだろう。耐久力が初期値では即死してしまう。諦めよう。

 さて、今後も安定して冒険者を続けるにはどうするべきか。

 決まっている。パーティーだ。耐久力問題も連携でどうにかする。

 他のパーティーに入れてもらう事はバルドさん……いや、傲岸不遜に呼び捨てだ。バルドの一件で難しそう。

 よしっ!明日になったら、パーティーメンバーを募集だ。

 そんな事を思いながら床に就いた。




*****





 翌日、ミアナ母さんに教えてもらった通りパーティーメンバー募集の張り紙を出しておいた。

 その紙はギルドの一角に張り出された依頼用の掲示板よりも小さい掲示板に貼りつけてあり、加入申請があれば受付に寄った時に教えてもらえるそうだ。

 もちろん募集中に依頼を受けることはできる。だが、僕は依頼を受ける気はない。パーティーメンバーが集まれば安全に冒険者ができるのだ。それまでは安全に街に居よう。

 とは思っているが。


『なあアキラ。依頼に行かぬのか?そんな事では鈍ってしまうぞ?少しでも動かぬか?』


 子供の様に、じっとすることが出来ない守護霊がいた。

 加入申請があればすぐに対応できるように、パーティーメンバー募集用の掲示板に近いテーブルを陣取ってはいるが長丁場になる。 


『ゴブリン討伐でもいいから行かないか?レベルも上がったし安全であろう?』

「行かない。レベルは上がったけど攻撃力だけだし何も変わってない」


 二の舞になるのはごめんだ。


『なら買い物に行かぬか?サクリファイスタートルに両手剣を削られたであろう?』

「行かない。この剣でまだまだ使える」


 少し刃の無い部分があるが気にすることもない。

 真の戦士はしっかりと装備を整えるとか言うが、真の戦士になることが出来ない僕には関係のない話だ。


『……じゃあ……じゃあ…………』

「お前はガキかよ。行くなら安全な依頼だ。それ以外は認めん!」


 安全な依頼…………。そんなもの出す必要もないから存在しない。

 だがきんさんはそこで食い下がらなかった。


『安全な依頼ならよいのだな?』

「…………そうだ」


 きんさんはそそくさと掲示板を見に行った。少しするとフリスビーを拾った犬の様に、嬉しそうなきんさんが戻ってきた。

 嫌な予感がした。

 テーブルに一枚の依頼用紙が置かれる。

 内容は町中の屋敷の除霊依頼だった。

 不動産屋が家の紹介に行くと悪霊によって追い出されるらしい。物が飛んできたり、いきなり意識を失い気が付くと敷地の外にいるという。


『これなら我の得意分野。安全であろう?』

「…………」


 でも僕は知っている。

 きんさんは相手の霊の攻撃を2回相殺するだけでガスケツになる弱小だ。ギルドの職員も低級ゴーストと言っていた。どうせボコられるだけだろう。

 とはいえ暇と言えば暇だ。

 被害を見てみると、敷地内に入る人を追いだすだけの悪霊のようだ。縄張り意識的なのだろう。

 それなら…………。


「僕は敷地の外で待ってるから、中にはきんさん一人で行ってね来てね。それなら良いよ」

『その条件でよい。さあ行くぞ』

「お、おい。ちょっと待てよ!まだ受けれてないからさ!」


 僕は急いで依頼を受注するとギルドの出口へ向かう。

 ギルドを出るときんさんが待っていた。一応待っていてくれたらしい。


『ではいくぞ!』

「きんさん場所分かるの?」

『もちろんだ!』


 きんさんはそう言うとマッスルポージングし始めた。腹筋をギチギチとしならせ振動し始める。すると腹にディスプレイが付いているように地図が映し出された。少し荒い画像だが見れない事もない。


『ここであろう?』

「…………う、うわぁ。どうやってるの?」

『昨日のサクリファイスタートルを取り込んだことで、彼奴が喰らった岩石ガメと、その岩石ガメが喰らった岩や草や微生物の魂を徴収して、合計4286の魂を得た。その力で4286画素ディスプレイにしてみた』

「…………そっすか」


 彼らはこんなことのために取り込まれてしまったのか。かわいそうに……。

 というか岩に魂があるとは驚きだ。


『さて、さっさと行くぞ!』


 元気なきんさんの後ろを僕はついて行った。

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