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女々しくても筋肉を  作者: 中田 伸英
13/25

13話

帰ったら風呂入って飯食って朝まで寝る。

そんな生活で全く書けなかった。

まあ前記道理にボチボチ上げていきます。

ボチボチねぇ~

「はああああああ!!」


 見渡す限りゴツゴツとした大岩ばかりが落ちている山岳地帯で、僕は討伐対象である岩石ガメに両手剣を振っていた。

 岩石ガメというのは鉱石類を主食とするモンスターで、食べた鉱石から硬い岩の甲羅を生成し身を守るカメだ。大きさは車くらいで動く大岩のような厳つい見た目をしている。だが臆病な性格のため近付くと直ぐに手足、頭、しっぽを引っ込めて甲羅に籠り相手が諦めるまで動かない。

 そんな戦いとは無縁のモンスターだが、謎の非常に強い縄張り意識を持っているため、縄張りに入った時は別のモンスターか?と思うほど襲ってくる。地獄の果てまで追いかけてくる。街までだって追いかけてくる。

 そのため開拓専門のギルドが将来予定しているここ山岳地帯の採掘計画で、障害となる岩石ガメ討伐の依頼を進めているそうだ。


 僕が岩石ガメに乗って両手剣を振り下ろすと、甲羅に亀裂が入り端の方が崩れてボロボロと岩の塊を地面に落とした。だがそれは甲羅のごく一部でしかない。


「硬すぎるっ……だろっ……こいつっ……!」

『だからこそ報酬はそこそこ良いが人気が無いのだろう』


 愚痴りながらも両手剣を振る。

 その周りには誰一人として同業者の姿はいない。

 街からの距離はそう離れているわけでもないのに、人気がないのはこの硬さのせいだろう。

 僕としては無駄に高い攻撃力を、攻撃されるリスク無しに生かせるので有り難いところだ。


「フッ!フッ!フッ!フッ!」


 モンスターとの戦闘だというのに、何度も振り上げて振り下ろす運動は畑を耕す気分になってくる。

 これでは冒険者というより、農作業をしているおっちゃんだ。

 こういった事のために冒険者になったのではないのだが……。

 そんな他事を考えていると、岩石ガメの甲羅を砕き終わったようで両手剣が深々と刺さった。

 岩石ガメが動くこともなく討伐できた。

 安全に討伐できるのは良いが、結構時間かかった気がする。

 何分くらいなんだろう……?

 興味本位で聞いてみる。


「きんさん、今の一体で何分くらいかかってた?」

『大体15分程度であろうな』

「うへぇ……」


 一匹につき15分間も剣を振り続けなければいけない。


『変な声など出しておらずに、まだあっちにおるぞ!』

「はいはい。分かったよ」


 言われた方向に行くと岩石ガメがゴリゴリと岩を食べていた。

 すぐに僕に気が付くと甲羅に籠った。


「とりあえず、頑張りますかぁ!」


 気だるい気持ちに気合を入れてまた同じ作業を始める。

 ステータスの恩恵で両手剣を軽々と振り回せると言っても疲れるものは疲れるのだ。

 それからまた近くの岩石ガメを見つけると同じ作業をし続けた。


 太陽も真上にかかり始めた頃。

 お腹もすき始めていたので昼食にした。宿屋の食堂は弁当も出している。朝食の後貰ってきた物だ。


 メニューは、塩ブラックペッパ―おにぎりと、ブラックペッパーがかかったソーセージと、ブラックペッパー入りのから揚げ。ビタミンはトゲトゲのフルーツ。もちろんフルーツ用のブラックペッパーが入っていた。

 ずっと動いていた事もあり、多いと思っていた料理はすぐになくなった。


「さてと……。きんさん、近くに岩石ガメがいないか上から見てきて!」

『心得た』


 きんさんはフワフワと空高くまで登ると、少し時間を置いて帰ってきた。


『見た感じ近くにはいないようだが、それがどうかしたのか?』

「ああ、午前中は討伐続きだったから、近くが安全なら奥に行きたいな、と思ってね」


 と言ったのは口実で、代り映えの無い作業と景色は飽きたので歩き回って散策でもしたくなったからだ。

 今日の稼ぎも十分だろうし問題ない。


『それならば、こっちの道が段差も進みやすそうであったな』


 きんさんの進む方向に付いていく。

 迂回しなければいけない大岩が少なく、段差も小さなものばかりだ。

 岩石ガメがちらほら見えるが無視する。

 この道を通って襲ってこないのなら、うしろから襲ってくることもないからだ。


「なんかきんさんが初めて役に立った気がする……」

『な、何を言っておる。我はいつでも役に立っているだろう?』

「いや結局のところ相対的にマイナスだとおもうんだけど……」

『ま、待ってくれ。我はいつだってアキラのためを思ってるのだ!』

「まあそれは理解できなくはないな」


 もうできないしやる気も起きないが、きんさんの思考が伝わってきた時に理解した。

 本当の親のように心配したり大切に思っている事は分かっている。

 ――だけど、コイツ……バカなんだよなぁ……。

 それが全てだった。


「とりあえず、程々によろしくね!程々に!」

『う、うむ……』


 それから先に進んで行くと、奥に木々の緑が見えた。ちらほら見かけた岩石ガメも姿も見なくなっている。

 

『む?あっちに何かあるようだ』

「いや、見えないんだけど」


 きんさんは隣で森の方を見ている。

 今は低位空飛行をしているため目線の高さは同じだ。

 つまり単純な視力の問題。


『あれは……。洞窟のようだ!』

「いや、影も形も見えないんだけど!?」


 岩石地帯が終わり、森の色に変わっている事しか分からなかった。

 それから進んで行くと、本当に洞窟があった。

 小ぶりな丘に地下へと向かっている入口があり、その奥は暗くて見えない。

 丘すら見えない距離からこの洞窟を見つけるなんて……。

 やっぱこの人マサイ族なのでは?


『どうする?入ってみるか?』

「多分、昔の採掘してた場所っぽいね。何か残されてるかもだけど、明かりがないからやめとくよ」


 真っ暗だと、転んだり帰れなくなったりするので危険と思ったからだ。

 そんな引き返そうとしている僕に、きんさんは機嫌が良さそうに言った。


『光源だな?そんな物、我に任せておけ!』


 きんさんが手のひらを上に向けると、そこに青白い炎が生まれた。


『我ほどの霊なら鬼火程度大量に出せるわ!』

「明るければいいから大量にはいらないかなぁ……。ていうか、鬼火って池とかに沈んだ動物のガスじゃなかったんだねー」

『稀にそういった自然現象もあるようだが、基本的には霊の仕業だろうな』

「ってことは、日本では見えないだけで結構霊はいたんだな。そう思うと、きんさんも幽霊みたいなもんだし不気味だな……」

『我は守護霊なのだが?』


 そういえばそうだった。

 悪霊に取り憑かれないようにしてくれてるっぽいし、感謝するべき存在……なのか……?

 ごめん。やっぱ無理だ。


「とりあえず行こうか。明かりは任せたよ」

『うむ。任せておけ!』


 僕が洞窟に入るときんさんが通路の先に行って鬼火を飛ばしてくれる。

 地下に行くにつれて下がっていく温度と、青白い寒色の光のせいで妙に冷える気がしてしまう。

 幽霊の話を聞いた後だからという事もあるのだろう。


「それにしても、無駄に広い通路だな」


 高さも横幅も、トラック程度なら簡単に通れそうだ。この世界に車は無いようだけど


『まあ広いにこした事は無いからな。……お、アキラ。広間に出たようだぞ!……ん?あれはなんだ?』


 先を進むきんさんが言っている。

 僕も追いつくと、そこは学校の体育館くらいの大きさがある広間だった。

 そして、その中央には……。


「おお!あれって宝石じゃない?」


 自動車くらい巨大な赤い宝石があった。


「もしかしてルビーの原石とか!?よし持って帰ろう。採掘だ!」

『ま、まてアキラ!それは……モンスターだ!』

「え……!?」


 むくりとルビーが動いた。

 ルビーに覆われた4本の足と頭としっぽ。

 赤い岩石ガメだった。


「ギシュアアアアアアアァァァッ!!」


 赤い岩石ガメは大声をあげると、亀とは思えない素早い速度で突進してきた。

 手には採掘のために握っていたピッケル。

 迷わずそのピッケルで殴りかかった。


「はあ!」


 正面から突っ込んでくる岩石ガメの赤い鎧に包まれた頭をピッケルで思いっきりぶん殴る


 ――ガキィン!


「か、硬い!?」


 片手で振ったとはいえ、採掘用のピッケルだ。

 粉砕するつもりで振ったのに跳ね返された。

 岩石ガメは少し速度を落としたが、人を跳ね飛ばすには十分な速度で迫っていた。

 積んだ……。

 そう思うと、世界がスローモーションで見え始めた。

 走馬燈というやつだろう。

 スローで岩石ガメが迫る。

 お父さん、お母さん。僕は強く生きました。さいならさん。


「……え!?」


 そんな諦めている僕の体が浮かび始めた。

 訳も分からず動揺していると、岩石ガメの甲羅が僕に当たるか当たらないかギリギリのところで通過していった。

 電車が通った後みたいな風圧にヒヤリとした。

 岩石ガメはそのままの勢いで壁に衝突した。

 天井からパラパラと砂が降ってくる。


『アキラ、危ないところだったな』


 そんな呑気なきんさんの声で我に返った。


「もしかして、きんさんが助けてくれたの?」

『うむ。我の念動力だ!』


 僕を浮遊した状態から地面に降ろすと、きんさんは得意げに言った。


「あ、ありがとう、きんさん!僕はもう諦めて両親に別れの挨拶してたよ!」

『あのなぁ。我もいるのだ。できる限りフォローはするから勝手に諦めるな!そしてもっと我を頼るのだ!』

「うん、そうだね!」


 そうだった。

 きんさんは、良く分からない霊の攻撃を2回相殺するだけでガス欠を起こすような奴だけど、こんなこう……そこはかとなく頼りになる奴なんだ。見た目とかが……。

 だから何とかしてくれるだろう!


『し、仕方ない。我の力を見せてやろう!』


 引きつった顔できんさんが言った。

 その周りに大量の青い炎……鬼火が生成され始める。


『アキラ、お前には我の強さがまだわかっていないようだな!だから今ここで見せてやろう!……燃え尽きろ!!』


 明かりとして使っていた鬼火より力強く何より大量の鬼火が、壁への衝突から立ち直りこっちを向いたばかりの赤い岩石ガメに打ち出された。


 ――ドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッドゥッ!!


 赤い岩石ガメに着弾すると爆煙が広がり、おどろおどろしい音を広間に響かせていく。


『見ろ!これが我が力!先日よりも更に回復した我の力だ!フッハッハッ……は?』


 爆煙を切り裂いて赤い岩石ガメが、再度突っ込んできた。

 見た感じ無傷だ。


「やっぱ使えねぇな!!」

『ち、違うのだ!これには相性の問題があって……。と、とにかく逃げてくれ!』

「言われなくてもっ!」


 全力でさっき来た通路を走る。

 通路はトラックでも通れる広さだ。

 後ろを見ると岩石ガメも余裕で追いかけてくる。

 その速さは亀なのに、僕との距離が少しずつ縮まっていくほどの速度だ。

 足の動きなんて速すぎて、台所とか床とか壁をカサカサ走り回るアレ並だ。


「きんさん、ヤバイ!追いつかれる!」


 入口の光が見えた。

 だけど、その距離が凄く遠く感じる。


「石!石飛ばして!」

『わ、わかったのだ!』


 道の脇に落ちている石が次々と浮かび上がり後ろに飛んでいく。

 僕は石の砕ける音を聞きながら必死に走った。

 出口の光が近づいてくる。

 そして、石の砕ける音も近づいてくる。


「おおおおおおおおおお!!」


 短距離走のゴールテープを突っ切るように、洞窟から抜けた。

 そして日の光で目の前が見えなくなる中、僕は倒れこむように横にズレた。

 一瞬後には、あの力強い風がすぐそばを通過していった。

 目を慣らし、呼吸を整えながら立ち上がった。


「逃がしては……くれなさそうだな……」

「ギシュアアアアアアアァァァッ!!」


 確か岩石ガメは縄張り意識が異常に強いそうだ。そして、縄張りに入った者を、地獄の果てまで追いかけまわす。

 この様子を見ていると前知識などなくとも理解できてしまう。

 逃がす気はないのだと……。

 僕は両手剣を構えた。

 さっきとは違い、まともな武器を持てる。


「とりあえず、できるとこまでやるかぁ!」


 その後の事は、その時考える!

 そうしよう。

 赤い岩石ガメが弾かれた様に加速して突撃してくる。

 僕は逃げない。

 そのまま全力で両手剣を振り下ろす。


「うおおおおおおおおおおお!!」


  ――ガキィィィィン!


 赤い岩石ガメと僕の両手剣はぶつかったまま時を止めたかのように静止した。

 相殺された。力は互角だ。

 赤い岩石ガメは額のルビーで両手剣を受け止め、そのまま押し切ろうとしてくる。

 僕も負けじと両手剣を押し返す。

 動かない。いや、動けない。

 だが……。


 ――ピキピキッ……!


 赤い岩石ガメの額のルビーにヒビが入り始めた。

 チャンスだ。

 このまま押し切ろうと全力で力を籠め続ける。

 しかし赤い岩石ガメは大きく飛びのいた。

 巨体にもかかわらず、軽やかに……。


「ギュゥゥウ……」


 着地すると警戒するように、赤い岩石ガメは僕の方を見つめた。

 そして器用にその場で回転し始めた。

 地面に付いたら1本の手で地面を押し出し、足で押し出し、足で押し出し、手で押し出し……。

 一周ごとに回転速度が上がっていく。

 スリップするタイヤのように、土を巻き上げながら……。


「そんなのありかよ!!きんさん、念動力で何とかできない?」

『アレ止められるほどの出力は出せぬ。もちろん尽力はする。しかし、止められるかどうかはアキラ次第だ……』

「い、嫌だなぁ。重そうだし……」


 だが近くには隠れることのできそうな障害物は無い。

 その前に追いつかれる未来しか見えない。

 僕は覚悟を決めて、深呼吸をすると両手剣をバットのように握った。

 その瞬間、赤い岩石ガメは、赤い砲弾となって発射された。

 予想外のスタートダッシュだが、準備していた事もありなんとか両手剣を合わせた。


「はああああああああああああああぁぁっっ!!」


 両手剣からは重すぎる手ごたえと、ガリガリと削るような音と共に火花が出ている。

 その前に……。

 こ、腰……。腰痛い……。

 あまりの重量に僕の腰も悲鳴を上げている。

 そして、赤い岩石ガメの回転数も少しずつだが下がっている。


『が、がんばるのだ、アキラ!』


 両手を突き出し念動力を込めながらきんさんが言った。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 根性で重い剣を押し出し、腕の筋肉が悲鳴を上げ始めた。

 赤い岩石ガメの回転数も見るからに下がっている。


「ぬあああああああああああ!!」


 そして……。

 ようやく回転を止めた赤い岩石ガメは、一瞬の直立の後重い音を立てながら倒れた。


「あああああ、重かったぁっ!!」


 その場で目を回す赤い岩石ガメをみて、荒い息を整えることも忘れて叫んでいた。

 ようやくひと段落付けて、安心したのだ。


『アキラ、良く持ちこたえたな!』

「ギリギリな。多分、きんさん無しじゃ無理だこりゃ」

『もっと頼ってもいいのだぞ?』

「遠慮しときます」

『そ、そうか……。それよりも、とどめを刺すのだ。奴が目を回しているうちにな』


 赤い岩石ガメは立ち上がろうと4本の手足を地面に立てるが、力が入らず動けないでいる。

 今のうちだ。


『アキラ、とっておきを見せてやれ!まだ使ってないだろう?』

「ああ、そうだったね!」


 僕は目を回す赤い岩石ガメの横に立って、両手剣を大きく振り上げた。

 腕に疲労感があるが問題ない。

 後は勝手にやってくれるのだから。

 大きく息を吸い込み、その名を叫んだ。


「【フルスイング】…………!!」


 僕の最も信頼するスキルは赤い甲羅を真上から捉えた。

 甲羅に亀裂が入りその亀裂を剣身がさらに進行して押し広げ……赤い岩石ガメを一撃で両断した。




  ***




 アキラが赤い岩石ガメに追われ洞窟から出てきた時、少し離れた岩の上でその戦闘を見ている二人組がいた。

 一人はもう成人しているであろう大人の女性だが、もう一人はまだ中学生くらいの少女だ。


あねさん、あれ助けねえのか?」


 大人の女性は見るからに自分より年下であろう少女向かって言った。

 見た目の年齢上、不自然ではあるが、少女は気にする様子もなく返した。


「助けるも何も、もう遅いでしょう」


 彼女の視線の先では、赤い岩石ガメが少年に突進している所だった。

 少年が洞窟から出てきた時の焦りようから察するに彼は素人だ。

 そして、その少年は赤い岩石ガメの攻撃に動く気配がない。

 今から助けに行ったところで、ひき肉になっている。


「そんなことより、先に進むわよ」

「ああ、わかっ…………。お、おい。姐さん。あれ見てみろよ……」

「何よ……」


 慌てた声を聞いて少女が怪訝に思い少年の方に視線を戻すと、少年は赤い岩石ガメとつば競り合いのように押し合っていた。


「なにがあったの……?」


 あれ程の質量を持った赤い岩石ガメの突撃による破壊力を受け切った。

 その事実は、初心者であろう少年の実力とあまりにもかけ離れている。


「確か戦士系のスキルに【フォートレス】ってあったわよね。それじゃないの?」


 スキル【フォートレス】は敵の攻撃を受けるスキルだ。防御姿勢を取りスキルを発動すると、防御力を大幅に上げてくれるスキルで、戦士系が覚えるスキルの中では有名である。

 だが、大人の女性がそれを否定した。


「いや、あの少年は攻撃で止めて見せた。受けじゃなくて攻撃での相殺そうさいだ」

「…………」


 信じられないと思いつつ、少年の方を注視していると、攻撃を仕掛けたはずの赤い岩石ガメが大きく後ろに飛んでいた。

 更に状況を見守ると、赤い岩石ガメはその場でスリップするタイヤのように回転し始めた。その回転速度を上昇させながら。

 対する少年も逃げる気はないようで、その場に構えている。

 その瞬間、赤い砲弾が発射された。

 地面を削りながら猛進する赤い岩石ガメに少年は両手剣を振るった。

 両者がぶつかり、地面を伝わった衝撃波が円状の砂埃を立てる。

 驚くことに少年は一歩も下がることなく受け止めたのだ。

 止められてなお赤い岩石ガメは回転して、少年の大剣から火花が散っている。

 だが、少年は一歩たりとも後ろに引きずられない。


「あ、在りえないでしょ!どんな筋力してるのよ!」


 少女が驚きの声を上げていると、赤い岩石ガメの回転が次第に遅くなり始め、間もなくして止まった。

 赤い岩石ガメは立ち上がろうとするが目が回って立てないようだ。

 そこに少年は両手剣を構えた。


「【フルスイング】…………!」


 そのスキルの名前は聞いたことがある。

 戦士系のスキルの最初期のスキル。

 他のスキルと比べても威力が低く、むしろ隙を作るだけとも言われているスキルだ。

 だが、少年の放った【フルスイング】は赤い岩石ガメを一撃で真っ二つにした。


「何者なんだろうな、アイツは……」


 他人事のように呟く大人の女性の方を、少女は引きつった顔で向いた。


「あんなちぐはぐの人、初めて見るわ」


 二人が隠れる気もなく見ているというのに、気が付いた気配もない。

 少し離れた森の方を見れば、戦闘の音で釣られた狼のようなモンスターが数匹、少年の方へ向かっていた。

 少年はその事に気が付いた様子はない。

 戦いでモンスターが集まってないかどうかも警戒しない素人だと分かる。

 赤い岩石ガメを一人で倒せるだけの実力者なのだが……。

 理解に苦しむ人物だ。


「そんな事よりも、先を急ぐわよ!」

「おう!そうだな!姐さん!」


 大人の女性が不意に狼のようなモンスターが居た方向を見ると、狼は地面の岩に体の半分ほどを沈み込んだ状態になっていた。そのままゆっくりと飲み込まれていく。少女が良く使う魔術なのでよく見る光景だ。相変わらず隣の少女がいつ魔術を使ったのか分からないが……。

 視線を巡らせる。狼は必死にもがきながら鳴き声を上げているが、それでも少年は気が付かない。


「全く何者なんだろうな…………」


 大人の女性がそう言い残すと、二人は岩の上を身軽に移動していった。

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